「『見習』も来てくれる?」
「行きますけど、なんの用ですか? なんかまた、大所帯ですけれど」
部屋の扉を叩かれて、外に出てみるとそこにいたのは『少女』様御一行だった。
一行というのはつまり、『召使』様とロザリン様もいたのである。
今日は執行官の会議とやらがあったらしいし、それ関係のなにかなのだろうか。
またなにか追加の仕事が振られるとか。
「今日はサンドローネの様子がおかしかったから、一緒に見にいってくれる?」
「ああはい。そうですよね」
いくらなんでも『少女』様から仕事振られるようなことはないかぁ。
「もちろんお供しますよ。なんか持ってきますね」
「お菓子なら私が用意してるわよ」
「用意周到ですね」
手に持ったなにかの箱を持ち上げて見せるロザリン様。
じゃあお菓子はもういいか。
あんまいっぱいありすぎるのもよくないしな。
■◆■
というわけで『傀儡』様の部屋は、いつも通りにパーティー会場と化した。
「今日の劇団の演目はなんだった?」
「山と雀。来られなくて残念ね」
「別に残念がることないわ。いくら専用の特等席でも、ドットーレやパンタローネと一緒に座るくらいなら自分でチケットを買ったほうがマシよ」
ケーキを切り分けながら『傀儡』様が悪態をつく。
呑気だなぁ。
ここが悪の組織であることを忘れそうなくらいに、ほんわかとした空気感である。
男性陣は問題児まみれだと言うのに。
「見逃してしまったのは残念だが、幸いこの集まりには間に合った。この後、私はフォンテーヌに戻り、ロザリンは稲妻に向かう」
「あぁ、陛下の計画よね」
そういや『召使』様は久々に顔を見たが、わざわざお茶会に参加しに戻るとは律儀な人だ。
会議がメインではあるんだろうけども。
「それにしてもロザリン様、今度は稲妻ですか? 相変わらず大変ですね」
執行官が十人、神の心は七つ。
人の方が多いのに、回収業務がロザリン様に偏ってんなぁ。
戦闘以外の業務がどれくらいあるかにも依るんだろうが……。他の執行官は政務メインとかまでいるわけだし。
「もぐもぐ……そうなのよねぇ。どう? あんたも一緒に来てくんない?」
「ぜひぜひ。と、言いたいところですが、残念なことにこっちはこっちで仕事がありましてね。璃月の層岩巨淵まで行かなくちゃいけないんですよ。タルタリヤのせいで、なんか部隊が孤立してしまってるとかで救助に行くんです」
「それは残念ねぇ。ま、そっちも頑張んなさいよ」
なーんか起きてるらしく、事態の解決でファデュイの部隊を差し向けていたのだが、タルタリヤが璃月でやらかしたせいで、その部隊も巻き添えを食ってしまっているらしい。
おのれタルタリヤ。
「あなた達は陛下の計画が成功すると思っているのね」
と『傀儡』様が言った。ソファーに寝転がったまま、ロザリン様が答える。
「陛下の望む未来には共感できる部分がある。それだけで十分よ。サンドローネは? なにかやりたいことはないの?」
「やりたいこと……」
手を止めて、考え込む。そこへ。
「えーい」と、楽しそうな声とともに枕が『傀儡』様の顔に直撃した。
「コロンビーナ〜〜っ!」
怒った『傀儡』様が枕を投げ返す。ほっ、とその枕を華麗に避けた『少女』様の顔を、ロザリン様の投げた枕が直撃する。
「わぷっ」
淑女とは一体なんなのか。
優雅……と言うには、全員寝巻き姿のラフすぎる格好ではあるが、ともあれお茶会ではあった集まりは、気ままでお茶目な女神のイタズラによって修学旅行の夜みたいな賑やかさに包まれた。
ひゅんひゅんと枕が飛び交う。楽しそうだなー、と眺めながら紅茶を飲んで、カップを机に置く。
それにしても、ベッドの上でぴょんぴょこ飛び跳ねているというのに、『少女』様の胸はまったく揺れないな。
『傀儡』様の方はもうたゆんたゆんだというのに。
機械人形らしいから、製作者の趣味なんだろうな。生きてたらいい酒が飲めそうだったのに、数百年前の人物なんだとか。
「ぐえっ」
ぼーっと眺めていると、俺の方にも枕が飛んできて、顔に当たる。
「やりましたね?」
「あはは」
「いいでしょう。全テイワット枕投げチャンピオンの力を見せてあげましょう!」
「どんな嘘よ」
そんなこんなで参戦して、一致団結したコロサンコンビにメタメタにされた。
■◆■
はぁ〜、やったらと時間を取られちまったな。
スネージナヤの雪景色に懐かしさすら覚える。
層岩巨淵での救助活動はつつがなく終わった。問題は彼らが送り込まれた理由の方で、地下にいたよくわからないものの対処だ。
その辺にいた敵っぽいものを、みんなまとめて焼き払うのは、そう難しいことではなかったのだが、脱出するのだけが異様に困難であった。
異空間に閉じ込められて、だいぶ長いことそこで過ごす羽目になってしまった。
スネージナヤパレスまで戻ってきた俺は、業務の報告をするために、救助任務を俺に与えた『道化』様の元を訪ねる。
「……というところです。一応これで層岩巨淵周りも安全になったかと思います」
「そうか。ご苦労であったな。報告はこれで終わりか?」
「ええ、そうです。なにかありましたか?」
「……」
「?」
「稲妻にて……雷神、雷電将軍に斬られ、『淑女』が死んだ」
「あ゛」