幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。


裏第九話 アリウス復興の道筋

 結果から言えば後から来たアリウススクワッド含む四十人弱の生徒たちに振る舞ったジュースは大好評に終わった。

 彼女たちを持て成した安武に対する印象は"アリウスの外から来た不審者"から"満足にご飯を食べさせてくれないし酷い事するマダムなんかより、甘い飲み物をいくらでも飲ませてもらえる太っ腹な魔法使い"という認識に変化した。

 一定の信用を得られたと判断した安武はアリウススクワッドの顔役であるサオリに話しかける。

 

「とりあえず、君たちアリウス生徒たちが外の学園並みの生活が送れる程度まで手伝う。もう大丈夫だと判断したら出て行こうと思う」

 

 安武は友好と敵意のない証として握手のつもりで右手を差し出す。

 

(余計なお節介だったかな)

 

 彼女たちにだってプライドがあるはずだから、赤の他人がしゃしゃり出て来るのは気に食わないかもしれない。

 サオリは少し眉を寄せ彼の右手を見つめる。

 

「助力を得られるのは大変ありがたい。だが、その……」

「どうした?」

 

 サオリの色良い返事に安堵しつつも何か困ってる様子に安武が問いかける。

 

「……この手は何を意味してる?」

「握手を知らないのか!?」

「あ、ああ」

 

 彼女の言葉とその口調に含まれる感情から安武は本当に知らないのだと理解してしまい頭を抱えそうになる。

 

「ベアトリーチェの奴、最低限の礼儀すら教えてなかったのかよ……」

「常識なのか?」

 

 心底不思議そうなサオリたちに彼は解説する。

 

「俺の生まれ故郷とは違うがアリウスの外では当たり前だ。この動作の意味は"あなたを傷つける武器と意思を持たない。仲良くしよう"だ。"仲間もしくは友達として付き合っても構わない"と判断したならこの右手を右手で握る。それで友好が築かれたと証明される」

「そうなのか、助かる」

 

 安武の周りの生徒たちがへぇと感心し、サオリがみんなを代表して礼を述べた。

 そしてサオリが右手を差し出し安武の手を握る。

 

「ちなみに相手の手を握る時に力を込めて握ると"お前を信用してない"とか"あくまで周囲の人に仲良く見えるようにしてるだけだからな"という意味を相手に伝える事も可能だ」

「……大人の世界はややこしそうだな」

「これは小学校低学年くらいに学ぶ基礎だぞ?」

「……」

 

 安武の言葉にサオリたちは無言で返したが表情から精神的にショックを受けてるのが伝わってくる。

 気まずい空気を払拭するため安武は話題を変える。

 

「で、新たに擁立する生徒会長を決めなければならないんだが、候補は決まってるのか?」

「……ああ。それならアツコが適任だろう」

 

 安武の問いかけにサオリがスクワッドの一人のガスマスクと白いフードを外し、若干幼い顔立ちと紫の髪を晒す少女へ視線を向ける。

 ジュースを飲むために着用していたガスマスクを外し、味が気に入ったのかフードも取り去った彼女がわずかに微笑んでいる。

 どうやら彼女は安武にある程度信用したようだ。

 

「彼女は?」

「秤アツコ。アリウス分校一年生。アリウススクワッドの一員でロイヤルブラッドの末裔だ。資格には申し分ないだろう」

「ロイヤル……王族か?」

「厳密にはユスティナ聖徒の血を引く末裔」

 

 繰り返し説明するが安武は原作知識があるため説明自体必要無い。

 ただ、相手からすれば何もかも知られているのは薄気味悪く感じられるだろうから敢えて知らないふりをするだけ。

 今のように知識を得ていても解釈に間違いがあればアツコたちから訂正が入る。

 

(お互いに勘違いしたまま物事を進めていくのは危険だしな。それだけで物事が円滑に進むのであれば多少手間がかかっても問題無いだろう)

 

 学生時代に社会人経験を通してきた安武からしてみれば造作もないがまともな教育すら受けてないアリウス生徒たちでは無理筋と言うものだ。

 

