いいですか。この兄妹は、数万年生きる、あるいは寿命のない長命種です。
最新ストーリーでもヴェスナがそうであるように、精神年齢が人間のようには成長しないんです。
つまり旅の前後で、知識や経験は積んでても精神年齢は変わってないんですね。
物語開始時の自身の好悪が判断基準なティーンエイジャーメンタルから成長していないんです。
という妄想。
「天空のライアーが盗まれたそうだ」
と、ジン代理団長が言った。
前回の協議から数日が経ち、また騎士団から協議の声がかかったかと思えば、窃盗事件があったらしい。
「な、なんですって! そんな、一体誰が?」
「目撃情報としては金髪の人物が現場にいたらしい」
蛍かな?
「なるほど。用件というのは、犯人捜しの手伝いをってことですかね」
「ああ。頼めるか?」
「ええもちろん」
長い付き合いではないが、蛍は善性側の人間であるように思う。現場にいたのは別人か、あるいは犯人を止めようとしていた、とかかな。
なんにせよ次あった時に少し話を振ってみようか。
「そうだ。その前に一つ聞いてもいいですか?」
「蒲公英酒の製造元ならアカツキワイナリーだ」
「いつもいつも酒を探してるわけではないですよ。事件解決にあたっての話です」
「そ、それはすまない。なんでも聞いてくれ。答えよう」
「ライアーってなんですか?」
どうやらハープや琴のような弦楽器のことだったらしい。
■◆■
ファデュイの兵を騎士団とともに配備して、検問の手伝いをすることになった。
俺もちょこちょこ顔を出しているが、成果は上がっていないらしい。
まったく、風魔龍騒ぎだけでもてんやわんやしているというのに、厄介事を持ち込みおって。
念のため『淑女』様にも聞いたり、部下達の調査もしたが、もちろんどこにも天空のライアーなんて謎の楽器はなかったので、関係ないどこかの奴が犯人であることに間違いない。
どこのバカが火事場泥棒をやってるのやら。
金銀財宝で作られているわけでもない貴重品、つまるところそのままライアーの形でなければ価値のないものだ。
こんな足の付きやすいものを盗んでも、換金するのも大変だろうに。
しかし、蛍はどこに行ったんだろうな。
この事件以降、見かけてないんだよなぁ。
まあたぶん、あっちもあっちで犯人探しに奔走しているんだろう。
「んー。風が気持ちいい」
で、俺はというと、変わらず魔物を焼いて回っていた。
それも一通り終わったので、野外で大きく伸びをする。
「趣味が悪いわねぇ」
と『淑女』様が言った。
「そうですか? 悪くないと思いますがね」
「ふん」
暇だからと今日の外回りについてきていたのだが、なにしにモンドに来たんだろう、この人。
「そういえば『淑女』様はなんのためにモンドに来てたんですか?」
「あら、知らなかったの? 神の心を手に入れるためよ」
「神の心……? ……、え、風神に色仕掛けしようとかそういう話ですか」
「悍ましい発想はやめなさい」
どうやら言葉通りに風神の心を虜にしよう、とかいう話ではなかったらしい。
「はぁ。まあ話せる範囲で教えてあげるわ。だから、二度とそんなことは言わないことね」
「あ、はい」
それで『淑女』様から簡単にファデュイ、あるいは女皇陛下の目的について聞くことになった。
「……。なるほど」
「理解できたかしら?」
「ええと、つまり。はるか昔はレ◯ギガスがこの世界を統治していたものの」
「レジギ◯ス?」
「ある日現れたアル◯ウスに神の座を取られてしまった」
「ア◯セウス?」
「でもアルセ◯スは横暴な邪神だったから、なんとかしないと大変なことになってしまう。そのために女皇陛下は七つのジムバッジを集めている、ということですね」
「まあ……だいたい合ってはいるわね」
女皇陛下はポケ◯ントレーナーだったのか。
