幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第二話 人生初の小学校

 ローナが人生初の食事を楽しんでいる間、食堂の壁際の本棚の上に載っていたテレビジョンからニュースが垂れ流しになっていた。

 

『さて、D.U自治区でヴァルキューレ警察が────企業本社に乗り込み一斉摘発を開始しました! 我がクロノススクールが入手した情報によりますと、匿名の通報から────社の不正が発覚。水面下での調査で不正の証拠が固まったという事で満を持して捜索に踏み切った、との事です!』

 

『警察はタレコミを行ったのは誰なのか調べていますが、今のところ手がかり無しとの事で、感謝状を贈りたいから名乗り出てきてほしいと呼びかけて――』

 

「ごちそうさま!」

「歯磨き、忘れないでね」

「分かった!」

 

 これも人生初の歯磨きの感覚を楽しみ、手早く済ませると学校指定のランドセルを背負い玄関に向かう。

 

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい」

 

 母親の声を背に玄関を飛び出す。

 住宅地を駆け足で通り抜け、小学校の校舎に入り下駄箱で上履きに履き替え、目指す教室まで小走りで入る。先にいた生徒におはようと挨拶をされ、この体の元の持ち主の記憶の通りに挨拶し返す。

 

「風邪、治ったんだ」

「きつかったよ〜」

 

 記憶によると目の前の生徒は友達らしい。無難な返事をしつつ自己嫌悪する。

 

(持ち主が既に死んでたと知ったら悪いし、黙ってよう)

 

 指定された席に着き、前世で学校に行った事が無かったローナは物珍しさに教室内を見回す。

 規則正しく机が並べられ、授業が始まるまで生徒たちが友達とおしゃべりに興じたり思い思いに過ごしている。

 予鈴が鳴り生徒たちが席に着き教科書とノート、それに筆記用具を取り出した。もちろんローナもそれに倣う。教室内の正面のホワイトボードに映像が表示され授業が始まった。

 記憶の通りに授業内容を要点をまとめてノートに書き込んでいく。

 

(……あ、この文字)

 

 ローナは気がついた。

 前世で勇者にせがんで彼の生まれ故郷の言語を教えてもらった事があった。

 

(勇者様の祖国の日本語とかなり似てる。え、もしかしてこの世界って日本もあるの?)

 

 ローナが憑依した体の持ち主の記憶を探るが日本についての記憶は皆無であった。

 何と表現すればいいのか分からないが、キヴォトスは世界から独立した存在でそれ以外は『キヴォトスの外』と一括りにされているようだ。

 

(変なの)

 

 とりあえず、機会があれば外の世界に関する情報も調べておこうと決めた。

 

(できれば、勇者様の家族に会いに行きたいな)

 

 彼は元の世界に帰りたがっていた。家族も心配しているはずだから、せめて安否くらいは知らせておきたい。

 

 今日の全ての授業が終了し放課後を迎えた。ローナはランドセルに教科書などを入れてると、彼女に三人のクラスメイトが近寄ってきた。

 

 「ローナちゃん、遊びに行こっ」

 

 視線を上げ教室内を見渡すと仲の良い生徒同士で教室を出て行くのが見えた。

 記憶によるとこの三人と特に仲が良く、毎日一緒に遊んでいたようだ。

 

「分かった。行こう」

 

 三人との遊びは友達の家の部屋にお邪魔してボードゲームをして遊ぶのが中心のようだ。

 記憶には残っているが、初めて手に触れるボードゲームに思わずはしゃいでしまう。友達と囲んで一喜一憂しながらローナは楽しんだ。

 一頻り楽しんだところで友達が話し出した。

 

「そういえばさ、もうすぐゲヘナ学園に社会科見学するけど、どこを見て回る?」

 

 その言葉に皆が思い思いに語る。

 

「やっぱり万魔殿(パンデモニアム・ソサエティ)かな?」

「風紀委員会も見ておいた方が良いかも」

 

 ゲヘナ自治区に居住する子供たちは大抵は近いという理由でゲヘナ学園に通うのが通例らしい。物好きはより自身を高めるために他自治区の学園を選ぶようだ。

 

「ローナちゃんは?」

「まだ決めてない。なるたけ多くを見て回りたいな」

 

 ローナはそう答えつつ、生前の職業病から情報収集を優先したいと考えていた。キヴォトスという都市が本当に住みやすい世界なのかどうかを。

 記憶を探る限りこの世界の住民は物理的に死ににくく頑丈な体らしいのだが、それ故に相手に対する思いやりが無頓着なのか前世なら死に至る暴力が平然と行われる物騒な土地柄らしい。

 前世では銃は存在しなかったので、詳しく調べるために本屋で該当する本を探す必要があった。

 

 世間話も一段落した所で解散し、ローナは記憶を頼りに本屋へ向かう。

 道行く人々が銃を当たり前のように携帯している世界はローナにとって新鮮だ。前世なら武装が許されているのは兵隊や警備兵、それに冒険者たちが中心だ。

 平民は最低限の武装が許されてはいるものの、大抵は犯罪者か王国に対して良からぬ企みを考えていると判断され、警備隊に武器を取り上げられるのは良い方で場合によっては最悪その場で殺されている。

 

