立ち入ってはいけない場所へ立ち入る時、少女の心の中には常にある期待が存在していた。
その期待とは常識を上回る未知であり、重ねた年月が少女の中で成長させた、現実に対するある種の達観を打ち崩してくれる何かだ。
大人になるということは期待を捨てることでもある。自分には何が出来て、何が出来ないのか。おとぎ話はどこまでが本当で、どこからが脚色、あるいは嘘なのか。これを判断できるようになってしまう。
この少女の場合もそうだ。信憑性の薄い一冊の手記に記されているだけの”それ”を無条件に信じられるほど少女は子供にはなりきれず、始めから誰かの妄想だと笑い飛ばせるほど大人にもなりきれなかった。
大地の裂け目を縫うようにして下っていく。途中、空気に含まれる魔力の質が変わるのを感じた。
そして、それは視覚的にも作用した。
視界に移る全ての色は等しくその彩度を落とし、微かな輝きすら放っているように感じた岩石も、ただ静かに影を落としている。遠く聞こえていた他の生物の喧騒すら、今はもう聞こえない。
誰であっても二の足を踏ませるに足る、明確な変化だ。一度立ち止まり、考えるべき事象だ。
では、少女は止まるだろうか?
最下部に向け、鞄の肩紐を掴みながら――
立ち止まることなど、終点である最下部が見えた時点で少女は考えない。生まれもしない。
少女にとって変化は危機の前兆ではなく、期待への予兆に過ぎなかった。
胸の高鳴りも、頬の紅潮も、息の弾みも、すべてそのままに裂け目を駆け降りると、目の前には仄かに全体を照らされた地底湖が広がっていた。
「……地底湖、ほんとにあったんだ」
少女の姿を鏡面のように映し出す澄んだ湖面。地上からの光は存在せず、露出した鉱石だけが発する厳かな光。風の流れがない地下特有の土の香り。ジメジメとした陰鬱な空気。
しかしそのような空気の中であっても、少女の周りだけは外と同様に清浄な空気が維持されていた。
魔道具? 魔法? はたまた生来の体質? いやそうではなかった。
それは今を生きる人にとっては当然の現象であり、民草からの信仰に対する確かな形を持った対価――
だが自分が何者かを信仰しているという事実すら、人々は何一つとして知りえない。
ただしそれは歪みではない。知らなくても良い事というのは真実どこにでも存在しており、少女が探している
髪が地面に触れるのも気にせず、地底湖の水質を確かめるため持参した容器を水中に潜らせる。
──肌から伝わる微かな痛み。そのありえないはずの痛みに、少女は慌てて身を引いた。
祝福を貫通して痛みを与えるのは尋常ではない。
それだけ祝福とは強力であり、仮に毒に触れたとしても自分が何かに侵されていると感じるだけで済む。
だからこそ、この事実は地底湖の異質さを何よりも如実に示していた。
――人が持つ祝福を遮る場所。獣の顎の如く鍾乳洞が垂れ下がる湖上の空間。
異常な場所だからこそ、少女は自分が探しているものがあるかもしれないと一層胸を昂らせる。
けれどもこれ以上進むのは、難しいと言わざるをえない。少女の顔が悩まし気に歪む。
いくら頭を働かせたところで、有効な方法は思い浮かばなかった。祝福による護りも永遠ではない。渡っている時に祝福が切れてしまえば。その恐ろしい想像は、少女の足を竦ませるには十分だった。
引き返したくはない。だが進むことはできない。心に立ち込めた相反する二つの思いが、その足を意味もなく引き留めていた。
だが、段々と溜まっていく疲労は誤魔化せない。立ち竦むこと半刻。これ以上は流石に自分でも誤魔化し切れないと、諦めたように踵を返す。
しかしそのような状態であっても心の底ではいまだに諦めきれていなかったらしい。ガックリと肩を落としとぼとぼと帰路につく少女の口からでるため息は、暫く止むことはなかった。
◆
「……ふぅ」
陽光を浴びて白く照り返す神秘的な教会。その前に立つ、若干不審な少女。
