幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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ブルーアーカイブを自作品とクロスオーバーさせてみた。


第一話 さようなら勇者様、こんにちは銃社会

 闇夜を切り裂くように目の前に迫る光の奔流に無色の防御膜を展開。

 上から見下ろすと逆V字状の防御膜の内側にいる、髪と髭が伸び放題で黄土色を基調とした迷彩柄マントをまとった中年男性が光の奔流の出処である巨人を仕留めるために大規模攻撃魔法の呪文を詠唱中。

 男の前に白く半透明のメイド服の少女が苦悶の表情で両手を前に突き出しながら防御膜を維持している。

 

 巨人から吐き出される光の奔流はまだ終わらない。

 躱すという選択肢は無い。それを選んだ場合、後方に控えているカルアンデ王国から根こそぎ動員された平民たちの生き残り百万人が薙ぎ払われてしまう。

 

「ぅうっ、ぐ、ぐぐ……!」

 

 少女が呻きながら光の奔流の圧力に吹き飛ばされないよう、防御膜の維持を行う。

 魔王軍の雑魚ならいざ知らず、光の奔流に対抗するための魔力がとんでもない勢いで消費されていく。

 王国中からかき集めた魔力を溜めておく放吸石(ほうきゅうせき)を背後で呪文を唱える勇者から、もしもの時のためとして山ほど持たされていたが消耗が激しい。

 魔力の貯蔵が尽きるのが早いか、勇者の呪文が完成するのが早いかの勝負となった。

 

 魔王軍の強大な力を伴った侵攻に対抗するため、大陸南部の各国は兵隊を軍団規模で湯水のように消耗し王を守る近衛までも払底した。

 それでも足りずに根こそぎ動員された平民を押し立て、多大な犠牲を払いながらも魔王城の目の前まで進軍した。

 そこへ立ちはだかる、最後の一体の巨人の前に足を止めざるをえなかった。

 

 従来の巨人と違って改造されでもしたのか、これまでに無い圧倒的な力を前に勇者は群がる雑魚を薙ぎ払う程度の魔法では意味がない事を直感したのだろう、彼が詠唱する言葉から察するに巨人の背後にいる魔王城すらも消し飛ばす攻城級魔法を選んだようだ。

 

 勇者の詠唱が終わりに近づくにつれ、防御膜の維持に使用していた少女の手持ちの放吸石に溜め込まれていた魔力の底が見えてきた。

 

(……間に合わない!)

 

 少女が理解し、奥の手である自身の魔力を使う事を決断した。

 ためらったら平民たちもそうだが、大好きな勇者様が危ない。

 

 とうとう放吸石の魔力が底をついた。

 少女の魔力でなおも防御膜を維持している事に気づいたのだろう、勇者の詠唱に焦りが混じる。

 

(勇者様、落ち着いてください。詠唱を失敗したらそれこそ終わりです)

 

 カルアンデ王国の、ひいては大陸の平和の危機だとして神々より定められている国ひとつにつき勇者一人の召喚。それに引っ張られて来たのは異世界のニホンという国から来た従軍経験皆無の平凡な平民の中年男性サラリーマンだった。

 

 王国政府の無理無茶な要求にも関わらず寝る間も惜しんで勉強し魔法を覚え戦闘訓練を行い、戦場に投入された時には軍隊は既に無く何もかもが手遅れになりかけていた。

 大陸南部諸国で各々召喚された勇者たちはそれぞれの軍隊と共にとうの昔にあの世へ旅立っていた。

 

 実質、ただ一人残った勇者を先頭にカルアンデ王国の平民を率いての戦争である。

 話し合いによる和解は不可能。カルアンデ王国含む南部諸国同盟が結成されるきっかけとなった強大な軍事国家が魔王軍に攻め滅ぼされていたためだ。

 

 幸運だったのは正規の軍隊が壊滅した頃には魔王軍も無傷では済まず、かなり戦力を消耗していた事だ。目の前の巨人も開戦当初は二百もいたと噂されている。

 

