ここ悪の組織じゃね?ヤバ   作:駆け出し旅人

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発条

 黙々と手を動かす。

 まさか剣と魔法のファンタジー異世界に来てまで、事務仕事をすることになるとはなぁ。

 パソコンにキーボードでカタカタと文字を入力して報告書を作成する。

 

 執行官は実力主義で集められた人材なんだし、そこまで昇格したらこの仕事からも解放されるか? 

 いや、なんかやってるとこ見たな。

 じゃあタルタリヤもやってんのかな。うわ、想像できねぇ。

 

 トントン、と部屋の扉がノックされる。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 部屋に入ってきたのは、誰だろうか。わからないが、衣装からして一般ファデュイだ。

 

「ええと、はじめまして……で、合ってます?」

「はい。見かけたことはありますが、こうして話すのは初めてになります」

 

 彼は簡単な自己紹介を行い、『傀儡』様の部下であるという情報を端的に話す。

 

「一つ頼み事があって参りました」

「はあ、なんでしょうか」

「最近『傀儡』様が不機嫌になっておられまして。解決に手を貸していただきたいのです」

 

 執行官には頼みにいけないから俺のとこに来たのかな。

 

 ■◆■

 

 廊下をトコトコ歩く『傀儡』様。

 その後ろをスイスイ滑りながら付いていく『少女』様。

 

「……」

 

 椅子に座って本を開く『傀儡』様。

 何をするでもなく近くで突っ立ってる『少女』様。

 

「あれが」

「はい。ああやって何故か最近『少女』様が『傀儡』様を付け回していまして。どうにかしていただけませんか」

「マジか。しゃーない。まああまり期待しないでくださいね」

 

『傀儡』様はいい人だけど『少女』様は、なあ。

 本物の神らしいんだが、話が噛み合わなさすぎてどうにも。

 

「もしもし『少女』様」

「うん? 君は確か……金欠の人」

「いや、まあ、はい。その時の人です」

「またお金に困ったの?」

「いえ、そういうわけではなく」

「そっか」

 

 そう答えると、また視線を『傀儡』様に向ける。

 

「……」

「……」

「……じー」

「……あの、『少女』様」

「……」

「なぜ『傀儡』様をずっと見てるんですか? もしかして神の力で不幸な未来とかでも見えたりしてるんですか」

 

 ビクンと読書に勤しんでいた『傀儡』様の肩が跳ねた。

 

「ん……サンドローネの背中にはゼンマイが付いてるよね」

「付いてますね」

 

 サンドローネとは確か『傀儡』様の名前だったか。

 確かに彼女の背中にはゼンマイが付いている。

 アレに何か起こるのだろうか。

 

「あのゼンマイって」

「はい」

「不思議だよね」

「そうですね。よく見るとちょっと浮いてますし」

「本当?」

 

 ツィーっと滑るように『傀儡』様に近づく。

 

「本当だ。よく気がついたね」

「何度か話す機会をいただけたので」

「そうなんだ。私も気づいたことはあるよ。サンドローネのゼンマイはずっと同じ方向に回り続けているんだ」

「そうなんですね」

「朝に反対方向に巻いてたりするのかな?」

「どうなんでしょう」

 

 どうしよう。

 すぐそこの『傀儡』様もプルプル震えてるし、さっさとこの場を離れてしまいたいな。

 

「ええと……そうですね。まあ……何か分かったら教えてください。じゃあ僕はこれで」

「うん。じゃあね」

「止めなさいよ! コロンビーナを!」

 

 バンっと机を叩きながら『傀儡』様が立ち上がる。

 

「そのために話しかけていたのでしょう!」

「申し訳ありません『傀儡』様。僕から執行官に向けて止めろとは言いづらく」

「被害者側もアナタが配慮する執行官なんだけど」

「恐れながら『少女』様の方が序列が上ですので」

「ぐっ、この、権力に弱すぎる」

 

 怒りに震える『傀儡』様。そしてそんな『傀儡』様の背中側にすべての状況を無視して回り込む『少女』様。

 

「コロンビーナ! この期に及んでアナタは何をやっているのかしら」

「え?」

 

『少女』様は首を可愛らしく傾げる。

 

「私も怒られてるの?」

「アナタが主犯よ!」

 

 ■◆■

 

「んぅ……怒られた」

「怒られましたね。これに懲りたら後ろを付け回すのはやめましょうか」

「うん」

 

 感情任せではない真っ当な叱責を受けた『少女』様。

 意外にも俺の方にはあまり飛び火しなかった。上には逆らわないでおく、みたいなのにも理解を示してくれる方らしい。

 

「そういえば」

「どうかしましたか?」

「サンドローネのゼンマイは怒ってる時も回転が速くなったりはしてなかったよ」

「そうなんですね。勉強になります」

「うん」

「もう一回始めから叱られたいのかしら?」

 

『少女』様は飛んで逃げた。

 

 ■◆■

 

 ということがあって後日。

 きちんと『少女』様は尾行をやめたらしい。一件落着だ。

 

 いつものように仕事を終えて自室に戻ろうとしていると、歌が聴こえてきた。

 

 聞き覚えのある歌に頬を引き攣らせながら部屋に近寄ると、扉の前で『少女』様が唄っていた。

 

「〜♪」

「あの」

「あ。戻ってきた」

「はい。何かご用ですか?」

「うん。サンドローネは寝る時にはね」

 

 と、いくつかのサンドローネ雑学を語り始める『少女』様。

 

「こんなところ」

「ふむふむ。ためになりますね」

「じゃあ伝えたから」

 

 言うだけ言って立ち去ろうとする『少女』様。

 分かったら教えて、って言ったから来たんだろうな。

 これからは社交辞令でも変なことは言わないようにしよう。

 

 クルンと回れ右する『少女』様。その背中には燦然と輝くゼンマイが。

 

「あの『少女』様? なぜゼンマイが──あ、足速っ」

 

 人騒がせな女神様は爆速で帰還していった。




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