幽霊メイド、キヴォトスに転生す   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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お待たせしました。


第七話 良からぬ密会を出歯亀するのはエッチな事ではありません。ええ、決して。

 幽体離脱したローナは自室から壁をすり抜け上空へ飛び上がる。

 地上の人物の顔が見分けられる程度に高度を上げ上空から見下ろした。彼女の狙いは地元を縄張りにしてるオラオラヘルメット団の動向だ。

 彼女たちがどのような行動ルーチンを取っているのか調べ上げ、他の悪党との接触はないかどうかを監視する。

 

 基本二人から数人で移動する対象を見つけては側まで降下して張り付いて会話を盗み聞きしたり武装や練度を観察する。

 

(…………銃の持ち方とか色々あるんだね)

 

 何かの参考になるかもしれないと見続ける。

 ローナの母が最近、ゴールデンタイムと呼んでるテレビで放映されてる人気番組の刑事ドラマに熱中していて、家族団らんの一環として一緒に視聴している。

 

 母の解説によると主役を演じる俳優は、その昔とある学園に在学中に名を馳せた有名人らしい。銃の扱いを知らないローナから見ても堂に入った佇まいで洗練された動きに感心する。

 

 母が褒める登場人物以外にも一癖二癖ある俳優に魅入られていった。

 前世では勇者のお世話をする前の貴族の館でメイドをしている合間にこっそりと劇場に足を運んで演劇を観賞したものだ。

 なので、役者というか人の動きに対する目利きが培われていた。

 それを踏まえて目の前のヘルメット団の雰囲気を総合評価すると――。

 

(あんまりぱっとしないなあ)

 

 俳優がこれまでに積み上げてきた経験もあるのだろうが、目の前の生徒崩れは明らかに見劣りしていた。

 ローナの前世にいた世界では銃は存在しなかったものの、代わりに剣や魔法が幅を利かせていた。

 王家に近しい貴族に仕えていた事もあり、騎士や王宮お抱えの魔法使いの訓練の様子も目にしている。

 

(ひとつひとつの動作が洗練されてなくて、見習いよりはマシだけど素人丸出し感がするんだよね)

 

 得るものが無いと判断し、ローナは空へ舞い戻り別の対象へと移る。

 そんな事を繰り返し上空をふよふよと移動する。

 結局、初日は大した収穫もなく空振りに終わった。

 

 今日目撃したのはヘルメット団があちこちで弱者相手に恐喝を行ったり、不良と鉢合わせして銃撃戦になったりとくだらない日々を送っているようだった。

 ローナは重いため息を吐く。

 

(褒めるべきところがひとつも無いよね。あいつら普段どれだけ地域住民に迷惑を振りまいてるのよ)

 

 ローナの脳内で議会が開かれ複数のローナの姿を模した議員たちが互いに手を取り合い満場一致でヘルメット団を排除しようと意気投合した。

 この日から彼女は放課後を迎えるとクラスメイトや友達への挨拶もそこそこに帰宅し、自室で幽体離脱をすると空を駆け回る日々を繰り返した。

 

 探索開始から一週間も経つと地元を縄張りにしているヘルメット 団の行動パターンを大体把握していった。

 そして10日目、ヘルメット団に変化が現れる。

 普段縄張りにしているところから数人が離れ、街外れの廃工場に向かって行くのが見えたので追いかける。

 

 彼女たちが入った廃工場の建物内部に、この地域では姿を見かけない人物が一人で待っていた。姿を偽るためかファンシーな着ぐるみを着ているのが特徴か。

 

(確かテレビアニメに登場したモモフレンズとかいう作品のキャラクターだっけ?)

 

 着ぐるみはヘルメット団と立ち話を始める。もちろんローナは透明化したまま彼女たちの側で立ち聞きしている。

 

「オラオラヘルメット団か?」

 

 着ぐるみから機械的な女性の音声が出てきた。どうやらボイスチェンジャーなるものを使っているようだ

 

「そうだ。……というか毎回毎回思うんだが、その着ぐるみどうにかならないのか?」

「人の趣味に口を出すな。お前らがしてるヘルメットにケチつけられたらどう思う?」

「……悪かった」

 

 てっきりこの会話で険悪になるかと思えば互いに軽口を叩く間柄と知り、ある程度友好的な関係を築いてるようだとローナは判断した。

 彼女はむしろ着ぐるみに興味を持つ。

 

(本当に趣味なのかな? 素性を隠すためだと思うんだけど……)

 

 ローナが首を傾げつつ会話に集中する。

 

「今回も同じか?」

「ああ。────企業の納品車への襲撃だそうだ」

「あの会社か、久々だな。この前も美味しい思いをさせてもらった」

「やり方は任せる。前金だ」

「ありがとよ」

 

 赤ヘルメットが小銭が入った袋を受け取ると彼女たちは踵を返し互いに背を向けて歩き去っていく。

 ローナはヘルメット団と着ぐるみを交互に見る。

 

(着ぐるみの方について行こう)

 

 ここ数日の探索でヘルメット団のねぐらは大体把握したので初見の着ぐるみを優先することにした。

 ローナは着ぐるみの背後にぴったりとくっついて後をつける。

 

 廃工場を出た着ぐるみはあちこちをぐるぐると歩き回り、小さな平屋の倉庫の中に入り扉の鍵を閉める。

 ひとつだけしかない机の前に来ると、着ぐるみの頭部を脱ぎ中から短く赤い髪の少女が姿を現した。角がついているのでゲヘナ自治区の出身だろう。年の頃は高校生だろうか。

 

