まだ読んでくれる方がいらっしゃるなら、楽しんでくれると幸いです。
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──私の心臓は今、凄まじい勢いで拍動している……!!
食事を終えてひと段落。
私は早苗さんに促されて平賀家の浴室をお借りしている。
シャワーのお湯が心地よく、私の身体を洗い流す。
リラックス出来る状態。
でも、私の心は穏やかではない。
「星一の部屋……」
そう、私はこの後、星一の部屋で一夜を共にするのだ。
若い男女、一つ屋根の下、何も起きない筈が……。
いやいや!! 今日はご家族もいるし、そんなそんな……。
…………念のため、もっと身体を綺麗に。
彼の部屋は一体どのような部屋なのだろう?
男の子らしく趣味のもので溢れていたり、意外と整理整頓されていたりするのだろうか?
それとも、物が少ない、いわゆるミニマリストだったりするのだろうか?
……いや、それは無いな。彼は物を最低限にするタイプじゃ無い。
少なくとも、趣味の雑貨の一つや二つはあるだろう。
はしたないけれど、凄く興味がある。
彼の私生活は、学園である程度把握出来ているけれど、それでも凄く興味ある。
丁寧に、いつも以上に丁寧に身体を洗って外に出る。
浴室と脱衣室の気温差が身体を震わせる。
同時に、近づく彼の部屋という意識が、さらに私の心臓を高鳴らせるのだった。
◆◆◆
良いな!? 部屋の掃除は万全だな!?
埃……よし!
ゴミの溜まり具合……よし!
布団の臭い…………問題無いと思うけど念のためもう一回ファブリーズ!!
ベッド下のお宝本は、更にわかりづらい本棚裏へ!!
ドタバタと部屋の状態を確認する。
常々帰省したら部屋の掃除はしていたけれど、彼女を招き入れる準備なんて出来ていない。
不安要素は多く残っていた僕は、それら全てを大急ぎで緊急的に片付けていた。
「オーケーだな……これでいつシャルロットが来ても問題無いな……!! 」
──コンコンと、ドアをノックされる音が響く。
「────っ!! 」
僕の身体が勢いよく跳ねる。
心臓が飛び出そうだ。痛いくらいに肋骨を心臓が叩いている。
いやいや落ち着け……クールだ、クールだぞ平賀星一。
平常心平常心。何も、なにかをするわけじゃあない。
落ち着いて彼女と話をして、いつも通りに過ごすだけだ。
学園と同じだ。何も問題無い。
そもそも今日は父さんと母さんがいるし、うん、何も問題無い。
…………念のため身体はいつも以上に綺麗に洗ったけど。
と、取り敢えず出迎えよう。
いつまでも彼女を部屋の前で待たせるわけには行かない。
深呼吸してドアを開く。
そこには、少しモコモコとした白猫のパジャマを着たシャルロットが立っていた。
──え? かっわい……。
「星一? 」
「……はっ!? ごめんごめん、さ、さあ入って……狭いところだけど……」
「お、お邪魔します……! 」
一瞬思考が『可愛い』飛んだけれど『可愛い』、なんとか意識を『可愛い』取り戻して彼女を『めっちゃ可愛い』出迎える。
確か、あのパジャマは……。
「それ、ラウラさんとお揃いで買ったって言ってたやつだっけ? 」
「うん! どうかな? 」
「凄く可愛いよ。見惚れちゃった」
「そ、そっか! ありがとう」
嬉しそうにはにかむシャルロット。
それを見て、さっきまであった緊張が和らいでいく。
いやあ、幸せだなあ。
「ま、取り敢えず座ってよ。まだ寝るには早いでしょ? 」
「うん、ありがとう」
ちゃぶ台の前に座布団を敷く。
シャルロットはその上にちょこんと座り、僕もその隣に座る。
「「…………」」
沈黙。
シンとした空気が部屋を満たし、僕らを包み込む。
それは、大体一分ほど続いた。
しかし──
「っぷ。あはは! 」
「ふ、ふふ!! 」
「「あははははは!! 」」
どちらが笑い出したのかわからない。
でも、気がついたら二人で大笑いしていた。
だってそうだろう? いつもだったらもっと自然に話せるのに、ちょっと場所が変わったら二人ともこれだ。
