TSメス堕ち俺っ娘スライムと作る宇宙最強ハーレム   作:最条真

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48『結論は急がない』

 

 

 半ば現実逃避であることは自覚していた。可愛い有をいじめて賢者モードに至った僕は、改めて都合の悪い現実と直面せざるを得なかった。

 

 ――友達と呼べる存在が、有一人しかいない。

 

 それってどうなんだ、とふと思う。普通の高校生ってば、もっと友達とキャッキャウフフしながら青春を謳歌する生き物なんじゃないだろうか。僕の人生は僕の人生で充実しているのは当然なのだけど、もう少し、同年代の友人との青春的イベントはないのだろうか? 

 

「そこんとこどう思う、真白」

「どうして私に話を振るんですか」

 

 呆れた、と言わんばかりに溜息を吐く真白に、僕は滔々と放課後の出来事を思い出しながら続ける。

 

「ほら、体育祭も近づいてきてさ、クラスTも届いて一致団結って雰囲気がクラスに流れ始めたじゃん」

「ですね」

「で、クラスの仲を深めるために親睦会を行おうぜって風潮がある」

「行けばいいじゃないですか」

「勿論行くとも。僕はな。今思い返せば高校生になりたての僕は拗らせてた。宇都宮を蛇蝎のごとく嫌うがあまり嫌悪の対象を世界にまで広げて――」

「特段あなたの過去に興味はないんですが」

 

 冷たい。バイト中、五十鈴先輩に代わってバディを組むようになった真白はいつもこうである。“銃”が手元にある使命感がそうさせるのか、学校生活と比べるとその表情はずっと頑なだ。異星体を探す《パトロール》の時間の真白は、真面目モードでやりづらいので、楽しく仕事を行うためにも、少しばかり僕が場を温める必要があった。

 足繫く街を見回りながら、雑談相手がいないんじゃ寂しすぎるし。

 

「まぁ話を戻そう。要は、お前もクラスの親睦会に来ないかって話なんだが」

「行きません。興味もありません」

「待て待て。話だけでも――」

「減点」

「何が!? 何をどっから引かれた!?」

「あなたに対する私の心証です。これ以上は《審査》に響きますよ」

「職権乱用じゃね?」

「審査なんて所詮、私の主観ですよ? 気に食わなければ落とします」

「審査に私情を挟むなよ……!」

「半分は冗談です」

「もう半分は?」

「ノーコメントで」

「僕の人生終わった!」

 

 隣を覗き込むと、そこにはいつも通りの氷のような仏頂面――ではなく。少しだけ目元を緩め、からかうように唇の端を吊り上げた真白の姿があった。絶対にドSだ、こいつ。僕の情けない反応を面白がってやがる。……まぁ、僕にリアクション芸人の才能があってよかった。それで真白の微笑を拝借できるのなら、安いものだ。

 とは言え、笑みを盗み見ていることがバレて再び刺々しい態度を取られるのも面倒で、僕は見なかったことにした。密かに心の奥に笑みを仕舞いながら。彼女の優越感を害することはしなかった。

 

「……で、だ。僕は友達が少ないからこれから頑張りたいって話、冒頭に戻るんだが」

「友人ですか。何故増やそうとするんです?」

「人生を豊かにしたいから」

「あなた、恋人いますよね? それも、三人も」

 

 呆れたような眼差しで、真白が僕のことを見た。睨まれてる訳ではない。ただ、理解不能の珍生物……僕で例えるならチンアナゴを初めて見た時の表情に近かった。

 

「それはそうなんだけども」

「正確には一人と二匹……《異星体》との恋愛関係なんて、私からすればゾッとする話ですが。……まぁ、“一人”の恋人がいる訳でしょう。それで何故満足しないんですか?

