幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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2/1加筆修正しました。


裏第三話 冷蔵庫は空っぽ。これでヨシ!

 四人のアリウス生徒に料理を振る舞うため、電気の供給が途絶え冷蔵庫内に蓄えられた食材を全て使う事にしたが、IHコンロも意味を成さなくなった。

 

(料理ができない……とでも思ったか?)

 

 コンロ台の下から取り出したIH用フライパンをコンロの上に置く。

 

(異世界での学園での野外実習がまさか役に立つ時が来るなんてな)

 

 欠食児童を待たせるわけにはいかないので、冷蔵庫から食材を取り出すとまな板の上に乗せて手早く包丁で切り刻み始めた。

 ふと、安武は視線を感じて横目で見ると少女たちが手元を覗き込んでいた。

 

「どうした?」

「いや、その、何をしてるのかなって」

「見ての通り、君たちのために料理をしているんだが……」

「料理……料理って何?」

「おいおい……」

 

 安武は内心頭を抱えた。

 

(ベアトリーチェ、お前、最低限の日常生活くらい学ばせておけよ)

 

 原作を通して知ってはいたが安武の精神がゴリゴリと削れていく。

 

「なあ、君たち。普段は何を食べてるんだ?」

「パンと水だけど」

「肉や野菜は?」

「そんなの食べたことない」

「マジかよ」

 

  安武は天を仰いだ。

 

(いくら何でも酷すぎる。戦闘訓練にリソースを割き過ぎだろう!)

 

 安武は原作のブルーアーカイブをプレイしてはいたものの、生徒たちの好感度を上げられる事で読めるようになる絆ストーリーは後回しにしてきたため、普段どのような日常生活をしていたのかを知らなかった。

 

(アリウススクワッドの面々の絆ストーリーを読んだけば良かったな。途中までしか読んでなかったし)

 

 考え事をしながらも手は休めない。

 魔法でフライパンの底を熱し豚肉を放り込む。

 ジュウゥゥゥ……という肉が焼ける音と同時に水蒸気が立ち上る。

 

「わっ」

 

 何もかも初めての光景にびっくりする少女たちを横目に満遍なく肉を焼き、頃合いを見計らって刻んだ野菜を投入する。

 手際良く調理していると、両隣から安武の手元を覗き込んでいた少女たちの内の一人が話しかけてきた。

 

「ねえ、おじさん。どうして私たちに食べ物をくれるの?」

 

 安武は正直に話すかどうか考え込む。嘘を吐いて取り繕ったところで意味がないのでぶっちゃける事にした。

 

「アリウスがこんなに酷いと思わなかったから、せめて君たちだけはここにある食材で何とかしてあげたいと思ってね」

 

 彼の言葉を聞いた少女たちは一様に驚いて微笑んだ。

 

「おじさん、ありがとう」

「さあ完成だ。そっちのテーブルの周りで座っててくれ」

「あ、うん」

 

 安武は出来上がった料理を皿に取り分けるとテーブルへ運んでいく。

 

「ほれ、肉野菜炒めだ」

 

 目の前の料理から立ち上る香に少女たちは歓声をあげる。箸 なんて使ったことがないだろうからフォークを用意した。

 

「ねえねえ、食べてもいい!?」

「ああ、たんと食え」

 

 その言葉を合図に少女たちはフォークを掴むと目の前の料理に飛びついた。

 

「ゆっくりと味わって食べなさい」

「うん、うん!」

 

 美味しい美味しいと涙を流しながら喜ぶ少女たちを眺めた後、台所へ戻り冷蔵庫から今度は鮭の切り身を取り出してフライパンで焼いていく。

 

「それを食べ終わったら次の料理を出すからな。待ってろよ」

「分かった!」

「うん、うん!」

「美味しい!」

 

 少女たちの声を聞きながら安武は今後のことを考える。

 夢の中で連邦生徒会長に会った事が無い、……という事は先生として呼ばれておらず、いわゆる部外者だろう。

 問題は、と鮭を焼きながら食事を楽しむアリウス生徒たちを横目に物思いにふける。

 

(まあ手持ちの魔法を組み合わせればベアトリーチェを排除できる。が、それをやったらエデン条約締結の際に襲撃そのものが無くなる。そうなればベアトリーチェが色彩に接触しなくなり別世界からアトラハシースが来なくなる。それはつまりプレナパテス先生とプラナ、そしてシロコ・テラーが来なくなり、そのいずれもが救われる可能性が無くなるという道筋をたどってしまう事なんだよな)

 

 それはブルーアーカイブのファンの一人である安武にとって変えてはならない未来だった。

 しかしなあ、とアリウス生徒たちを見る。

 目の前で困窮している少女たちを今さら見捨てる事はできないし、 かと言ってあの悪辣なベアトリーチェと同盟を組んで軌道修正を図るなんてことも無理だろう。

 

 アリウスに平和をもたらしつつアトラハシースを呼び寄せる方法。

 

(そんなうまい話があるか?)