正直少し帰りたがっている心を誤魔化すように、うろうろと意味もなく歩き回るのはここまでだと軽く息を整え、まだ重さを残す足を引きずりながら入り口へと歩みを進めていく。
──
周辺から産出された多種多様な宝石と、滅多に人が訪れないために建創当時から維持され続けてきた模型のような街並み。
立ち並ぶ建物は白を基調とした配色が殆ど。その例外も都市の外から来た者たちが一時的に用意した仮宿が大半を占めている。
尤も、仮宿と言っても外観だけは立派な家であり、細かな内装の違いを除けば幾つかあるテンプレートに沿って、他の家と寸分の狂いなく建てられていた。
「私はできる、私はできる、私はできる。大丈夫、ちょっと話すだけ。優しい人って評判だし、きっといけるよ私!」
自分を鼓舞するように、小声で言い聞かせる少女。だが威勢のいい言葉を言う割には、その足並みはおそるおそるといった様子だった。
怖い場所などではない教会にこのように足を踏み入れるのには、少女がこれから話そうとしている内容が関係している。広々とした教会内部にカツカツと響く足音。受付に無言で佇む、三つの卵形で構成された
「あのー」
少女が声をかけると、沈黙していた二つの目が緑の光を灯す。地面から浮遊するその重そうな身体を音もなくスムーズに稼働させ、ゴーレムは久しぶりに訪れた客人に親切に応対した。
『ゴ用件ヲ、教エテクダサイ』
「えっと、白の司教に相談をしたくて」
久方ぶりに目にした教会専属ゴーレムは、セイラが昔自分の家を得るために申請した時と少しもその姿を変えていなかった。だからといって、別に懐かしさを感じるという訳ではなく、ここもあんまり変わらないんだなぁ、と白の都市の変化のなさを再確認しただけだった。
──セイラが家を得るのは非常に簡単だった。その施工期間はわずか一日。必要な工程は二つ。
教会で受け取った専用の申請書に記述後、各都市に必ず存在する教会の窓口に渡すだけ。例え申請書を乱雑に丸めた後に投げつけても、無数に千切れた紙の一欠けらであっても問題なく受理される。とてもシンプルかつ簡単な工程であり、まだ齢が十に満たない幼子であっても可能なほど簡略化されていた。
重要なのは申請書に記述するという行為と、窓口に提出するという形式上の行為。
尤も、上記に記した無法者のような行為を故意にした者は未だ現れていない。
教会で騒ぎを起こすべからず、そのような不文律を人々は意識的、無意識的を問わずに守っているからだ。
それは今、教会を訪れている少女も例外ではない。
『オ名前ハ、ナンデスカ』
「セイラです」
『セイラサン、デスネ。白ノ司教ハ現在席ヲ外シテイマス。アチラノ部屋デオ待チクダサイ』
名前を答えると、ゴーレムによってセイラは部屋に案内された。しかしまだやることがあるのかゴーレムはすぐに出て行ってしまった。
えぇ……、という風にセイラが後ろに振り返ってもすでにゴーレムの姿はそこにはなく、閉められた扉が見えるだけ。心がないゴーレムとはいえ、もう少しいて欲しかった。
引き留めたら居てくれたのかなとか色々考えながらも、ひとまず部屋の中を見回してみる。
「……ここだけ雰囲気変わってる。この教会、こういう魔道具も使うんだ」
徹底してペンなどの小物に至るまで無機質なデザインで統一されている教会にしては、随分と世俗的というか、人間味溢れる部屋だったことにセイラは驚いた。
机上に置かれた少し折り目の付いた資料。美しい緑の光を纏いながら空気を循環させる、宙に浮いた雫型の
生活の補助が行き届き過ぎて、最早どこまで怠惰を突き詰められるか追求しているのかと言わんばかりの道具類。
置かれている道具の傾向から随分ものぐさな人物が選んだんだなと、椅子に座ったセイラはそう推測した。そのように暫くの間物珍しげに見回していると、背後から扉の開閉音が聞こえてくる。
『オ飲ミ物ヲ、オ持チシマシタ』
