「え〜と。これは?」
「……天空のライアーです」
「ああ、やっぱそうなんだ。これが天空のライアー。初めて見るな」
蛍が答える。
うむ。まあ、見るからに壊れてるな。
紛うことなきガラクタと化している。
「えー。これは、壊したのか……?」
「あれ、知らなかったの? 天空のライアーはもともと壊れてるんだよ」
「あ、そうなの?」
「ウェンティ!?」
なにやらパイモンが驚愕の声をあげているが、すぐに緑色の弓兵──ウェンティに取り押さえられる。
しかしそうか。
勝手に綺麗な楽器を想像してたけど、骨董品だもんな。破損した状態で保管されていたとしても不思議ではないか。
「そうそう。アビス教団がこれを盗み出していてね。僕達でなんとか取り返したところだったんだよ」
「それはそれは。ありがとう、助かった」
「うん、どういたしまして。これは責任を持って僕達が教会まで送り届けるよ」
「任せた。存分に成果をアピールしてきてくれ」
いやはや、まさかここまで纏めて全部解決されるとは。
頭を悩ませる問題はいくつもあったが、結局のところすべてアビスが引き起こしていたことだったか。
「じゃあ、俺はもう行くよ。風魔龍の件は解決したと、こちらで騎士団に伝えておこう」
「よろしくね~」
「またね」
「もがもが」
三人に手を振り、モンド城のワープポイントにワープする。
■◆■
西風騎士団に報告したり、なんだったりと雑務をこなした俺は、宿で自身の荷物をまとめていた。
モンドでの仕事は終わったので、近くスネージナヤに戻ることになる。
だからあらかじめ簡単にでもまとめておこう、と室内に広げていた私物を片していたところ。
「入るわよ」
「ノックくらいしてください」
ガチャンと扉を開けて、『淑女』様が部屋に入ってきた。
まったく、俺が人様に見せられない状態だったらどうしてくれるんだか。
「あら、準備はもうできているみたいね」
「帰還のですか? そうですね、だいたい詰め終わってますよ」
「感心ね。ならもう撤収するから、五分以内に馬車まで来なさい」
「え? ああ、はい」
またずいぶんと急な話だ。
それだけ言うと『淑女』様はさっさと部屋から出ていってしまった。
ううむ、仕方ない。最後に騎士団や蛍達に一言挨拶くらいはしたかったのだが。
帰りの準備はほとんど済んでいる。
まだ数日いるつもりで出していた小物をまとめて、作業は終了だ。
まとめた荷物を背負って外に出る。
そうして馬車は来た時と同じ道を通り、モンドを離れた。
■◆■
「それなんですか?」
馬車の中で『淑女』様がつまらなさそうに、手の中で弄んでいたものについて尋ねる。
綺麗に装飾されたなにかの飾りのようだ。モンドの定番お土産とかなんだろうか。地球では謎の旗がいろんなとこで売ってたみたいに。
「ああこれ? これが神の心よ」
「へえ、これが『淑女』様が回収にきていた奴ですか。どう使うんです?」
「さあ? 私もよくは知らないわね。でも陛下が必要としてるんだから、用途があるんでしょ」
「そりゃあさすがに実用品ですよね」
邪神討伐に必要なピースとのことだし。しかし実体のある物だったんだな、神の心。
となると名前からして、神の目の上位互換とかなんだろうか。
「今のうちに見ときなさい。あんたが執行官に昇格したら、これを集めに行く仕事が……いやもうどの神の心を誰が狙うかは決まってたわね。ならあんたは昇進してもサポート役なのはそのままってことね」
「俺いつまで見習なんでしょうね」
タルタリヤの一個上とか空席なのになぁ。
『公子』を十位に繰り上げて、俺を十一位にしてくんないかな。
前に聞いたタルタリヤの収入より、今の俺の収入低いし。
今でも十分高給取りではあるんだけども。
それに、名乗る時に第何位つってコードネームを高らかに宣言するの、中二心がくすぐられる。
これが『2位』ってやりたい。俺、炎元素だけど。
「タルタリヤは人間だし、百年もすれば一番下に入れるんじゃない?」
「俺も死んでますって」
てかそれだと百年タルタリヤも昇進してないことになる。
なんて風通しの悪い組織なんだ。
「く。新入りは上には行けない組織だったかファデュイ」
「アルレッキーノはあんたらよりちょっと年上くらいだけど四位でしょ」
「え、『召使』様いくつなんですか?」
「二十そこらじゃないの? ちょっと前まで、こんなちっこいガキンチョだったもの」
「マジっすか。……あれ、『召使』様って種族」
「人間なんじゃないの?」
あの人、勝手に人外の類だと思ってたわ。
手真っ黒だし、変な目してるし。『召使』様、目の中にバッテンマーク付いてるんだよなぁ。
「執行官ってタルタリヤ以外、人外ばっかだと思ってましたよ。案外人間もいるんですね」
「そうよ。上からいくならドットーレも人間なんじゃなかったかしら」
「え」
人間だったんだ。たまに増えてるのに。
「あ、じゃあ『淑女』様はどうなんです?」
「んー。そうねぇ……。……、ロザリンでいいわよ」
「はい?」
「仕事以外で『淑女』やシニョーラと呼ばれるのは好きじゃないの」
「ああ、はい。わかりました、ロザリン様」
「……ま、それでいいわ」
なんだろう、いきなり。
いや、お茶会とかでもみんなからロザリンって呼ばれていたか。
認められでもした、って思っていいんだろうか。
「それで、私の種族、ね。それは……まあ、気が向いたら教えてあげるわ」
「じゃあ楽しみにしてますね」