幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。
カオス回です。


第十二話 "ゲヘナの良心"万魔殿・仏のナツミ議長による…

 風紀委員とローナは一旦休憩を入れることにし、お手洗いに行ったり、お茶を入れ直したりして再び席に着き会話を再開する。

 

「そういえば、金ちび、さっきまでの話を聞いてよく平気でいられるよな」

 

 委員の言葉にローナは首を傾げる。

 

「どういう事?」

「お前の依頼を受けて詳しく調査した連中があまりの悍ましさにほぼ全員が気分が悪くなって、かなりの生徒がその場で吐いたと知らせられたんだよ。……お前、強いな」

「そこまで?」

「いや、驚いてはいたがそのくらいで平然としていられるお前の方が異常だよ」

「……やっぱり、私の感性、人と違うのかな……」

 

 委員の率直な評価にローナが凹む。

 

「悄気るな悄気るな。お前はまだ正常だ。そんなことで落ち込むなよ」

 

 委員が励ますがローナは立ち直る様子が見られない。委員がやれやれと困った顔をする。

 

(割と思い切ったゲヘナ仕草をするかと思えば、感情は繊細なんだよな)

 

「まあ、ここまで人の悪意を見せつけられたら吐くのが普通なんだから、いくら傍若無人な生徒でもこうなるよ。あんま気にするな」

「…………つまり、私の心は鋼鉄製だったりするのかな?」

「いや、どっちかっつーとスポンジじゃねえかな? 変なところで打たれ弱かったりするし」

「スポンジ……私、スポンジ……」

 

 例えが悪かったのかローナが微妙にショックを受けている。

 このままでは埒が明かないので、委員は強引に話を戻すことにした。

 

「何にせよ、あいつが住んでいた所とその近隣区域から出てきた奴らを締め上げたら、最初は口を噤んでたけどこっちが誠心誠意頼み込んだら話してくれたよ」

「……その誠心誠意というのが気になるんだけど?」

「何、じっくり話し合っただけさ」

「本当かな?」

 

 委員の言葉にローナはジト目で疑問を投げかけるが委員はどこ吹く風だ。ローナは気を取り直して話しかける。

 

「それで事件に関わった生徒たちから詳しく話を聞けたんだね」

「そういうことだ。いやー、久しぶりに胸糞悪くなる尋問だったぞ。最初は言い訳ばっかりしてたけど、最後は開き直ってあいつの悪口ばかり言いやがってな? 反省の様子が見られないんでその場に立ち会った万魔殿と風紀委員全員が手にしていた銃で全弾叩き込んだとよ。誰も止める奴はいなかったそうだ」

「当然といえば当然だよね」

 

 笑顔で語る委員にローナも同意する。

 自由と混沌を標榜するゲヘナ学園でもやって良い事と悪い事がある。

 闇矢一家に対して行われた仕打ちは学園側からしてみれば到底許せるものでは無かったのであった。

 

(ヘイロー持ちだからできる制裁なんだろうね。普通の人なら死んでるし)

 

 ローナは前世の戦場を思い出して憂鬱になる。

 互いの人口をすり減らし、戦争が終わっても数十年も悪影響が残るような凄惨な殺し合いに比べればマシなのかもしれない。

 だけれども、何事にも限度があった。

 

「終いには“ゲヘナの良心“と呼ばれる万魔殿の日畑ナツミ議長がクソ重い執務机を両手に持って振り上げて滅多打ちにし始めてな? そこにいた全員も怒り狂って当然みたいな顔――いや、議長はそれを通り越して能面顔だったらしいんだが、奴らが血まみれになって動かなくなっても止めようとしないんで、血相変えて皆が止めたそうだ」

「まあ、うん、気持ちは分かるよ。……机? 重い?」

 

 はて、とローナは首を傾げる。

 人というのは重い机を振り回せるものだろうか。

 前世で勇者と行動を共にする前、貴族の屋敷でメイドの一人として働いていた時、屋敷の主の立派で重厚な執務机を見た事はあるが、持ち上げる事すら困難な大きさだった。

 

「確か、マホガニーの無垢材から作られた、標準のエグゼクティブデスクよりも大きな特注だったか?」

「エグゼ……何?」

 

 聞いた事の無い言葉にローナは理解が追いつかない。

 

「横幅240cm、奥行100cmで重さが300kgを超える代物で、四人がかりで運ぼうとしても腰を痛めるくらい重いやつらしい」

「詳しいね」

 

(そんな細かい寸法、どこで知ったんだろう)

 

「風紀委員会本部までわざわざ足を運んではポケットマネーから高い金を出して買って毎日毎日飽きもせずに磨いてるほどのお気に入りを自慢するくらいだからな」

 

 まさかのナツミ議長本人が吹聴していた事にローナは唖然とする。

 

(よっぽど嬉しかったんだろうなあ)

 