卵型の手に器用に乗せてある木のトレイからグラスを移動させるゴーレム。コトっという音と共に机に置かれた冷えた果実水。
「あ、ありがとう」
反射的に感謝を告げるセイラ。
しかしゴーレムはその声に一切の反応を見せず、仕事を終えれば速やかに退出していった。
何かしらの反応を見せるのではないかと眺めていたが特に何も無かったことに、セイラは少し憮然とした表情を浮かべる。
この部屋の主を待っている時間が退屈でないと言えば噓になる。けれども此方は訪ねている立場であり、静かに待っていなければ失礼になるのではないかという不安が、少女の手持ち無沙汰を助長していた。
だが、それだけが理由ではない。少女がこれから話そうと考えている内容もまた相手の顔色を窺わざるを得ないものであり、終わり方次第では好ましくない未来が待っているかもしれないのだ。
妙な力が身体の節々に入っているのを自覚しながらも、それに上手く対処できないもどかしさ。手持ち無沙汰であるからこそ、心の中を巡る様々な思い。
そしてそんな風に考え込んでいたからこそ再び背後から聞こえてきた自分以外の声に、思わず身体をビクっと跳ねさせてしまったのも無理からぬことだった。
「──ゴーレムに感謝はいりませんよ。あれには給仕以上の能力は与えられていませんから」
背後から響く、優しくそれでいて聴き取りやすい少年の声。
今まで遭ったどの人物よりも、親しさと優しさを感じさせる声の少年はセイラの向かいへと腰を落とし、その琥珀色の瞳でこちらを見据えてきた。
「お待たせして申し訳ございません。白の教会で司教を務めさせていただいている、サナと申します。貴方が今回の相談者である──セイラさんで間違いありませんか?」
にこやかに、サナと名乗った灰白色の髪の少年は対面に座る金髪の少女に向け、そう問いかけた。
◆
どう話を切り出したものか。眉を顰める少女──セイラの心中には当たり前のように、そんな悩みが浮かんでいた。
ルール的に良くないことをしています、と打ち明けるのは最早自首をしているのと同じであり、ましてやそれが都市の統治者であれば尚更。
何を言えばいいかも分からないために、難しい顔を浮かべながら、口を
しかし相談者である筈の少女が黙りこくってしまうというこの異常事態に対して、穏やかな雰囲気を纏う少年──サナの対応は早かった。
「──簡単な話をしましょう。セイラさん」
前方から聞こえてきた語りかけるような声に反応し、目線を正面に戻す。
セイラにとって、状況を動かしてくれたのは素直に嬉しかった。だが聞こえてきた内容を改めて考え直してみても、その真意をいまいち掴みきれなかった。
故に話し掛けてくれたサナに対して、思わず胡乱げな視線を向ける。
しかしそんな視線を受けてなお、サナの表情は変わらずにこやかであり、セイラはその様を見て言いようのないものを覚えた。
それは何か自分よりも高位の、それこそ超自然的存在と相対しているとしか表現しようがない不思議な感覚。
司教と呼ばれるに足る、普通ではない雰囲気をセイラは目の前の自分と似た年恰好の少年から感じ取った。
そして非現実的な雰囲気に惹かれ、思わず失礼であると分かっていながらもセイラは少年をじっと見つめてしまった。しかし、結果的に見ればそれは悪い選択肢ではなかった。
人と話し、共に悩むことこそを幸福とする人物。
セイラ自身、なぜそのような印象を得たのか自分でも定かではない。でも、そうであるとしか言いようがなかった。
多かれ少なかれ、人からは多くの印象を獲得する。少なくともそれが普通であり、セイラ自身もサナと名乗った少年からそのような印象しか見いだせなかったことに困惑した。
ただし得られる印象が一つでも、とても話しかけやすい人であることに違いはない。それにいつまでも黙りこくってこれ以上の失礼を重ね続けるわけにはいかなかった。話を進めるため、ひとまず浮かんだ疑問を返す。
