幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。

4/15加筆修正。


第十四話 事が重大だと思ったら動くのは治安維持組織として当然だという話

 深夜。アンナの自宅上空500m。

 

 夜空に溶け込むような色合いの一機のヘリが無音ローターで極力音を消して飛んでいた。

 そのヘリが地上の潜入部員からの「今、付近に人気がいなくなった確認が取れた」という連絡を受け、徐々に高度を下げアンナの家の屋根の高さまで降りてくると、ヘリのドアがスライドし四人の黒ずくめの人影が瓦屋根の上に音もなく降り立った。

 

 四人が降りた知らせを受けたヘリはスライドドアを自動で閉め、ゆっくりと上昇していき夜空に留まる。

 一人が周囲の警戒に当たり、三人が瓦屋根に取り付くとなるべく音を立てないよう瓦を剥がしていき、その下の板を準備していたのこぎりで手早くも音を極力立てずに切断していき、人一人が入り込む隙間を作る。

 

 暗視カメラ機能の付いたHMD――ヘッドマウントディスプレイを被った一人が屋根裏に侵入し、持ち運んできた板を外の二人から手渡しで入れると天井裏の梁から梁に並べて足場を確保する。

 

 さらに二人が屋根裏に入り込み、残る一人が板と瓦を戻し外見を元通りにしてみせる。それを確認したヘリが再び降りてきて屋根に残された一人が乗り込むとスライドドアが閉まりながら飛び去っていった。

 

 屋根裏の三人の内の一人が光ファイバースコープを取り出し、天井端の隙間二差し込むと下の部屋へ伸ばす。

 用意していた小型液晶カメラで部屋の内部を映し出す。

 アンナが住んでいる民家は古い木造住宅のため、隙間だらけでファイバーを通すには造作もなかった。

 

 三人に与えられた任務はアンナの行動を逐一観察する事である。

 基本24時間の監視体制であるため、物資の補給は先ほどのヘリが深夜に運んできたり、トイレは携帯用で済ませる事になる。

 

 三人――ゲヘナ学園の非公開・潜入部所属の彼女たちは駐在の風紀委員から寄せられた情報を元に動いている。

 この家に住んでいる闇矢アンナというゲヘナ学園3年生の不登校生徒が不穏な動きをしているという情報が舞い込んだ。

 

 その情報元がバウンティハンター志望の小学校低学年によるものと知り、将来が楽しみなような末恐ろしいような気分であった三人が潜入用の黒装束を脱ぐと肌に張り付いた汗を外気に晒して乾かすも屋根裏のため風が無くすぐには乾かない。それでも暑苦しいのを着たままよりはマシと自身を宥める。

 

 ファイバースコープからの映像は相変わらず無人の部屋を映し出していた。

 

 さすがに24時間ぶっ続けで起きていられるはずもなく、三交代で監視体制をとる。

 一人は睡眠を取るためさっさと横になり、もう一人は天井裏に張り巡らされた配線を弄って持ち込んだコンセントに繋ぎLED照明のプラグを差し込んで屋根裏に明かりが灯す。他にも電子機器用の充電器を取り付けていき、最後に通風口に小型の換気扇を増設して屋根裏内部の温度上昇を防ぐ。

 残る一人は画面を淡々と見つめる作業だ。

 

 はっきり言って退屈な時間であるが、まあそういう仕事だから仕方ない。

 

 監視を始めてから20時間が経過し、翌日の22時を過ぎた。

 相変わらずアンナが帰ってきた様子は無く、潜入部員たちは交代で欠伸を噛み殺しながら映像を眺めていると変化が起きた。

 

 誰もいないのに机の引き出しが勝手に開いた。

 

 部員は自分の頭がおかしくなったのかと疑ったが、訓練通りにためらいなく録画ボタンを押す。

 

 引き出しから一冊のノートが浮かび上がり机の上に乗り、ノートは独りでに開くとページが捲られていき、あるページで止まった。

 

 部員は機器を操作してファイバースコープの映像を拡大し、開かれたノートの文字を読もうと試みる。

 開かれたノートには"今日も変化がない"という文章がずらずらと並んでいた。

 どうやら日記帳のようだ。

 

 開かれていた日記帳がやはり独りでにパタンと閉じると、机の引き出しの中に入り引き出しが閉じられた。

 

(どういう事だ、何が起きている)

 

 部員は今起きた状況を整理し分析を始める。

 誰もいない部屋で起きた出来事。

 日記帳が開かれたという事は中身を読むためと推測できる。

 つまりは"そこに誰かいる"のだ。

 

(噂のミレニアムの光学迷彩か?)

