幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。

今回の話の後半は勇者の過去を語る前に彼の氷河期世代の個人的な独白となっております。
オブラートに包んだつもりですが、気分の悪くなる内容かもしれません。
嫌だと感じたらこの話は読み飛ばしてください。


裏第十一話 勇者、自身の過去をどのように語るか悩む

 ミカは安武からミックスジュースで満たされたコップを差し出され、素直に受け取るも虚空から湧き出たジュースを飲んでいいものかどうか迷っていたようだが意を決して飲み始めた。

 目を閉じて口に含んだ途端、カッと両面を開く。

 

「何これ、美味しい!」

 

 ミカの素直な感想に安武は嬉しくなる。

 

(原作ではエデン条約締結前に色々とやらかしてはいるけれど、根はいい子なんだよな。オラトリオ編第3章では桐藤ナギサがミカを「勉強はあまり好きではないか地頭はいい方」と評していた。それはつまり賢いという意味で、話し合えば割とすんなり分かり合えるんじゃないか?)

 

 という印象を受ける。

 ただ、ふと疑問に思ったのは原作に介入したことにより、アリウスと仲良くしようとした彼女に対してマダムことベアトリーチェが彼女の善意を利用する形で反故にされた。

 

 これにより彼女は学園で立場を失った上、いじめられる対象となったのだが、そのフラグを根本からへし折った。

 

 それはまだ良い。

 

 問題はミカがその経験を通して善意を押し通すだけでは駄目だということを学んでいく機会が失われてしまった事である。

 何が言いたいのかといえば、このまま彼女が卒業し社会人となった場合、そこで善意を押し付け大問題を起こしてしまえば、学園からの擁護が一切受けられないまま社会人としての洗礼をもろに浴びる事を意味している。

 

 生徒であるからまだやり直しが効くだろうという事で大目に見られてはいるが、社会人でやらかした場合、身分の剥奪どころか彼女のヘイローが破壊されかねない。

 それに原作にはそういう描写が無いのであくまで彼の憶測、もしくは妄想でしかない。

 

 ただ、この世界観が日本をモチーフにして作られているとなると間違いではないように思える。

 安武はあまり歴史には詳しくないが、かつての日本では貴族や偉い人が失政を行ってしまった場合、良くて一生家の中の座敷牢に幽閉。下手をすればその途中で命を奪われ病死や事故死として片付けられてしまう危険性がある。

 

 実際にあったから同じ手口を使われないか心配しているのだ。

 できればミカには卒業前までに人によって価値観が異なったり、住んでいた環境で考え方も変わる事を学ばせておきたいと考えていた。

 

「客観的な意見が欲しい。貴族の目線でどんな評価になる?」

「コンビニのペットボトルなんかよりよっぽど美味しいよ! 私が保証する! どうしたの、これ!?」

 

 興奮気味のミカの問いに特に隠す必要もないため、安武は正直に答える。

 

「果樹栽培を営む農家まで足を運んで、大金積んで採れたてをその場で直に絞り出し色々配合して、その当時最適だと思ったものを記録して精製しただけだ」

「わーお☆」

 

 魔王討伐の結果、召喚した国の国王陛下から下賜された報酬の一部を使った産物のひとつである。

 豪快なお金の使い方に感心したミカは笑顔で訊いてくる。

 

「魔法使いって凄いんだね☆ ねえねえ、一日にどれくらいの量を出せるのかな!?」

「そんなの考えもしなかったな。まあそうだな――」

 

 興味津津のミカの質問に安武は自身の体内に内包される魔力量を鑑みてざっと量を計算する。

 

「実際に試したことはないから分からんが、軽く100万人分はいけると思うぞ」

「……わーお」

「外の人から見たら私たちは化け物かもしれないけど、あんたも大概じゃない」

「えっ? それって凄いんですかぁ? 毎日お腹一杯飲めるくらいしか分からなかったんですけど……」

 

 ミカから感嘆の声が漏れ、ミサキが呆れる。

 ヒヨリの独特な解釈に安武も苦笑いだ。

 100万人となると大都市の住民を賄えてしまう。

 安武は言い訳がましく自己弁護する。

 

「たまたま検査で判明したからで、生まれ育った世界じゃ魔法なんて存在しなかったし宝の持ち腐れだったからなあ。後になってこの力を恨んだ事もあったし」

「恨む? 何故だ」

 

 サオリたちが戸惑い首をひねる。

 

「過ぎたるは及ばざるが如し、ということわざがあってだな? 要するに身の程を知らずに他人に利用されて挙句、捨てられるのさ。確かにこの力のおかげで世界を救いはしたが、その後の代償にいつ終わるか分からない、やりたくもない汚れ仕事を延々とさせられ続けていたからな」

「世界を救った?」

「ああ」

 

 ミサキの確認に安武が頷く。

 

「そういえば、安武さんがどのような人なのか全然知らないよね?」

「そうだな。なあ安武、良ければあなたがこれまで歩んできた話を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 アツコのふとした疑問にアズサが同意する。

 安武が周囲を見回すと興味津津のアリウス生徒たちとミカが見つめてくる。

 

「そうだなあ……」

 

