成層圏を越えて、手紙を貴方に   作:おもちゃ箱

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星が堕ちる時

 前方三百メートル。十二時の方向。

 

 「──居たぞ。彼奴だ」

 

 僕と一夏、箒は、銀の福音をレーダーで発見。後、目視した。

 超高速で飛行する銀の福音。こちらの速度でも、追いつくのがやっとだ。

 

 「僕が攻撃を仕掛ける。箒は援護を頼んだ」

 「わかった」

 「俺はどうする? 」

 

 一夏はこの作戦の肝だ。

 下手に何度も攻撃や回避をさせてエネルギーを枯渇させる訳にはいかない。

 

 「一夏は僕と福音の周囲三十メートル付近でチャンスを待ってくれ。

 僕の間合いに入っていれば君を守れるし、行けると思ったら瞬時加速で奴を斬るんだ」

 「了解! 」

 

 一夏は箒から離れ、僕らは戦闘態勢を取る。

 

 彼らの準備が整ったのを確認し、僕は福音へブーストして一気に近づいた。

 

 世界が一気に加速して、身体にGがかかる。

 抑えつけられる感覚の中、僕はアサルトライフルと盾を構えて突撃。発砲した。

 

 『敵機確認、迎撃モードへ移行。銀の鐘(シルバー・ベル)稼働開始』

 

 瞬間、福音が僕へと振り向く。

 ぐりんと振り向いた福音は、不気味な機械音声を発して確実にこちらへ敵意を向けた。

 

 「んなっ!? 」

 

 福音は僕らを確認して一気に加速。

 視界から福音が消え、空気の裂ける音だけが僕らを囲んでいる。

 僕らの周りを飛び回ってると気がついたのは、その一秒後だった。

 

 これでは、狙いが定まらない──!

 

 「そ、こ……だっ!! 」

 

 護星で福音の速度と周回のパターンを計測、次の予測位置に割り込むようにして盾を持って福音の進行位置に割り込む。

 

 「っぐぅ……っご!? 」

 

 トラック同士が衝突したような爆音が響き、僕の全身に凄まじい衝撃が走る。

 視界が揺れ、肺の中の空気を全て吐き出してしまう。

 痺れるような痛みが身体を突き抜け、骨が軋む音も聞こえた。

 

 だが、痛みなんざ関係ねぇ──!

 

 アサルトライフルは既に持ち替えて、僕はスタンバトンを構えている。

 

 喰らえよ、アメリカ──っ!!

 

 「っ!? 速──!? 」

 

 だが、福音は僕にぶつかった衝撃なんてものともせずに体勢を立て直し、僕から距離をとった。

 

 多方向推進器(マルチ・スラスター)──っ!!

 

 「箒、彼奴は僕から距離を取ろうとする。下がったところを狙って攻撃してくれ! 」

 「心得た!! 」

 

 もう一度アサルトライフルを構えて発砲。

 福音は泳ぐようにスイスイと躱していくが、別に僕は攻撃を当てようなんて考えちゃいない。

 

 「そこっ! 」

 

 箒の斬撃が福音を切り裂く。

 しかし当たり方が浅い。

 福音はスラスターを箒の方へ向けて──

 

 拙いっ!?

 

 「危ねえ!? 」

 「──っ!? 」

 

 僕は箒の元へ近づき、彼女を突き飛ばす。

 彼女がいた位置に僕が入れ替わる状態だ。

 

 目の前には光の集まっている福音のスラスター。

 これは……

 

 「うおおおおおおおっ!? 」

 

 ギリギリ反射が間に合って、盾を構える事が出来た。

 視界が白く染まる。盾を通して皮膚が爛れそうになるほどの熱と、圧力を感じた。

 

 「星一っ!? 」

 「星一!? 無事か!? 」

 「あたぼうよ! 平賀の盾は破られ無いさっ! 」

 

 箒と一夏が心配してくるが、僕はそれにサムズアップして応える。

 

 あれは砲口にもなっているのかよ……!

 長期戦が不利なのは分かりきっていたけれど、ここまでとは……

 

 「一夏っ! 次で勝負を決める。ぬかるなよ」

 「わかった!! 」

 「箒も援護頼んだ! 」

 「ああ!! 」

 

 福音へ向けて突撃。

 福音はそれを予測したように後方へ下がるが、箒がそれを邪魔するように飛ぶ斬撃を放つ。

 福音が下がる方向を変えようとしたその一瞬の隙。

 

 チャンスはここしか無い──!!