 ローナは小学生であるため銃の所持は禁止されているが、中学に上がれば銃に関する事を座学や実習で教わり、修了すれば好みの銃を所持できるようになる。

 今はまだ低学年で中学生になるのは随分先になるが、どんな物なのか最低限知っておくのは必要だ。

 

 目当ての本屋にたどり着き、入店すると新聞を読んでいたロボット店主がちらりとローナを見る。

 

「お嬢ちゃん、何の本を買いに来たんだい?」

「銃の図鑑。どんなのがあるのか知りたくて」

「お金は?」

「持ってない」

 

 店主は顎に手をやり考え込む。

 お金が無いという理由で追い返すのは悪手だ。まだまだ小さな子供だし邪険に扱えば二度とお客として来なくなり売り上げにも響く。

 

「それなら学校の図書室で借りれば良い」

「……そうなの?」

 

 この世界では平民に本の貸し出しが許されている事にローナは驚いた。

 ローナの様子に店主は丁寧に応対する。

 

「うん、分かった。ありがとう、おじさん」

「今度はお金を用意して来てね」

「ばいば〜い」

 

 店主はローナが去ったのを笑顔で見送ると再び新聞に目を落とした。

 

 ローナは家路につく。

 学校に目的の本があるなら明日の放課後に立ち寄ろう。

 門限が近いので近道をするため狭い路地を通り抜けようと建物の角を曲がりかけた時、誰かと出会い頭にぶつかった。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 ローナはとっさに謝り相手を見る。目の前には誰かの腹と膝丈スカート。スカートの色と形状からすると年上の学生のようだ。記憶からゲヘナ学園の生徒と判断した。

 見上げるとゲヘナ学園生徒がするはずの無い黒いフルフェイスヘルメットを被った二人組だ。

 

「おい、どこ見てんだてめえ」

 

 不機嫌そうに苛ついた声で見下ろす二人組にローナは体の持ち主の記憶が流れ込んでくる。

 

(オラオラヘルメット団?)

 

 どうやらこの辺をうろついて横暴を振るう犯罪者に限りなく近い存在だという事が持ち主の記憶から分かった。

 ローナのような小さな子供たちに対しても、高校生からしてみればわずかなお小遣いすら巻き上げていく悪魔のような人間たちだ。

 

「何か言えよ、オラッ」

 

 突然の事にローナはどう対処しようか迷ったが、それすらも苛立ちの原因になったのか一人が肩に掛けていた小銃を両手に持つと銃床をローナの頭に振り下ろす。

 

「がっ!?」

 

 一撃。

 たったの一撃でローナはうつ伏せに倒れ気を失い、彼女の頭上にあったヘイローが消失した。

 

「ケッ」

 

 ヘルメット団二人組は気絶したローナの脇腹を蹴り飛ばすとその場から歩き去った。

 飛ばされた先が路地裏の影だったため、通行人が気絶した彼女に気づく事は無かった。

 

 日が沈み暗くなってきた頃、ローナは目を覚ました。

 

「……痛い」

 

 頭に手をやるとたんこぶができたのか少し膨らんでいる。蹴られた脇腹も痛むらしく手を当てる。

 涙目のローナが周囲を見回し誰もいないのを確認すると痛む箇所へ念じる。

 

「ヒール」

 

 使用したのは光属性の回復魔法。みるみるうちにたんこぶは引っ込んで元の状態に戻った。脇腹の痛みも消えた。

 

(さすがキヴォトス人、普通の人なら頭蓋が割られて終わったね)

 

 小学生でも意外と頑丈だと知り勉強にはなったものの、物理的打撃一発でダウンとはこの世界のキヴォトス人の基準としては貧弱すぎないだろうかとローナが懸念する。

 

(前世ではメイドの職務上、回復・支援系魔法を集中的に学んだからね)

 

 ローナは考える。

 

(攻撃魔法もできるけど、みだりには使えない。……一撃の威力が大きな銃があれば大概の敵を倒せそう)

 

 今回の件を教訓に威力の大きな銃を選定しておこうと心に決め、門限をとっくに過ぎている事を思い出して駆け出した。

 帰宅したら待っていた母親に怒られたが、事情を話すと泣いて抱きしめられた。

 

 翌日の放課後。

 ローナは図書室に行くと係の上級生に頼んでお勧めの本を三冊借りた。

 

『銃とは何か』

『あなたに合う銃の選び方』

『武器関連全般カタログ』

 

 本をランドセルにしまい、家に帰ると自室で本を熟読し始める。

 その日、夕食やトイレ風呂以外は読書に励んだ。

 前世では銃という武器や概念が存在しなかったので興味深く読む。

 

(うーん、クロスボウから弓と弦を取っ払った形かな?)

 

 飛ばすのは矢ではなく、鉛を弾丸として火薬という物を薬莢という筒に詰め弾をはめ込み細長い筒に入れ、撃針というので薬莢の尻を叩き内部の火薬を爆発させてその圧力で弾を飛ばし、筒で指向性を持たせて目標に当てるようだ。

 

 威力もクロスボウとは桁違いで前世の正規の軍隊が着用していた金属鎧を容易く貫通するほど。

 しかも連射可能ときた。

 

(技術が発達するとこんな風になるんだ)

 

 ローナは感心し読書に夢中になった。

 深夜、両親がお手洗いに向かう途中ローナの部屋から明かりが漏れているのに気づき、彼女に雷が落ちたのは御愛嬌。

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