──天明星盾、熱暴走率十五%。
護星……いや、護星・明星のUIが盾の熱暴走率を伝えてくる。
僕は、護天菱盾と合体させていた二つのシールドアームを一度分離。
シャルロットの元へ移動する。
「やあ、シャルロット……無事で良かった」
僕の言葉に彼女は目を潤ませて、彼女は僕の胸を両手で叩いた。
護星の装甲がゴンゴンと低い音を鳴らし、辺りに響く。
「……よ」
小さくシャルロットが呟く。
彼女は下を向いて声が良く聞こえない。
華奢な身体を震わせて、じっと俯いている。
そして、彼女は涙を流して僕の顔を見た。
「『無事で良かった』は……こっちの台詞だよ……」
「……ごめん。心配かけた」
折角の綺麗な顔が、涙で台無しだ。
何か拭うものがあれば……これで大丈夫か?
バススロットから清潔なタオルを取り出し、彼女の涙を拭う。
これは被災者がもし居た時のために用意されていたものだけど、今はこれを使わせてもらう。
本当は絹のハンカチなんかで彼女の涙を拭いたいけれど、生憎持ち合わせが無かった。
「馬鹿……! 心配したから……!
死んじゃったんじゃないかと、思ったんだからぁ……っ!! 」
とめどなく溢れる涙が、タオルを湿らせていく。
シャルロットの両頬に手を添える形でそれを拭い、何とか彼女は落ち着いてくれた。
「でも、無事で良かった……助けてくれて、ありがとう。星一」
「──っ! 当たり前さ。絶対に君を助けるって、言ったろ? 」
彼女の微笑みを見て、抱きしめたいという衝動に襲われる。
しかしここは戦場。彼女を抱擁しようとした両腕を何とか抑え込み、僕は福音へと向き合う。
……彼女と向き合うのは、全部終わってからだ。
「星一……良く、無事で……!! 」
「まったく、心配かけんじゃ無いわよっ!! 」
「一度は肝を冷やしたぞ。星一」
「箒、鈴さん、──ラウラさん。ごめんな。それと、ありがとう」
声のした方を向けば、息も絶え絶えな三人。
機体の傷は今までの戦いを物語っている。
どうやら、僕は本当にギリギリで間に合ったらしい。
「セシリアさんは? 」
『何とか無事ですわ』
「うお」
この場に居ない彼女について聞くと、通信でセシリアさんが入ってくる。
『福音の攻撃で機体のダメージレベルが継戦不能になりまして……
今は小島で救助を待っているところですわ』
「なるほど、そっちも無事で良かった」
『星一さんこそ。では、今度は花月荘で』
セシリアさんとの通信が途切れる。
残されたメンバーは、僕、シャルロット、箒、鈴さん、ラウラさんの四人。
福音はこちらの様子を伺って微動だにしていない。
作戦を決めるなら今だ。
「ラウラさん、作戦はどうする? 」
「見ての通り、福音が第二形態へ移行している。
火力は箒と鈴で何とか戦えるが、奴の面制圧が厄介だ」
「それなら問題無い」
僕が手に持つ盾と二つのシールドアームを掲げる。
「僕の護星も第二形態になってね。
奴の弾幕は、全部僕へ向かう。君たちは遠慮せずに攻撃を続けてくれ」
「あの奇妙な現象はそれが原因だったのね……
でも良いの? アンタへの負担がデカくなるわよ? 」
「上等。今の僕と護星・明星なら、福音の歌なんて子守歌にもなりゃしない」
シールドアーム『明星』と護天菱盾を合体させる事で出来上がる、今の護星が誇る最強の盾『天明星盾』。
護天菱盾の持つ効果はそのままに、単一能力として『万夫不当』が使用出来るようになった。
効果は、射撃攻撃を全て自分の元へ集めるというシンプルなもの。
たとえどんな砲撃だろうと、全部僕の元へ攻撃を集める事が出来る。
まあ、発動中は天明星盾以外の武器が使用出来ないし、回避行動も制限されてしまうんだけど。
味方を、シャルロットを守れるなら、それで充分だ。
「では、箒と鈴で福音を攻撃、シャルロットは遊撃及び行動阻害。私は後方からの狙撃で援護しよう。
……星一」
「ああ」
ラウラさんが真剣な眼差しで僕を見る。
「守りは、任せた」
「オーケー。さあ、やってやろうか」
僕らが話を終えた時、福音もエネルギーの再チャージが終わったのか行動を再開する。
金切り声のような獣の雄叫びが、夜の海に響き渡った。
「挨拶変わりよ! 受け取りなさい!! 」
鈴さんが龍砲を福音に発射する。
しかし、福音はそれをひらりと躱し、スラスターで急激に加速。
一気に彼女に接近戦を仕掛けようとする。
──けどな。
「デュエットの時間だぜ福音っ! 僕が相手だ!! 」
瞬時加速で盾を構えて福音へ肉迫。
加速した福音と、正面衝突する形になる。
盾越しに衝撃が伝わる。
だが、僕は一切のけ反らない。
体勢を崩したのは──
「そこだっ!! 」
福音だ。
大きくのけ反った福音に対し、間髪入れずに箒が攻撃する。
エネルギー光波が福音目掛けて飛んでいき、福音を切り裂こうとする。
しかしそれでも奴は体勢を崩したまま加速。
攻撃のみを回避して距離を取る。
『La……♬』
「──っ! 来るぞっ!! 」
福音が頭上に巨大な光球を生成。
光球はやがて奔流となり、シャルロットを狙う。
どうやら福音は、彼女の電撃ショットガンがよっぽどお気に召さないらしい。
奔流が放たれ、シャルロットへと向かって迸ろうとする。
砲撃の射線と僕の位置は遠い。以前だったら間に合わない。
だがな、
明星接続、天明星盾起動。
──万夫不当、発動……!!