 

 「行けっ!! 稲妻ぁっ!! 」

 

 僕は福音へワイヤーを飛ばし、見事命中。

 僕が放ったワイヤー二本は、福音の胴体へ突き刺さる。

 

 福音は関係無いとばかりに全砲門を解放し、周囲にエネルギー弾をばら撒いた。

 ばら撒いた内の一つが僕の護星にあるブースター二つの内一つに当たり、それを破壊する。

 爆発の衝撃で身体が揺れる。護星が危険アラートを全力で表示した。

 

 そんなの、止まる理由にならない──!!

 

 「少しばかり……痺れるぞぉっ!! 」

 

 電撃を一気に福音へ流す。

 電流の流れた福音は全身を痙攣させて動きを止める。

 ……これなら!!

 

 「行けぇっ!! 一夏ぁっ!! 」

 「うおおおおおおおおおおお──っ!? 」

 

 一夏は零落白夜を解放。

 福音へ迫り、奴を叩き切ろうとする。

 

 勝った──と、僕はその時思った。

 

 「一夏っ!? 」

 「一夏、君っ!? 何を──っ!? そういうことかよ!? 」

 

 一夏は福音へ迫ったが、突如としてその方向を変更。

 真下へと走り、福音が放った砲弾の内の一つを斬り払う。

 

 彼の先には、本来居ないはずの漁船が一つ。

 

 「密漁船……!! 」

 

 箒が忌々しげに呟く。

 

 冗談じゃない。

 折角のチャンスが水泡に帰した。

 

 畜生。一夏の行動が人道的に正しいが故に、何も責められない。

 優先順位があるだろうとか言ってやりたいが、それが出来るなら彼はここまで人に好かれて居ない。

 

 一夏の雪片が光を失う。

 エネルギーが底を尽きた瞬間だ。

 

 行き場の無い怒りで気が散ってしまう。

 

 福音は、その隙間に入り込む様に聞こえてくる。

 

 『La……♬』

 

 歌うような機械音。

 福音を見れば、奴は既にワイヤーを外して箒へ砲口を向けている。

 

 「ひっ!? 」

 

 福音の砲撃が、恐怖で動けない彼女を襲う。

 

 やばい。彼女の元へ急ぎたいけれど、片方のブースターでは間に合わない──っ!?

 

 「箒っ!! 逃げ──」

 「箒ぃぃぃっ!! 」

 

 一夏が踏み込む。

 箒は動けない。

 光が、彼らを包み込んだ。

 

 「一夏!? 一夏っ!! うああああ……」

 

 その後、視界に入ったのは血を流す一夏と彼を抱える箒の姿。

 

 一夏の馬鹿野郎……なけなしのエネルギー全部使って箒を助けやがった……!!

 

 「大丈夫かっ!? 一夏っ!? 」

 「星一っ! 一夏が……一夏がっ!? 」

 

 一夏の元へなんとか駆けつけると、彼は血を流して気絶しているが息はしている。

 良かった、息はある。あるけれど──

 

 「箒、これを持って一夏と撤退しろ」

 「星一……? 」

 

 涙を流す箒に対し、僕はAEDを渡してそう話す。

 事態は一刻を争う。時間は無駄に出来ない。

 

 「今は息があるけれど、いつ止まるかわからない。

 撤退してる途中で万が一があったら、すぐにそれを使うんだ」

 「で、でも星一は……? 」

 「僕は彼女と……ダンスの約束がある」

 

 福音を親指で指す。

 福音は先程の電撃が効いているのか、まだ微かに身体を痙攣させて動こうとしない。

 だが、それもいつまでもつかはわからない。

 

 「駄目だ!? 星一も一緒に──」

 「出来るんならしたいけど……僕の護星はもう君の紅椿についていけない。

 撤退するにも足手纏いになる。だったら、君たちが逃げる時間を稼ぐ方が現実的だ」

 「でも──!! 」

 「いいから行けっ!! 一夏を殺したいのかっ!? 」

 「──っ!! すまん……!! 」

 

 箒は傷ついた一夏を抱えて撤退していく。

 すると……

 

 『平賀、お前も撤退しろ』

 「織斑先生……」

 

 織斑先生からの通信が入る。

 でも、それは難しい相談だ。

 

