成層圏を越えて、手紙を貴方に   作:おもちゃ箱

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戦場のランチタイム

 「ふぅ……──酷い目にあった」

 

 今朝、僕とシャルロットが再会してから。

 それはもう、凄まじい勢いで質問攻めにあった。

 

 やれ、『元々性別を知ってたのか? 』やら。

 やれ、『二人はどんな関係なのか? 』だとか。

 

 まあ、そういった具合の質問が僕とシャルロットに襲いかかる。

 平賀重工との契約や、デュノア社の横暴については触れず。僕とシャルロットはなんとか質問を捌いて昼休み。

 

 僕とシャルロットは、一夏たちと一緒に屋上で昼食として弁当を食べようと、彼らに誘われた。

 そうして集まったメンバーが、一夏、箒、鈴さん、セシリアさん、シャルロット、僕、そしてボーデヴィッヒさんだ。

 

 一夏はいつのまにかボーデヴィッヒさんを堕としていたのか、彼女はこのメンツに加わっている。

 彼はどこまで女たらしなのだろうか? 一度殺し合った仲だよな?

 まあ、寮で偶然彼女と出会った時にあの事件の謝罪を貰ったから。僕的にももう問題無いけれど。

 

 「お疲れさん。でもよ……クラス全員の目の前であんな台詞吐いちゃあ……」

 「ああなってしまうのも必然、ですわね」

 「言うな。一夏、セシリアさん……」

 

 苦笑混じりに一夏とセシリアさんが指摘してくる。

 

 仕方が無いだろう。

 やっと、やっとシャルロットと名実共に再会出来たんだ。

 そりゃあもう嬉しいし、舞い上がってしまうものだろう。

 僕だって思春期なんだ。抑えられない気持ちもある。

 

 「あはは……でも、嬉しかったよ? 私もずっと、星一に会いたかったから」

 「かぁー! お熱いことね」

 

 鈴さんが額に手を当てて叫ぶ。彼女は、僕らを揶揄うようにこちらを見て笑っていた。

 

 ……気まずい。

 正直、僕とシャルロットはそういった関係にはなっていない。

 こうしてクラスメイトの前で関係を仄めかすような態度をとってしまったというのに。

 僕と彼女の関係は未だ、『久しぶりに再会出来た親友』で止まっている。

 

 正直、踏み出そうと思った場面は療養期間中に山ほどあった。

 しかし、僕の心にはいつも『あの時の記憶』が居て、僕の足を止めてしまう。

 結局のところ、僕は選択肢を提示しただけで、それを選んで自由を勝ち取ったのは彼女だ。

 そして、彼女を実際に守ってくれたのは僕の両親だ。

 

 勿論、彼女が僕の出した選択肢を選んでくれたことはとても嬉しいし、誇らしい。

 だが、僕は彼女をしっかりと助けられたかというと。そういった実感はあまり無い。

 その僕の傲慢さが、彼女への想いを伝える力を鈍らせていた。

 

 「熱いって言われても……──私と星一は親友だよ? そういった関係じゃなくて」

 「っ──そうだな。僕とシャルロットは昔からの親しい友人だけれど、そういった関係ではないな」

 

 シャルロットの言葉と、自分の言葉が胸に突き刺さる。

 突き刺さった自業自得の刃は、僕の胸中を容易く切り裂いた。

 

 ものすごく、すごい痛い。

 

 「ふぅーん……ま、良いわ。ご飯食べちゃいましょ」

 

 そう言いながら、鈴さんは弁当箱を袋から取り出していく。

 そんな彼女に合わせて、それぞれがそれぞれの弁当を取り出していく。

 僕も、握り飯と魔法瓶に入った味噌汁、そして自販機で買ったペットボトルのお茶を取り出した。

 握り飯の具材は、休日に作り置いた唐揚げだ。

 

 「──アンタ。意外と渋い弁当してるわね……」

 「え、そう? 別に普通だと──」

 「いやいや、今日日そんな現場職のおじさまたちみたいな色気の無い弁当食べてる高校生、中々居ないわよ」

 

 鈴さんが、僕の弁当を見てそう言う。

 

