幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。


第十三話 いつの時代でも現状分析は大事

 闇矢アンナに関する話題はなおも続く。

 ローナは彼女の自室にゲヘナ学園の制服が壁際のハンガーに吊るされているのを見ているので、ぼかしながら委員へ訊いてみる。

 

「そういえば、アンナちゃんはゲヘナ学園に通ってるんだよね?」

「よく知ってるな。まあ、今は通ってないがな」

「え?」

 

(制服があるのに通っていない、という事は……)

 

 ローナの不安をよそに委員が話を続ける。

 

「中学を卒業して学園に入ってからもいじめが続いていたからな。そのうち姿を見せなくなった」

「助けなかったの?」

「一度だけ。けど、その後『もう関わらないで』って拒絶されたな」

「そうなんだ」

 

(何で拒絶するんだろう? 周りを頼れば良いのに)

 

 風紀委員会所属なんだから悪い噂を聞かされても真実かどうかは調査するはずだ。

 

「後になって、あいつに関わろうとした生徒はいじめてた奴らに無い事無い事吹き込まれて遠ざかっていったと知って酷い事しやがると思ったもんだ。……金ちびはアンナをどこで知ったんだ?」

 

 委員の言葉からアンナは相当追い詰められていたようだ。最早、誰が味方で誰が敵かすらも見分けがつけられなくなっていたのだろう。

 

「地元で屯してるヘルメット団が普段とは違う場所へ行くのを見て、ついて行ったらアンナちゃんが待ってたの」

「なんだ、奴らと繋がりがあるのか?」

 

 委員の眉が歪む。どうやらいじめ加害者たちを恨むあまり、そちらへと舵を切ったのではないかと思ったようだ。

 

「さあ? 会話を盗み聞きしただけだから。他にも複数のヘルメット団と繋がりがあるみたい」

「どんな話をしていたんだ?」

 

 委員に訊かれてローナは見聞きしてきた事をかい摘んで話す。

 委員は特にアンナが電話した相手に興味を示し、話を終えると彼女は腕を組んで考え込む。

 

「"G"……"G" って誰だ?」

「私にも分かんない。声からして男性の老人としか。……ただ、老人はアンナちゃんを孫と接してるような感じかな。アンナちゃんの方はまるで祖父と会話するかのような感じ」

「なるほど」

 

 喋り疲れてきた二人はお茶を飲み直して喉を潤す。

 

「アンナちゃんは今も学園に通っていたら何年生だったの?」

「3年生だな」

「……という事は、1年の終わり頃に事件が起きた?」

 

 ローナの確認に委員が頷きながら補足を入れる。

 

「それとほぼ同時期に学園に来なくなったかな?」

「理由は何だろ?」

「憎むべき相手がいなくなったから、かもしれんが、その辺は知らん」

 

 まだ情報が足りないと感じたローナは他にも質問を続ける。

 

「うーん、……成績の方はどうなの?」

「成績は特に問題なかった。ただ、銃の腕前がからっきしでな」

「下手なんだ?」

 

 日記帳には手慣れてるはずのサブマシンガンを装備していると書かれていたが、委員の話にローナ首を傾げる。

 

「学園内の射撃場で訓練してる様子を見かけたことがあるんだが、たどたどしい手つきでスナイパーライフルを撃っていたのを覚えているぞ。あれじゃ素人同然だな。命中率は良かったが」

「スナイパーライフル? サブマシンガンじゃなくて?」

「……お前、あいつのこと知ってるのか?」

 

 ローナはアンナの日記帳を読み終えていたのでうっかりその事を口にしてしまい、さり気なく取り繕う。

 

「ヘルメット団と密会してた時は銃は持って無かったよ。アンナちゃんが中学生の頃はサブマシンガンを使っていたとかっていう話を聞いたけど、学園にいた頃は違うの?」

「……そうだな、スナイパーライフルを持ち歩いてるところしか見かけていないな」

「あれ?」

 

 ローナは日記帳の内容を思い出す。確かに最初はサブマシンガンを選んだようだが、そういえば別の銃に変更するような書き方をしていた。

 

「まあ、銃が合わなくて持ち替えるのは別に珍しい事じゃないしな。いや、分野を変更するのは珍しいか?」

「ねえお姉ちゃん、もしかしてアンナちゃんが闇の貸金業の首謀者たちを狙撃した……なんて事は無い?」

 

 ローナはアンナの日記帳を伏せたまま委員に問いかけるも、委員は笑って否定する。

 

「あいつが? 無い無い! さっきも言ったろ、からきしだって」

「じゃあさ、もしそこに神秘が加わったらどう思う?」

 

 ローナの問いかけに委員が思案顔になる。

 

「神秘か? 確かに生徒たちの中には銃と神秘を組み合わせて相乗効果を発揮する奴もいるが、あいつに神秘なんてあったか?」

 

