「ここは?」
気がつくと、周囲の風景がガラリと変わっていた。
あちこちに赤い鳥居が立っていて、地面は枯山水だ。
現実の場所、というよりかはなにかの結界の中か。
「はじめまして」
「誰だ」
声をかけられて振り向くと、そこにいたのは雷電将軍だった。
傷一つない姿である。
「……ロボットは影武者ということですか」
「その通りです。私は雷電影、少し話せませんか」
「構いませんよ」
まさかずっと偽物だったとは。将軍に比べて、なんというか人間味があるというか、冷たさがないな。
ロザリン様を斬ったのがどちらなのかは、まあこれから聞けばいいか。
「僕から将軍に伝えた話は聞いていましたか?」
「はい。彼女を介して聞いていました」
「そうですか。ではスネージナヤとしての立場は伝わっているわけですね。上の用意した皮肉まみれの文も、きちんと雷神その人の耳に入っていたようでなによりです」
「……皮肉……?」
「ええと……はい、じゃあその、もう一回、話しましょうか。物言いとかは気にする方ですかね?」
「いえ、率直に言ってもらえた方が助かります。それにこの一心浄土にはあなたと私しかいませんので、他の者に聞かれる心配もありません」
「そうですか、わかりました」
ならまあ、ストレートにこちらの立場を表明するとしようか。
「『淑女』は稲妻にて、天領奉行並びに将軍の許可の下、活動していました。助言や技術提供、そちらからも資源を受け取ったりしていたようですね。契約書類には将軍の署名もあります。なぜいきなりこんなことになったんですか?」
「話すと長くなるのですけれど、目狩り令と邪眼工場が主な原因ですね」
「? どちらも天領奉行、将軍の許可を得て行われていたはずでは」
稲妻を永続させるため、変化を避けるために神の目を没収する法律が目狩り令。これはファデュイ側の提案で始まったと聞いている。
稲妻で採れる特産品を使った邪眼工場についても、許可を貰って建てていた。
こっちの許可が降りた経緯は不明だが、神の目を没収すれば国力が弱る。その分を人工的な兵器で補おうとした、とかそんなところだろう。
元素力を扱えるようにする武器、なんて、この世界では破格の性能だ。
こんなものまで提供していたというのに、なにがあったらスネージナヤを裏切るようなことになるのだろうか。
「目狩り令には反発も多く、抵抗軍が生まれていたのです。稲妻軍と抵抗軍とで内戦状態になっていたのですが、この裏でファデュイが抵抗軍へと邪眼を横流ししていました」
「なるほど。不正があったというわけですか」
順当に考えるなら抵抗軍の方が弱いだろう。弱い側に強力な武器が渡ってしまったのであれば、おそらく被害も広がってしまったはず。
ただ。
「う〜ん、言いづらいんですけれど」
「構いませんよ。どうぞ」
「その程度のことであれば、抗議にとどめるべきだったのではないでしょうか」
「そうですね。彼女もこのことについては、それほど気に留めていませんでした」
「ならなぜ『淑女』を処刑したんです。御前試合の結果、として報告を受けていますが、試合をしたのはスネージナヤの特使である『淑女』と、当時は稲妻で指名手配されていた旅人。これで御前試合の結果なんて言われても納得いきませんよ」
俺は蛍のことを知っているからそんなことはないだろう、と否定してはいるが、状況だけ見れば、将軍と蛍が結託して、ロザリン様を殺したように見える。
「雷電将軍は、稲妻に永遠をもたらすために私が作りました。厳格で、揺らぐことのない統治者として」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「つまり、将軍の役目と、彼女が守るべき規則の中にはですね、他国のことは入っていないんです」
「?」
ええと、つまり。
「御前試合は、他国の人間が行うことを想定していない法律で」
「はい」
「雷電将軍は決められた法律通りに動く機械なので、そのまま承認してしまったと」
「そうです」
「……、日本かよ」
なんてこった。柔軟性のないルールと、マニュアル人間が起こした大事故だってのか。
推定日本モチーフの国家なんだろうが、そんなとこまでモチーフにしなくていいだろ。
「それ犯罪者が適当な奴に御前試合挑んだらどうするんですか……勝ったら無罪放免なんです?」
「勝てば多少の恩恵は得られるでしょうが、基本的にはそんなことは起こらないはずです。御前試合は、両者が承認しないと執り行えないので」
そういう問題でもないような気がするが、いや待て。
そうだよな、俺も将軍が受けたから戦えたわけだし、つまり。
「どっちが試合を申し込んだんですか?」
「旅人の方ですね」
「……『淑女』が受けたと」
「そうです」
「……はぁ〜〜」
これ『少女』様達になんて報告するんだよ。
受けんなよぉ、そんな試合。その場で項垂れる。
「なんかこう……遺言とか遺品とか、そういう感じのものはないですかね」
「遺品はありませんが、最期に残した言葉であれば」
「教えてもらえませんか」
彼女は最期になんて言っていたのだろう。
「では伝えますね『私はスネージナヤの使節なのよ……私に手を出すのがどういうことか。私に刀を振るうなら、あんたの国を……あんたが大事にしてる稲妻を私達ファデュイが……』」
「えぇ」
「『止まれと言ってるの! これは命令よ! あんた……それにあんた達! 私が……こんなとこでーッ!』と言っていました」
「あぁ……はい……」
すぅー。
なんか、いい感じに伝えておこう。
こう……ね。うん。
さすがに原文ママはちょっと、俺の口から彼女らには言えない。
■◆■
それから、わざわざこの空間に呼ばれた理由である今後のことを少し話してから解放された。
雷神・影には肉体がないので、将軍はこの後修復するけれども襲撃してこないでね、とのこと。
さてと、怒られに帰りますか。
影「実はこうこうこういう辛い過去があって、将軍に永遠を維持させようと思い至ったんです」
紳士「そうだったんですね。それはお辛い」
影「途中で私が心変わりしても、将軍は永遠を求め続けるように、将軍の設定は変更できないようにロックをかけてあります」
紳士「そんな精神状態で決めた初期設定が、正しいわけないでしょう。なんで落ち着いてからでも見直せるようにしておかなかったんですか」
影「そんなことを考えられる状態ではなかったので」