理解が追い付かない。動揺で思考が儘ならない。
だが、黙ってる訳にはいかない。ハッキリと恥を言おう。
「俺は童貞だ」
「あら、奇遇ですね。私も処女ですよ」
「どういうことだよっ!!!」
おかしいだろ!性交渉も無しで子供が出来て堪るか!!
コウノトリでも運んできてんのか?それとも畑か?木の叉からでも生まれるって言うのかよ!
ありえない。ありえてたまるか。
俺が何時致したというのか。
どんな魔法を使ったのかは知らないが、とてもじゃないが人の扱える代物じゃない。
倫理観とか道徳に生物学、あとその他諸々に喧嘩売ってるわ。
尊敬出来ていた師に殴り込みに行きたいぐらいだ。
どうせ、
そう思って解呪魔法を撃ちこむ。……変化なし。連続で五回ほど続けた。無駄だった。駄目だった。
「何をしてるんですか?未来であんなに激しく抱いてくれたじゃないですか」
「は?」
「確定事項です。もう逃げられませんよ」
「は?」
理解できない。それは俺の知っている時空魔法には不可能な筈だった。
未来で実現させることが前提となっている。どう考えてもおかしい。不条理過ぎた。
時空魔法は簡単に言えば、過去と未来で自分がしたことを現在で使うという少々ややこしい魔法だ。
過去の場合だと事前に魔法の詠唱や武器の調達等の準備をしておくことにより、任意のタイミングで使用が可能だ。
その反面、未来からの場合は先に結果を持ってきているので使い勝手が悪い。
過去が現金で買い物してるのに対し、未来は借り物を無断使用するぐらいの差がある。
未来での行動をほぼ強制的に決定されるし、達成しなかった時のリバウンドがエグすぎる。正直、リボ払いと何ら変わらないと思うわ。
……待って、まさか俺も巻き込まれたのか?
レナの顔を見れば勝ち誇った顔だった。
このアマ、最低最悪の屑女じゃねーか!!!
えっ、逃げ道ないの?俺の嫁が勝手に確定したの?ここから入れる保険ないの?
「幻想病か。歴史的にも数少ない症例の具現化。なるほど、魔女の名を騙るだけはある。そうか、ここまで出来てしまうのか。加えて我も巻き込む手腕。今後は警戒が必要か。系譜とはいえ侮れん。ふむ、どう対処したものか」
唐突だった。意識から外れていた。
存在が希薄で今まで気にもとめていなかった。
聞き逃せない言葉が多数混じっていた。特に幻想病はレナの状態の事だろう。
黙って見つめていると、吸血鬼は不思議そうな表情をしていた。
最初の印象から一変した。正直、今まで軽視していた。舐めていた。
得体の知れなさはそのままだが、重要だと認識はしていなかった。
レナの表情はずっと微笑を浮かべている。
想定内に話が進んでいると錯覚させる。
掌で転がされてる。歯痒く、殺意すら芽生えそうだ。
一応、過去に世話になった師の血族だ。多少なりとも気は使っているつもりだ。
だが、それも限度はある。明らかにやりすぎだ。
少なくとも罰は与える。責任は未来の俺がやった事とはいえ、そうしてしまった以上は逃げるつもりは無い。
非常に不本意ではあるし、意味不明な現実だから咎める人は居ないとは思う。
元の世界とこの世界は価値観が違う。けれども、流石にこればかりは許されはしない。
酷すぎる。人間の所業ではない。
何故、真正面から堂々と好意を伝えないのか。
好ましく思っていた。恋愛対象としては見てはいなかったが、擁護対象の妹分として可愛がっていたつもりだ。
嬉しかった。あのままアピールされていれば、俺も周囲とか英雄的振る舞いを度外視して気持ちに応えただろう。
だが、もう無理だ。自らその道を断った。ならば、俺もそれなりの対応をするしかなくなる。
惜しい。本当に勿体ない。
尽くしてくれて見た目もドストライクド真ん中の存在だったんだがなぁ……。
「ふむ、では我から話を進ませて貰おう。幻想病は一時的に望む姿に変わる病だ。そこの中には誰も居ない。生命は宿って無い」
「マジで!!!?」
おいおいおい、まさかの大逆転ルートかよ!
「ああ、勘違いさせたな。もう因果関係で結ばれることは確定してる。幻想病自体は二月程で完治はするが、世界が起こることだと記憶してしまった。時空魔法と同じく、逃れられない運命だ」
「……ぁ……」
「我も当事者として巻き込まれた以上はそのような未来になるように協力は惜しまない」
「もう逃げられませんよ?」
頭が壊れる。ギリギリまで逃げられると思っていた。
もう詰みだったんだ。もしかしたら再会した時には手遅れで、俺はその時点で抜け出せない沼に浸っていたのかもしれない。
だが、まだワンチャンあるのでは?
まだ逃げれる。直ぐに行動すれば、この悪魔共が手が出せない所にいけると考えた。
唐突に吸血鬼の瞳が妖しげに光った。
不味いと思った。何か仕掛けられた。そう思っても身体は動かず、思考すら覚束ない。
「流石は現代の英雄。魅了に抵抗するとは」
「ふふっ、後はこち ら で 。 」
言語が理解できない。どうしようない。
夢に堕ちる様に、現実から遠ざかる感覚。
最後に壁だけを見て安心した。
そうして俺は取り返しが出来なくなったのだ。