成層圏を越えて、手紙を貴方に   作:おもちゃ箱

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オラ! 純愛! オラ!!


手紙は返らず

 齢七つの幼い頃。

 父方の祖母のもとへ行くために、フランスへと家族で訪れたことがある。

 祖母の住む地域は長閑な村で、都心の華やかさとは無縁の場所だったけれども、それでも穏やかで美しい場所だったことは鮮明に覚えている。

 

 長閑で、穏やかで、何もない、平和な村。

 子供心にはやはり暇で、遊び相手も言葉も通じ難い中で、僕は彼女と出会った。

 

 祖母の家と彼女が母と暮らしている家は丁度隣り合っていて、僕が慣れないフランス語であくせくすることはあれど、彼女と友人になるのに、然程時間は掛からなかった。

 

 遊んでいる内に、互いが互いの住んでいる国の言葉で交流するようになって、一つ一つ言葉の意味を理解しあって行って。

 遊び相手が限られていたこともあり、たった一週間の訪仏でも僕と彼女の中はとても深いものになっていた。

 

 別れの日。

 いつもより早く起きて、自分の分の旅行鞄を持って両親と共に祖母へ挨拶する。

 祖母の家から出ると、彼女が寂しそうに、少し目に涙を浮かべながら笑顔で待っていた。

 

 ──行っちゃうの?

 

 その言葉に頷く僕と、白いワンピースのスカートの裾をクシャリと握りながら涙を我慢する彼女。

 その姿に僕も感情を抑えられなくて、先に僕が泣いてしまったことは覚えている。

 

 涙を流して、それでも僕は彼女を抱きしめて言った。

 

 ──手紙を出すよ。遠く離れても、君は大事な友達だ。

 

 その言葉を聞いて、彼女は「待ってる」と安心したように笑って見送ってくれた。

 

 日本へ帰ると、真っ先に彼女への手紙を書いた。

 両親に買ってもらったフランス語の辞典を片手に、日々の風景を、楽しかった出来事を綴って国際便に乗せた。

 

 手紙の返答は思いの外すぐ届き、便箋を開いてみれば、驚いたことに全て日本語で言葉が綴られていた。

 彼女の方も、日常の出来事や気候の話など。他愛のない内容だけれど、それでも必死に文章を考えて、伝えやすいように手紙を書いてくれたことが伝わってくる。

 

 彼女との文通は続いた。

 話題は最初のものから広がりを見せたものから、次にあったら何をして遊ぶかや将来の夢まで。

 彼女との言語や距離の壁など、この一枚の紙と便箋を挟んで仕舞えば無いに等しかった。

 日本とフランスの果てしない距離。それでも僕らは、一通の便箋で繋がっていた。

 

 だが、彼女との文通も、僕が中学校に上がって暫くすると途絶える事となる。

 何の予兆も無かった。

 いつも通りに返って来た手紙。

 それに対して、中学校に上がった事と次の夏休みに会いに行くことを綴って送る。

 互いの成長に思いを馳せて。

 再会出来る事を楽しみにしている、と。そう綴って。

 

 彼女からの手紙は、それ以降返って来なかった。

 夏休みに会いに行くも、彼女の家はもぬけの空。

 彼女の姿は、この穏やかな村から消えてしまっていた。

 茫然立ち尽くす僕に、事情を知る祖母が、彼女からの最後の手紙を手渡してくれた。

 

 『親愛なる星一へ

 

 手紙、返せなくてごめんなさい。

 私も君との再会を楽しみにしていたけれど、少し事情ができて君に会うことが出来なくなってしまいました。

 手紙も、これから出す事が難しくなると思う。

 でも、私は君の事をずっと友達だと思っているし、君もそうだと信じています。

 だから、今は会えないけれど。今度は君が日本で待っていて欲しい。

 いつか絶対に君に会いに行くと、そう約束するから。

 

         君の友人、シャルロットより』

 

 祖母は、手紙を僕に渡したあと、沈痛な面持ちで話してくれた。

 

 「シャルロットちゃんだけど、ここ数年お母さんの病状が良くなくてね……

 本当、つい最近お母さんが亡くなった後にあの娘の後見人を名乗る企業の人に連れられて行ったのよ。

 私には、どうする事も出来なかった」

 

 後悔しているのか。祖母は彼女の母が眠っている墓を申し訳無さそうに、悲しい顔で見つめている。

 

 「あの娘は、出て行く直前まで貴方との手紙を気にかけていたわ。

 『手紙が出せなくなる』、『彼に申し訳ない』って。

 だから、私に手紙を預けていったの」

 

 彼女の手紙を、僕は握りしめている。

 寂しさはある。悲しみもある。

 本当は会って、伝えたい大事な事もあった。

 でも、きっとこれは別れじゃないと。僕はそう信じている。

 彼女の居ない穏やかな風が吹き抜ける村で、僕はいつか来る再会を思い描いた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 ──ぃち……せい……ち……『星一』っ!!