ほへ〜。
「女皇陛下が◯ルセウス倒そうとしてるってことは、我々はレジギガ◯側。……! レジアイ──」
世界の真理にたどり着きそうになったところで突風が吹いた。
質量を持っているかのような重い風。
辺りを見渡してみると、かなり遠いところだが、風魔龍が飛んでいるのを見つけた。ただ飛翔しているというわけではなく、目的を持って移動しているように思える。
「あっち方面は……」
モンドの地図を思い起こす。近いのは廃墟だが、それを超えて行けばドーマンポートだ。
「あんなの放っておきな──」
「すみません行ってきます!」
「ちょっと! ……」
ひとこと断りを入れて、風魔龍を追って飛ぶ。
どうやら目的地は人口密集地ではなく、謎の廃墟だったようで、デカい塔に降り立つや、なにかと戦い始めた。
さらに近づいて、見えてきたのが。
「なにやってんだか」
遠目だから間違ってるかもしれないが、おそらくは蛍と、後は知らない緑色の弓兵。
パイモンはどっかに隠れてるのか、姿が見えない。
どうやらたったの二人で風魔龍を相手しようとしていたらしい。が、当然のように苦戦しているようだった。
しゃーない。助けに入るか。
急降下して二人の前に着地する。風魔龍の方に手を向けて元素バリアを張ってブレスを防ぐ。
「よ。久しぶり。と、はじめまして」
顔だけ振り向くと、二人もそれぞれ風元素でブレスに対抗しようとしていたので、まあ割って入らなくても死ななかったかもしれないな。
「後は俺がやっとくから離れてな」
向けた手のひらはそのままに、今度はこちらが龍のブレスのように炎を放射する。
上昇して回避しようとした風魔龍、おかげでその六枚ある翼の内、右下の二枚を焼き切るに留まってしまった。
バランスを崩した龍が墜落する。
「待って!」
「ん? どうした、蛍」
剣を取り出して、塔から飛び降りようとしていたところ、彼女に呼び止められた。
「首の後ろにある毒血の塊が見える? あれを破壊すれば、まだ助けられるかもしれないの! だから殺さないであげて」
「わかった。じゃあ壊してくるから、気をつけて降りてくるんだぞ」
そう言って、ひょいと塔の縁から飛び降りる。
まあ無理だろうな、と思いつつ、言われたとおりに首の後ろにある鉱石化したなにかを破壊しておいてやった。
■◆■
「お〜、怖かったね、トワリン」
風魔龍の頭を撫でる緑の弓兵と、その後ろに隠れるように頭を下げる龍。
「怖いお兄さんに絡まれて大変だったろう」
「しばくぞ」
「ごめんごめん、冗談だよ。トワリンを助けてくれてありがとう。少し……ええと、かなり重傷だけど、生きてれば儲けものさ」
「はぁ〜」
あんなことの後で随分と軽い調子の奴だな。
まあいいか。
ともあれ蛍達の言うとおり、毒血とやらを破壊することで、風魔龍は正気を取り戻した。
元は四風守護とかいうモンドの守り神みたいなものらしいし、生かしておくなら大怪我させたままってのも感じが悪い。
「なにを」
ビクッと震える風魔龍に近づいて、怪我を治してやる。
傷口を炎が包んで、焼き切った翼が新しく生えてきた。
「わぁお」
「お前、こういうこともできたのか!」
「ああ。炎元素だからな」
「なんの関係があるんだよそれ」
蛍達が降りてきた時には合流していたパイモンにツッコまれる。
「ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。……あ、そうだ蛍。また会ったら聞こうと思ってたことがあるんだ」
「どうかしたの? ……あ」
「この間、天空のライアーって楽器が盗まれたんだけど、なにか知らないか?」
「ええと……」
蛍達が顔を見合わせる。それから。
「えへ」
「えへってなんだよ」
ぶっ壊れたライアーを取り出した。