成層圏を越えて、手紙を貴方に   作:おもちゃ箱

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戦闘描写難しいッピ……


託し、そして託され

 あの後、事態は取り敢えず収束し、箒さんも鈴さんやセシリアさんに慰められてなんとか持ち直した。

 

 その時に念のため聞いた、一夏がトーナメントで箒さんと組む理由がこうだ。

 

 「だってよ、俺の動きを一番よく知ってるのは多分箒だし。戦い方も似たような感じだから、連携も取りやすいだろ? 」

 

 ──とのことだ。

 

 箒さんはその言葉を聞いて少し上機嫌になり──多分、一夏の『俺を一番よく知ってるのが箒(意訳)』という部分が効いた。──かくして、彼女の告白は有耶無耶になりながらも、一夏と箒さんはタッグを組む事になったのだ。

 

 そして、時は流れ消灯時間寸前。僕は今、自分の部屋でシャルロットと一緒にいる。

 彼女は自分の携帯を取り出し、デュノア社の幹部とやり取りをしている。

 勿論、録音は忘れずに。

 

 『本日も定期連絡、ご苦労様でした。貴方に任せた『仕事』については、決して口外しないように。

 まあ、貴方は賢い人間です。そんな事は無いと思いますが、貴方の将来のためですからね』

 「はい、失礼します」

 

 シャルロットが電話を切り、一息。

 彼女はこちらを見て悔しそうに呟く。

 

 「まだ、だね」

 「ああ、証拠としては弱すぎる。奴さん、簡単に尻尾は出さないらしい」

 

 彼女が今日した連絡の中に、彼女自身を脅かす文言は含まれなかった。

 いや、圧力自体はかかっているのだが、証拠として出すには余りにも弱い。

 

 「焦らず行こう。大丈夫、一緒に頑張るって言ったろ? きっと直ぐに奴らは尻尾を見せるはずさ」

 「……うん。ありがとう」

 

 ……それでも彼女の顔色は優れない。

 それもその筈だ。彼女の無事は、学園に居るうちの三年間は確定のように思えるが、実はそうでは無い。

 デュノア社の方で召集をかけられれば、彼女に拒否権は無い。なんらかの冤罪をふっかけられてそのまま……なんていう最悪の展開も容易に考えられる。

 綱渡りの現状だ。だが、僕が焦った姿を見せて、彼女を不安にさせる訳には行かない。

 今は、焦らず、どっしりと奴らの化けの皮が剥がれるのを待つしか無い。

 

 「さて、明日も早い。今日はもう寝て、明日に備えよう」

 「……そうだね。おやすみ、星一」

 「ああ、おやすみ」

 

 部屋の電気を消し、眼鏡を外して布団に入る。

 目を閉じる前、彼女が声をかけてきた。

 

 「ねえ、星一」

 「どうした? シャルロット? 」

 「……なんでもない。ごめんね、おやすみ」

 「あ、ああ。おやすみ? 」

 

 彼女の顔は僕とは反対方向を見ていて伺えない。

 シャルロットは僕に何を話したかったのか? 僕は少しの疑問を覚えながら眠りについた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 彼が眠る前。私は、彼に声をかけた。

 ──ねえ、星一。

 思わず口が滑った。この言葉に続く言葉は、言ってはいけない言葉。

 

 『なんで、私と一緒にいてくれるの? 』

 

 つい出そうになった、『確認』と『期待』の言葉。

 『もしかしたら』を考えてしまう、浅ましい私の考え。

 でも、きっと彼は私が『大切な友達』だからと、もう一度答えるだろう。

 当たり前で、決まりきった言葉。私の、心の拠り所。

 でも、今その言葉を聞いてしまえば、きっと私はそれ以上の関係が欲しくなってしまう。

 奥に蓋した気持ちが、溢れてしまう。

 

 隣で眠る彼は、規則的に胸を上下させ、起きる気配は無い。

 優しい彼が望む、『親友』という枠組みの関係。

 その関係を飛び越える権利は、私には無い。

 

 だから、今日の篠ノ之さんは少し羨ましくて、妬ましい。

 伝わってなかったみたいだけど、彼女は相手に好意を素直に伝えることができる。

 たった、それだけの事が、私には出来ない。

 親友という枠組みを越えようとして、彼に嫌われるかもしれないというリスクが、どうしても恐ろしい。

 

