TSメス堕ち俺っ娘スライムと作る宇宙最強ハーレム 作:最条真
「虚木先輩……」
虚木先輩は指定の制服姿のまま、木立の切れ間に立っていた。
シャツの襟元はわずかに乱れ、緩めた赤色のネクタイが胸元で揺れている。
その気安い着崩し方だけを見れば、放課後の廊下を歩いていても不自然ではない。
一見、どこにでもいそうな高校生。
――に見えた。
彼の右手に収まっているのは鈍い銀色をした『USP.45型』のシルバーバレット。厚みのあるスライドと無駄のない直線が、制服の輪郭からひどく浮いて見える。
銃口はぶれず、まっすぐこちらの頭を捉えている。
肩や肘に過剰な力みはなく、引き金にかかった指先だけが静かに生きていた。
腰の右後ろには、予備弾倉を収めたマガジンポーチが二本、ベルトに沿って並んでいた。黒いホルダーにぴたりと押さえ込まれた金属の輪郭だけが、制服の裾の下で鈍く光る。太腿の外側には、大型ナイフを収めるケース。二本の固定ベルトで脚に密着させるように留められていて、柄だけがすぐ抜ける位置に斜めに浮いている。必要なものだけを無造作に、けれど迷いなく手が届く場所へ置いたような装備だった。
「とんでもないねぇ、月野クン……」
空いた左手で、先輩はまるで拍手するみたいにグリップの底を打った。
ぽんぽんぽん、と。
その賞賛が向けられているのは、単純な実力じゃないとすぐに分かった。
この人にとっての関心とは――得点でも、等級でも、今この場の優劣でもない。
月野初――そのものだ。
僕のすべてを認めている。そんな錯覚すら抱かせるような、熱意のこもった瞳だった。三ツ星になったことも――得点を積み上げた戦略も――この場で見せた無茶も――そのどれか一つじゃない。
臆病さも、焦りも、勝ちたいというみっともない執着も、星を壊してしまう愚かさも――月野初という人間を形作るもの全部を、虚木先輩は面白がるように見つめていた。
僕と言うイレギュラーに対し、それ『が』いいと笑っている。
「チームの皆はどこに?」
「置いてきたよ。邪魔だから」
虚木先輩は悪びれもなく、喉の奥を弾けさせるみたいにケラケラと笑った。肩を揺らすその様子はひどく無邪気なのに、鈍い銀色の銃口だけはちっともぶれない。
「……一応、チーム戦ですけどね? これ」
「はは、とんでもない『個人技』を見せた後で何を言ってんだよ」
「僕はしっかりチームのために動いてますよ。あなたと違って」
その銃口から目を逸らさず、わざと薄い笑みを浮かべた。
「来てくれると思ってましたよ、虚木先輩。アンタは、面白そうなものを見つけたら我慢できない、子供みたいな人だから」
しっかりと、僕はチームのために動いている。いわばこれは、虚木響介という敵側の最大戦力をおびき寄せるための『餌』だ。この人が敵の指揮下にいる限り、ありとあらゆる作戦の成功率が三段階は下がる。”予想ができない駒”と言うのは、それだけで怖い。
将棋で例えるなら、ターンごとに飛車や角や桂馬にランダムに切り替わる化け物なのだ、この人は。だから、『チームで勝つ』ために、この人は集団戦から切り離す必要がある。そのための駒が、僕だ。
「だってしょうがないじゃないか。新作のゲームハードが発売されたら発売初日の深夜3時から並び出す男だもの、オレって」
「……早すぎだろ」
「ちなみに実話な」
「とんでもねぇなアンタ」
「娯楽には目がなくてね。あ、今度ウチに遊びに来るか? 古今東西ありとあらゆるゲームが揃ってるぜ?」
「それはマジで行きたいです」
――まぁ、それは、この交流戦の後で僕が生きてたらの話だけども。
この戦いには、命がかかってる。負けても悔しいで済む競技じゃない。僕と宇都宮は、この交流戦で”星座に相応しい格”を見せなければ上層部の奴らに殺されてしまうらしい。審査に至るまでもない、と言うことで。
異分子は徹底的に排除する構え――なら、取り込む価値のある遺伝子だと証明してやる。
星を砕いた。
だけど、
まだ足りないだろ?
いや、
まだ見たいだろ――?