 委員の言葉にローナは戸惑う。

 

「そんなはずないでしょ? ヘイローを持ってる人は強弱の差はあるかもしれないけど必ず神秘を持っている、って聞いてるよ?」

「確かにこの学園都市では一般常識だけどな。あいつが神秘を使用した事はただの一度も無いんだ」

「え、一度も?」

 

 そう言われたローナは黙り込みつつ、内心でああやっぱりと日記帳の内容が正しかった事を再確認した。

 ローナは気を取り直して話題を変える。

 

「アンナちゃんはどうなるの?」

「その事についてなんだが、議長が鶴の一声を出してな? 学園内で彼女へのいじめに関わった生徒たちを退学処分にしたから、安心して学園に通えるようになったから知らせようって話になった」

「また学園に通えるようになるの? 良かったあ」

 

 議長の粋な計らいにローナは殊の外喜んだ。

 

「それでお前に頼みがあるんだが、今のをあいつに伝えてほしいんだ」

「何で?」

「こっちからだと連絡がつかないんだよ。お前、あいつのことを探してるんだろ? ついでだ、ついで」

「……まあいいけどさ、乗りかかった船だし」

 

 現状、アンナに近い位置にいるのはローナなので引き受けることにした。実際、ローナが闇矢一家の調査を依頼した事により、事態が大きく変わったのは間違いないからだ。

 ローナは残る心配を委員に問いかける。

 

「いじめた生徒たちを処分したのは良いけど、アンナちゃんの近隣住民の人たちはどうするの?」

 

 委員が片手をひらひらと振る。

 

「ああ、それなら心配するな。ナツミ議長に何か考えがあるらしい。内容はあたしにも聞かされなかったから、多分大掛かりなことを企んでるぞ」

「そうなんだ」

 

 それなら手を出す必要は無いだろうとローナは引き下がる。

 この巨大な学園都市でちっぽけな子供一人ができる事は微々たるものでしかないからだ。それなら権限が一番大きいゲヘナ自治区の長に委ねた方が良いだろう。

 

「分かった。あの子のことを探してみる」

「頼んだ。……というかあいつの居場所を知らないのか?」

「うん、あちこち移動してるみたいで、どこにいるか全然わかんないの」

「マジか?」

「多分、初めて会った時みたいに色んな所に出向いては何かを画策してるんだろうけど……」

 

 そうなのだ。ローナにも日常生活があるから、まとまった時間が取れる時間帯と言うと寝ている間だけでしかない。そしてアンナの家に訪問すると決まって誰もいないのだ。

 

 机の引き出しにしまってある日記帳を見ると、時たま書き加えられていることから、不定期ではあるが家には戻っているようだ。

 だが、ローナは最初に会ったっきりそれ以降姿を見ていない。

 

「あいつがママチャリで移動しているって事はそう遠くまでは行けないって事だからな。まあ、それでも範囲が広いんだよな」

 

 ローナの話から区域をひとつまたいだ先まで活動範囲が広いので探すのが手間だと委員は感じていた。

 手間、というだけで時間をかければいずれ発見するだろう。組織というのはそう言うものだ。

 

「お姉ちゃん、どうしようか?」

「うちらが手を貸しても良いんだが、時間帯が問題なんだよな」

 

 深夜の事を指しているがローナには今一理解が及ばなかった。

 

「どうして?」

「普通の人間ならとっくにお布団の中で寝ている時間帯だ。つまり、人影がまばらな時間帯に私たちが出歩いていると目立つんだよ」

「あ、そういう事」

 

 ローナも理解した。

 確かに普段人気の無い深夜に出歩く人が急にあちこち出てきたら不審に思われるだろう。

 

「そうなると、あいつが次にどんな行動に変化するのか予測がつかない。ただ単に逃げるだけならいいんだ。けど、もし、あいつが追い詰められていた場合、取り返しのつかない行動に出られても困るんだ」

 

 風紀委員会の今の方針は闇矢アンナの居場所の特定と状況の把握、そして説得であって収監する事が目的ではない。

 アンナは被害者という位置付けのため救済の対象になる。

 

「だから迂闊に動けない?」

「そういう事情なんだ、悪いな」

 

 頭を下げる委員にローナはそれなら仕方ないねと納得する。

 

「分かった。私だけで何とか探してみる」

「頼んだ」

 

 その後、二人はお互いに他にも何か変わった事はないかと話し合い、ネタが無くなったと判断して解散しようとなった。

 

「じゃあね、お姉ちゃん」

「ああ、また今度な」

 

 詰所を出て遠ざかっていくローナの背中を見ながら委員が申し訳なさそうな表情で呟く。

 

「悪いな、金ちび」

 

 その声はローナに届く事は無く、虚空に溶けて消えた。




今回はここまで。
それでは。
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