僕が福音の射線に態々入らなくても、福音の砲撃が捻じ曲がって僕へ向かってくる。
前方から強く押されるような感覚が伝わってくる。
だが、僕が動いてしまうような重さじゃない。まだまだ軽い。
効かないさ。この程度、ゴスペルだなんて笑わせるな。
光の奔流は僕の盾に吸い込まれて消える。
天明星盾の熱暴走率は十六%。まだまだ余裕だ。
──だが。
『La……♬』
「っ!? まだ来るかっ!! 」
福音が今度は身を捩る。
最初に見せた面制圧砲撃だ。
連続した弾幕が、僕に襲いかかる。
盾を持つ腕に力を込める。
瞬間、連続した重さが僕に叩きつけられる。
重いが、どうという事は無い──!!
「──っ! 速いっ!! 」
「ちょこまかと……! 待ちなさいっ!! 」
僕が弾幕を受けている間にも、シャルロットや箒、鈴さん、ラウラさんが攻撃を当てようと動いている。
しかし、そのどれもが決定打になっていない。
福音は泳ぐように彼女たちの攻撃を躱し、受け流し、逆に彼女たちに近接攻撃を仕掛けている。
弾幕を撃ちながらだぞ? なんて器用な真似をしやがる。
「ぐっ!? 」
「──箒っ!? 」
福音の腕が、箒の首を捉える。
拙い、僕は今この場から動けない……!
もし盾を解除したとしても、福音の砲撃が彼女に及ぶ。
シャルロット達は、箒を盾にされて上手く攻撃が出来ない。
状況が逼迫する。
どうすれば、彼女を助けられる──?
額から冷や汗が流れ落ちる。
僕らの焦りと比例して、福音が箒の首を締め上げる強さは強くなる一方だ。
このままだと──
「箒をっっっ!! 放せぇっっっ!! 」
瞬間、白い閃光が福音の翼を切り裂いた。
以前よりも大きくなったウイングスラスターを携えて、白い影は福音のスラスターを切り伏せる。
福音は大きく体勢を崩し、箒を手放した。
「無事かっ!? 箒っ!! 」
「「「「一夏ぁ!? 」」」」
影の正体。
それは重体のはずの織斑一夏だった。
「い……一、夏……? 」
箒が戸惑いながら彼へと話しかける。
「良かった……無事みたいだな──」
「こっちの台詞だっ!! お前、私が、今まで、どれだけ心配したと……」
「……悪い。でも、怪我はもう何とも無いんだ。ほれ」
一夏が箒に見せびらかすように力瘤を作ってみせる。
……いや君、本当に怪我は何処へ行ってしまったんだ?
