その後、特に後遺症とか残ることもなく無事に治すことができた。
とはいえ、まあ、これでおしまいというのも気まずい。
『淑女』様に謝罪するいい方法はないかと聞いてみたところ。
「どうぞどうぞ、お座りください先輩」
「ありがとうございます」
飯でも奢ってこい。ということで、いい感じのレストランを『傀儡』様に聞いて、オデット先輩とともに訪れていた。
「それと、そこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ。訓練中のことですし、怒ってはいません」
「そうですか? ならよかった。ま、今日のところは俺が奢るんで」
俺も椅子に座る。コース料理を予約しているので、そのうちそれらが届くだろう。……異世界ファンタジーにあまりにも似つかわしくなさすぎるな。
今さらだけど。
「他に欲しいものがあるなら、好きに頼んでください」
「そうですね」
オデット先輩は、テーブルに置いてあった革張りのメニュー表を開く。
俺もメニューを見てみるが、まあ予約の時点でわかってはいたが、なかなかのお値段である。
いやぁ、こういうのにも手が出せるって、本当にいい職場だ。
「……
「オデット先輩?」
「仕方ないですね。ではこのワインを」
「OK。店員さん」
先輩の指さす品を、俺も試してみたいので二つ注文する。
「炎水といえば、訓練の時にもらった水筒の中身、あれ炎水だったんですね」
「ええそうです。あれが初めてでしたか?」
「まあ。……なんで炎水なんて持ち歩いてたんです?」
「? おかしなことをいいますね。身体を温めるためですが」
「あ、そういう風習なんですね」
ウォッカかよ。ウォッカ飲んだことないけど。
「最近、他でも飲まれたのですか?」
「訓練後に『淑女』様に飲みに連れて行かれたんですよ。そこで飲まされて……しばらく炎水は見たくないですね」
「強いお酒ですからね、飲み慣れるまでは大変でしょう」
果たして飲み慣れるほど、これからも飲み続けるかどうか。
「次は私も呼んでくださいね」
「? ええ、わかりました」
『淑女』様を抑えてくれたりするんだろうか。
俺よりも付き合いは長いはずだし、もし仮に今度そういう機会があれば、ストッパーとして呼ぶとしよう。
酔い潰れた執行官を、おぶって運ぶような経験は、もう無い方がいい。
少し雑談をしていると、料理とワインが運ばれてくる。
「乾杯」
「はあ。では、乾杯」
軽くグラスを揺らして口をつける。ブドウで作られた深紅の酒精は、まったく予想外の渋みと酸味に満ちた、イメージとは正反対のちっとも甘くない液体だった。
「あ、店員さん。ジンジャーエールあります?」
「高級ワインをジュースで割ろうとするのはやめなさい。苦手でしたらこちらで飲みますから」
ワインは強奪されたので、果物酒をあらためて注文しなおす。
「そういえば、あなたは『公子』様が勧誘したとか。どういうきっかけがあったんですか?」
「きっかけ。ええと、俺は
「戦闘狂、というような話は聞いたことがありますが、本当にそのような方なのですね」
「そうそう。それで返り討ちにしてやったら、ファデュイに誘われたんです」
「……、勝ったのですか? 執行官に」
「あれ? こういうのは広まってないですか?」
「聞いたことはないですね」
なるほど。そりゃまあ執行官が負けた、なんて話を広める理由もない。
意図して広めないようにしているのだとしたら、俺も怒られないようあんま話さない方がいいかな。
「道理で、強いわけです」
「ははは」
笑って流す。少し前までは自慢に思っていたのだが、オデット先輩を初め、鍛錬して強くなろうとしているところを見てしまうと、どうにも誇れない。
気を紛らわすようにナイフとフォークで料理を口に運ぶ。こっちはワインみたく口に合わない、なんてこともなく、美味しく食べられた。
そんな俺の前で、皿に乗った料理から、いくつかの食材を端にどかしてから食べ始める先輩。
「……、オデット先輩?」
「なんでしょうか」
「なにしてるんです」
「……。バレエのための体重管理です」
「『淑女』様から、ついでにいっぱい飯食わせてこい、と命じられてるのでちゃんと食べてください。苦手なものはこっちで貰いますから」
ヒョイヒョイとどかしていた食材が、こっちの皿に放り込まれる。
「はぁ〜」
「……なんですか」
「いやなんでも」
まあ、子供みたいに好き嫌いしてるのか、体重管理のためのなにかなのかは、俺には判断つかないからなにも言わないでおくか。
そんなこんなで食事会はおおむね和やかに進んだ。
一番オデット先輩が食いついた話題といえば『少女』様の話になるだろうか。
バレリーナとして声や所作の美しさに惹かれているのだと。
相変わらず存在感が強いというかなんというか。
「ただ、最近なぜか『少女』様が妙なサンダルを履き始めてしまって」
「俺があげたんですよ。いいと思いません?」
「いえまったく」
なんでこう、どこに行っても不評なのやら。
淑女「ペース遅いわよぉ。もっと飲みなさい」
見習「……次は『傀儡』様も呼んでおかないと。あの人ならバッチリ面倒見てくれるはず」
淑女「サンドローネなら来ないわよぅ? 水分は機械に良くないからお酒は飲めないんですって」
見習「普段から紅茶飲んでるのに、水分がダメなわけないでしょう」
淑女「うんうん。……? もう一度説明してくれるかしら?」
見習「バーテンダーさん、水をロックで」