「この分校の仕組みを知らないんだが、生徒会長だけでは物事は回らない。補佐したり役割分担する役職も必要だ」

「例えば?」

 

 サオリの問いかけに安武は原作知識を思い出しながら言う。

 

「アツコちゃんが風邪を引いて動けない時に代わりに指揮を取る役。みんなと会議を開いて話し合った内容を記録する係。生徒間の揉め事を諌めたり鎮圧する風紀委員会とかね」

「ふむ、なるほど……?」

「待って、アツコ"ちゃん"?」

「何で"ちゃん"呼び?」

 

 サオリが頷く横でミサキとヒヨリが首を傾げる。

 

「いや、俺四十代のおじさんだし、俺から見たら君たちは子ども同然じゃないか。"ちゃん"付けでもおかしくないはずだ」

 

 安武は社会人としての経験を元にその視点から語る。

 

「……そういうものなの?」

「私たち、この分校を卒業すれば大人の仲間入りなんですが……」

 

 ミサキとヒヨリの言葉に安武は少し考えて問いかける。

 

「なあ、大人になるってどういう意味だと思う?」

「……一定の年齢に達せばなるもんじゃないの?」

 

 ミサキの見解に安武はやんわりと否定する。

 

「それだけじゃダメなんだ。いいか、君たちは学校生活を通して様々なことを学んで、社会人として生きていくための技術や知識を身につけ、会社と呼ばれる様々な組織に入り生活のためにお金を稼がなければならない。そのお金で住むための家を買ったり借りたり、必要な服を買ったり好きな食べ物を食べたり色々だ。会社にも流儀があるからそこからまたお勉強になるがな」

 

 勉強という言葉に大半の生徒の顔色が変わる。

 

「えー、大人になっても勉強しなくちゃいけないの?」

「基本、人というのは死ぬまでお勉強だ」

 

 不満を漏らす生徒へ安武が苦笑いしながらの返事に生徒たちの大半がうんざりした表情になる。

 

「学校にもその先へと進む専門課程があるが、基本は最低限これだけ学んでおけば大人になっても生きていけるだろうという考え方を元に教えている。だからその上で言う」

 

 安武は落ち着いた声で告げる。

 

「君たちはマダムの偏りすぎた教育のせいで世の中に出たとしても、まともな生活は送れないだろう。死ぬまでこき使われ最後はゴミのように捨てられる可能性が高い」

 

 彼の容赦ない言葉に生徒たちがざわつく。

 

「今からでも遅くないから、君たちと後から入学してくる生徒たちのためにもとっとと教育方針を変えるぞ」

「……そうか、今のままではダメなのか」

 

 幾分か落ち込んだ声色でサオリがため息を吐いた。

 

「大人の社会は暴力で解決するのは常識的にも法的にもやってはいけないし、使うとしても最終手段だ。無論、犯罪者を取り締まったり、キヴォトスで言うところの各自治区間の紛争でも暴力を使うが、"さらに外"ではその手段も取り決められている」

「そんなものがあるのか?」

「ああ」

 

 アズサの疑問に安武が頷く。

 

「君たちヘイロー持ちは頑丈なのが当たり前でも普通の人はそうじゃない。当たりどころにもよるが銃弾一発であっさり死ぬし、手足を切断しなきゃいけない時もある」

「て、手足を!?」

 

 サオリたちアリウス生徒の顔が青ざめていく。

 

「12.7mmの機関銃なんか一発喰らうと上下胴真っ二つになるくらいには軟らかいぞ」

「死んじゃうじゃない……」

「し、知らなかった……」

「ヘイロー持ってないとそんなに脆いんですね……」

 

 ミサキ、アズサ、ヒヨリが呆然とする。他の生徒も似たり寄ったりだ。

 

「だから、殺し合いにも一定のルールがある。残酷な殺し方はいけないとか、人に対して過剰な攻撃を加えてはいけない等色々な。……で、外のルールを無視して暴れた場合、君たちを見る目が容易に変わる。暴力に頼りすぎると人から化け物へと扱いが変わってしまうぞ」

