幽霊メイド、キヴォトスに転生す 作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
アリウススクワッドの五人と分校の生徒たちに加え外から訪れた安武が合流し復興へ向けて本格的に話し合おうとしたところ、トリニティ自治区から地下墓地(カタコンベ)を通り抜けてきた聖園ミカが声をかけてきた。
「友達になりたい、だと?」
「うん、そうだよ☆」
戸惑うサオリの確認にミカがにこやかに頷くも困惑するアリウス分校生徒たちを見て首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや……」
サオリたちスクワッドの面々がどう応じたら良いのか困った顔で安武を見る。
「サオリたちに圧政を敷いていた前生徒会長はもういない。彼女の教えに従わなくてもいいんだ」
「……ああ、そうだったな」
マダムことベアトリーチェは圧政への不満をトリニティへ責任転嫁させていたが、それは生徒たちを思想統制していたのと同義であった。
彼女の一存で食事が与えられるかどうかが決まるので、生徒たちは背に腹は代えられず大人しく従っていたがもうその心配する必要は無くなった。
「すまないが、ついさっきまでごたついていた。素直に応じるのは難しい。少し時間をくれないか?」
「うん、良いよ☆」
サオリの言葉にミカが快く返事する。
ミカにとっては事前の連絡を行わないで会いに来たのだから当然の反応だと思っていた。
そんな事よりもこの中で興味を引く存在がいた。
「ところでさー、そこのおじさん誰?」
生徒たちの中でただ一人、大人である安武を指差してミカが問いかけた。
スバルが代表して安武を紹介する。
「マダム……圧政を振るっていた前生徒会長を排除した功労者です」
「ご紹介に預かりました安武典男と申します。キヴォトスの外からやって来ました。どうぞお見知りおきを」
「へー、よろしくね☆」
さっきまでぶっきら坊な態度の安武の謙(へりくだ)った挨拶に分校の生徒たちが戸惑う。
対するミカは特に気にせず気安く応じた。
「……安武さん?」
「ん?」
安武は声をかけてきたサオリに視線を向ける。
「何で態度を変えたんだ?」
安武は原作からキヴォトスに登場する人物たちの知識を仕入れ、かつ、この世界の人間では無かった。そのため彼女の問いかけに特に隠す必要は無いだろうと判断してミカを紹介する。
「聖園ミカっていったら聖園家という名家のお嬢様でトリニティ自治区では有名人だぞ?」
「そうなのか」
「ああ。ここに来る前に知った情報だから今はどうなのか知らんが、トリニティ総合学園のティーパーティーと呼ばれる政治を取り仕切る組織のトップの一人になるだろうと言われてるな」
サオリとやり取りしている安武にミカが感心した様子で話しかける。
「うん、今はティーパーティーのパテル派のトップだよ☆ ホストは別にいるけどね」
そこまでまくし立てたところでミカが照れた表情になる。
「……えー、私、外でも有名なの?」
「あー、世界的にってわけじゃない。知る人ぞ知る、みたいな感じだな」
「そうなんだ、凄いねっ☆」
ミカの屈託のない笑顔に分校の生徒たちが毒気を抜かれる。ベアトリーチェにトリニティを敵だと教育されていたので自然と警戒し身構えていたが、自然体の彼女に自分たちの行動が馬鹿らしくなってきたのだ。
「……今度は聖園ミカさんのために歓迎会といこうか」
「そんな他人行儀じゃなくて良いよ、ミカって呼んで☆」
ミカの気さくな態度に気を遣おうとしたサオリたちは目を瞬かせる。
「良いのか?」
「お友達相手にさん付けなんておかしいでしょ?」
「それもそうか」
ミカの言葉にサオリたちが納得する。うんうんと笑顔で頷いたミカが安武に顔を向ける。
「あ、でもおじさんは別ね☆」
「酷くないか?」
除け者にされた安武は心外そうな顔で抗議すると、ミカが笑みを絶やさないまま訊いてくる。
「おじさん、年いくつ?」
「45になるが」
「華の女子高生に気安く呼ばないでほしいな☆」
「……女心は分からんな」
毒を含んだ明るい拒絶に安武はため息を吐く。その様子を見たミカがおや、と何かに気付く。
「……ん? んん?」
「何だ」
「おじさん、もしかして独身?」
ミカはどうやら安武の女心云々という言葉から判断したようだ。
安武はこういった事を過去にも何度か体験しているので何の感情も抱かず慣れた様子で答える。
「それが何か?」
「えー、もしかして結婚相手を探しにキヴォトスまで来たのー?」
にこやかに訊いてくるミカに安武は含みのある訊き方だなと不快に思う。
(そういえば、ゲーム内での百合園セイアとの会話の場面ではぽんぽん悪意のある言葉を投げかけてたな。……まあ気心知れた仲というのもあるんだろうが、どっちかと言うと思った事を考え無しに口にしてしまう部類だよな)
エデン条約前後の騒動を通してミカは自身を見つめ直していく物語を歩む、そう安武は解釈しているが何分、手持ちのスマホアプリに彼女を生徒として迎え入れたのがつい最近で育成も絆ストーリーも進んでいなかったから彼女の内面を知らなかった。
せいぜいがメインストーリーのアビドス3章を終えたばかりで、近々デカグラマトン編の新章が追加されるという話を耳にしていた時にこの世界に呼び出された。
「いや、正確にはキヴォトスに来る前の所で探してた」