「……リボン、無くなったのか? 」
「あ、ああ。戦っている最中に切れてしまったみたいで……」
「なら、ちょうど良かったな」
一夏が懐から一つの箱を取り出す。
開けてみれば、中にはリボンが入っていた。
「今日、七月七日だろ? 誕生日おめでとう、箒」
「一夏……!! 」
箒が顔を赤くして喜ぶ。
二人は、顔を赤くして見つめ合っていた。
二人の世界、という奴だろう。
一夏よ。
登場と言い、この場で渡すプレゼントと言い。
君は何だ? 凄くかっこいいな。
まさにヒーローだよ。そりゃあときめいてしまうだろうよ。
そんな事を考えながらふと横を見る。
──げ。
「……悪い、お二人さん。良い所なのはわかるんだが、そろそろ福音が歌いたくて仕方ないらしい」
「……っ! おお! 悪い悪い星一! お、お前も無事で何よりだぜ! 」
「す、すまない……」
二人の近かった距離が離れる。
……すまない。福音が動き出すのもそうだけど、僕はもっと恐ろしいものを見てしまったんだ。
僕の隣で、笑顔を浮かべて二人を見る鈴さんとラウラさん。
その瞳に光は無くて、ただ一夏と箒を見つめている。
僕はこそっとシャルロットに近づいた。
「……シャルロット。あとでフォロー頼んで良いか? 」
「ええぇ……わ、私には荷が重いよぉ……」
「僕だってそうだよ……」
一夏よ。
本当に、本当に君は罪な男だよ……
……さて、気を取り直して福音だ。
一夏がいるのなら百人力。きっと、何とかなる。
「みんな、シールドエネルギーの残量は? 」
僕の問いに、彼らはこう答える。
「私はかなり危ないわね……でも上手く回避を続ければ問題ないわ」
「私は遠距離からの攻撃だったので、まだ余裕がある。
……しかし、心許ないのは確かだ」
「私も、少し危ないかな……」
全員ギリギリの戦いだ。
次、勝負を決めないといけない。
「──いや、大丈夫だ」
「それは一体──これは……! 」
箒が大丈夫だと言うので、何事かと思えば。
その瞬間、紅椿の展開装甲が金色に発光し、全員のシールドエネルギーが増え始める。
まさか……これは……
「『絢爛舞踏』というらしい。──紅椿の、単一仕様能力だ」
まさに規格外。
シールドエネルギーの増幅。
即ち、彼女がいるだけでエネルギーの問題が解決されてしまう。
「こりゃあ良いや。みんな、問題は無い? 」
全員、決意を固めたように笑う。
──良し、勝ちに行くぞ。
「一夏。今から奴に突っ込むから、僕を信じて僕の後ろに張り付いてくれ」
「わかった。いつも通り、頼りにしてる」
「それは僕だって同じさ」
一夏が僕の背中に張り付く。
それを確認して、僕は天明星盾を起動させた。
「他のみんなは援護をお願い。
出来るなら、福音のスラスターを狙って動きを封じてくれると助かる」
彼女達は何も言わずに頷いて、福音へと攻撃を始めた。
福音は、四方八方からに攻撃に、上手く行動出来ない。
「──良し。行くぞぉっ!! 一夏ぁっ!! 」
「おうっ!! 」
福音へと一気に加速。
周囲の世界が一瞬にして通り過ぎる。
近づいてきた僕らに福音が気がついて、僕らに砲口を向けた。
閃光が走り、僕らの目の前に光球が現れる。
……だがな。
──効かないって言ってるだろうっ!!
福音の砲弾は僕の盾に吸い込まれて消える。
多少の衝撃はあれど、進む事に支障は無い。
何度も、何度も砲撃を撃ち込まれる。
衝撃で腕が痺れようと、盾の熱暴走が近くなろうと。
僕に止まる通りはもう無い──!!
そのままの勢いで加速し続けて、福音との距離は百を切る。
──これで最後……っ!?
しかし、福音がまたも加速して僕らから距離を離そうとする。
シャルロット達の攻撃の間を縫って、此奴は蜘蛛の糸を伝うように逃げようとする。
畜生、待てよっ!!
あと少し、あと少しで届くというのに、届かない。
だが、僕らの仲間は、
福音のスラスター目掛けて、一本の青い閃光が光る。
スラスターは爆発し、福音の加速は失敗に終わる。
遥か後方からの狙撃。
どれだけ離れているのかはわからないが、こんな芸当出来るのは一人しか思いつかない……!!
──ナイスだ、セシリアさん……!!
「ぶちかませぇぇぇっ!! 一夏ぁぁぁっ!! 」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」
一夏が僕の後ろから飛び出す。
福音はそれに対応出来ない。
一夏の雪片弐型が大きく輝く。
一閃。
福音の装甲が叩き斬られ、中からパイロットが飛び出してくる。
機体はそのまま煙を吐き、近くの小島へと落下していく。
「しまっ! 」
一夏がパイロットを確保し損ねて、彼女が海へと落ちていく。
──しかし。
「全く、アンタはツメが甘いのよ。一夏」
鈴さんがパイロットを確保して一安心だった。
……終わった。
凄く、凄く長い戦いだった気がする。
既に夕暮れは過ぎて、辺りは夜の闇に包まれそうになっている。
一日の終わりが、ここにはあった。
「……星一」
「……シャルロット」
シャルロットが近づいてきて、彼女と共に日没を見る。
夕暮れが、シャルロットの姿を茜色に染めるのを見て。
僕はもう、想いを抑える事は出来そうに無いらしい。