ここ悪の組織じゃね?ヤバ   作:駆け出し旅人

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挨拶

「あぁ〜、ダルかった。人生で一番ダルい数日だった。冒険者協会くらい楽に採用してくれりゃあいいのに」

「ははは。お疲れ様」

 

 あれこれと書類にサインしたり、身分証明をしたりと、かなりしっかりめに事務作業をしてようやく正式にファデュイの一員となった。

 

「久しぶりにこんな大量の書類に目を通したよ。目が疲れた」

 

 タルタリヤの私室に招かれ、椅子にどかっと座る。

 

「っと、そうそう。忘れるところだった。ほら『公子』様、手土産のお菓子だ」

「ありがとう。へぇ、これはこれは」

「どういたしまして。ようやっとこれで渡し終えたか」

「渡し終えた? 俺以外にも配ってたのかい?」

「いやぁ、最初はそんな気無かったんだけどな。みんなマジで執行官のことを様付けで呼んでるだろう」

 

 と、俺は様付けでその辺の一般兵から呼ばれているタルタリヤ様に言う。

 

「だから媚び売って、取り入っとこうかなってさ」

「なるほどね。それで」

「ああ」

 

 わざとらしく俺は大きく頷く。

 

「上から順番に挨拶してきたからな。『公子』様で最後だ」

「よしわかった。戦ろうか」

「怪我が治ったらな」

 

 軽くあしらい、会話を続ける。

 

「執行官、まだ全員に会えたわけじゃないけどさ、タルタリヤが特別変わった奴ってわけじゃあないんだな」

 

 バトルジャンキーで他国まで戦う相手を求めてうろちょろしてるようなのが組織の幹部でいいのか、とか考えていた俺が甘かった。

 なんと、他も大概だった。

 大丈夫か? この組織。

 

「『隊長』様は流石に一位なだけあってすごくまともだったな。いい感じに強い力も持ってるように見えたし、かなり人格者っぽい。……逆に言うと、ここが最高潮だったな」

「ああ『隊長』か。彼はそうだね」

「おっと。意外な反応だな。もっと対抗心剥き出しかと」

「素晴らしい戦士には敬意を払うさ。君にもそうしているだろう」

「なるほど」

 

 俺に戦士としての力以外のものがあるかどうかはさておき、少なくとも現時点の戦闘能力は俺がタルタリヤより上だからな。

 

「で『博士』様だが」

「会ったのかい?」

「いや。会えなかった。どっかで実験をしているらしいが……それと併せていろんな噂を聞いたな。今は会えなくてよかったと思ってるよ」

「そりゃあよかった。あんまり関わり合いにならない方がいい執行官もいるからね。『博士』はその筆頭さ」

 

 手土産の菓子だけ、メモ書きと共に『博士』の部下らしい兵士に預けてきた。

 いい噂はまったく聞かなかったことだし、タルタリヤもこう言っている。

 こちらから積極的に関わりに行くのはやめておくか。

 

「それから『少女』様だな。『少女』様は……あ〜、ちょっと長くなるけど聞いてくれるか」

「ほう。聞こうか」

 

 ■◆■

 

『少女』様の居場所を聞いてまわったところ、よく庭にいるという情報を掴んだ俺は、彼女を外に探しに行ったんだ。

 で、首尾よく見つけた。

 話に聞いていた通りに『少女』様は庭で知らない歌を唄っていた。

 

「〜♪ 〜♪」

「はじめまして『少女』様」

「〜♪ 〜♪」

「あの……『少女』様?」

「〜♪ ん、君は……知らない顔だね」

「ええ、『公子』様の推薦で執行官候補としてファデュイに入隊しました──と言います」

「候補?」

「そうですね。執行官見習といったところです」

 

 真っ白な服を着た、黒髪の女。とりわけ変わったところでいうと、ずっと目を閉じたままである。

 直感的に、『少女』様から恐ろしく強大な力を感じ取った。

 

「そういうわけで執行官の方々に順に挨拶をしていまして、こちらをどうぞ」

 

 と、タルタリヤにも渡したのと同じ手土産を彼女に渡した。

 

「これは?」

「菓子ですね。口に合えばよろしいのですが」

「うん。『見習』は何が欲しいの?」

「はい?」

 

『少女』様は俺が渡した菓子を横に置くと、そんな質問をしてきた。

 脈絡のない言葉だったから、少しの間固まった後、頭をフル回転させて考えたんだ。

 

「まあモラ()ですね。給料が良いと聞いたので」

 

 これはたぶん、なんでファデュイに入ったのか、という質問なんだろう、と。

 

「そっか」と『少女』様は呟くと、そのまま立ち上がってどこかへと歩き出す。

 

「申し訳ありません。気を悪くしましたか」

「ちょっと待ってて」

「ああはい」

 

 飛ぶように歩いてどこかへと行ってしまう『少女』様。

 流石に立ち去るわけにもいかず、そのまま待っていると、しばらくして彼女が戻ってきて。

 

「はい」

 

 と、財布を渡された。

 

「ええと? これは」

「欲しかったんでしょ。あげる」

「……」

 

 聞いた話によると、第三位『少女』は女皇のお気に入りだから、この地位を与えられただけだという。

 そんな女皇のお気に入りに、初っ端から否を唱えていいのだろうか。

 

「はい。その。ありがたくいただきます」

 

 ■◆■

 

「で『少女』様はもう俺に反応してくれなくなったから、財布ごと貰った金が今ここにあるんだよな。どうしようこれ」

 

 タルタリヤは爆笑した。

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