俺の日常は依頼の確認から始まる。
昼前の混雑していない時間帯。ほぼ専属の受付嬢に顔を見せれば、勝手に色々と教えてくれる。
今日は特に何も無いようだ。そういう日も珍しくない。大体一時的な共闘の誘いや受付嬢からの情報収集がメインだ。
少しだけ違和感。受付嬢の様子が可笑しい。
いつも以上にアプローチも凄いし、これは何かあったと感じた。
受付嬢が周囲を確認した。自然な一瞬の出来事。
そういう話か。黙って耳を近づけた。
「龍の巣」
「……まじか……」
俺が倒したドラゴンの話だ。
長らく不明だったか、まさか見つかるとは……。
財宝の話か。正直諦めていたので、棚から牡丹餅の気分だ。
今すぐに自分で財産確保に動きたい。
だが、動けない。
下手すると前回の二の舞になる。
過去に俺はドラゴンの素材を盗まれてる。
俺は勿論、ギルドとしても二度目を起こさせるつもりはないのだろう。
ここは信頼するしかない。
ギルドの誠意と受付嬢を通すという回りくどい目的も乗る方が賢明か。
今すぐにでも豪遊したい。大金が入る事は確定してる。それなら、ギルドから金を借りて酒場に今から行く選択肢も悪くない。
それも仕方ない。宝くじ当たった人と同じような心理だろう。
今まで持ったことのない大金に舞い上がり、そして破産する。俺も恐らくそうなる。
故に現状は普段と同じ行動がベスト。
颯爽とその場を去る。
受付嬢は何か企んでそうだし、このまますんなり財宝を手に入れられる気はしない。
とりあえず、ギルドから出ようとした。
入り口に見知らぬ少女。意識がそちらに吸い寄せられた。
同門の気配。魔女の系譜で世界有数の強者しか扱う事の出来ない固有魔法。
隠蔽、隠密に擬態の三重魔法を使っているのか。相当な使い手だが、該当する知り合いが居ない。
「はじめさん!お久しぶりですっ!」
「えっ、レナちゃんだったの?強くなったね……」
嘘だろおい。三年前は魔法の制御に手間取ってた記憶しかねーぞ。
一般的な属性魔法すら扱えてなかった筈だろ。
流石は魔女の直系血統。才能開花すれば化けるかもと思ってたが、ここまでとは予想外過ぎるぜ。
うーん、どうしたものか。
昼飯にはまだ早いし、幼気な少女を家に連れ込むのも外聞が悪い。
英雄的な立ち振る舞いを多少なりとも頭に入れておかないと、今後の活動に影響を及ぼす可能性も考慮しておかないとな。
「困ってるようでしたら、近くの森に行くのはどうでしょうか?」
「森、ねぇ。分かった、多少歩く事にはなるだろうけど、それで良いなら俺は問題ないぞ」
「ええ、では」
大魔法の気配。顔が引き攣った。
転移魔法だろう。使える可能性は考慮していたが、ここまでスムーズに発動出来るとは思ってなかった。
僅か数秒で景色が森に変わる。
近隣の森だが、明らかに人の手が加わっている。
森の中だというのに開けた場所。
少し離れた場所にテーブルと椅子が用意されていた。
後ろを振り返れば立派な家まで用意されている。
「どうぞ、お掛けになってください」
「うん」
「食事前の時間ですし、お飲み物は水しか用意出来ておりませんが」
軽く手を振るとコップと見覚えのないボトルが出現する。
ラベルを確認してみれば、有名商店と品名が書かれているが良い物としか分からない。
柑橘系の甘酸っぱい香りが周囲に広がる。
高いんだろうなぁ。少しだけ妹分に恐怖を覚えた。
談笑が続く。穏やかな時間だった。
話も盛り上がり、気が付けば昼食まで頂いていた。
明らかに手が込んだ料理で、味も申し分なかった。
これだけ尽くしてくれることに違和感は感じるが、悪い気はしないのでされるがままに享受しておく。
「ところで、私を貰ってくれる気はありませんか?」
今まで掛かっていた魔法が解かれた。
そこにいたのは妙齢の美女。
妖艶で大きな胸を強調する衣装。
黒く長い髪と垂れ目の朱い瞳が綺麗だった。
見惚れていた。
言葉に詰まる。混乱していた。
姪っ子の様な存在だと考えていた。
流石に慕われている自覚はあったが、一過性のもので幼少期に抱く年上への憧れなのだろうと楽観視していた。
暫く会っていなかったし、まさか未だに想われているとは想像できなかった。
「凄く綺麗になったね」
「沢山努力しました!」
素が少しだけ垣間見えて安心する。
本質は変わってない。ちょっと成長が予想外過ぎたな。
タイミング的に財宝云々が関係しているのは間違いないだろう。
それは事実だろうが、付き合いも長いし彼女の実力を考えれば、時間さえかければ稼げる範疇だ。
少なくない人生経験でも彼女の好意は信頼出来る。裏切られても良い。
それぐらいには良い女に成長してる。
「気持ちは凄く嬉しい。でも、俺じゃあ釣り合ってないと思うぞ」
本心だった。自分に自信が無い訳では無いが、彼女に相応しい人間であるとは思えない。
客観的に見て俺は英雄なのだろう。世界有数の強者でギルドへの貢献度も高い。重宝される人材なのだろう。
彼女は魔女の一族の人間で、今の実力を考えれば二つ名を継承するのは彼女が筆頭候補と言っても過言では無い。
容姿も天と地の差がある。そこら辺の一般人と男女問わず、人々の視線を独占する傾国の美女。
そう考えてみて、ふと我に返る。
思考が誘導されていた。動揺でおかしくなっていたが、冷静に考えて有り得ない成長だ。
違和感があった。黙って見つめ続けた。
巧妙に隠されてるけど魔法が発動してるな。
レナの顔が固まってる。焦ってるな。
「まだ続ける?」
「えっ、いや、あの……」
「こっちで解呪はしないからな」
大人の余裕で慌てる子供を見守る。
時空魔法か。魔女の系譜が強い最大の理由。
別次元の自分、可能性の断片を持ってきただけだ。
ノイズが走る。魔法は動揺すれば簡単に解ける。
魔女が何百年とその地位を確立する切欠の魔法。少しでも気を抜けば崩壊まで一直線。
すぐに見慣れた少女が涙目で現れた。
大変可愛らしい、擁護欲と無垢さを感じさせる美少女。
……こっちの方が個人的には好みなんだよなぁ。
胸はないけど。