「……何についての話ですか?」
先程までの自分の状態を思い返し、恐る恐る話し掛けるセイラ。その様子を見て、少年はますますセイラに対して慮るような雰囲気を所作の一つに至るまで醸し出していく。
「そのように怯える必要はありません。単なる世間話です。どんな相談をするにしても、まずは相手がそれを打ち明けられる存在であると知らなければならない、少なくとも僕はそう考えています」
「それは……その、いえ私は」
「気にしないで下さい。僕にあるのは、司教という立場のみ。信用も、信頼に足る要素も、何もかも不足しています。初めから気兼ねなく話せる人は少数です。顔を合わせているのも、理由の一つかもしれませんが」
そう言って、セイラを肯定するサナ。
重ねた非礼など欠片も気にしていない理由を並べ、それどころか原因の一端が自分にある可能性を示すことで、セイラの良心が先の行動を気にしてしまうのを防いでいた。
どこまでも相談者のことを慮った、相談を受ける人間として完成された言動。超然としていながらも、こと相談という場においては限りなく正解に近いその雰囲気。
「続けますね。僕が話したいのはこの白の都市を見て、どう思ったかについてです」
「……都市について?」
「ええ。意外ですか?」
「えっと、正直に言うと……はい。その、一度も姿を見たことがなかったので、そんなに関心ないのかなって」
「そんなことはない、と否定したいところですが、僕が言えたことではないですね」
彼は司教という役職についているが、公の場で姿を見たことはセイラが記憶している限りではなかった。意外と関心あったんだ、セイラは十五年過ごした白の都市の過ごしにくさを思い出しながらも、それを飲み下すように果実水を軽く口に含んだ。
「さて、その様子だと白の都市が移住者で構成されているのは知ってそうですね。では、彼らを見た時に思ったことを話してみてくれませんか? どんなことでも構いませんよ」
顔つきを少しばかり真面目なものに変える少年。
その様子を見て、セイラも応じるように居住まいを正した。顎に手を添え、深く考え込む。
白の都市の住人に対する印象。この質問自体は実に曖昧であり、回答は用意しようと思えば幾らでも出てくる。十五年も住んでいるのだから当然だ。無難な回答や真剣な回答、どちらもすらすらと述べることが出来る。
では、どちらの回答を言うべきか。セイラを悩ませているのはそこだった。
適当にお茶を濁したいなら、無難な回答を選べばいい。現状維持はセイラがこれから頼もうとしていることを思えば悪くない選択だ。この話がセイラの緊張を解すために行われたと考えれば、相手も此方の回答をそこまで気にしないだろう。
翻って見るに、真剣な回答を選んだ場合はどうか。
仮に嘘偽りなく正直な気持ちを答えた場合、一般的な感性を持っている相手であれば機嫌を損ねるだろうことが容易に想像できる。想定している回答は決して都市を褒める内容ではないのだから。
──だが、そこまで考えたところでハタと気付く。
損得勘定でモノを考えていたことに。自己の利益しか顧みていないことに。
目の前の少年には良心を求め、自分は彼の協力を得られるのであれば、良心とは別の価値基準を用いる。
──卑怯で、醜い、自分勝手な振る舞い。
これは自罰的な思考が生み出した誇大表現に過ぎないかもしれない。
しかし一度そう思ってしまえば、セイラの頭から離れることなく残り続けた。
なればこそ、次に言うべき言葉は決まった。誠意と良心で以って、如何な結果になるとしても、嘘偽りのない言葉で応える。
でなければ、胸を張って自分は生きていくことは出来ないだろうから。"それ"を探す過程において、後悔の一片すら残したくはないから。
「……私は白の都市に長く住んできました。必然的に多くの住人とも話しました。その上で、思ったことを伝えます」
