ついでに感想もよろしくナス!!
授業を終えて放課後。
僕たちはアリーナへ集合し、ISを動かす特訓を始めた。
僕は、一夏が箒さん達三人の独創的な指導を受けているのを尻目に、シャルルくんと一緒に射撃訓練を行っていた。
内容は一分間の内に百個の的がランダムで出現するので、それを撃ち落としていくというもの。
僕は手元に射撃武器であるアサルトライフル『鎮天』を出現させ、射撃モードをフルオートからセミオートへ変更。
単発撃ちで現れる的を狙い撃っていった。
── 一つ、二つ、三つ。
最初こそ順調に撃ち落とせていたものの、終盤になるにつれて的が複数出現したり、的の動きが複雑になったりして上手く当たらなくなる。
最終的に、スコアは百点中の六十四点といった具合になった。
「うーん。ま、こんなもんか」
「星一の場合、照準を合わせる時に迷っちゃってるみたいだから、その迷いを無くせればもっと良くなりそうだね」
「なるほど。どうしてもここで当たるのか? って迷う場面があるんだよな。ありがとう、意識してみるよ」
「うん、頑張って! 」
シャルルくんにアドバイスを貰いつつ、お互いに訓練を続けて行く。
続けていると、一夏達が小休止を挟むのかこちらに近づいてきた。
「それにしても星一。お前の機体、いつ見てもゴツいよな」
「ほんとほんと、最初第三世代機って聞いた時は驚いたわよ」
そんな事を言いながら、一夏と鈴さんが話しかけてくる。
確かに、僕のISである『護星』はこの場にあるセシリアさんの『ブルー・ティアーズ』や鈴さんの『甲龍』と比べるとかなり異質だ。
僕の乗っている専用機は、僕の両親が経営している平賀重工が、テロなどの対人制圧用に作った第三世代機。その名も『護星』だ。
そもそも、ISにはシールドバリアーや絶対防御があり、これがある限り並大抵の攻撃は搭乗者の命を奪うには届かない様になっている。
そのため、開発が進むにつれて装甲の意味は薄れ、搭乗者の動き易さや機体速度の兼ね合いでフルスキンのISは第一世代や第二世代初期の機体の特徴となっていた。
しかし僕のこの護星は、救出する民間人や共に行動する味方の『盾』になるという設計思想のもと開発され、装甲は兎に角分厚く鈍重な物に。頭のてっぺんから足先まで、鈍色の装甲で覆われている。
「まあ、この見た目で第三世代っていうのも、もしかしたらうちの企業だけかもな」
「装甲が余り重要視されない現在の通説に、真っ向から喧嘩売ってる見た目よね」
「そんでもってこいつ、直線的な動きは速い癖にマジで曲がれないんだよな」
僕は自分の拳で胸の装甲をゴンゴンと叩く。
重く響く金属の音が辺りに広がった。
護星は直線的な加速はそれこそ一夏の白式に勝るとも劣らない性能をしているが、余りにも小回りが効かない。
緩やかなカーブを描くとなるとなんとかなるけれど、急なカーブや急旋回しろとなると中々厳しいものがあった。
「そういえば、そのアサルトライフル以外にもどんな武器があるの? 」
「ああ、それはだな……」
僕はシャルルくんの質問に答える為に、拡張領域に入ってる他の武装を一つ一つ出して紹介していった。
「これが『紫電雷棍』。相手に当てた部位に電気を当てて相手の行動を抑制する近接スタンバトンだな」
左手に紫色の電流が奔るスタンバトンを展開させ、シャルルくんに見えるように掲げる。
これは、白式の雪片弐型などの他のISと比べて攻撃力が無く、相手のシールドエネルギーも然程削れない。
その代わり電流を流す事で相手の行動を制限するのが目的の近接武器だ。
「そんでもってこれがさっき使ってたアサルトライフルの『鎮天』。まあ、普通の射撃武器だな。威力は控えめだけど」
射撃武器の鎮天は特にこれといった特徴の無い平凡なアサルトライフル。
主に中距離からの牽制で使う事が多い。
「で、メイン武装の大型ビームシールド。『護天菱盾』だな。
相手の射撃武器がビームなら吸収するし、実弾なら焼き切る」
そして、護星が第三世代である最大の理由がこの盾。『護天菱盾』。
射撃武器がエネルギー由来のレーザーなどであれば吸収して無効化。実弾であれば焼き切る事ができる優れもの。
近接戦でも相手の攻撃を受け止めたり、弾いたり出来るので中々強力な武装となっている。
ただし、連続で集中して相手の攻撃を吸収すれば盾がオーバーヒートを起こし盾が使用出来なくなる。
しっかり熱管理を行なってクールダウンしながら使えば問題は無いけれど、その塩梅が難しい武装でもある。
「へー、なんか……白式と同じくらい……というか」
「それ以上にピーキーな機体ですわね。一夏さんの場合、まだ攻撃が一撃必殺な分。決定力という強みがありますが……」
「護星の武器は低威力で決め手に欠ける。しかし、その防御力は随一、か」