 

 ミレニアムサイエンススクールという学園都市キヴォトスの三大自治区のひとつに数えられる科学技術が突出した区域。

 全身を周囲の景色に溶け込ませる事が可能な技術を持っているという話だが、漏れ伝わる噂では素材を下着に使って販売しようなどと耳にした。

 正直、何の意味と価値があるのか首を傾げたくなるが、今はそれは後回しだ。

 

 日記帳が特定のページまで捲られたという事は、姿の見えない何者かは何度もこの部屋に足を運んで繰り返し同じ行為に及んでいたのだ。

 部員はオカルトの類を考えたが、それはあり得ないと切り捨てる。

 彼女が想像するオカルトというのは人間の想像外の現象を起こす"一見、意味の無い行為"の事を指している。

 たった今、起きた現象は明確に知性を持つ何者かの意思が感じ取れた。

 

(目的は何だ?)

 

 アンナが日記帳に書き込んだ内容を確認しに当該人物がいない時間帯を選んで訪れている。

 いや、どちらかというと身バレするのを嫌がり敢えてこの時間帯を選んだのではないか。

 もしくは日中仕事を抱えていて、自由な時間がこの時間帯しかないということも考えられる。

 

 仮にミレニアムが持つ光学迷彩を用いたとしてここまでする理由は何だろうか?

 当該人物に近しい人間か、もしくは怨恨に絡んだ人物か。はたまた近隣住民の仕業と特定されたくないためか。

 

 机の上に置かれた日記帳を開いて中を覗き込むためには最低でも身長が130cm以上必要になる。

 加えてミレニアムの最新かつ秘匿技術に相当する光学迷彩を仮に購入できたとしても、とてつもない値段になるはずだ。

 

 となると姿の見えない人物はかなり収入に余裕のある人間かつ、ミレニアムと繋がりが深いと推測できる。

 

 ただ気になる点がある。

 

 足音が一切しないのだ。

 それに加え、熱源感知――サーマルモードに切り替えても机の付近には周囲と変わらず暗いまま表示され何の反応も無い。

 

(え、ちょ、待て、待て待て? ミレニアムは体温を遮断する技術はあるだろうが、生き物の気配すら感じないだと? え、マジ?)

 

 ここで先ほど頭から排除したはずの幽霊を代表するオカルトの可能性が頭をもたげてきた。

 部員は背筋が寒くなる感覚に襲われるも、手元のスマホに潜入部の熟練者のみしか配布されていないアプリを立ち上げ、報告書には己の所感を正直に詳細をポチポチ書き込んでいく。

 

 急にスマホを操作し始めた部員に交代待ちの部員が暇つぶしにアプリゲームしていたスマホの画面から顔を上げ、無言で「どうした?」と合図を送ると、監視役が空いた手を広げ"待て"と返す。

 

"至急、至急。ゲヘナ自治区◯◯◯区◯◯町、闇矢宅で異常発生。詳細は――"

 

 ここまで監視役が書き込んだところで手が止まる。

 背後から両肩に何かが伸し掛かるような重み。

 

 屋根裏には自身含めて潜入部員三人のみ。

 一人は視界の中に。

 もう一人は簡易式寝袋で熟睡中。

 

 では、

 

 背後には、

 

 誰がいる?

 

 交代待ちの部員が困惑するのを尻目に監視役がゆっくり、非常にゆっくりと頭を回転させて視線を後ろへ向ける。

 

 …………………………………………誰も、いない。

 

 誰も、いない。

 

(は、ははは)

 

 監視役は安堵した。

 幼い頃、毎晩飽きもせずに母親に強請(ねだ)っては寝物語に読み聞かされた怪談話にわくわくしながら眠りに落ちたものだ。

 

 けれど、あの頃は怪談話は作り物だと信じていたからできていた話であって、実際にあるとは思っていなかったのだ。

 監視役は現実主義者だから姿が見えなければ存在してないと同義である、と信じていたからだ。

 

 部員の背後に感じた気配は既に消えていた。

 釈然としない感情を抱きながらも、手元のスマホに視線を落とす。

 画面内の報告書に詳細を書き込もうと画面上のキーボードに指を――

 

"むすめをたのむ"

 

「――――――――ひっ!!」

 

 画面に表示された文を見た瞬間、部員は無意識に喉から悲鳴が漏れた。

 

(おい)

 

 潜入部員としてはあるまじき醜態に様子を見ていた同僚から肩を叩かれた部員は震える手でスマホの画面を同僚に見せる。

 不審げな顔つきの同僚が部員のスマホを覗き込むと、困惑した表情で問いかける。

 

(お前、その年で子持ちなのか?)

(ち・が・う!)

 

 部員が盗撮用の液晶画面を操作して録画した部分を最初から見せると、事態を把握した同僚も顔を青ざめさせた。

 

 闇矢アンナの父親がここにいる。

 彼がこの世を去っているのは役所の記録で確認済みだ。

 

 幽霊は実在した。

 

(どうする?)

(私たちの手に余る。委員長に判断を仰ごう)

 

 二人は頷き合い、たった今起きた状況をスマホの画面上に書き込み、録画映像を添付して送信した。




今回はここまで。
書き溜めに入ります。
それでは。
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