 多分、このままいけば、彼は素敵な女性と出会って、恋に落ちて結ばれる。

 彼は誠実で、優しくて、とても魅力的な男性だから。今は一夏に隠れてるけど、きっと他の女子が放っておかないだろう。それでも、私は彼の親友のままで。

 そのことを想像すると、蓋をした心の中身がじくじくと痛むけれど、それでも大丈夫。

 私は、大丈夫。

 

 ──大丈夫なんだ。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 次の日。

 いつものように起きて、ランニングして、朝食食べて、授業して。

 そして放課後。今日は特に何の予定も入っていないので、今後のために整備室の使用を職員室に申請した。

 

 ──その帰り道だった。

 

 「誰か!? 誰かっ!? 」

 

 アリーナの前が俄かに騒がしい。

 それも、普段のような黄色い悲鳴ではなく、本気の悲鳴だ。

 

 「あ!! 平賀くん!! 大変なの!? 助けてっ!! 」

 「な、何があったのさ? 一体? 」

 「良いから来てっ!! 」

 

 クラスメイトの相川さんに手を引かれ、アリーナの中へ入る。

 そこには、目を疑う光景が広がっていた。

 

 「──っぐ……! 」

 「うぅ……」

 

 アリーナの中央部分、三人の人影。

 そこには、ボロボロになって倒れる鈴さんとセシリアさん。

 そして、そんな彼女達を痛めつけるボーデヴィッヒさんの姿があった。

 

 おいおいおいおい……!

 

 「ありゃ、まずいだろ……!! 」

 

 僕はすぐにピットの方へ向かい、護星を起動。

 盾と近接武器を手に、ボーデヴィッヒさんの元へ突貫した。

 

 「うおおおおおおおおおおおりゃああああああああ!! 」

 「──っな!? ぐぅっ!? 」

 

 盾を構えて突貫し、ボーデヴィッヒさんに思い切りぶつかる。

 ボーデヴィッヒさんは僕に不意を突かれたのかそのまま体当たりを受け、吹き飛ばされる。

 しかし、すぐに体勢を立て直し僕に向き合った。

 

 「不意打ちとは、結構なご挨拶だな。肉盾」

 「それはどうも。それにしても……試合にしてはやりすぎじゃないか? 」

 「ふん、少し挑発したらこいつらが乗ってきたのでな。どんな実力かと試してみれば……このザマだ」

 

 蔑むように鼻で笑う彼女。

 その彼女の態度に、たぎる怒りが抑えられそうに無い。

 でも、まずは二人の安否が心配だ。

 

 「鈴さん、セシリアさん。大丈夫? 」

 「せ、星一……退きなさい、あいつは、あいつは一夏のことを……」

 「許せませんわ、断じて……断じて……!! 」

 「オーケー。それだけで何があったか大体わかる。でもその身体じゃ戦えないでしょ。退がれる? 」

 

 しかし、僕の問いに彼女達は首肯するも、立ちあがろうとして崩れ落ちてしまう。

 ダメージレベルはかなり高い。動けそうにない彼女達を見てどうするか考えるが……

 

 「ほら、どうした? 来ないなら──止めを刺すぞ」

 「──っ!? ふざけんじゃねえぞテメェ!? 」

 

 ボーデヴィッヒのレールキャノンがセシリアさんを捉える。

 反射的に彼女に向かってもう一度突進する。

 瞬時加速も使った全速力のスピード。躱せるものなら……!

 

 しかし、突っ込んだ先の視界に、ボーデヴィッヒの姿は無い。

 

 ──躱された!? 糞っ!?

 

 全力の突進は僕の機体の姿勢をぐらつかせる。視界の左端、何とか彼女の姿を収める事に成功したが、体勢を立て直せない──!

 

 彼女のかわした方向へ振り向くと、既に彼女は僕に照準を定めていた。

 

 「ほら、ご自慢の盾で防いで見せろ!! 」

 「──っ!? 」

 

 彼女の銃口から閃光が迸り、光を認識した瞬間、崩れた姿勢の中で、かろうじて盾を構える事が出来た。

 

 ──瞬間、衝撃。後轟音。

 盾越しに走る衝撃の痛みに顔を歪ませる。

 ……痛い。衝撃だけで、腕が吹き飛ばされるかと思った。

 これを……傷ついた彼女達に放とうとした……?

