TSメス堕ち俺っ娘スライムと作る宇宙最強ハーレム   作:最条真

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46『あ、僕は焼きそばパンでお願いします』

 

 

 九月の刺すような日差しが、よく整備されたグラウンドに白々と照りつけている。夏の名残を感じさせる重い熱気と、微かに舞う土埃の匂い。

 そこへ、鼓膜を突くような喧騒が幾重にも重なって押し寄せていた。あちこちで鋭く空気を裂くホイッスルの音、クラスメイトを鼓舞する熱を帯びた声援、そして色とりどりのスニーカーが一斉にトラックを蹴り上げる。その鈍い摩擦音が、グラウンド全体をうねるように震わせていた。

 

 リレーの最中だった。体育祭に向けたクラス対抗リレーのタイム測定。僕は最後から二番目の走者として、所定のバトンゾーンで前の走者を待っていた。

 

「――月野、頼む!」

 

 そして、必死の形相でコーナーを回ってくるクラスメイトを見つめながら、僕はひどく深刻な悩みを抱えていた。

 

 ――本気で走ったら日本記録更新しちまうんだよなぁ……。

 

 夏休みの間に《三ツ星》になった僕の身体能力は一般人の枠を完全に逸脱している。もし僕が本気でグラウンドを走り抜ければ陸上の日本記録など易々とへし折ってしまう日本陸上界の期待の星としてニュースのトップを飾るのはごめんこうむる。

 

 求められているのは『クラスで二番目に足が速い奴』という絶妙なラインだ。大体50メートルを6秒台後半で走り切る速度感。その速度で走り抜けアンカーの有へ繋ぐ――!

 

 

「――――傍から見ても速すぎますね」

 

 リレーの練習が終わるなり、僕は人気者の有を尻目にトラックを離れた。

 肩で息をする演技をしながら冷たいコンクリートに腰を下ろす。

 矢先、音もなく横並びに腰掛けた真白の発言だった。

 

 彼女は冷たいスポーツドリンクを自分の頬に当てながら、いつも通り、冷ややかな目線を僕に向けているのだった。

 

「……やっぱり?」

 

 僕が問いかけると、彼女は小さなため息とともに還す。

 

「まぁ、素人目には分からないと思いますが……。有さんが力を抜いて調整してくれたとはいえ、力の抜き方を覚える必要がありますね、あなたは」

「途中で走るのが楽しくなっちゃったんだよな」

「子供ですかあなたは。もう少し力加減を覚えてください」

 

 はぁ、と真白が溜息を吐く。それから、ペットボトルの蓋を開けようとして――む、と微妙な顔をした。力不足を悟ったのだ。彼女はこちらに向けてボトルを差し出した。

 まさか、くれるわけでもあるまい。

「開きません」

 その一言で役目を悟った僕は、笑いながらボトルを受け取り、蓋を緩めてやった。

 

「……感謝します」

 

 憎まれ口でも叩かれると思ったが、意外に意外、真白はペットボトルを受け取ると小さく頭を下げた。僕は謝意を受けて、なんだか少し気分が良くなりながら、改めて視線をグラウンドに向けた。

 

 一組・二組・三組の合同授業。九月に入ってから火金に決まってある『体育』の時間は、再来週に迫った『体育祭』の練習であることがほとんどだ。

 刺すような日差しの下では、一組から三組までの生徒数十名が入り乱れ、合同体育の貴重な時間で各競技の練習に励んでいる。

 大縄跳びやら二人三脚やら騎馬戦だの、練習は山積みだ。

 

「……一息ついたら二人三脚の練習しに行くか」

「そうですね」

 

 残念なことに、僕は有とペアじゃない。二人三脚は男女別で組む決まりだった。その仕様上、有が他の男とベタベタくっつく事態は回避できるが僕が女とベタベタくっつくことになってしまうのである。

 まぁ、運動能力の都合上、真白と一緒になったのは都合が良かった。清々しいまでの仏頂面は、今の僕の精神衛生にとっても良い。

 

 現在、人生最高のモテ期を更新している疑惑がある僕なのだが(夏休みのうちに三人も彼女を作っておいてモテていないと言うのは無理がある)、これ以上女の子に好意を寄せられても困る――僕のクズ度に拍車がかかるので――どうにか運命様に阻んでもらいたいところだった。おそらく、久方ぶりに神は微笑んだのだろう。清々しいまでの仏頂面は傍に置いていて安心する。

 恋愛イベントが進展しまくりの体育祭で全く脈がない頑固者と組めて本当に良かった!!

 

「何ガッツポーズ取ってるんですかあなたは」

 

 あっ無意識に……。

 

「自然と気分が高揚して……」

「美少女が隣にいるからとか言わないでくださいよ。そんなことを言ったら物理的に距離を取りますからね」

「違うけど違わねぇ……」

「どっちですか」

「名も知れぬ美少女じゃなくて真白が隣にいて助かってるってだけ。……てか自認美少女なの?」

「この業界で“上”にいるってことはそういうことですよ」

 

 真白は何でもない様子で言う。

 事実、その言葉に反論できない程度には、隣に座る彼女の容姿はひどく整っていた。

 

 白いビー玉みたいな少女だった。ガラスに陽を透かした時の輝きのような、純粋な眩しさが彼女には宿っている。

 さらさらと風に揺れる艶やかな白のショートカットに、知性と冷たさを内包した涼やかな青い瞳。九月の和やかな日差しと彼女の肌は調和していて、まるで丹念に磨き上げられた陶器のように白く透き通っていた。

