幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。


第十話 困ったら詳しい人に相談するのは恥ずかしいことじゃないよ

 翌日の深夜からローナはアンナの自宅中心に飛び回り始めた。

 まずは彼女の周辺地域の把握である。

 彼女の自室にあったゲヘナ学園に通うための制服だと分かったが、ローナが活動するのは基本深夜帯のためアンナがどこで活動しているのかが分らなかった。

 

 自宅に彼女の自転車が見当たらないことから、おそらくは今もどこかで移動して回っているのだろう。

 その事で子供は困った状況に陥っていた。

 

 自身が得意とする魔法のひとつ、探知魔法だ。

 それが使えないのである。

 

 前世では魔法は当たり前の世界ではあったものの、悪用されれば多くの犠牲を生み出す魔法も多数存在したので、法律で厳しく使用を制限されていた。

 また、家庭環境の貧富の差により魔法を学べないということも普通だった。

 

 実を言うと、そこまで魔法は世間一般に普及していなかった。

 ただし、大半の人間は多かれ少なかれ魔力を有していたため、機会さえあれば学べなくもなかった。

 

 前置きが長くなったが、ローナが使う探知魔法は彼らのもつ魔力を元に居場所を探し出す仕組みとなっている。

 だが、残念ながら生まれ変わった先での学園都市キヴォトスには魔力というものが存在していなかった。

 この世界で初めて使用した時、あまりの反応の無さにびっくりした覚えがある。

 当然目当てのアンナにも魔力なんてのは存在しなかった。

 

 とどのつまり、どこにいるのかすら分からなかったのである。

 前世では魔法の文字を研究する専門家がおり、文字を組み替えては様々な効果を確かめ検証する学者もいたが、あいにくとローナはその道には進まなかった。

 ローナにも魔法の文字の基礎知識はあるにせよ。現状そんな研究をしている暇など無い。

 

(いつかまとまった時間が取れたら調べておこう)

 

 ローナは心に決めた。

 兎にも角にも、今夜もローナは夜空から地上を見下ろして、アンナの居住区域をふよふよと飛んでいた。

 アンナが通っていたであろう小学校区を全て覚え、他の小学校区を統合する中学校区を覚えるために範囲を広げた頃、知り合いの風紀委員からモモトークで連絡が入った。

 

 どうやらお願いした調査に進展があったようだ。

 近いうちに風紀委員の詰所に来るようにとの知らせである。

 内容が内容なだけにモモトークではなく、直接話がしたいという事だろう。

 

 

 

 翌日の放課後、ローナは帰宅せずに寄り道して詰所を訪れた。

 

「ごめんください。お姉ちゃんいますか?」

「おう、待ってたぞ!」

「アンナちゃんとその家族について、何か分かりましたか?」

「色々とな」

 

 風紀委員はローナを奥の畳の部屋へ招いて靴を脱いで上がってもらう。

 ローナをテーブルの側の座布団に座らせ、風紀委員は急須と茶壺そして湯呑みを取り出して、茶葉を急須にさらさらと入れるとポットからお湯を注ぐ。

 急須から緑茶を湯呑みに注ぐとローナの前のテーブルに置いた。

 

「ほらよ、粗茶だが」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 ローナは手に取った湯呑みの中の緑茶に口からふうふうと息を吹きつけ、ちびちびと飲み出す。

 一口ほど飲んで満足したのか湯呑みをテーブルの上に置く。

 

「それで、どういった事が分かったんですか?」

「詳しい奴に調べさせてもらったんだが、ビンゴだ」

「ビンゴ?」

 

 馴染みのない言葉にローナが首を傾げる。

 

「大当たりって意味だよ。奴さんの一家、貸金業を営んでたようだ」

「具体的には?」

「表向きには闇矢文具店として経営していたようなんだが、アンナの祖父が死んだのを期に看板を下ろした。で、祖父が生きていた頃に裏では闇の貸金業をしていたんだと」

「……そんなの、ゲヘナでは普通では?」

 

 ローナは素直な感想を告げる。そんな事は前世でも同じ事が行われていたが、幽霊族の彼女にとって借金は無縁だったから存在自体必要は無かったのである。

 

「まあそうなんだが、ここは近辺と比べて規模が大きかった。と言っても、業界内では中規模だけどな。債務者がまともなら健全な対応だったそうなんだが、そういった金を借りる連中ってのはまともじゃない奴の方が多い」

「……銀行を利用しないから?」

「利用できない、と言った方が正しいかな。過去に悪さしてブラックリスト入りして銀行から金を借りる事ができなくなった。だから闇の貸金業で借りる。ゲヘナっつーか、キヴォトスではそんなのどこにでもある話だしな」

「ふうん」

「で、何でそんなに規模がでかくなったのかっつーと、キヴォトスでは銃撃戦が日常茶飯時だ」

「うん」

「結果、どんな事になると思う?」

 

 風紀委員に尋ねられたローナは湯呑みを手に取り、いく分適温になった緑茶をすする。

 生まれ変わったこの世界で過ごす間、絶え間なくそこかしこで起こる銃撃戦を思い返す。

 

「……二次被害、建物が壊れる?」

「正解だ。っつーか、よくそんな難しい言葉を知ってんな」

「色々学習したので」

「お前、まだちっちゃいのにお勉強できるんだな」

 

 まだ小学生なのに知識が豊富らしいので委員が感心する。

 