 

 ……トサカに来たぞ。これは、戦う事の出来ない相手に撃つ代物じゃない……!!

 

 「舐めるなぁっ!! 」

 「何っ!? 」

 

 レールキャノンを打たれながらも再度盾を構えてブースト蒸して突進、急接近。

 彼女は驚きながらも先程のように左へかわして距離を取る、が。

 

 「──読んでんだよぉ!! 」

 「ちぃ!? 」

 

 僕は左手に持った紫電雷棍でかわした先に居る彼女に殴りかかる。

 盾で隠して見えないように隠し持った僕のスタンバトン。躱せるものなら躱して見ろ!!

 

 「がぁあああああああ!! 」

 「ほぅらもういっちょおっ!! 」

 

 電流の威力を障害が残らない程度にギリギリにしてぶちこむ。

 痛みは強く、動けなくなるだろうが、体にダメージは残らない筈。

 

 「調子に──乗るなぁっ!! 」

 「嘘だろ!? ぐっ!? 」

 

 瞬間的に視界に大きく映ったプラズマ手刀。

 

 早──!!

 

 「ぐぅおおおおお!? 」

 

 世界が回転し、ボーデヴィッヒとの距離が離れるのを感じる。

 吹き飛ばされた、と理解したのは数瞬だが、姿勢を整えるのに数秒を要する。

 ──ここは、彼女の領域だ。

 

 開いた距離の中、彼女とどちらが先に動くかの睨み合いが始まる。

 

 シールドエネルギーの残量に余裕はあるけれど、盾は灼け、開いた距離が致命的に痛い。

 

 ここは、彼女の得意レンジ。

 右肩のレールキャノン、未だ見せていないワイヤーブレード。

 動けない彼女達を庇いながらだが……やるしかない。

 

 ──その時だった。

 

 「星一!! 鈴とセシリアは無事だ! 」

 「星一! 無事!? 」

 「一夏!? シャルルくん!? 」

 

 ISを身に纏って動けない彼女達を保護する、一夏とシャルルくんの姿がそこにあった。

 

 「星一、お前はもう退がれ。あとは俺がやる」

 「一夏!! でもよぉ!! 」

 「冷静になれ! お前の護星だってダメージが蓄積してる筈だ! 今は、退がったほうが良い」

 「っ……! はぁ……。わかった。後は任せるぞ」

 「おう」

 

 僕はボーデヴィッヒを一夏に任せ、シャルルくんの元へ向かう。

 二人とも、酷い怪我を負っている。

 

 彼女の余りの所業に、自然と拳に力が入り、マニピュレーターがギシリと歪んだ音を鳴らす。

 

 「星一、大丈夫? 」

 「ああ、なんとかな。取り敢えず、直ぐに鈴さん達を医務室へ」

 「うん!! 」

 

 僕とシャルルくんはISを外した彼女達を他の女子達が用意した担架に乗せて、直ぐに医務室へと向かった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 医務室。

 傷ついた鈴さんとセシリアさんの意識は今も無い。

 彼女達のISは酷く傷つき、それは搭乗者でもある彼女達も同様。これは、学園内で起きる喧嘩の域を超えている。

 

 「星一! シャルル! 鈴達は!? 」

 「一夏、箒さんも」

 

 事態を聞いて駆けつけた箒さんと、あの後ボーデヴィッヒの相手をしていた一夏が医務室にやって来た。

 

 「一夏お前、あの後ボーデヴィッヒとどうなったんだよ? 」

 「暫く戦ってたんだけどよ。千冬姉……織斑先生が止めてくれたんだ」

 

 学年別トーナメントまで、一切の私闘を禁ずる。だってさ。と、彼は付け加えて説明をしてくれた。

 なるほど、織斑先生が出てくれたのなら、暫くボーデヴィッヒが暴走することは無いだろう。

 少なくとも、トーナメント開催までは。

 

 「う……うぅ……」

 「こ、こは……? 」

 

 「……! 気がついたか」

 「鈴! セシリア! 」

 