 

 何か解決策はないかと記憶する限りのメインストーリーを掘り起こす。

 ベアトリーチェが不在でも色彩を呼び起こしアトラハシースが気付く方法。

 そこまで考えて安武の脳裏にとある話が引っ掛かる。

 

 記憶が間違っていなければアビドス編第三章で一時的にではあるが小鳥遊ホシノが反転し、その時色彩がどうのと誰かが発言していた。

 第三章のきっかけは生前の梔子ユメがカイザーコーポレーションと砂漠を横断する鉄道の契約を交わしたのが発端だった気がする。

 

(俺がアリウスを救っても第三章が始まるのならば、それに賭ける他ない)

 

 上手くいけば色彩が反応してアトラハシースがやってくる可能性がある。

 

 トリニティの補習授業部の結束を固める過程とかそういった些細な事はこの際無視しよう。

 向こうはシャーレの先生がついているから何とかするだろう。

 食事を終え至福の時を味わっている少女たちに安武は声をかける。

 

「なあ、今すぐには無理だけど、いつかはこんな美味い料理が毎日食べられたらいいなとか思わないか?」

「できたらいいな、とは思うけど」

「ベアトリーチェと会わせてくれ」

「……おじさん、何をするの?」

 

 少女たちの不安げな表情に安武はなだめるような声で諭す。

 

「何、君たちの生活環境の改善を訴えるだけさ」

 

 その言葉に偽りはない。ただ、まず間違いなく受け入れられることはないだろう。その場合ベアトリーチェの排除というプランBに移行するだけの話だ。

 

「駄目だよ、おじさん」

「殺されちゃうよ?」

「やめようよ」

「逃げなよ」

「大丈夫だ、魔法使いを信じなさい」

 

 引き止めようとする少女たちを説得し渋々と案内させる事に成功した。

 

 

─────────────

 

 

 玄関を出ると外は現代日本の住宅地から西洋の古風な石造りの建築に囲まれていた。

 一面の灰色の曇り空に覆われ、薄暗い風景はゲーム画面で見たどこか見覚えのある景色を見渡して安武はため息をつく。

 

(本当にキヴォトスに来てしまったんだな)

 

「おじさん、こっちだよ」

「分かった」

 

 ガスマスクを首からぶら下げた少女たちが先頭に立ち道案内する。

 

「疑問に思ったんだけど、君たちが使ってるガスマスクなんだが」

「どうかした?」

「この辺り一帯、空気が悪いのか? 工場の煤煙で大気が汚染されていたり……」

「そんなことないから安心して」

「毒ガス訓練で使ってるだけだよ」

「じゃあ空が曇っているの何か理由があるのか?」

「いつもこんなだよ」

 

 少女たちの返答に渋い顔をした安武は内心愚痴を言う。

 

(ゲマトリアのせいだか、過去のアリウスの住民たちの怨念だか知らないが呪われてるんだろうな、この土地)

 

 安武は無意識に空を見上げる。

 

(いっその事、魔法で曇り空を押しのけて青空に変えてしまおうか)

 

 だが、そんな事をすればゲマトリアに感づかれてしまうため思いとどまった。

 

(今はまだその時じゃない)

 

「ここだよ」

 

 少女の声に視線を上げる。どうやら目的地にたどり着いたらしい。

 安武は内戦だと知っていたが、目の前の建物だけは大きな損傷も無く一際立派に見えた。

 彼は記憶していなかったが目の前にあるのはアリウス・バシリカと呼ばれる大聖堂であった。

 原作ではこの建物をベアトリーチェが本拠にしていた。

 

「中は暗いから気をつけてね」

「蝋燭くらいならあるだろ」

「マダムのいる部屋だけはあるよ」

「ただ、そこまでに続く道にほとんど無いけどね」

「……いくら何でもケチりすぎだろ」

「しっ、そんな事マダムの耳に入ったらどうなるか分からないし、下手なことを口にしない方がいいよ」

「……そうしよう」

 

 安武は答えつつも内心でベアトリーチェの心の狭さに辟易していた。

 限りある時間の大半のリソースを戦闘訓練に注ぎ込むストイックさを感じないでもない。が、明らかにやりすぎだと感じていたのだ。

 パシリカ内に入り廊下を通って階段を降りて地下へもぐり、わずかな蝋燭の明かりを頼りに暗闇に近い廊下を通って両開き式の扉の前に立つ。

 

「ここがマダムのいる部屋」

「準備はいい?」

「大丈夫だ」

 

 少女たちの最後の確認に安武は頷くと一人が扉をノックする。

 

「失礼いたします。マダムに会いたいと仰る客人がいらしています」

「……通しなさい」

 

 扉の向こうから妙齢の女性の声がした。

 

(今の声がマダムか)

 

 ゲームでは聞けなかったマダムの声の新鮮さに感心していると、一人の少女が片側の扉を開ける。

 

「どうぞお入りください」

 

 他人行儀な少女たちに安武は疑問を覚え足が止まる。

 

「君たちは?」

「ここで待ちます」

 

 彼女の言葉に困惑した安武は四人を促す。

 

「君たちも来い」

「え、いや、遠慮しておきます」

 

 若干顔色を悪くした少女たちの拒絶に安武は何となく理解した。

 どんな難癖をつけられるか怖いのかベアトリーチェとなるべく顔を合わせたくないようだ。

 

「大丈夫、俺が支えてやるから」

 

 優しく諭しつつ、安武は闇属性魔法による精神干渉を無詠唱で彼女たちにこっそりとかける。

 

「……おじさんがそこまで言うなら……」 

「信じるよ……」

 

 少女たちは嫌がる素振りを見せたが渋々と提案を受け入れた。

 安武は魔法で干渉した事を心の中で詫びつつ、彼女らと一緒にベアトリーチェのいる部屋へ足を踏み入れた。




今日の投稿はここまでとします。
それでは。
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