 彼女たちの期待にどう答えようか考える。

 正直、そこまで恵まれた環境で育ってきたわけではない。

 ありのままを話せば、安武に対する彼女たちの今後の反応がどう変わるのかが分からない。

 

 同情するのか、それとも引き込もうと画策する汚い大人と決めつけられてしまうのか。

 氷河期世代を経験してきた安武は人間不信に陥っていた。

 

 親切そうにすり寄ってきて値踏みしては、利用価値のありそうな馬鹿な人間と判断すれば躊躇いなく捨て駒にする人間性に嫌気がさしていた。

 

 異世界に勇者として強制召喚されて殺し合いに放り込まれ、多くの犠牲を払いつつ魔王討伐するも奴隷同然の扱いを受け。

 寝る間も惜しんで転移魔法を自力で習得し、何度も試行錯誤を繰り返し異世界から生まれ故郷に脱出。

 帰り着いた後も年単位で失踪してたため、無断欠勤で会社をクビになり、若くないという理由だけで再就職は絶望的。

 

 それだけの事が積み重なり、安武は国民の一員として尽くそうという気持ちは失せた。

 日本で暮らしていく上で納税者としての義務を果たすくらいの事はするがそれだけだ。

 

 40を過ぎてようやく、左派だろうが右派だろうが向きが違うだけで知性は大して変わりは無いと理解したのである。

 

 誤った前提知識を取り入れ、それが真実かどうか疑いも精査もせずに崖へ突っ走るレミングの群れに何を諭そうとしても無駄だという事を身を持って知った。

 

 氷河期世代に「代わりはいくらでもいる」と当たり前のように言われてきたものだったが、何も氷河期世代だけに当てはまるものではなかった事に気が付いたのは異世界から帰還し、引きこもってからの生まれ育った国の人間たちの行動を俯瞰した結果なのは皮肉と言うほか無いだろう。

 

 何が酷いって、国民が今の現状が幸せだと錯覚していて、実は行動次第で本来ならもっとより良い生活を送る事ができていたはずだった事を想像できていない点に尽きる。

 

 分かりやすく言うなら十年前の時点で今便利に使ってるスマホを使えていて、本来であればさらに性能の良い快適で便利なスマホが買えて楽しんでいたくらいには。

 

 しかも電子機器だけではなく、全産業において。

 

 令和一桁年代に労働力の代替として二足歩行ロボットの開発製造量産の指示があったとニュースで聞いているが、はたして。

 

 後継者の育成の費用を出し惜しんだ結果、後十年もすれば生産自体できなくなって店に商品がならばなくなる悪夢を誰が想像できるだろうか。

 

 下々を使い捨ててきたエリートが今更その事に気が付いて対策を指示して、間に合うのかどうか。

 

 人は城、人は石垣と例えた甲斐国の武田信玄の名言。元ネタを辿ると古代中国の発祥らしいのだが安武はそこまで詳しくはない。

 

 そもそも世間から切り捨てられた時点で切り捨てた側がどんな未来を辿ろうが、もうどうでも良くなった。

 

(結局は、問題の先送りなんだよな)

 

 あくまで一国民の視点からでしかないので、国家の中枢に登り詰めた人間の視点から見れば違うのかもしれないが、現場の視点から見てきた側の感想を述べるならそうなる。

 

 転移直前の世間のニュースは学校で起きているいじめ加害者と被害者の世間の反応と司法や権力者の反応の違いで色々揉めていた。

 

(別にいじめ加害者が社会を主導するならそれで良い)

 

 世直しとか切り捨てられた側としては最早どうでも良い。

 何故ならその影響を受けるのは勝者となった加害者たちとその子孫だ。

 切り捨てられた側は早々にこの世からいなくなるだろうが、生き残った側は子々孫々その影響をもろに受ける。

 具体的には日本の法律や暗黙のルールを守るつもりのない不法滞在外国人の横暴に巻き込まれた勝者のつもりになった側だ。

 彼らはルールを守らないから生き残った勝者の身内が標的になる。

 

 昭和の時代は令和と比べて治安は悪かったが、一人で気ままに国内旅行をするくらいには安全だった。

 

 これからは時代が変わる。

 

 令和に生き残ったいじめ加害者側は身の安全を守るためにゲーテッドマンションと呼ばれる閉鎖された地域に引きこもり、ネット通販で商品を購入して満足しつつ、外出したい時は護衛を引き連れ「あれは駄目、これも駄目」と護衛からいちいち横やりを入れられて満足な旅をする事もできずに「良い思い出ができた」と先人が過去にどのような幸福な経験をしたのか知りもせずに現状に満足して終わる世の中を過ごす事になるのだろう。

 

 まあ、そんなのは被害者側の視点であり死んだ後の事を心配する必要性も価値も無いし、勝者となった加害者たちは技術的なブレイクスルーで便利で安心安全な日常生活を獲得できているかもしれない。

 

(被害者視点からすればどうでも良い事だ)

 

 安武はそんな無駄な思考を切って捨てた。

 これらの思考はあくまで安武個人の所感であり、キヴォトス住民とは関係は無い。

 キヴォトスで日常生活を送る生徒たちにためになりそうで、かつ、安武が歩んできた過去をどう語ろうか今も悩み続けていた。




今回は以上となります。
それでは。
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