 

 安武の解説に生徒たちが衝撃を受ける。

 

「化け物……私たちが化け物?」

「ヘイローを持たない人から見れば普通にそう見える。普通は話せば分かってくれる生徒の方が多いから大事には至らないけれど暴力でしか手段を解決しようとしないように教育された君たちでは、普通の人から見たら一気に見方が変わる。君たちだけじゃない、このキヴォトスに住む生徒たち全てが悪者にされかねない。そうなったら最後、外からの恨みが君たちキヴォトス人に向く」

 

「そうなったらなったで跳ね除ければいいだけの話じゃないのか?」

 

 サオリの反論に安武は首を横に振る。

 

「規模が違いすぎる。外には数千もの学園があるんだぞ。その全てを相手にするつもりか?」

「……ここへの出入り口はカタコンベの迷宮を通り抜けなければならない。一度に通れる数にも制限があるから、そう簡単に陥落するはずがない」

「短期的にはな。長期的に見たらどうだ? 恐らくほぼ毎日戦闘続きで休む暇が無くて詰むだろうな。そもそも消耗品の弾薬はどこから調達していたんだ?」

「マダムがしていたが、それが?」

「代金は?」

 

 安武にそう訊かれサオリは黙り込む。

 

「調達できなければその時点で詰みだ」

「……なら、どうすればいい」

「全てを敵に回す必要はない。なるべく多くを味方につけろ。乗りかかった船だし力になれる事があったら手伝ってやるから」

「……すまない」

「気にするな」

 

 サオリの謝辞に片手を振った安武は話題を切り替える。

 

「ちょっとした心構えの講義が終わったところで分校……いや、この地区全員の食糧確保だな」

「ああ、マダムがいなくなった今、どこからか調達しな……待て」

「地区? 分校だけかと思ってた」

「そ、そうしていただけると嬉しいんですけどぉ……」

 

 サオリ、ミサキが口にし、ヒヨリが途中で言い淀む。

 

「ヒヨリ?」

「何を調達するにしてもお金という交換物資が必要だと知ってます。どうやって用意するんですかぁ? できたとしても地区に住むみんなの分を食べさせ続けるには無理があると思いますぅ……」

「良いところに目をつけた。当面は俺が今まで働いて稼いだお金で何とかできるが蓄えにも限りがある。そこでだ」

 

 安武が一旦言葉を切り、サオリたちを見渡す。

 

「俺が今まで培ってきた人生経験を活かして君たちに様々な提案をしよう。何を選ぶのかは君たちが決めてくれ」

「それは構わないし有難いが、まずはどうするんだ?」

「そうだな――」

 

 サオリの問いかけに安武がアイデアを告げようとしたその時――

 

「あ、いたいたー☆」

 

 場違いな底抜けに明るい少女の声にその場にいた全員が発声元へ振り返る。

 そこには――

 

「もー、暗くて長い地下を通り抜けたと思ったら陰気な場所に出た上に物音ひとつしないんだもん。住処を放棄した廃墟かと不安になったけど、みんなここにいたんだね☆」

 

 ピンクのドレスのようないかにもお嬢様が着るような値段の高そうな服を着て、これまたピンクの腰まで届く長い髪に金色の瞳、頭上にはピンク色の大きなヘイローが浮かんでいる。

 右手には古風なサブマシンガンを手にしている。

 

「お前は誰だ?」

 

 警戒心溢れるサオリの言葉にピンクの少女はニコニコと笑う。

 

「私、聖園ミカ! トリニティ総合学園から来たの!」

 

 少女――ミカの口から飛び出たトリニティという言葉に分校生徒たちがざわつく。

 

(なるほど、俺が来たのはこの時期だったか)

 

 内心、一人で納得している安武は黙って全員を見渡していた。

 

「お友達になろっ☆」

 

 そんな生徒たちを気にせずにミカは笑顔で言った。




書き溜めに入ります。
それでは。
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