「現状に満足した時点で終わりじゃねぇ?」

「はぁ」

 

 真白は感情の抜け落ちた声で短く相槌を打ち、『よく分からない』と言わんばかりに小さく息を吐いた。彼女はそれ以上口を挟むことなく、ちらりと視線を前方の木陰に向けた。だが、完全に会話を打ち切ったわけではないらしい。規則正しい歩調はそのままに、横目でちらりとこちらを窺ってきた。居心地を悪くさせたわけじゃなくて、良かった。

 

「……僕は、停滞を良しとした時点で、人としての成長が止まる気がするんだよ。自分の身の程を自分で定義する必要ってあるか?」

「身の程を弁えることは大切ですよ。自分を正しく見積らないと、賢い選択なんてできないんですから」

「それで必要以上に縮こまって暮らすのも違うだろ。そもそも主観なんてアテにならないし。人は自分が思っている以上に強いよ」

「何を根拠に」

「実体験。僕は自分が思っているより強くて……どうにもならないと思ったことも、どうにかしてきたから。やっぱり、大抵のことはやろうと思えばできるんだよ。ただ、無意識のうちに自分の可能性から目を逸らしているだけで」

「それは単なる結果論です。運良く生き残った人間の生存バイアスに過ぎません。自分の可能性を過信し過ぎてはいけません。可能性に目が眩んだら――足元を踏み外しますよ。あれこれ手を伸ばすより、大切なものを守る努力の方が急務では?」

 

 気持ちは分かる。真白の言っていることは至極真っ当だ。論理性もある。感情的なのは僕の方だ。別に僕は満たされているのだ。今のままでも十分。ただ、僕が満たされた先から器の容量を増やそうとしている。もっと幸せに浸ろうとしている。その貪欲さが、強欲さはあまりにも愚直すぎる。

 自覚している悪い癖。小さいころから僕は知的好奇心の強さで誰かに負けたことがない。僕は結局、自分に興味がありすぎる。

 

 僕はどこまで行けるのか?

 僕は何者になれるのか?

 

 

 ――――知りたいんだ。

 

 

「僕は知りたいんだよ。僕の人生のハイスコアを」

 

 

 

 真白は、目を細めた。咎めるようでもあった。彼女は怒っていたのかもしれない。無責任で無秩序で無軌道な僕の在り方に。それでいて、理解不能な困惑の色と、それでいて眩しいみたいな。唐突にフラッシュグレネードが炸裂したみたいに、彼女は顔を背けた。逆の方向を向いた。彼女は僕とは違う視点で世界を見ていた。

 

「……ハイスコアを取ったところで、結局何になるんですか? 頑張ったってどうにもならないじゃないですか。どうせ人はいつか死ぬんだから」

 

「どうせ死ぬからこそ、人生を味わい尽くしたいだろ。

 

 ――ほら、ふと耳を澄ませば、公園ではしゃぎまわる子供の声が聞こえる。鼻を嗅げば、どこからともなく漂ってくる金木犀の甘い香りが肺を満たした。熟れきった杏や桃を思わせる濃厚な甘さに、ふと立ち止まりたくなる。見上げれば空は快晴。青々とした目に染みわたるような色をしている。僕の身体は今、空気にだって触れている。

 実感はできないけれど、人生にはありとあらゆるものが静かに佇んでいる。そういうものだと僕は思う」

 

 呟きながら、すぐ近くの木製のベンチに触れれば、しっかりとした木の手触りが返ってくる。触れば在るのだ。多くの人が触ろうとせずに見過ごしてしまうから、このベンチも少し錆びついてしまって待ちぼうけを食らっている。

 

「なんだかんだ街を練り歩いたし、少し休もうぜ」

「……業務中ですよ」

「休むのも仕事の内だろ。……それに、お前の目で捕まえられないってことはないだろうし……今日はこの地区にはいないんだろ、《異星体》」

「はぁ。……まぁ……そうでしょうけど」

「事務所に戻ったら事務作業か自主トレだぞ。少し休んでった方が良くないか」

 

 ちょいちょい、と手招きをした。異星体がいないならいないで、別の業務があるだけだ。一応はバイト――この瞬間にも給料は発生しているとはいえ、なんだかんだ結構な距離を歩いている。見知らぬ公園で少しゆっくりしていくなんて、僕たちには当然の権利だろう。

 

「……一理、なくもないですね」 

 

 真白は頷き、僕の隣に腰掛けた。拳三つ分は空いていたはずの距離が、拳二つ分になった気がする。それだけで、今日の問答は無駄じゃなかったな、と思う。

 