好意も、悪意も、そのまま話すと宣言したセイラ。
静かに、穏やかに、表情を変えることなく次の言葉を待つサナ。
やはり表情の変わらない少年を見て若干の気後れは感じた。しかし、後は野となれ山となれ。喉を通る言葉は止めなかった。
「彼らには──
零すように、最後の言葉を紡ぐ。反応は最早見えない。挑戦によって、若干の高揚を見せる心にだけ目を向けながら、彼女もまた次の言葉を待った。
「──ね、貴女は」
セイラの耳に届いた言葉は断片的だった。何を伝えたかったのか、そもそも自分に対して向けた言葉だったのか。少なくともその優しい声音から込められた感情が純粋な好意であったことだけは伝わってきた。
訳が分からず困惑するセイラを置いていくように、少年は再び口を開いた。
「この質問をしたのは、初めてではありません。今までも、多くの方に問いかけてきました。仰ったように、白の都市の人々は自分が何をしたいのかも分からず、流れのままに生きています。そのような状態ですから仕方がないことではありますが、曖昧な返答ではなかったのは、セイラさんただ一人でした」
喜色を滲ませるサナ。伝えてくれた言葉がただただ嬉しくて仕方がない。そんな風に、セイラには捉えられた。
少年から伝わってくる感情の色が他の人よりも薄い分、普通であれば小さな喜びと形容するであろうその表情が、色濃く強調されて映っていたのだ。
予想以上の好感触にセイラはホッと胸を撫でおろす。
賭けと呼べるほどのリスクは結果的に見ればなかったのかもしれない。少年はどんな返答であっても頼みを聞き入れてくれた可能性が高い。
けれども、自分の心にしこりを残さない選択を取った上での結果は、予想以上に心地が良かった。
「ご期待に添えられたなら良かったです」
自分の選択が間違っていなかった確信は少なくない不安を払った。
それ故今まで言葉の中に見え隠れしていた逡巡がなくなり、今回は堂々と返答を口にすることが出来た。
「緊張や不安は解れましたか?」
「はい」
続く二言目も、柔和な表情のままセイラは口にした。
「なら、そろそろ本題に入れそうですね。ではセイラさん──あなたの相談を聴かせていただけますか?」
サナの言葉を聞いた瞬間、セイラは身体を硬直させた。
忘れていたわけではないが、当初に比べれば隅の隅に置かれていた本題が、心の中心へと急速に帰還したのだ。そして伴うように新たな悩みもまた、薄っすらと顔を覗かせていた。
優しく声をかけてくれる少年からは見えない机の下で、固く拳を握る。決して顔に出しはしなかったが、それだけは止められない反射的な行動。セイラの心情を表すように、膝上に載せた拳は小さな震えを見せた。
この手段を取ろうと決めた後、セイラは盲目的に一点を見つめているだけでよかった。良心が陰り、手段を選ばない汚さに身を任せるのは、ある種自由という名の牢獄から抜け出すことができたから。
しかし、直接サナと顔を合わせ、言葉を交わし、その人となりを知った時、沈んでいた良心が再びセイラへと問いかけた。
自身の軽率な行動に協力させていいのか? そんなごく自然に生まれるであろう悩みが、日の目を浴びてしまった。
ここで無思慮に手伝ってくださいと願うのが、セイラの目的に対しての最短ルートで、明確な道筋だった。
他の方法もないことはないが、非常に迂遠な道筋であり何年かかるかは予想もつかなかった。もしかすると、一生掛かっても辿り着かないかもしれない。
だからこそ、白の司教としての大権を有するサナの助力は、喉から手が出るほどに手に入れたいものだったのだ。
だがもし自分を手伝うことで、少年が司教の座から外れるかもしれないとしたら。これもまた考えすぎで、実際にはそこまでは至らないかもしれない。
しかし、セイラは感じていた。自分が追っているものが、何か大きな意味を持つのではないかと。
手記の言葉──『
故に──
「……すみません、私の相談は──