僕はふっと息を吐いて、銃口の先にいる虚木先輩から一度だけ視線を外した。それから見上げた空は、馬鹿みたいに青く澄んでいて、その奥にはっきりと星が浮かんでいた。見つめた先では翡翠色の星が輝いていたような気がしたから――。
唇の端が、自然と吊り上がった。
「見ていてくれよ、エル」
正面の虚木先輩が、何かを心得たように笑った。
「――姉さん、始めるよ」
互いに思うことは同じ。
ここまで来てくれたからには、
――全力をもってもてなさせてもらう。
アンタもおんなじだろ?
ここまで来たってことは、全力でやりたいってことだろ?
だったら、僕たちの開戦の合図はこれしかない。
互いに、にぃっと笑っていた。きっと。
そして――
「「――《星戦》を宣言する」」
始まる。
■
世界の半分は深淵に包まれる。僕の影から湧き上がった闇が、敵を取り逃がすまいと周囲を取り囲む。そうして半球が実現する。――世界の半分は、闇。
もう半分。曇天。曇りかがった鏡のような、全ての輪郭をあいまいにする白色の霧が、まるで曇り空を形成していく。闇は地面までを侵すが、霧は周囲を曖昧にするだけで何をも侵さない。
煌々と輝く星たちが、闇の中に灯っていく。
爛々と輝く双眸が、霧の中で目覚めていく。
星の視線はすぐ間近。
僕たちが定義する『空』は、遠く離れたあの青ではなく、この闇と曇りの戦場だから。
《星の支援》は届かない。なぜなら、僕たちが望んでいないから。
「――始めようか」
虚木先輩は笑って――引き金を引き――展開を続ける燃える触手で、銃撃戦に応じた。放たれた五発の弾丸を、全て『先端』と『中程』ではじき落とす。
多少焦げたが、――多少。純粋な異星体ではなく――人との混ざりものである僕には、特攻効果も半減以下だ。
それに対し、虚木先輩は多少驚いたように目を見開いた後で、笑い――前傾姿勢で突進する。
「おっかしいなぁ! 一応『異星体特攻』の銃だぜ!?」
虚木先輩は、銀色の弾丸が触手に通じないと悟った瞬間、ためらいなく銃を前方へ放った。投擲というより、視界を裂くための一手。
鈍い銀が弧を描いた一拍の隙に、右手はもう腰へ走っている。抜き放たれた大型ナイフが、曇天めいた霧の中でぎらりと閃いた。
次の瞬間には、先輩の姿は目前まで迫っている。
構えていた銃で反撃。
至近距離で二発。
首をひねるだけで避けられ、ナイフで宙で切り落とされる。
化け物が。
バックステップを踏み、――それを超える速度で接近され、銃口の先に既に虚木はいなかったから、僕は頭にぶちかますように銃を振り落ろしたが、それよりも早く頭突きが腹に直撃――痛みはないが、姿勢を崩す――更に追撃のナイフ――が、僕の触手は考えるまでもなく『自律』して動いてる。
第二の脳として存在する宇都宮は、迎え撃つように燃える触手を幾筋も走らせていた。だが、その全てを虚木先輩は人外じみた身のこなしでかわした。半歩ずらし、身を沈め、肩先ひとつで軌道を外す。援護射撃も織り交ぜたが、ありえないナイフ捌きで弾かれる。
「こんなもんか!? 月野ォ!!」
「んな訳ねぇだろ!!」
高揚感に支配された言動と共に、僕の左手は腰へ落ちた。ホルスターの留めを親指で弾き、収まっていた『二挺目』を一息に引き抜く。
銀色の銃身が右の一挺と並び、夢の二丁拳銃が成立する。
「――《
腕が重いとか、照準がぶれるとか、そんな懸念は消え失せた。今の僕の身体には、結姫乃の長年の戦闘経験によって培われた戦闘技術の一端が宿っている。
宇都宮が結姫乃の記憶をラーニングすることで解放された――俗にいう『レアスキル』の一種。他人の戦闘経験を自分のものとして扱う――故に。
「ぶっ殺してやるよ!」
叫ぶと同時に、僕は左右の引き金をほとんど間を置かずに絞った。
二挺の『USP.45型』が重なるように火を噴き、銀色の弾丸が連続して虚木先輩へ走る。片方はボディ。もう片方は、そこから逃げる軌道を潰すように半歩外側へ。
熟練の使い手みたいに、照準も反動制御も完璧だ。
右――左――右――左――