「ふう、暑い暑い」

 

 赤髪の少女は汗だくになりながら着ぐるみを脱ぎ去り、白い綿製のランニングシャツと短パン姿になる。

 彼女の容姿を見たローナが素直に感心する。

 

(思ったより華奢な体つきだね、着ぐるみだけで大分印象が変わるなあ)

 

 前世では着ぐるみなんて文化は存在しなかったから新鮮な気分で観察する。

 赤髪の少女は畳んでいた羽を広げその場で羽ばたき汗を乾かしながら、準備してあったタオルで体を拭い始めた。タオルで体を拭きながら着ぐるみを眺めてニヤニヤする。

 

「幸せー……♪」

 

(あ、本当に好きなんだ)

 

 ローナはその表情を見てガチのモモフレンズファンだと判断した。ちなみにローナもモモフレンズのアニメは視聴してはいるが、割と面白いと思うもののファンになるほどではなかった。

 

(ある意味、羨ましいなあ)

 

 前世でメイドをしていたため情報収集を常としていた。そのため感情移入するのは以ての外で物事を俯瞰するように教育された。そのせいもあって今一楽しむ事ができず悩みの種となっていたのである。

 

 モモフレンズのキャラクターソングを鼻歌で歌いながら体を拭き終えた赤髪少女は着ぐるみの内部の手入れを始める前に傍らに置いてあるスマートフォンを手に取った。

 ローナは彼女のスマホを覗き込んで画面を確認する。

 どうやら誰かに電話をかけるようだ。作業に集中したいのかスピーカーに切り替える。

 画面には相手の電話番号ではなく名前だけが表示され、それを見たローナが眉をひそめる。

 

(G? 何かの略?)

 

 数回の呼び出し音の後、相手が電話に出る。

 

『儂だ』

「やっほー、とりあえず引き受けてもらえたよ」

 

 相手は年老いた男性のようだ。

 

『今回はどうだ?』

「今のところ特に問題無いね〜♪」

『油断するな、お前を育てるのに多額の資金を投じてるんだからな』

「分かってるって♪」

 

(あれ?)

 

 少女と老人の会話を聞いてローナは首を傾げる。

 犯罪者同士の会話にしては親しげな様子だ。

 

(この感じ……まるで血のつながった家族みたい)

 

 彼女の困惑をよそに二人の会話が弾む。どちらかというと楽しそうなのは少女の方だ。老人の方は声が淡々としているが、相手を気遣う様子が滲み出ている。

 

「でも、良かったの?」

『何がだ』

「襲撃してるの納品車ばっかり! 何で悪い会社を直接潰さないの?」

 

 不満たらたらの少女にローナはどうやらお金が目当てだけではないようだと見当をつける。

 

(彼女の口ぶりから特定の企業を憎んでいるみたいだけど……)

 

 少女の憎しみの籠った口ぶりからするとそれ以外にも原因があるようだ。

 

『それでは意味が無い』

「何で?」

『悪い会社を潰したとする。どうなると思う?』

「え? うーん……………………その会社の人たちが困る?」

『そうだな。他には?』

「…………会社で働いてた人たちが困るから…………その人たちの家族も困る?」

『他には?』

 

 真剣に考えていた少女が度重なる質問にうんざりした表情を浮かべる。

 

「まだあるの? …………お店が無くなるとその地域一帯の住民が遠くのお店に買い物に行かなくちゃならなくなる?」

『一時的ににはな』

「何それ?」

 

 正解を言おうとしない老人に少女が苛立つ。

 

『潰れた店に同業他社が来るから堂々巡りだな』

「…………それじゃ駄目なんだ?」

『目標には届かんな』

 

 老人の言葉を聞いた少女が肩を落とし着ぐるみの手入れが止まる。

 

『そう気を落とすな。こういった事は長い目で見なくてはならん。目先の金に飛び付いたら全てを失うぞ』

「…………うん」

『何事も地道にコツコツと、だ』

「分かった」

 

 孫を諭すような口調にローナが気付く。

 

(お爺さんと孫娘の間柄だ。……もしかして、本当に血の繋がりがあったりするのかな?)

 

 興味深そうに二人の会話を聞く。

 

「ありがとう、G。私、頑張る」

『無理無茶はするなよ』

「分かってる、それじゃ」

『ああ、おやすみ』

 

 老人との通話が切れた。

 ローナは老人の存在が気になったが、残念ながら電波を辿って相手のスマホに転移するような魔法は存在しない。

 

(とりあえず、この娘の家までついて行こう)

 

 赤髪少女は普段着に着替えると着ぐるみを畳んで大きめのダッフルバッグへと詰め込むと、肩にかけて倉庫から出た。

 モモフレンズの曲を口ずさむ赤髪少女は隠しておいたママチャリと呼ばれる自転車を引っ張り出すとペダルを踏んで軽快な動きで走り出す。

 

 ローナは彼女の後ろにぴったりとくっついて周囲の風景を確認する。自身の住む活動地域から外に出てさらに遠くへ。

 

(ここからは私も見た事無い地域だ。随分と遠くから来たんだなあ)

 

 足がつかないようわざわざ遠くまで出張って来たのだろうとローナは推測し、今後は赤髪少女の住処近隣の地理を覚えるために調査しようと決めた。




今回はここまで。
それでは。
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