 状況の説明を受けていると、鈴さん達の意識が戻った。

 良かった……命に別状は無いと言われてはいたけれど、やはり心配だったんだ。

 

 「一夏……箒……それに星一とシャルルも」

 「私たち、彼女に勝負を挑まれて……それで……」

 

 鈴さんがベッドの上で手を握りしめる。

 爪が、手の皮膚を貫いてしまうのでは無いかというほど、悔しさを滲ませて。

 

 「アイツ……! 一夏の事を馬鹿にしたの……! 『姉の影に隠れる腰巾着』だとか、『ISに振り回される木偶の坊』とか……!! 」

 「そんなの別に言わせておけば──」

 「言わせておける筈がないでしょ!! アンタの苦労も、努力も何も知らないでっ!! 好き勝手言わせて、たまるもんですか……」

 「鈴……」

 

 鈴さんの言葉に、一夏は何も返せない。

 沈む空気の中、またも医務室の扉が開かれる。

 

 「鳳、オルコット。気が付いたか」

 「二人とも、大丈夫ですか? 」

 「先生方、ボーデヴィッヒはもう良いので? 」

 

 僕の質問に対して、織斑先生が淡々と答えてくれる。

 

 「ボーデヴィッヒは五日間の謹慎処分とした。……そう顔を顰めるな。足りない、とでも思っているのだろうが、これも学園の規則として決定されている事だ。これ以上重い罰は与えられん」

 「……ええ、理解してますよ。勿論」

 

 理解は出来る。だが、納得は出来ない。

 しかし学園側の決定がそうならば、一生徒である僕が意義を唱えてもどうする事も出来ない。

 

 「でも、五日間、か」

 「ギリギリ、彼女も大会に出場出来るって事だね」

 

 シャルルくんが顎に手を当てて大会までの日にちと、彼女の謹慎期間を照らし合わせる。

 確かに、彼女の謹慎明け翌日が大会本番だ。

 

 「上等! リベンジしてやるわよ! セシリア!! 」

 「勿論ですわ! 鈴さん!! 」

 

 リベンジに燃える鈴さんとセシリアさん。

 しかし、それを許さない存在が、この場には居る。

 

 「いけません!! 」

 「何でですか!? 」

 「何故です!? 山田先生! 」

 

 山田先生が腰に手を当て、燃える彼女達を制止した。

 

 「貴方たちの専用機はダメージレベルが高く、とてもじゃありませんがこのまま直ぐ修理して大会には間に合いません! 」

 「それじゃあ! 」

 「訓練機を使ってでも! 」

 「いけません!! そもそも、貴方たちの身体も全治二週間の大怪我なんですよ? 大会に出場することは、許可出来ません! 」

 「「そんな……」」

 

 ここに来てのドクターストップ。

 鈴さん達はその顔を悔しさに歪ませて意気消沈してしまう。

 しかし──

 

 「だったら俺が仇をうってやる」

 「一夏……」

 

 一夏は、覚悟した表情でそう言葉にする。

 そうだ。こいつはこういう奴だ。

 驚くほどに鈍い奴だが、何処までも真っ直ぐで、一直線。

 友達が傷つけられたら、彼は黙ってられない。

 

 だからこそ──

 

 「君だけじゃない。僕もだ」

 「私もだ」

 「僕だって」

 「星一、箒、シャルル……! 」

 

 僕らだって、黙っていられる筈がない。

 

 「アンタら……じゃあ、任せたわよ。あの銀髪の透かしっ面、しっかり歪ませて来なさい! 」

 「任せましたわ。皆さん! 」

 「おう! 任せとけ!! 」

 

 僕らは、こうして彼女達に託される形で大会に臨む事になる。

 

 ──そして、大会当日。

 

 「ヒュウ。一夏、箒さん。幸先が良いね」

 「出来レースなんじゃないかって疑っちゃうくらいだね……」

 「良いじゃねえか。待つ手間が省けたってもんだぜ。なあ、箒? 」

 「無論だ」

 

 学年別トーナメント、第一試合。

 

 織斑一夏&篠ノ之箒 対 ラウラ・ボーデヴィッヒ&鷹月静寐。




特に何も知らない鷹月静寐さん。(15歳)
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