 失敬な。これは僕に出来る最大限に作るのが楽で美味しい弁当だというのに。

 というか、現場職のおじさまってなんだよ。良いだろ現場職のおじさま。立派に働いてるよ。

 

 「ふむ。確かに色気が無い……というより地味だな」

 「箒? 」

 「確かにもうちょっとカラフルさが欲しいよな。野菜とか」

 「一夏? 」

 「精彩さに欠けますわね」

 「セシリアさん? 」

 「機能的で良いではないか」

 「ボーデヴィッヒさん……」

 

 肯定的な意見を言ってくれたのはボーデヴィッヒさんだけだった。

 ……え? そんなに変か? 僕の弁当。

 

 「シャルロット……僕の弁当……変……? 」

 「え!? いやぁー……あはは、変では無いよ。うん」

 

 撃沈。シャルロットに目を逸らされた。

 僕はガックリと肩を落とし、握り飯にかぶりつく。

 畜生、今日の握り飯は塩気が効いてラァ。

 

 僕がさめざめと泣いて弁当を食べ始めると、一夏が鈴さんの弁当に気がつく。

 

 「お、鈴。それお前の酢豚か? 」

 「──!! ええそうよ! アンタ、前に食べたいって言ってたじゃない。だから作って来てやったのよ、食べるでしょ? 」

 「勿論!! うわぁ、嬉しいなあ」

 

 鈴さんが一夏に自分の分とは別のタッパーを手渡す。

 ほう、胃袋を掴みに行ったのか。中々やるな、鈴さん。

 

 近くで箒が悔しそうにそれを見ている。

 頑張れ箒、次は君も何か作ってやれば良い。

 

 一夏が嬉しそうに鈴さんの酢豚を食べていると、セシリアさんも動き出した。

 その表情はどこか照れくさそうで、不安も感じられる。

 ──ふむ? これはもしや……

 

 「わ、私もお弁当を作って来たのですが……一夏さん、食べてくださいますか? 」

 

 おお、セシリアさんも一夏用の弁当を作っていたのか。

 彼女はそう言いながら自分の陰から大きめのバスケットを取り出す。

 これは……

 

 「サンドウィッチを作って来ましたの。なにぶん料理というのをあまりやって来なかったので不安ではあるのですが……」

 「へぇ、美味しそうじゃないか。本当に貰って良いのか? 」

 「勿論ですわ! 皆さんも良ければどうぞ! たくさんありますので」

 

 バスケットを開けば、そこには見事なサンドウィッチの数々。

 野菜の瑞々しさや、パンの柔らかさ。見た目は完璧に美味しそうだ。

 

 「それじゃあ僕もご相伴に預かって……」

 

 みんながそれぞれに一つずつサンドウィッチを取っていく。

 僕が取ったのはシンプルな卵サンド。柔らかく黄色い卵からは、刺激臭とも取れるほどの甘い香りが……

 

 ──うん? 刺激臭?

 

 「一夏!? 」

 

 僕が異変に気付いた時、最初に倒れたのは一夏だった。

 シャルロットが悲鳴をあげ、倒れた一夏を心配する。

 

 そして、また人が倒れる音が二つ。

 箒と鈴さんだ。

 

 ドサリドサリと音を立てて立て続けに倒れる人間たち。

 ──こ、これは一体……!?

 

 「ぼ、ボーデヴィッヒさん……これは……? 」

 「わからん……わからんが、これは強いショックを受けた人間がなる症状に近い……原因があるとすれば……」

 

 ボーデヴィッヒさんがじっと自分のサンドウィッチを見つめる。

 正直、僕もさっきからこの卵サンドが気になって仕方がない。

 

 「み、皆さんどうなされたので……? 」

 

 サンドウィッチを食べた途端、倒れる三人の人間。

 それを見たセシリアさんが、不安そうに彼らを見ている。

 

 倒れた人間たちの手元には、一口分の齧り跡があるサンドウィッチ。

 ……正直、原因はこれしか考えられない。

 

 僕はシャルロットに、少しわがままを言うことにした。

 

 「──シャルロット。君は確か……料理部に入るんだよね? 」

 「え? う、うん……どうしたの? 急に……」

 「もし、僕が無事だったら……」

 「無事、だったら……? 」

 