「って事は見つからなかったんだ、かわいそー☆」
同情する欠片も無さそうなミカの態度に安武は反応せず冷めた気持ちで淡々と答える。
「いや、見つかった」
「えー、どんな人?」
本気なのかどうかは分からないが、ミカが興味津々な態度で尋ねてくる。その周囲にいたアリウス分校の生徒たちはミカの態度に不満そうな顔をしていたが止めはしなかった。おそらくは彼女たちも安武の過去の恋愛話を聞きたいのだろう。
むしろ人間の男の存在が確認できず、娯楽の少ないアリウスという土地ではそれすらも楽しみなのだろう。
(いくら殺伐とした生活を送っていても年頃の女の子なんだなあ)
安武は内心苦笑しながら語り出す。
「一人目は俺が魔法を学ばされるため、学園に入れられた先で聖女見習いをしていた生徒だな。彼女は光属性に適性のある回復魔法を使う――」
「待って待って、情報量が多いんだけど!? 魔法? 外には魔法があるの!?」
語り出した序盤でいきなりミカに遮られ、そういえば彼女には自身を魔法使いと紹介してなかったと思い至る。
「いや、知らん」
「え?」
「おとぎ話にあるような魔法が存在する世界へ勇者として呼び出され、そこで覚えたからな」
「……は?」
何を言ってるのか分からないという顔をしているミカとアリウス分校の生徒たちに構わず安武は話を続ける。
「彼女は下位貴族の生まれで、交流していた貴族の息子と将来政略結婚する予定だったんだが、俺が入学した事で彼女の両親に俺と結婚するよう強制されてな」
「は? 何それ」
ミカの表情に嫌悪の色が浮かぶ。
彼女は聖園家という名家の生まれ育ちだから政略結婚というのは身近なものだ。恐らく、これから赴任してくるシャーレの先生がキヴォトスの危機を救えば、それを実績として両親も許してくれるかもしれない。
だが原作では語られていないが貴族というのは幼い頃には貴族同士で誰と結婚するのか取り決めされてお付き合いしてるのが普通なのだ。
現時点で既に婚約者が存在している可能性も否定できない。
それ故に一部の貴族のお嬢様は貴族のしきたりに囚われない平民が自由恋愛をして(るように見える)結婚していく噂や物語を羨んでいたりもする。
安武もその感情は分からないでもない。
「俺も彼女から相談されて親に拒否するよう伝えたんだが、強く出られず鬱屈してたな」
「……へー」
ミカの意外なものを見る目に安武は話を中断せざるを得なかった。単純にミカがどのような感想を抱いたのか気になったためだ。
「何だ」
「これ幸いとその子に手をつけるのかと思ってた☆」
あっけらかんと口にした彼女へ安武は心外そうな声で返す。
「誰がするか、そんなん。そもそも当時、彼女は13才で俺は40才だぞ。あまりにも年の差が――」
『は?』
安武がボヤく途中でその場にいたミカのみならず、アリウス生徒たちからも少女らしからぬ低い声が漏れてきたので思わず話を止めた。
「……何だ」
「おじさん、今の話、もっと詳しく教えて?」
ミカが引きつった怖い笑顔で一歩ずつ詰め寄ってくる。
「私たちも同じだ」
「その年で学園に入学だなんて、何でそんな事になったのかな?」
アリウススクワッドの面々、特にサオリとアツコの圧が特に強く、彼女らも安武に詰め寄ってきた。
彼女たちにしてみれば、安武がまだ若かった頃の昔話かと思っていたら父親よりも年上の男性が中学生になりたての少女とお付き合いと知り、内心でそれはおかしいとかありえないなどと憤慨していた。
かくいう安武も異世界へ呼び出された時に魔王討伐と平行して、呼び出した王家を通じて嫁探しをしていたがついぞ現れる事は無かった。主な原因として年を取り過ぎていたのだ。
魔王討伐前では実績の無い勇者とは名ばかりの中年男性でしかなかったのである。
魔王討伐と即戦力化のために放り込まれた学園生活を通して親しくなれたのは同じクラスメイトの少女であった。
駄目元で女性教職員にも声をかけたのだが全員既婚者であった。
結果、未婚の女性――学園で勉学する未成年の少女たちに焦点を絞るしかなくなってしまった。
前述の通り、彼女たちも政略結婚前提で婚約者がおり、それを貴族が反故にすると貴族社会から村八分される恐れがあるため、安武の頼みになびく事は無かった。
当時の異世界は15才で成人となり、法律上は結婚できたものの、いくらなんでも年の差がありすぎて安武も当初は恋愛対象として見ていなかった。
彼が結婚に拘る理由は生まれ故郷の先祖伝来の土地と家を守るための子孫存続のための理由が第一という旧来然とした考え方の持ち主であった。
ただ、おじさんの身でありながらも邪険に扱わず、普通の人間として接してきてくれた彼女には好感を抱いたものである。
「私も気になるなー☆ 40才のおじさんが、どんな顔して女の子を泣かせたのか☆」
ミカの煽りに場が荒れそうな雰囲気になった。
(これは長丁場になりそうだ。つか、煽るな!)
そう判断した安武は新たなコップを空間の向こう側から取り出すとミックスジュースを注ぎ込み始めた。
あまりにも自然な動作だったためか、ミカは目の前の光景を不思議そうなものを見ていたが次第に困惑した顔に変わり、戸惑い始めた。
「え、待って、今何したの?」
「百聞は一見にしかず。さあ」
混乱しているミカへ安武はミックスジュースの入ったコップをずいっと差し出した。
今回はここまで。
それでは。