今更気まずいなんて訳無いのに、お互い緊張しているのが丸分かりだ。
「はぁー……。もう! なんで黙っちゃうのさ! 」
「ごめんごめん! でも、シャルロットも同じだったじゃないか」
「──そうだけど。ふふ」
ああ、緊張が霧散していく。
全く二人して馬鹿らしい。何、何も問題なんか無いんだ。変に意識するのも変だろう。
「あれ、星一。その本棚のやつって……」
「ああ、これ? アルバムだな。これは……中学卒業の時のやつか、見たい? 」
「うん! 見たい!! 」
シャルロットが目を輝かせてそうリクエストして来る。
それならまあ、ご期待に応えて……。
僕はアルバムを開き、ちゃぶ台の上で広げる。
精々一、二年前の出来事だけれど、最近の出来事が余りにも濃くて遠い過去のように感じる。
何故か懐かしい。
「あ、この人。星一が手紙で話してくれた中学の友達? 」
「ん? ああ、そうそう。給食の早食いが学校一だった給食の王者。
キング牛丼も五分で食べ切る」
「凄まじいね。私はそんなに食べられないや……」
「うん。僕も無理だ」
会話は続く。
「あ、これ体育祭ってやつ? わ、星一が棒のてっぺんで司令出してる? 」
「あー棒倒しのやつか。うちのクラスだけ防衛大志望でガチの奴がいて、そいつ主導で役割とか作戦を考えたんだよな。
確か、僕の役割はサルとかなんとか……」
「へぇー……結果は? 」
「ボロ勝ち。そいつが率いる攻撃部隊が全てを薙ぎ払ってた」
「すご……」
「これは、修学旅行かな? ……楽しそう。どこに行ったの? 」
「僕らは北海道に行ったな。小樽で海鮮食べたりしてた」
「いいなあ……私も、行きたいなあ……」
「……IS学園も修学旅行があるだろ? これからは一緒に楽しもう」
「……うん」
そんなこんなで思い出話にも花が咲いて。
時刻は二十三時。
明日も早いし、寝るには良い時間だ。
「……そろそろ寝ようか」
「うん、明日は早いしね」
さて、と。
ちゃぶ台を片付けて、彼女が寝る布団を敷く。
僕は自分のベッドに、彼女はその布団へ潜り込んだ。
部屋の電気を消して、周囲は暗くなる。
「おやすみ、シャルロット」
「おやすみ、星一」
互いに睡眠体制に入って、部屋に再び静寂が訪れる。
最初とは違って、心地よい静寂。
隣で好きな人が寝ている。これがいつか、当たり前の幸せになって欲しいなあ。
なんて、何処となく眠れないから、二十分くらい考えていた。
──そんな時だった。
…………ゴソリ。
──え?
僕の布団に、何かが潜り込んで来る。
なんだ? 一体……?
いや、わかってる。でも、え?
「シャ、シャルロット? どうしたの、急に? 」
「…………」
布団に潜り込んだのは、可愛らしい金髪の白猫。
シャルロットは、彼女は僕の布団に潜って、ただ黙り込んでいる。
僕の布団が、彼女の良い匂いで満たされる。
暗いながらも、彼女の顔が赤い事だけがわかった。
「シャルロット……? 」
「……たい」
「え? 」
戸惑う僕に、微かに聞こえる小さな彼女の声。
僕の胸板に顔を埋めて、彼女は僕をギュッと抱きしめている。
声がくぐもって、彼女がなんと言ったのかよく聞こえなかった。
「一緒のベッドで、寝たいなって……」
「っっっ!? 」
彼女は、甘えた声で僕に控えめに呟く。
可愛い。
凄く可愛い。
──愛おしい。
心臓がここ一番でどんどっとっとと跳ね上がる。
眠ろうとした脳が覚醒していく。
落ち着け。大丈夫だ。
僕とシャルロットは恋人。同衾したって問題無い。
間違いさえ犯さなければなんて事はない。
明日ちゃんと起きて寝坊しなければ母さんたちに現場を見られる事はない。
そうだ。何も問題は無い。
だから僕は緊張をゴクリと飲み込んで。
「──良いよ。もうちょっと奥においで、シャルロット」
「っっっ!? 」
ッスゥー……。
高鳴る鼓動を、彼女に気づかれないように深呼吸して落ち着かせる。
これから眠るんだから、覚醒した脳みそをまた睡眠モードにしないと。
すぐ隣で密着状態なシャルロットをそっと抱き寄せて、静かに眠ろうとする。
────もってくれよ……!! 僕の理性……!!