「世界を味わい尽くす、ですか」

「それも一理あるか?」

「人の思想は一朝一夕では変わりませんよ。……ただ――」

 

 真白はそれ以上言葉を続けず、ゆっくりと長い睫毛を伏せた。こつん、と微かな音を立てて、少し色褪せた木製の背もたれに後頭部を預ける。常に隙なく張り詰めていた彼女の肩から、ふっと微かな緊張が抜け落ちたのが分かった。

 目を閉じたまま、彼女は僅かに顔の角度を変える。遠くの遊具から響いてくる、子供たちの無邪気な歓声へと静かに耳を澄ませているらしかった。

 

「たまには耳を澄ませて、確認するのもいいのかもしれません。自分が、何を守り、何のために戦っているのかを」

 

 秋の柔らかな西日が彼女の白い横顔を優しく照らし出し、艶やかなショートカットの毛先を黄金色に透かしていた。

 真白はベンチの背もたれからゆっくりと頭を離すと、こちらへ顔を向ける。そして、ほんのわずかに――注視していなければ気づかないほどの微細な変化で、唇の端を緩めた。

 

「少しだけ、感謝します」

 

 

 感謝を素直に伝える審査役とはどうなのだろう――と、思わないでもなかったけれど、僕の隣に座っているのが、真白で良かったと思った。値千金の笑みだ。誰にも汚されない、純粋な微笑。年相応の笑みに、僕も笑って返した。

 

「欲張りも悪くないだろ?」

「あなたほど強欲ではありませんよ。ただ、私は、少しだけ、世界に目を向けてみただけです」

「どうだ、世界は」

 

 一陣の秋風が足元を通り抜け、頭上の枝を小さく揺らした。

 カサリと音を立てて、一枚の枯れ葉が夕日の射し込む空間へと舞い落ちてくる。

 

 真白は視線だけでその軌道を追うと、ふいに白い指先を伸ばした。鋭さは微塵もない。ひどく穏やかでしなやかな動作。彼女はその葉を手のひらにふわりと受け止める。

 赤と黄色が混ざり合った小さな秋の欠片を、彼女は不思議そうに見つめた。

 

 西日に透かされた葉脈が、彼女の青い瞳に微かな熱を灯している。

 彼女は葉っぱを見つめながら、先ほどの柔らかい微笑みの余韻を唇に残して、ぽつりとこぼす。

 

「……思っているより、きれいでした」

 

 銃なんて捨てて、ずっとその葉っぱを見つめていればいいのに。彼女が、想像もつかないくらい優しい笑顔を浮かべている姿を、僕以外の誰も知らないんだな、と思うと、微かな優越感があった。

 

「何見てるんですか」

 

 しかし盗み見はすぐにバレた。さっきはバレなかったというのに、外に目を向け始めた真白の目線は鋭かった。

 

「つい出来心で」

 

 僕が言うと、彼女は小さく息を吐く。

 

「まぁ人の顔を見るのに良いも悪いもないので、いいんですが。そもそもあなたが見るなら私も見るだけですし」

「変なところで対抗心発揮するなよ」

 

 言葉通り、真白は真っ直ぐに僕の顔を見つめてきた。涼やかな青い瞳が、瞬きひとつせずに僕の顔立ちを値踏みするように見る。

 

「――凡庸ですね」

「実は自分ではちょっとカッコいい方だと思ってたりするんだけど……」

「減点」

「僕を封殺する魔法の言葉だと思ってないかそれ」

「ノーコメントで」

「沈黙は時に言葉より雄弁に物を言うぞ」

「で?」

 

 言葉の圧が尋常じゃねぇ。『だからどうした』とでも言いだけな表情だ。ふてぶてしいともいう。

 

「なぁ、ふと思ったんだが」

「なんです?」

「こんな軽口を叩く仲。これは、『友達』と言っても差し支えないのでは」

 

 僕が挙手をしながら言うと、『何言ってんだこいつ』と言わんばかりの目つきで見られた。睨まれている訳じゃない、ただ、馬鹿なの? と正気を疑うような目であるというだけ。

 