 彼女は戸惑うように僕を見る。

 きっと僕は死地に赴く兵士の顔をしているのだろう。

 僕の決意は固い。僕は一言で彼女へのわがままを伝えた。

 

 「君のハンバーグが食べたい」

 「星一っ──!? 」

 

 シャルロットが僕を止めようとするがもう遅い。

 僕は、目の前の見た目は美味しそうなサンドウィッチに勢いよく齧り付いた。

 

 ──瞬間。味覚に襲いかかる塩味、苦味、酸味。そして感じる辛味。

 脳内にビックバンが起こり、宇宙の始まり、そして終わり。おまけに猫を見た。

 ああ、なんという破壊力。身体中が発汗し、脳が今すぐこれを吐き出せと命令してくる。

 僕はそれを気合いで乗り切り、勢いに任せてサンドウィッチを一口に食べ切り、お茶で一気に流し込んだ。

 

 血の気が引いていくのを感じる。

 だが、僕はセシリアさんに伝えないといけない。

 

 「……セシリアさん」

 「は、はい! 」

 

 彼女は背筋を正して僕に向き合う。

 はは、そんなにかしこまる事はないと言うのに。

 

 「味見は……? 」

 「し、していませんわ……」

 「……そっか」

 

 多分、僕は笑顔を浮かべられていたと思う。

 ちゃんと笑顔を浮かべて、僕は彼女に伝えないと。

 

 「……味見は、しよう」

 「星一っ!? 」

 

 相手の事を考えて作られた料理を、残してしまうだなんて。僕には出来ない。

 遠くなっていくシャルロットの声を最後に、僕の意識は一度途切れた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 ──風を、感じる。

 

 暖かいそよ風が僕の頬を撫でる心地に、意識が覚醒していく。

 後頭部には、柔らかくて心地良い感触。

 いつまでも感じていたいと思ってしまうが、きっとそうもいかないのだろう。

 

 僕は瞼を薄く開き、外の世界を認識した。

 

 「──あっ! 星一、大丈夫? 」

 

 視界に入ったのは、シャルロットの顔だった。

 心配そうに僕を覗き込む顔は、僕が目覚めたことに対する安堵も含まれている。

 しかし、なぜ彼女は僕を覗き込む体勢で、僕は彼女を見上げているんだ?

 

 見上げる視点、覗き込まれる位置。後頭部の、柔らかい感触。

 

 ──膝枕!?

 

 「うおっ!? 」

 「きゃっ! 」

 

 驚きで思わず飛び起きてしまう。

 あまりの勢いに、彼女を驚かせてしまう。

 彼女と頭をぶつけなくて良かった。

 

 「シャ、シャルロット? あの、これは……? 」

 

 ああ畜生。顔が熱い。

 絶対に今、僕の顔は真っ赤に染まっている。

 こんなんじゃ、シャルロットに顔を見せられない。

 

 僕は、彼女に顔を背けながら質問する。

 

 「あ、あの後星一は気絶しちゃって……他のみんなは起きたんだけど星一だけ起きなかったから……それで……」

 「……オーケー、わかった。僕はどれくらい気を失ってた? 」

 「十分くらいだよ。昼休みも、ちょうど終わるくらい」

 

 時間を見れば、昼休み終了五分前。

 良かった、午後の授業には遅刻しないで済みそうだ。

 

 「え、えっとね。星一」

 「お、おう。なんだ? シャルロット? 」

 

 彼女も、どこか恥ずかしそうに僕に話しかける。

 何処か気まずい空気。

 それでも彼女は言葉を続けた。

 

 「ハンバーグ。作るから」

 「──え? 」

 「それじゃ! 私、先に行くね!! 」

 「ちょ、おい!! 」

 

 彼女はそのまま走り去って行ってしまう。

 残されたのは僕と、僕の弁当だけ。

 

 「……マジかよ」

 

 顔を赤くした僕の呟きは、風に乗って飛んでいってしまった。




少し周囲の視線が変わっても、彼らにまた日常が戻って来ました。
笑って過ごせる時間は、彼らが最も望んでいた時間です。
それでも彼らが踏み出すには、もう少し足りなくて。
そんなもどかしい日常が描けていたら、幸いです。
また次回も、お付き合いください。
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