 勇者の詠唱が終わり、それと同時に世界が塗り変わる。

 防御膜の前の光の奔流が完全に押し止められ、それどころか逆流していく。

 巨人の手足が歪みひしゃげていく。さらに体全体までもが胴体の中心へ圧縮されていく。

 グシャッという音と同時に巨人は人の背丈くらいの大きさの塊となって地面に転がり沈黙した。

 光の奔流が通過した地面が赤熱し立ち上る陽炎に視界がゆらめく。

 

「くそっ、城も押し潰すつもりだったのにっ!」

 

 勇者が悪態を吐く。

 

(城ごと対象にしていたのに抵抗(レジスト)された! 中に桁違いに手練れの魔法使いがいるな)

 

 勇者は先ほど使用した魔法でそれなりの魔力を消費したがまだまだ余裕はある。召喚後の適性検査で莫大な魔力量だけが取り柄という歪な結果が出たが休む間もなく続く戦いにおいてはこれほど心強い味方はいない。

 勇者は気を取り直して先ほどまで防御膜を張っていた少女へと向き直る。

 

「助かったよ、ローナ。すぐに魔力を補充してや……」

 

 勇者の視界に半透明の少女の姿は無かった。

 

「……ローナ?」

 

 勇者は周囲を見回す。

 少女の姿は、無い。

 

「まさか」

 

 彼女は幽霊族と呼ばれ人族に友好的でいたずら好きと有名だ。

 

「おい、ローナ。ここにきてドッキリか?」

 

 いずれ来たる世界の危機に召喚される勇者に憧れて頑張ってきた少女。

 

「おい、返事しろ」

 

 勇者の専属メイドとして志願し、見事その役職を勝ち取った少女。

 

「返事してくれ、頼む」

 

 勇者を親鳥のように慕い、ちょこちょこ付いてきたヒヨコのような少女。

 

「冗談はよせ。…………ローナ!?」

 

 防御膜を維持するために幽霊族の霊体を構成する魔力までも使い尽くし。

 

「ローナぁぁぁぁあああ!」

 

 消滅した。

 ただただ、勇者の慟哭が木霊した。

 

 

────────────────────

 

 

 幽霊族の少女、ローナは暗闇の中にぽつんと浮かんでいた。

 巨人を倒したのを見届けてから魔力が尽きて消えたのは自覚していた。

 

(ここに来て随分と経つけど、勇者様、魔王を倒せたのかな)

 

 防御膜を維持するのに勇者を守るのに必死で、愛の告白どころかさよならの言葉すら言えなかった。

 

(これからどうなるんだろう私)

 

 ローナが生前学んでいたのは死んだらあの世に行くと聞かされていた。ところが周囲は真っ暗闇。ここがあの世だとしたら寂しすぎる。

 

(……あれ?)

 

 暗闇に白い光がぽつんと浮かび上がった。

 先ほどまでは無かったはず。

 光は暗闇をどんどん侵食し世界は白く塗りつぶされた。

 同時にローナの意識が薄れていく。

 自身がどうなるのか分からないが不思議と恐怖は感じない。

 意識が途切れる寸前、少女は思いの丈を口にした。

 

(勇者様、あなたと会えて幸せで────)

 

 

────────────────────

 

 

 学園都市キヴォトス。いくつもの自治区で構成され数千もの学園が主導して運営する学生主体の都市。

 ゲヘナと呼ばれる自治区のとある一般民家の二階の居室のベッドで寝ていた金髪のショートヘアの少女が目を覚ました。

 上半身を起こし寝ぼけ眼で室内を見回す。

 年の頃小学校低学年の少女。黒い二本の短い角が額の両脇から生え、腰の後ろから黒い蝙蝠のような翼が広がり、黒く細い尻尾が揺れる。

 

「……ここ、どこ?」

 

 唐突に訪れた頭の痛みに少女が頭を抱える。

 

「……何? この子の記憶?」

 

 痛みが治まったのか手を離して呆然と呟く。

 

「……そう、この体の持ち主、死んだんだ」

 

 たちの悪いインフルエンザという病気で呆気なく亡くなったようだ。魂が抜けて空っぽの身体にローナの魂、というか霊体が憑依した状態だ。

 