「私はよく分からないけど、それなりには?」

「何で疑問形なんだよ?」

「他人とは感性が異なっていると言えば聞こえは良いけど、変わっていると言われる方がしっくりくるかな」

「理解できてるじゃねえか」

 

 風紀委員は苦笑いしながらローナの頭を撫でる。

 

「大丈夫だ。変わってはいるが賢いよ、お前」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 委員に褒められたローナは嬉しくなる。どうやらこのキヴォトスでもやっていけそうだと実感したのだ。

 ひとしきりローナの頭を撫でて満足した委員は座布団に座り直す。

 

「あとは予め釘を刺しておくが、それを鼻にかけて図に乗らないようにな」

「うん、分かった」

 

 頷いたローナに委員が咳払いする。

 

「話を戻すが、この学園都市ではちょっとした揉め事でもすぐに銃をぶっ放す生徒たちが当たり前なんだが、その流れ弾が付近の商店や民家に当たって損壊させる。被害を受けた住民たちからすればたまったものじゃない。学園に寄せられる苦情に対処するため治療費や建物の修繕費用を立て替えたりするわけだが、学園に割り当てられた予算にも限りがある」

 

 何となく委員の言いたい事が分かってきたローナが確認のため尋ねる。

 

「という事は、仕方なく自身の財産から取り崩して建物を直す。足りなければ――」

「借りるわけだ」

 

 頷いた委員が説明を続ける。

 

「それで大人が経営する保険会社が適用されるわけだが商売としてやっている以上、境界線が設けられる」

「境界線? 何それ」

「要するに建物が損壊した場合、日常生活を過ごす上で支障をきたさない程度の軽微な損害であれば保険代は支払われないという決まりを予め作っておく。そうすれば被害者が保険金を支払っていても、それに該当していれば保険会社はお金を支払わなくて済むようになってるんだ」

「何それずるい!?」

 

 あんまりなルールにローナは思わず叫ぶ。

 

「ずるくはない。会社である以上、そこには働く人がいるから彼女たちを食わせていくためにも一定の収入が必要になる。必要悪って事だ」

「世の中って世知辛いんだね」

「小学生に言われたくないな、そのセリフ」

 

 ローナの素直な感想に委員が苦笑いする。

 

「兎も角、保険会社から保険金を受け取ることができなかった住民が困った末に頼るのは闇の貸金業だ。厳格な保険会社と比べて身分証だけで審査が通り易い。その代わり返済にかかる利率がべらぼうに高い。苦しい生活から逃れたくてお金を借りたつもりが、増えていく借金を返すために、前以上に苦しい生活を送らなければならなくなるという矛盾がある」

「学園は解決に乗り出さないの?」

 

 ローナの当然の疑問に委員は頭をかいた。

 

「したい。だができない。人員も予算も限られていて、とてもじゃないが手が足りない。他にも問題があるから、これだけに集中するわけにもいかんしなあ」

「風紀委員会って思っていたよりも大変なんだね」

「分かってくれるか」

 

 委員のぼやきにローナが感想を漏らし委員が疲れた笑みをする。

 だが、その後に続いたローナ言葉に委員が飛び上がった。

 

「そんなに大変なら、風紀委員会に入るの止めようかな?」

「おい、ちょっと待て、待ってくれ! それだけを理由に入るのを止めないでくれ!」

「何でそんなに必死なの?」

 

 このキヴォトス、というかゲヘナの治安状況を把握できていないローナの素朴な質問に委員が理由を語る。

 

「必死にもなるさ! 毎年、何となくで入ってくる奴が大勢いるが、最初から立派な志を持って入ってくる未来ある若者なんてそうそういない! こうして見つけた以上逃してたまるもんか!」

「アッハイ」

 

 目ん玉をかっぴらいて顔と顔がくっつくんじゃないか、というくらい近づけながらのたまう委員に気圧されたローナは頷いた。

 テーブルの上に身を乗り出していた委員が身を引いて座布団に座り直すと湯のみを手に取って緑茶を飲み一息吐く。

 それを待ってからローナは尋ねる。

 

「長々と解説してくれたけど、その貸金業を営んでいたのがアンナちゃんのお爺さんだったの?」

「そういう事だ。貸し付けていた利率は他の同業者と比べて良心的だったそうだが、それでも恨みを買うほどの範疇には入っていたらしい」

「……誰が、どんな理由で恨んでたの?」

 

 ローナに訊かれた委員が言おうか言うまいか迷っていたが、ため息を吐きながら告げる。

 

「同業他社だよ」

「……え、何で?」

「利率が良心的だって言ったろ? 金に困った人が借金返済するなら当然利率が低い方へ飛びつくよな? どうなる?」

「えっと、……他に客が来なくなるから……え、それだけで!?」

 

 至極単純な理由を理解したローナが驚愕する。

 

「あるんだよ。……金ちびみたいな子どもには大人の世界の汚さを知ってほしくはなかったんだけどな」

「いえ、その、何も知らないで巻き込まれて被害を受けるよりはマシだと思うんだけど」

「まあ、そういう考えをする奴もいるな」

 

 疲れた表情を隠さずに愚痴を言う委員にローナは気遣うため声をかける。

 

「……あの、業務、お疲れ様です」

「子どもに言われたくねえが、まあ、なんだ、ありがとよ」

 

 風紀委員会の苦労の一端に理解を示したローナに委員は感謝の言葉をかけた。




今回はここまで。
それでは。
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