 しかし、九月は長袖には早すぎる。薄手な体操着は、猫のようにスリムな体躯に反して予想以上に豊かな胸の起伏を隠しきれていなくて、僕は静かに見なかったことにした。

 

 総評して――まぁ、頷ける。星に愛される人間というのは、人に好かれるかたちをしてる。上に行けば行くほど美形率が上がるというのは自然の残酷な摂理だ。

 

「……そうなると急に僕自身はどうなのかって不安になるんだが」

「まぁ……。――元気出してください」

「お前途中でフォローを諦める癖あるよな!?」

「無理なものは無理なので」

「何が無理なんだ僕の顔か!?」

「まぁ……」

「もう少し言葉を振り絞ってくれ!」

「時には諦めも肝心ですよね」

 

 真白はにこりと笑った。甚だしく心外である。僕の顔を勝手に諦めないでもらいたい。いや僕当人が諦めていないって言うか自分は美形だと思っているんだが。もしかして違うのか? 行き過ぎた美意識という奴なのかもしかして。もしかして僕は彼女たちに持て囃されて認知が歪んでいるだけ? 

 これは早急に確認が必要だ。今すぐにでも!

 

 どんな真実であれ確実にオブラートに包んでくれる有の姿を探したが、奴はちょうど二人三脚の準備をしている真っ最中だった。屈み、有が足に紐を結び付けている女は宮古入菜。お団子頭の関西弁で僕から学年二位の座を奪い取ろうとする宿敵、今も本来僕がいる場所でニコニコとしている憎き団子――おっといかん冷静になれ。僕は有の事となると度々正気を失う。人のことを団子呼ばわりするなんて明らかに正気の沙汰じゃない。

 

「どうしちまったんだ僕は……」

 

 夏休み前まではクールで皮肉屋な優等生として通ってきてたのに、何かがおかしいぞ。頭をスライムにでもやられちまったんじゃないのか? 明らかにやべー奴への道を進みつつあるって言うか有が可愛すぎるのが悪いんだが。

 

「ジェラシーが燃えるぜ……」

「何言ってんですかあなたは」

「早くひとっ走りしたい気分になってきたんだがお前はどうだ?」

「はぁ。……まぁ。別に一緒に走るのは構いませんが。あからさまに《星魂》を暴走させるのはやめてください」

「? 星魂を、暴走?」

 

 きょとんと首を傾げる僕を見て、真白は深く溜息をこぼした。呆れ果てた彼女の青い瞳が、僕の顔を真っ直ぐに射抜く。

 

「まぁ、知らないなら良い機会ですし教えてあげます。星狩りの“身体能力の抑え方”について。……知っての通り、日常生活の私はペットボトルの蓋すら開けられないほど貧弱です。ですが、事戦闘に至ると一変、とんでもない怪力を発揮します。これは意識的に星魂によって身体能力を向上させているために起きます。

 

 ――ここで聞きますが、星魂とは何かご存じですか?」

 

「体力とは真逆の、精神的エネルギー。精神力が、《星の加護》によって強化されて、現実世界に直接影響を与えるまでに昇華されたもの」

 

 真白が、『分かってるじゃないですか』とでも言わんばかりに頷いた。

 

「概ね正解です。古臭い精神論で身体能力の向上は見込めませんが、星魂での能力向上は見込める。“星魂”は現実のすべてに作用しますから。……これは有名な話ですが、星狩りは無意識のうちに星魂によって身体能力を向上させている。逆説的に、星魂を意識することさえできれば、身体能力を抑えることも可能と言う訳です」

 

「なるほど」

 

 簡潔で分かりやすい。

 

「星魂とは言わば、精神力の塊。つまり、精神が昂れば昂るほど強い効果を発揮します。理論上は、自分の精神を自分で支配することができれば、自由自在に出力を操れるということです」

「それって難しくね?」

「まぁ、そうですね。精神を押さえつけるのは限度がありますし。なので、気を抜くのが一番かと。……ま、それも難しいんですけれど。私もうまくできませんし」

「ふーん……?」

 

 その割には、さっきペットボトルの蓋すら開けられない貧弱っぷりを発揮していたような。

 

「まぁ要領は分かった。ひとっ走り行こうぜ」

「はぁ。そんな簡単にできる訳……」

 

 

 ――――特に意識しなかったら普通にひとっ走りできた。

 

 

「なんでできるんですか?」

「星魂を使わないことを意識したらなんか……」

「は????」

 

 普通逆に力むんだよ的なことを説教されながら頬をつねられた。監視役なのに威厳がないなと言ったら不機嫌な顔が小一時間続いたので、僕の命と世界の平和を守るために購買でイチゴオレを奢ったら無言で受け取り「次はありませんからね」と言い残し去っていった。おそらく危機は逃れた。

 

 

 ……あ、僕は焼きそばパンでお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




たまにはこんなコメディチックな回があってもいい。(しっかりシナリオは進行してる)

真白ちゃんはなんでペットボトルの蓋を開けられなかったの? ねえ?

月野はいつも強い理由は精神が昂ってるからだってはっきり分かんだね。

この作品面白い?

  • 面白い!!(替えが利かない中毒性がある)
  • 面白いっちゃ面白い(まぁ替えは利くけど)
  • 別に…(←ツンデレだと自己解釈します)
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