 

 「うお」

 「うお、じゃねえよ。どうしたんだ? ボーッとして」

 

 昔を思い出しているところ、クラスで唯一の男友達『織斑 一夏』に声をかけられて気付く。

 周囲を女子に囲まれたこのクラスで、時計の針を見ればホームルームの寸前。

 気を抜いているところを織斑先生に見つかってしまえば、鉄拳制裁を喰らうところだった。

 

 「悪い悪い。少し、昔の事を思い返しててな」

 「何だ? ホームシックか? まあ、気持ちは痛いほどわかるけれど……」

 「そこまで寂しさが募っている訳でも無いが……まあ似たようなもんだな」

 

 苦笑しながら、彼との会話を続ける。

 

 何の因果か、僕がISを動かせるようになって暫く経つ。

 『インフィニット・ストラトス』──通称、IS。

 宇宙開発を促進させるために願いを込められて『無限の成層圏』なんて名付けられた人類の翼は、その圧倒的な武力により、兵器としての側面を強めてしまった。

 女性にしか乗れないという致命的な欠陥を抱えていたそれは、世の一部に蔓延る女性達を増長させ、『女尊男卑』という時代錯誤な風潮が蔓延してしまっている。

 女性と男性が戦争をすれば女性が圧倒する、なんて御伽話すら噂されるほどの強大な兵器は、宇宙への夢を否定されて久しい。

 

 そんな中、突如として現れる男性のIS操縦者。そう、『織斑 一夏』。

 IS乗りとして世界最強の座に君臨する『織斑 千冬』。その弟である。

 彼がISを動かせるのは、その最強血筋が原因だと誰しもが思った。

 そう思っていたのだが……

 

 「何故か、僕が動かせるんだよなあ」

 「俺だけなら理由もわからないでもないけれど、お前がいるからわからなくなるよな」

 

 彼が男性IS乗り第一号として発見された後、すぐさま第二号探しに世界中が躍起になり、その結果発見されたのが僕だ。

 特に身内に有名なIS乗りがいる訳では無く、強いてあげるなら親が経営する会社が世界規模でそこそこデカイくらい。

 おかげで僕はモルモットとして研究所行きにならず、IS学園に入ることが出来たけれども。未だに僕がISに乗れる理由は分かっていない。

 まあ、これからの研究で分かって行くだろう。もしかしたら、これから徐々に増えて行くかもしれないしね。

 

 「はーい! 皆さん、おはようございます! 」

 

 そうこうしているうちに、副担任の山田先生が教室に入って来る。

 ひょこひょこと歩く様は、とても元日本代表候補生とは思えない。

 その腕前は昔映像で見たことがあったとしても、その小動物のような印象は禁じ得なかった。

 

 「今日は、転校生を紹介します! それも二人! 」

 

 おや転校生。

 ついこの間、二組に中国から転校生が来たというのに。なかなかどうして最近多いな。

 僕がそう思っている。

 その時だった。

 

 「それでは、入って来てくださーい! 」

 

 山田先生の声に従って、二つの人影が教室に入って来る。

 一つは長い銀髪をたなびかせた眼帯の少女。

 軍人のような雰囲気を醸し出し、何処か刺々しい。周囲への視線も、冷たいものだった。

 

 しかし、彼女の存在など、この後の衝撃に比べればどうでも良いことだった。

 

 二人目の存在を見ると、僕は言葉を失う。

 長い金髪を一つにまとめ、紫水晶のような瞳をした中性的な顔立ちをした彼──いや、そんな筈はない。

 “彼女”は、男子用の制服に身を包み、教室に入って来た。

 

 「初めまして。『シャルル・デュノア』と申します。

 これからの学園生活、どうぞよろしくお願いします」

 

 彼の自己紹介を聞いたあと、クラスの誰かが口を開く。

 

 「お、男……? 」

 「はい。この学校に、僕と同じ境遇の方がいると聞き、それでこの学校に──」

 

 『シャルル・デュノア』と名乗る彼は、にこやかにその疑問に答える。

 

 僕は、考えうる最大の思考を巡らせ、彼女との手紙の内容やあの一週間を思い出す。

 

 ──彼女に弟が居た?

 いや、彼女は一人っ子で兄弟姉妹は居ない。

 ──他人の空似?

 無い。定期的に互いの写真を手紙に同封していたし、何より()()()()()()()()()()()()()()

 

 「「「「キャアアアアアアア!! 」」」」

 

 案の定、クラスは黄色い悲鳴で埋め尽くされる。

 しかし、そんな悲鳴。僕の耳には入らない。

 

 「シャル……ロット……? 」

 

 僕の小さな呟きは、クラスの喧騒にかき消される。

 勿論、今目の前に居る暫定『彼』の耳に入る事も無い。

 

 唖然とする僕を他所に、クラスの騒がしさは、一夏が銀髪の彼女に平手打ちをされるまで続くのだった。




 オリ主 平賀 星一 (ひらが せいいち)
 一夏の発見を機に捜索された結果見つかったセカンドマン。

 宇宙開発からスプーン工場までをスローガンに掲げる大企業『平賀重工』の御曹司。
 IS開発はぶっちゃけ兵器としての運用は殆ど考えておらず、もっぱら宇宙開発に適するように開発を進めている変わり者企業でもある。
 星一に渡す専用機はそれでも一応は戦えるようにとしっかりと開発された物が手渡された。設定は追々。

 実家の英才教育で機械いじりは得意であり、ISの整備も出来る。
 ISを動かせると分かるまでは、シャルロットの行方を追いながら進学校の高校に入って、某大学の工学部を出て、実家を継いでどっしりとシャルロットを待とうと考えていた。
 ISを動かせる今となっては、将来は自分で月にエレベーターをかけてみたいよなあくらいは考えている。
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