「そ、当に『前線に出続けて味方の道を押し進める盾』って奴だな」
あくまでも敵の撃滅では無く、行動の阻害が主目的の近接武器。
牽制程度の威力しか無い一般的なアサルトライフル。
そして、破られる事のない、強力無比な『大盾』。
一夏の白式が『完全攻撃特化』なら。
僕の護星は『完全防御特化』だ。
「まあ、『盾』と言えば聞こえは良いけど……ぶっちゃけ『肉盾』の方が近いわよね。運用思想」
「肉盾上等。それで守れる命があるなら、それに越したことはないだろ? 」
「それもそうね」
なんて、雑談を交えながら訓練をしていると。
視界に黒い影が入り込む。
「ん? ありゃあ……」
「ドイツの第三世代機……? 」
黒い影に視線を向ければ、そこにはドイツの第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』をその身に纏った銀髪の彼女──ラウラ・ボーデヴィッヒさんが居た。
一夏に初対面で平手打ちをした彼女。その顔は現在も、穏やかでは無い。
「織斑一夏」
「なんだよ? 」
周囲に居る僕たちになんか一瞥もしないで、彼女は一夏に話しかける。
睨みつける視線は冷たく、その内には怒りが滲み出ている。
「私と戦え」
『戦え』と来た。
「模擬戦をしろ」でも「手合わせしろ」でも無く、「戦え」。
彼女のその要求は、世界で貴重な男性操縦者への興味から来る試合の要求では無く。
私怨による宣戦布告のそれだった。
「嫌だよ。戦う理由が無い」
一夏もそれに気づいているのか、彼女の要求を突っぱねる。
しかし、それで止まる彼女では無い。
「だったら嫌でも──戦って貰うっ!! 」
「──っ!? 一夏!! 」
彼女は不意打ち気味に右肩のレールキャノンを一夏に向ける。
僕は彼女が本気で一夏に殺意を向けるのを感じ取り、咄嗟に彼の前へと盾を構えて飛び出した。
彼女のレールキャノンが発射され、盾を構える右腕に強い衝撃が走る。
僕の大盾と彼女のレールキャノンが放った弾がぶつかった衝撃で、僕らの周りに砂埃が舞い散る。
「一夏! 無事か!? 」
「お、おう……助かったぜ星一……」
背後の一夏の無事を確認し、僕はほっと息を吐き出した。
危なかった……不意打ち気味でなんてものをぶっ放すんだ彼女は。
「ちっ……日本の『肉盾』風情が邪魔をする……」
「大丈夫!? 星一!? 一夏!? 」
ボーデヴィッヒさんの暴挙に、シャルルくんや箒さん達が臨戦体制に入る。
彼女はその様子を見て薄ら笑いを浮かべていた。
「なあ、いつからドイツの挨拶は鉛玉になったんだ? 異文化交流として、是非とも教えて頂きたいな? 」
「ふん。貴様ら程度が私の前に立ち塞がるなど笑えもしない。私が用のあるのは織斑一夏だけだ、早くその場を退け」
「そんな要求、誰が聞けるかよ」
一触即発。あと数秒もすれば互いにぶつかり合う。
しかし。
「そこの生徒! 一体何をしているの!! 所属するクラスと名前を言いなさい!! 」
「ちっ……邪魔が入ったか……」
このアリーナの管理を担当していた教師が間に割って入ってくる。
どうやら、彼女との衝突は免れたらしい。
「興が削がれた。次は、こうは行かない」
「…………」
ボーデヴィッヒさんはそう言って僕らの元を去っていった。
「……なんなんだ、彼奴」
「一夏、なんか恨まれる事したか? 」
「そんな覚えは!! ……ねぇけどよ」
うん? どこかバツの悪い顔つき。
これは何かありそうな雰囲気を醸し出しているが、本人が言いたくないなら仕方が無い。
こいつに限って、女難以外で恨まれる事は無いはずなので、本人が話さない限り深掘りするのも良くないだろう。
「取り敢えず、こんな空気じゃ訓練の続きって訳にも行かんだろ。もう良い時間だし、今日は終わりにしとくか」
「……そうね。お腹空いたし」
鈴さんが僕の意見に同意して、今日の訓練は終いになった。
そういえば、と。僕は思い出したように帰り道、一夏に尋ねる。
「そういえばよ一夏。君、学年別トーナメントは誰とタッグ組むか決めたのか? 」
「え? あれってタッグ組むもんなのか? 」
「あれ、知らなかったのか。まあ、僕はシャルルくんと組む約束をしてるから問題ないけど」
「オイィ!? さらっと見捨てられてたんだけどぉ!? 」
「あはは……ごめんね一夏」
一夏は頭を抱えて困っている様子。
その様子を、前方にいる乙女三人組が興味深く見ていた。
そして、セシリアさんが一番槍として一夏に突っ込んだ。
「で、でしたら一夏さん! 私と! 私とタッグを組みませんこと? 」
「ちょ、待ちなさいよ! 私が! 私が一夏と組むの! 」
「…………」
おやぁ? 何故か箒さんだけがその場から動かないで様子を見ているぞ?
