「ハハハハハッ」
「笑うなよ」
執行官の優雅さを投げ捨てて大爆笑するタルタリヤ。
あれからまた長い航海の末、行きより人数を増やしてスネージナヤまで帰ってきていた。
「いやぁ、笑った笑った。面白いものをありがとう」
「見せ物じゃねーぞコラ」
「どうだい? ここは一つ、執行官問題児クラブでも作らないか? リーダーの座は譲るよ」
「失礼な。俺はちゃんと『道化』様の指示通りにしたぞ」
国家としての面子を保つために、ある程度は圧かけてこい。的な仕事ではあったわけだし。
「でも昇進したのにいきなり減給されてるんだろう? やっぱりやりすぎだったんじゃないのか?」
「うぅ、辛い」
俺のお賃金が。
『道化』め、この俺に枷をはめようというのか。
ふぅ、どうやらここはおとなしく従うしかないようだな。
「それで、どうだったんだ。雷神は強かったかい?」
「ああいや、実は雷神とは戦ってないんだよな」
「うん? どういうことだ」
「報告にはあげたんだが、雷電将軍は影武者だったんだ。どれぐらい本物と力の差があるのかはわからんが、影武者の方もとんでもなく強かった」
「へえ、それはぜひとも俺も戦ってみたかったな。楽しかったろう?」
「暴れるのは好きだけど、できればもっと気持ちよく戦える相手がよかったよ」
復讐が理由じゃあねぇ。気分は良かったが、勝ててしまったからこそ、あの時俺がロザリン様についていっていれば、そもそもこんなことにはならなかったのだろう、なんて考えてしまう。
とはいえ、層岩巨淵での救助活動をないがしろにしては、それはそれで被害も出ていたかもしれない。
今回の一件には初めから完全にスッキリと終えられる道はなかったのかもしれない。
ロザリン様が御前試合に勝っていれば、それはそれで別の友人が死んでいたわけだし。
「大陸の守護者をやってる方が気が楽でいいや」
「その建前、いつまで信じてるんだい?」
うるせぇな。別にいいだろ。
■◆■
そんな談笑をしていたお昼過ぎのこと。
食堂で飯食ってから、外に出かけようとしていたところで声をかけられた。
「おお、インナモラート。ここにいたか」
「どうかされましたか、『博士』様」
振り向くと、そこにいたのは『博士』様だった。
今スメールに行っているはず、と一瞬疑問が浮かんだが、そういえばいっぱいいるんだったと思いいたる。
「そうかしこまらなくていい。今は我輩と同じ執行官なのだからな」
「それもそうですね、ふむ。ではなんとお呼びしましょう」
「特にこだわりはないのだが、まあドットーレで構わない」
「わかりました。では改めて、なにかありましたかドットーレ?」
入社早々に危ないからあんま近寄るなよ、と言われたからな。
こちらから積極的に距離を詰めることはなかったし、向こうも俺に興味ないようで、わざわざ絡みに来ることもなかった。
仕事の話だろうか、と内心首をかしげる。
「なに、ただ落とし物を届けに来ただけだ」
「落とし物?」
「これはお前の物だろう?」
そう言って、ドットーレが見せてきたのは、赤色の装飾品。
というか、俺の神の目だった。
「あ、あれ?」
執行官になってからもらったローブをめくってみる。
するともちろん、そこには神の目はついていなかった。マジか。
いつ落としたんだよ、こんな大事な物。
「うわマジか。ありがとうございます、ドットーレ」
「気にすることはない、だがなにか礼をしたいのであれば、一つ我輩の手伝いをしてもらおうか」
「えー……わかりました」
「ではついてきたまえ」
踵を返して歩き出すドットーレ。
この後は墓参りのつもりだったんだけれど、仕方ない。また今度にするか。
■◆■
「ふむ」
ドットーレは、研究室で一人、巨大な装置を眺めていた。
そこには既に去ったインナモラートから提供された大量の炎元素が詰まっている。
「いくら調べても変わったところはないな。これはただの炎元素か」
そう、ひとりごちる。
そして懐からある物を取り出した。それは輝きを失った、インナモラートの本物の神の目であった。
雷神との戦いのさなか、その権能により力を封じられた神の目である。
だがインナモラートはその戦闘中も、スネージナヤに戻ってからも、神の目を持たぬままに元素力を行使していた。
なのでその力の正体について調べるために、ドットーレは代わりとなる神の目を作り、このように彼の力を差し出させたのである。
「いや、おかしい。理屈に合わないな。『神の目を失ったインナモラートに人工の神の目を渡した』などと。我輩にそのようなものが作れるのであれば、過去にも既に作成しているはず」
ドットーレは記憶を探る。そうだ、我輩は間違いなくあの人工神の目を作成した。
その製法も覚えている。あれは、色ガラスと金属細工で作成したのだ。
「ふ、ははは。馬鹿な、そんなわけがないだろう」
製法もおかしければ、神の目無しで力を行使できる理由を調べるのに、神の目と同じ性能を持った代替品を渡す、という手段もおかしい。
おそらくは。
「あのガラス玉が本物、ということになったのか。そしてこの杜撰さからして、制御できているわけでもなさそうだ」
まあスメール編でこの断片は消えますが
ゼッタイニコウカイスルヨッ