 「無理ですね、福音はもう少しで動き出します。誰かが残らなきゃいけない」

 『それはそうだが──! 』

 「今、箒が一夏を連れて撤退してます。迎えを寄越してやってください」

 『駄目だ。お前も退がれ、平賀──』

 「そろそろ福音も動くみたいなんで、切りますね」

 『おい──』

 

 織斑先生との通信を一方的に切って、僕は福音に向き直す。

 

 『La……♪』

 

 楽しそうに歌いやがって、僕への手向けか? この野郎。

 

 「さて、Shall we dance と行こうか? 福音。BGMは任せたぞ? 」

 

 護星が示す心拍数の異常値を無視し、震える身体は武者震いだと自分を誤魔化す。

 

 僕は、再度福音へと進んでいく。

 

 ……畜生。こんなことならシャルロットに──

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 「平賀くんっ!? 応答してくださいっ!! 平賀くんっ!! 」

 

 山本先生が、何度も星一へ通信を試みようとしているが、彼に通じることは無い。

 

 モニターには、今も尚福音に抗い続ける星一の姿。

 福音の砲撃をその身に何度も受け、それでも怯む事なく戦い続けている。

 

 盾は、既に灼け落ちていた。

 

 「いや……っ! いやだよ……っ!? 

 星一……っ!! 」

 

 隣に居るシャルロットがモニターに手を伸ばすが、それが星一に届くわけじゃない。

 過呼吸気味に息をして身体を震わせるが、その目は決してモニターから離れるわけではない。

 その顔は、焦りと恐怖で歪んでいる。

 

 「シャルロット、一度部屋で休もう。大丈夫だ、星一はきっと──」

 「でも、ラウラ……」

 

 私はシャルロットに声をかけるも、彼女の不安を取り除く事が出来ない。

 

 ──刹那、モニターの方から爆音が聞こえた。

 

 「星一っ!? 」

 

 シャルロットの悲鳴に反応して、モニターを見る。

 

 そこには、装甲の一部が破損した星一の護星。

 満身創痍な、彼の姿が映し出されていた。

 

 装甲の損傷が大きい。これ以上は命に関わる──!!

 

 「応援には行けないのですかっ!? 」

 「…………」

 「くっ……!! 」

 

 私が教官にそう叫ぶも、彼女が答える事はない。

 ただ、握りしめた手から血を滴らせるだけだった。

 

 焦る心とは裏腹に、星一からの唯一の通信がこちらに入って来た。

 

 「──これは……! 織斑先生! 護星からのデータ送信です! 表示します!! 」

 

 山田先生の報告のすぐ後に、サブモニターに表示されるそれ。

 

 そこには、現在の福音のダメージレベルとそれから考えられる最高速度。福音の行動パターンが記されていた。

 

 星一……! 君という男は……!!

 

 「そんなものを取る余裕があるのなら……撤退しないか、馬鹿者が……っ!! 」

 

 教官が絞り出すように声を出す。

 ……私も、握った手が開かないほどに力が入ってしまう。

 

 データが送られて来て、間も無く。

 

 「そんなっ!? 」

 

 護星の残されたブースターが、福音により破壊される。

 これにより、彼の回避行動が出来なくなる事が確定した。

 

 ──そして、両翼を捥がれた護星に、福音が砲口を構える。

 

 ……っ!? 拙いっ!! 

 

 「見るなっ!! シャルロットッ!! 」

 

 これを彼女に見せてはいけない。私の今までの人生の勘が、そう告げる。

 私が彼女に目を背けさせようと叫んだところで。

 

 ……もう、遅かった。

 

 モニターから、爆発音が響く。

 

 「あ……あ……あぁ……」

 

 彼女の瞳に、ゆっくりと煙を出しながら海へ堕ちる星一の姿が入り込む。

 静かに、ただ静かに彼は海へ吸い寄せられていき。

 やがて『ドボン』という水音だけが響く。

 

 シャルロットは声にならない声をあげて、それをまじまじと見せつけられてしまった。

 

 「シャルロットさんっ!? 」

 

 シャルロットは、糸が切れた人形のようにその場へ崩れ落ちる。

 表情を失い、ただ茫然と、重力に逆らわず。

 

 近くに居たセシリアが彼女を支えるも、彼女が立ちあがろうとする事は無い。

 

 「約……束……」

 

 シャルロットは瞳から光を消して、ただ静かに、涙を流していた。

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