しばし行動をともにすることとなった蛍はというと、思いのほか強かった。
俺が飛ばした炎を、風で巻き上げて他の敵にも拡散する。
これ自体は珍しくもない、風の元素力の用途としては、きわめて一般的なものだ。スネージナヤでも風元素はよく見る力であるし、そこまで変わったことじゃない。
思いのほかというのはつまり、蛍が神の目を持っているように見えなかったからだ。
神の目だの元素だの言うと分かりづらいが、要するに魔力みたいな力で、これは選ばれた者にしか扱えないという話。
蛍はそのための道具を有していないと思っていたのだが。
「蛍は風元素なんだな。神の目は隠してるのか?」
「ううん。神の目は持ってないんだ」
「へ〜」
「驚かないんだな」
と、パイモンが意外そうな顔をする。
「まあ、外付けで元素力を扱える武器や、種族特性で生まれつき扱える奴らとかもいるからな」
蛍は人外には見えないが、璃月にも見た目では判断のつかない人外は山程いたからな。それに、なにやら変わった見た目の剣も持っているようだし。
「そういうものなんだ。あなたのは、えっと、火かな?」
「炎、だな。あんま火元素とは言わないと思うが、どこから来たんだ?」
「う〜ん。ずっと遠いところかな」
「そりゃいいな。さて、綺麗に片付いたことだ。今日のところはこんなもんにしようか」
「おう! オイラもうクタクタだぜ」
「パイモンはなにもしてないでしょ」
「飛ぶのも大変なんだぞ」
ジト目になる蛍。
ビジュいいなぁ、こいつ。なにやっても様になりそう。
「っと。そうそう。明日は用事があるんだった。悪いけど明日は付き合えない」
「そうなのか? 残念だな」
「俺も悲しいよ。じゃそういうことで、またな」
「またな〜」
魔物討伐も一区切りついたところで、解散することとなった。
■◆■
モンド城下にあるファデュイが貸し切った宿で一晩を過ごした翌日。
俺はモンドの西風騎士団に話を通しに来ていた。
どうやら団長本人は不在のようで、代理団長のジン・グンヒルドと対談することになったのである。
「──というところです。風魔龍はアビスの汚染を受けております。この状態から、元に戻せる確率は極めて低い。先日はモンド城への襲撃もあったとか。お気持ちは重々承知しておりますが、速やかに討伐するべきかと」
「そうだな。確かに民に被害が及ぶことは避けたい。だが騎士団としても四風守護の一つを討伐しても構わない、と簡単に許可を出すわけにはいかないんだ」
「わかりました。ですが、次、風魔龍がモンド城を襲撃した場合は、こちらの判断で討伐します」
「その時は、仕方ない。そうならないよう西風騎士団からもさらに人員を出そう」
「え、いらな……こほん。ありがたいです、よろしくお願いします」
元素力持ってない生身の人間の騎士団とか、ヒルチャールの群れにすら苦戦するようなもんが、風魔龍相手になんの役に立つというのやら。
まあ情報収集には数が必要か。
ともあれ協議の記録を部下に取らせて、これで面倒な話し合いはおしまい。
前回風魔龍がモンド城に来た時に居合わせていれば、さっさとその場で殺して終わりだったのにツイてないな。
「ところでジン代理団長殿。これは仕事とは関係のない話になるのですが」
「なんだろうか」
「モンドで一番いい蒲公英酒を出すところとか知ってます?」
「貴殿も酒を嗜むのか」
「いやその、お使いで。買ってこいと言われてるんですよ」
誰にかと言えば『淑女』様にだ。自分で行けよ、とも思うが、なにやら顔を出しづらい理由があるらしい。
「ふむ。私もあまり酒は飲まないのだが、キャッツテールとエンジェルズシェアの名前はよく耳にするな」
「なるほど、ありがとうございます」
どっち行こうかな。先に名前の出たキャッツテールでいいかな。
若干呆れた様子のジン代理団長に一礼して、その場を立ち去った。
■◆■
その辺の人に道を聞きながら、キャッツテールを探す。
しばらくうろちょろして、ようやく見つけたそのお店は、まさかの名前通りに大量の猫を飼育しているお店だった。
猫カフェならぬ猫酒場とは。
さすが酒の国、進んでるなぁ。
ともあれ店に入ると、何匹かの猫が床に転がってくつろいでいた。
踏まないように気をつけながらカウンターへと向かい、店の人に持ち帰るからと樽で蒲公英酒を注文する。
待っている間、ぼーっと客の方を眺めていると、なにやら飲食以外のことに打ち込んでいるようだった。
「にゃ」
「ふむ。あれが気になるのか。とリトルプリンス様はおっしゃっています」
「……。ツッコミ待ち?」
「にゃ?」
「なにかおかしなことでもあったのか? とリトルプリンス様はおっしゃっています」
カウンターの上でくつろぐ黒猫が鳴くたびに、隣に立っている店員が通訳でもするみたいに喋りだす。
……酔ってんのかなぁ。
「にゃ」
「あれは七聖召喚というカードゲームだ。とリトルプリンス様はおっしゃっています」
「そっすか。……、どういうゲームなんです」
「興味があるのなら説明しよう。とリトルプリンス様はおっしゃっています」
「今鳴いてなかったけど」
「リトルプリンス様の御心が分かるので」
「そっすか」
あれこれ答えるのも面倒だし、黙って聞くことにするか。
というわけで簡単に説明を聞いてみたところ、なにやら二つの心を持った少年が、カードの力で戦う娯楽作品が元ネタのゲームらしい。
「遊◯王じゃん」
「にゃ」
「お前も決闘者にならないか? とリトルプリンス様はおっしゃっています」
「あー、はい。いいっすよ。エクシーズ召喚までならわかるんで」
無料配布のデッキとケースまであるらしかったので、それらを貰って軽く一戦、ルールを教わりながらプレイしてみる。
ふむふむ。なるほどね。
サイコロ振って、出た目の元素力を行動のたびに消費して、と。
「ダンジョンダ◯スモンスターズじゃねーか! 誰がわかるんだよこれ!」
「にゃ?」
そんなこんなでお使いは無事に完了した。
ダンジョンダイスモンスターズ
とは、言わずと知れた遊戯王に登場するゲームのドラゴン・ダイス&ダンジョンズ(通称DDD)のことですね
大人気キャラクターの御伽龍児が開発したゲームです