「友達のハードルが低すぎるのでは?」

「ハードルを高くし過ぎたら一生できないままだろ、友達。現に僕は一人しかいない」

「無様ですね」

「お前は友達何人いるんだ?」

「……」

 

 黙った。

 バツが悪そうに目を逸らした。

 

「沈黙は時に言葉より雄弁に物を言うよな」

「は?? 別に私は友人がいないなんて言ってませんが????」

「いんの?」

「……。…………いませんが?」

「じゃあ低いハードルから飛べよ。まずは僕が友達第一号という事で」

「審査を円滑に進めようとする魂胆ですか? その手には乗りませんよ」

 

 今日初めて、明確な鋭い眼光が僕を射抜いた。すっと細められた絶対零度の青い瞳。審査役の逆鱗と言うか、本気の威嚇だった。

 

「そうだったな、一応……」

「忘れてたんですか?」

「わりと」

 

 僕がそう答えると、真白はその日一番の溜息を吐いた。

 

「……忘れられないように言っておきますが、私の役割はあなたが《星座》に相応しいか審査することですよ」

「じゃあ、審査が終わってからで。期間は九月末だろ、確か」

「何あなたが勝手に決めてるんですか」

「不服か?」

「どちらかと言えば疑問です。私みたいなつまらない女、友人にしてどうするんです? もしかして私の身体が目的ですか?」

 

 真白はそう言うと、わざとらしく胸元で両腕を交差させ、不審者から身を守るか弱い乙女のように身をすくめる仕草を見せた。

 

「いや僕には彼女がいるし」

「でしょうね」

 

 直後、彼女は交差させた腕をスッと下ろすと、最初から分かりきっていたとでも言わんばかりの、どこか勝ち誇ったような呆れ顔を浮かべた。もし僕が少しでも肯定的な反応を見せていたら、即座に“減点”の烙印を押されていたに違いない。

 

「で。身体目的じゃないとしたら私にどんな価値が?」

「友達って損得勘定でなるものなの?」

「……」

「友達になりたいと思ったところが、スタートラインなんじゃないのか?」

「……。……どこで私のことをそう思ったんです?」

「葉っぱを見つめたところ」

「変な感性してますね」

 

 彼女は肩をすくめて、笑った。

 

「クラスの親睦会に行くんでしょう? そこで好きなだけ友達を見つけてくればいいのでは?」

「そりゃ行くけどさ。……それとは別に人を好きになる瞬間ってあるじゃん?」

「口説かれたって結姫乃さんに報告しますね」

「お前が男でも同じことを言ったと思います! 僕は!!」

「同性愛ですか。そう言うのもありますよね」

「性愛と友愛は根っから違うものだと思うんですけど僕は!! ただ単に『友達になれそうだな』って思ったの!!」

「あなたの琴線がよく分からないんですが」

 

 そう言いながらも、真白の口元からはふっと柔らかな息が漏れた。呆れと諦めがないまぜになったような、それでいてどこか心地よさそうな苦笑だった。

 必死に友愛を説く僕の姿がよほど滑稽だったのか、その涼やかな青い瞳には、隠しきれないおかしみのような色が揺らめいている。

 

「僕の事なんて僕ですらよく分からないよ。だから知りたいんだと思う。自分の正体を、人とのつながりを通して」

「……あなたらしい」

 

 彼女は完全に観念したように息を吐き、悪戯っぽく目を細めた。

 

「それで、あなたは私のお眼鏡に適うんですか?」

「自分で言うのもなんだけど、僕って結構面白い男じゃない?」

「ハッ」

 

 鼻で笑われた。

 それから、葉っぱを優しくベンチに置いて、彼女は立ち上がった。

 

「休憩は十分でしょう。帰りますよ」

「はいはい」

 

 まぁ、満足のいく回答は得られなかったけれど。

 別に友人作りなんて急ぐほどのものでもないか、とふと思って。僕は親睦会に行くのを辞めた。無理に迫らなくても、いつか友人とは自然に巡り合える気がしたから。

 

 

 

 





月野くんは。純度100%のピュア少年です。下心ゼロ。これが俺たちの月野だよな。

ちなみに真白ちゃんはめんどくさい女です。
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