おかしいな。いつもだったらあの三人で姦しい状況が出来上がってた筈なんだが……
「うーん……悪いけど、組むなら箒だな」
「はい!? 」
「な、なんでよ!? 」
「な!? 」
おお。珍しく一夏があの三人から一人を選んだ。
こりゃ明日は核が降るな。
だが、なんで箒さんはそんなバツの悪い顔をしているんだ?
選ばれたんだから、彼女的には嬉しいだろうに。
取り敢えず、僕は喉が渇いたので手元にあるスポーツドリンクに口をつけた。
「い、一夏! お前、私との約束を忘れてしまったのか!? 」
「いや覚えてるよ。この大会優勝したら『付き合って欲しい』って言ってたもんな」
「んなぁ!? 」
瞬間、僕は口に含んだスポーツドリンクを思い切り吹き出した。
「だ、大丈夫!? 星一!? 」
「えっほげほっ!? ゲッホゲホゲホッ!? 」
な、は、え、ちょ、はぁ!? え、おま、え。はぁあ!?
そ、そんな大事な事軽くこの場で言ったらダメでしょ!? デリカシーは何処へ行ったの!?
「い、一夏さん!? 箒さん!? 」
「ちょ、ちょっと待って!? どういうことよ!? 」
そりゃ取り乱すよ。
当事者じゃない僕ですら取り乱すよ。
え、嘘だろこいつ。マジかよこいつ。普通、それはもっと大事に、二人だけの約束として秘めるものじゃ無いの?
「な、何を驚いてんだよお前ら……? 」
「いやいや一夏? 当たり前だからね? 」
シャルルくんが僕の背中をさすりながら一夏に指摘する。
頼む。多分この場所で一番冷静なのは君だけだ。
「だって『付き合って』って言われたんでしょ? 」
「おう! 確かに言われたぜ──」
一夏は自信満々にシャルルくんの質問に答えた。
「『買い物に付き合って』って事だよな!! 」
ピシリと、音を立てて箒さんが固まった。
同時に、僕たちも固まった。
「え、えーと……」
「別に優勝なんてしなくても、買い物くらいいくらでも付き合うってのにな。なぁ? 星一? 」
「お、おう……? 」
そこで僕にふるな馬鹿たれ!?
気まずい空気が周囲を包む。
哀れ箒さん。彼女の一世一代の告白は、無惨にも朴念仁モンスター織斑一夏に打ち砕かれた。
「なぁ。一夏」
「なんだ? 星一」
「今から僕は君を殴る」
「なんで──ぐぁっ!? 」
友人としての温情だ。その端正な顔面は勘弁してやる。
僕は一夏の鳩尾を今年一番の力でぶん殴った。ついでに崩れ落ちた一夏の尻も蹴っ飛ばした。
僕は硬直する箒さんに近づいて肩を叩く。
彼女はハッとしたように、一夏と、そして僕を見た。
「どうする? 訂正するなら力を貸すけど」
「い、いや良い……また、頑張るだけ、だ」
あーもう可哀想に。
薄らと涙を浮かべる彼女を、僕は見てられなかった。
「箒……」
「箒さん……」
悲しむ彼女の元に、鈴さんとセシリアさんが寄り添いに行く。
餅は餅屋。世の中には適材適所があるだろう。
ここは彼女達に任せて、僕は側の掃除用具入れから雑巾を取り出し、吹き出したスポーツドリンクを拭いていく。
「せ、星一? い、今のって……? 」
「シャルルくん、言ったろ? 今に奴の朴念仁っぷりが分かるって」
「う、うん……まさかここまでとは……」
苦笑いを通り越してドン引きするシャルルくん。
悶絶する一夏を背景に、僕は淡々と掃除を進めて行った。