 前の持ち主の記憶が手に取るように理解できる。

 これなら今世の家族にはローナの正体はばれずに済みそうだ。

 

 ローナは着替えが収められてる箪笥の上にある写真立てを見て念じる。

 写真立てはふわりと浮き上がると彼女の右手にすうっと移動した。

 どうやら今世でも幽霊族の能力のひとつ、ポルターガイストが使えるようだ。

 写真には今世のローナと母親の姿が写っていた。

 ローナは左手を見る。

 彼女の左手から白く半透明の左手が浮き出てくる。

 

(幽体離脱も可能、と)

 

 今度は左手の人差し指を立て念じると、窓も開いていないのに室内をそよ風が吹きカーテンが揺れる。

 

(良かった、魔法も問題なく使える)

 

 前世で使えた能力が持ち越しできた事に彼女は安堵する。

 それなりに苦労して習得した能力や技能には思い入れがある。

 

 ただ、この世界に魔法は存在していないようだ。迂闊に使用すれば生体実験の材料にされかねない。前世でも似たような事が行われていたのだから尚更である。

 自身の命に危険が迫った時以外は極力控えようと心に決めた。

 

「私の今世の名前は……、光風(みつかぜ)ローナ、か」

 

 何たる偶然か、苗字は違うが前世と名前が一緒。その事にローナは安堵した。他者からの呼びかけに気づかず無視した形となって関係が悪化する事態は避けられそうだ。

 とりあえず、この世界に馴染まなくては。

 記憶を探れば今日は小学校という学び舎の登校日らしい。

 ベッドから下りると学校指定の制服に着替え始めた。

 

(それにしても……光風?)

 

 苗字に新鮮な響きを感じるが、何と言うか違和感がある。どこかで聞いた事があるような。少女は首を傾げながら着替えた。

 

 一階に降りて食堂に入る。

 

「おはようローナ。朝食できてるよ」

「お母さん、ありがとう」

 

 今世の母に礼を言うと記憶にある通り、いつもの席に着く。

 

「いただきます」

 

 箸を手に取る。使い方は記憶と身体が覚えていたので苦も無く操れる。

 

(これなら家族に怪しまれずに済むね)

 

 内心安堵しつつ、前世も含めて肉体を得て初めての食事にわくわくする。

 幽霊族は霊体だから食事は必要無い。無いが隣人である友好的な人族が美味そうに肉を食べたり、酒を呑んで気分良く酔っ払ったりするのを見て、味覚の無い幽霊族はどんな味なのか知りたくて大層羨ましがったが、大半は指をくわえて見ているだけだった。

 

 目の前の料理は前世では見た事の無い物だった。

 身体の持ち主の記憶によると和食と分類されるらしい。では前世で貴族が食べていた料理はと思ったら洋食という言葉が身体の持ち主の記憶から該当する映像が浮かんだ。

 

 国が異なれば文化も料理も思想も違う。

 カルアンデ王国しか住んでいなかったローナにとってその事実は新鮮で、感動しながら目の前の料理を少しずつ咀嚼して味わう。

 

(美味しい)

 

 人族は何と贅沢な日常生活を送っていたのだろう。

 確かに幽霊族は物理的攻撃は無効で大半の災害や人災を素通りでき人族と比べ気楽な生活を送れる。

 けれど、この味を一日三度楽しめるというのは魅力的すぎる。

 

(前世はそれなりに満足した人生だったかもしれないけど、今世で生を受けて良かった!)

 

 夢中で料理を食べるローナは母親が微笑ましく見つめている事に気づいていなかった。

 

 

───────────────────

 

 

放吸石:読み方は“ほうきゅうせき“。魔力を貯めておいて必要な時に取り出せる宝石。安武が勇者として召喚された異世界では希少価値が高い。

魔王軍との戦で王家の宝物庫に保管されてた物を全て安武とローナに持たせ戦場へ送り込んだ。

この宝石のおかげでローナは戦死してしまったが、勇者安武は魔王討伐に成功した。




泥縄式で執筆してます。
よろしくお願いします。
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