一人はつらいよ   作:ハラシキア

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酒場

とある大衆酒場。

一般的な中堅パーティーが良く利用出来るほどにリーズナブルな価格設定の店。

街でも実力者とされる名の知れたパーティーが奥の広々とした空間を陣取っていた。

 

有望な新人に恩を売っておくため、そのパーティーメンバーと新人数名が和気藹々とそれなりに豪勢な料理と酒を口に運びつつ、雑談で盛り上がっていた。

 

「ところで龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の話を聞きたいんですが」

 

パーティーメンバーの空気が一変する。

苦笑や苦虫を嚙み潰したような表情のメンバーが多い中、パーティーのリーダーだけが慣れた様子で口を開いた。

 

「別に俺らは龍殺し(ドラゴンスレイ)には参戦出来た訳じゃない。安全圏から死闘を眺めていた傍観者だぞ」

 

「いえ、その偉業の目撃者としての話が聞きたいんです!」

 

見習い魔法使いの少女は興奮した様子で続ける。

 

「あの人の活躍を少しでも知りたいです」

 

「あー、そういうことね……」

 

パーティーメンバーの視線が温かいものに変わる。

よくある事だった。彼に憧れた新人は珍しくもない。

彼女もその一人だった。そういう話なのだろう。

 

息を吐き周囲を見渡す。

パーティーメンバーは彼に視線で催促していた。

面倒だと言わんばかりに酒や料理に手を伸ばし始める者も居た。

 

リーダーに丸投げするつもりらしい。

いつも通りとはいえ、厄介事と押し付ける仲間達に何も思わない訳がない。

仕返しすることを決意しながら、にこやかな対応で話を始めた。

 

 

 

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)

その称号はこの大陸においては、それほど珍しい訳では無かった。

 

貴族の騎士団や有名クランには当然の様に掲げられる称号。

難易度はそれ相応に高いとはいえ、一定以上の強さを保証出来る箔だ。

 

現時点でもドラゴンは強大な魔物であることに変わりはない。

その一方で数々の討伐記録から対策も容易になった。

種族差というのは無視出来るものではないが、それでも決して倒せない怪物ではない。

爪、牙、尾、翼、吐息、体。それらの攻撃手段を少しでも制限し、万全の態勢で確実に討伐する。

多少の犠牲は出てはしまうだろうが、それでもその功績は計り知れない。

残酷だが必要経費とも言えた。

 

そんな強敵に一人で挑むのは自殺行為だ。

大陸どころか世界でも数名しか達成出来ていない偉業。

挑んだ強者は数知れず。歴史的にも夥しい骸を積み上げている。

 

栄光とは眩い輝きがあるものの、手に出来るのは天運と実力を兼ね備えた勇者のみ。

その上、ドラゴンへの挑戦権は各国が厳正に管理している。

有望な強者を失った挙句、逆鱗に触れたドラゴンへの対応は生態系と周辺地域の影響。

文官が泡を吹いて倒れる程の被害が確定し、そのドラゴンも討伐は避けられない。

それらを考えれば、国が挑戦権自体を管理するのは当然だった。

 

しかしながら、ドラゴンという生物は身勝手な暴君である。

人間の都合などお構いなしに災厄として唐突に現れる。

 

明らかに想定外だった。

どうしようもない。対策など何も出来ていなかった。

 

交易の地として栄えていた街、ヴァイク。

大商人たちの合議制の土地で、各国から中立地帯として知られていた。

特殊な立地だ。冒険者ギルドの地方支部にして中堅冒険者達が腕を磨く街。

有望な冒険者を数多く輩出してきた場所だった。

 

そんな場所にドラゴンが襲来した。

国家の承認がいる龍殺し(ドラゴンスレイヤー)のクランも騎士団も居る訳も無い。

上位冒険者近くになれば、更なる稼ぎと高みを目指して移動するのが普通だ。

とてもじゃないが、彼らにドラゴンを討伐するのは期待できない。彼ら自身も時間稼ぎが肝要だと考えていた。

 

そこに一人の怪物が紛れ込んでいた。

魔法剣士で異邦の地からやって来た青年である。

 

ドラゴンという強大な敵に怯える冒険者たちを尻目に一人勇猛果敢に戦闘を開始した。

多少は期待していたのは事実だった。正直、頭一つは抜けた実力の持ち主であることは、少なからず冒険者の中では共通認識であった。

渡り合っていた。消耗具合から見て不利であることは明白であったが、戦いが成立していた。

 

援護をするべきだった。だが、誰もそれをすることを恐れた。

死闘を。彼の死の舞踏が。あまりにも人を惹き付けた。

狂人が新たな英雄譚の到来を彷彿とさせた。

 

次第に戦況が狂人優勢に変わっていた。

魔力欠乏障害。魔力中毒とも狂戦士病とも言われる不治の病。

同時に英雄のみ許された一時的な覚醒。

それらの症状を確認した時には冒険者全員が勝利を確信した。英雄が現れたことを実感した。

 

戦闘はそこまで時間は長くなかった。

気が付けばドラゴンの頭は縦に両断され、荒い息で笑みを浮かべる狂人がいた。

勝利の雄叫びが響く。

冒険者達には新たな英雄譚の目撃者となった自覚は無かった。

得体の知れない、人の形をした別生物の誕生に立ち会った様な、奇妙な気持ちで一杯だった。

 

だから、彼の活躍を上手く説明できない。

良く分からないまま終わっていたし、何より化物と珍妙な生物の争いを言語化するのが難しかった。

それっぽい言葉を並べて、美化した話をするのが定番だった。

 

話を終えると少女は考え込んでいる様子だった。

他の新人達が興奮しながら会話をし、真実を知っている者達は酒を飲む速度を速めた。

少女の表情だけが変わっていた。憧れを抱いていた筈の少女の身体が一瞬だけ歪む。

そのことに誰も気づかなかった。

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