「……で、それで殴ったの?」

「普段は温厚なんだぞ? 趣味が畑いじりで学園内に家庭菜園設けて暇さえあればそこで色々栽培してるからな。別名"仏のナツミ"とも呼ばれてて、仏の顔も三度までという諺に因んでそう呼ばれるようになったんだとか」

「はあ」

 

 重すぎる机を振るう少女に仏という言葉が合致しない。

 ただ、ただ、ローナは頷くしかない。

 

「今回の場合は一度も許さずに粛清に移ったんで、皆から畏敬の念を持たれたとか」

「そりゃあそうだよ」

「鍬で畑を耕すかの如く、担々と机を振り下ろすナツミ議長にちびった生徒もいたとかどうとか」

「私も怖いと思う」

 

(そんな怪物に迫られたら全力で逃げ出すに決まってるよ)

 

 まさに"触らぬ神に祟りなし"と言ったところだろうか。

 

「万魔殿の議長って人間なの?」

「人の形をしてるから人間だろ?」

「それ、人の範疇に入れても良いものなのかなあ……?」

 

 キヴォトスという学園都市は物差しでは測れないような魔境のようだ。

 兎も角、闇矢一家が受けた絶望は計り知れない。

 正直、その程度で済ませた万魔殿と風紀委員会はまだ自制心が効いている。

 

「それで、制裁を受けた生徒たちは?」

「救急医学部で一週間ほど集中治療だとさ。その後に正式に退学処分を言い渡されるらしい」

「……え、それだけ?」

 

 随分軽い罰だなあ、という感情を抱きながら言葉を漏らすローナに委員が困惑する。

 

「それだけって……お前ならどんな事すれば気が済むんだよ?」

「腕か足の一本を切断で許してあげようかなって。……ねえ、どうしたの?」

 

 ローナが口にした制裁内容に委員が引きつった顔で叫ぶ。

 

「悪魔かお前!」

「ゲヘナ生まれだから悪魔でしょ?」

「……それもそうだ」

 

 ローナの冷静なツッコミに思い直す委員。

 

「いや、さすがに手足切断はねえよ! 退学って意味がどういう事か理解してんのか!?」

「え? 学園にもう二度と来るなって事でしょ?」

 

 ローナはまだこの世界に来て生前の持ち主の脳に宿る知識にはそのような情報はまだ無い。

 だから彼女は前世の感覚で訊き返した。

 

「違えよ! 学籍が抹消されるついでにクレジットカードや銀行口座も凍結されるから路上生活者へ転向しなけりゃいけなくなるんだ!」

「は? え? クレジット……? 口座……?」

 

 委員が口にした内容について行けずに困惑するローナに眉をひそめる委員が訊いてくる。

 

「……おい、そんなんキヴォトス人なら一般常識だろうが」

「…………記憶してる限り、まだそんなの小学校で教わってないよ?」

「……あ」

 

 ローナの正直な告白に委員は気が付いた。

 

「そういや、金ちびはまだ小学校低学年だったわ」

「いくつだと思ってたのよ?」

「外見を見なければタメだと錯覚しちまうんだよな」

 

 どうやらローナを委員と同世代だと思われていたようだ。

 小学生は社会常識が不足しているので、よほど裕福な家庭でもない限りはスマホやクレジットカードを持たされる事は無い。

 ローナの場合はクレジットカードは中学に上がってからと母親に言われているので、今は使用制限されているスマホを持たされていた。

 

「はっきり言うと学園から退学になった生徒は根なし草になるんだ。そこらに落ちてる小銭や誰かが捨てた食べかけの物を拾ったりする惨めな生活を送らなけりゃならなくなる」

「……あー」

 

 委員に解説されてローナは納得する。

 確かに今まで何不自由なく日常生活を送れていた時、ある日突然財布無しで放り出された事をローナは想像する。

 

 前世では手足を失った戦傷者たちが王国から生活の保障を受けられず、都市部の路上で物乞いに身をやつしていて、それでも人々から金銭を恵んでもらえずに飢え死にしていく光景が普通であった。

 本来であれば、御国のために戦で奉公した兵たちには手厚い保障を行うべきなのだろう。

 

 それすらも行えないくらい追い詰められていたのであるが。

 

「…………うん、確かにこの上ない罰だね」

「理解してもらえたようで何より」

 

 委員も賢そうなローナが理解できたと思い頷く。

 委員は口にしなかったが、路頭に迷った退学者たちはヘルメット団に所属するか、自治区外のブラックマーケットへ移住するかの二択を迫られる。

 自由ではあるが飢えに苦しむヘルメット団か、仕事をこなせば最低限の食事にはありつけるが人間扱いされないブラックマーケット。

 

 どの道、ろくな将来が無いのだ。そのくらい退学処分は重い措置である。

 集団で寄って集って闇矢一家を散々いじめ抜いたのだ。そのくらいの仕置きはあっても良いだろうとローナは解釈した。




今回はここまで。
書き溜めに入ります。
それでは。
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