発砲音が途切れず連なり、火花と硝煙が曇った戦場を裂いていく。ただ闇雲に撃っているんじゃない。虚木先輩の回避先、踏み込みの癖、肩の沈み、――宇都宮がいつの間にか分析している彼の癖を更に反映させ――弾幕で殺す――のは嘘。
二本の触手が、地を這うように迫り、脇腹を抉るような速度で迫り――それは回避されたが、流石に銃弾の一発は命中。ようやく回避されない攻撃が出てきた。
二丁拳銃+二本の触手の布陣で銃弾が持つうちに殺し切りたかったが――弾切れ。引くまでもなく十三発を使い切ったなら次はないから、不必要と言わんばかりに片方の銃を虚木先輩に乱暴に渡してやった。
「野っ――蛮だなァ、月野クン!!」
「こういうのが好きなんだろ!?」
「よくわかってんじゃねぇか」
二丁拳銃は一度限りの奇襲――触手で時間を稼いでいるうちに右手の銃のリロードを済ませる。スキルスロットは《
『スキルリセット』――三十秒間、スキルを使用しなかった場合、今のスキルスロットはリセットされる――星狩りの中での常識。
「守りに徹するのは許さないぜ?」
迫った触手の芯を、虚木先輩のナイフが正確に捉えた。
銀の軌跡が一閃した瞬間、燃えながらうねっていた一本が、まるで根元から噛み千切られたみたいに断ち切られる。遅れて黒い火花と灼けた肉の臭いが散った。切断面は暴れるように痙攣し、熱を撒き散らしながら地面へ落ちる。二本目も続けざまに裂かれた、切断されたところで再生するが――数秒の時間を要する――その数秒が致命的だ。
そのまま流れを奪うみたいに、インファイトを仕掛けてきた。ここで対応するようにさらに二つ目の《スキル》を使用するわけにはいかない。
二つの手を明かした状態で、まだ『不明』な四つの手を持つ相手と戦う不利状況を作るし――触手で稼いだ十数秒が無駄になる!
スキル未使用での対応――どうする――ってもうすでにナイフは迫っている――が、僕の増幅されたアジリティは捉えていた。《オーバーロード》を経験した僕の神経伝達速度と筋出力は今、常人の限界を遥かに超えている。
――スキルに頼るまでもなく!
「殺してやるよ!」
来る。
思考より先に、右手の銃を跳ね上げていた。振り下ろされたナイフの軌道に、銃のグリップとフレームを無理やり差し込む。甲高い衝突音。指に痺れが走り、手首が軋む。
銃でナイフを受け流す!
まともに受けたんじゃない。斬撃の芯をわずかにずらし、そのまま外へ滑らせるように受け流しただけだ。それでも十分だった。腹を裂くはずだった刃は脇を掠めて空を切る。遅れてきた実感に喉がひりつく。はは、怖ぇ。
一撃目は阻止――が、当然振り上げの二撃目――もう小手調べは十分だとでも言わんばかりに、
「《超新せ――」
来るのが分かったから、
「《
後見星の力を借りた渾身の一撃を僕は守りに使い、
「――ぃ」
彼は星の力を借りた斬撃を放った。
■
虚木先輩の刃から迸った星の斬撃は、白熱した尾を引きながら一直線に迫った。
僕の足元から立ち上った闇がそれを受けた。
底なしの黒から、腕とも顎ともつかない“何か”が這い上がり、不定形の輪郭で斬撃を受けた。眩い白と、光を呑む黒が真正面から衝突する。
耳を裂くような破裂音。霧が千切れ、闇がひしゃげ、星光が砕けた火花となって周囲へ散った。
拮抗は一瞬だった。
空を形作っていた闇も曇天も、その均衡ごとひび割れる。
戦場を覆っていた『星戦』は、硝子が砕けるみたいに音もなく崩れ、現実の森と鈍い昼の光が、静かに戻ってきた。
視界が晴れれば、子供みたいな笑みを浮かべている虚木先輩がいた。
「――こっからが第二ラウンドってところかな?」
「……そうですね」
頷くと同時に気付く。
僕の触手は発火をやめていた。
【極点】は終了したが、いいお知らせが一つ。
極点と同様、《超新星》もまたスキルスロットに含まれない。
スキルのリセットは既に完了していた。さて、第一目標は達成。相手に星戦を使わせ、かつ《超新星》を受け切った所で、僕の戦果としては上々。お偉方も僕に猶予くらいは与えてくれるだろうが――僕は負ける気でやってねぇぞ。
「第二ラウンドだ。虚木先輩」
「そうだな」
彼は頷いて――。
「【極点
宣言した。
次回、『無心VS野心』(終末)