軽いボーイズラブっぽい雰囲気になることがありますが、ただの癖です。基本的には親密すぎる友情と深すぎる絆と湿度と重さがあるだけです。
癖どんとこいな方はぜひ
黎明の世界。シュラはそんな世界に生まれた。彼の故郷の名は
この国は、国民の多くが職人であり、食器や家具、装飾品など様々な名産品が経済を動かし、国家を潤していた。例にもれずシュラも若くして宵月国の職人の一人。
シュラはこの国の第一王位継承者なのだが、現国王は誰より健康で頑丈な父。なんの不自由もなく、阿修羅族で代々受け継がれてきた鍛冶師として活躍している。武器を大切に扱ってくれそうな人にのみ売る。雑に扱いそうな相手は抵抗してくる場合は力づくで追い出す。
そんなシュラはある日、運命の出会いをする。ライバルであり、親友であり、一生この人のためだけに武器を作りたいと思った人だ。
シュラはその日も武器を作っていた。
――カランコロン
来客を知らせるベルが鳴り、シュラは工房から出ていつものように挨拶をする。
「いらっしゃい」
「失礼する」
静かに足音一つ立てず店に入って来たのは、息をするのも忘れるような美貌の少年だった。肩甲骨のあたりまで伸びた紫混じりの銀髪。光の当たり方や角度でアメジストのようなタンザナイトのようなまさに宝石のような双眸。凍てつく冬の月のような白い肌。どこを見ても美しかった。しかし、そんな少年に似つかわしくない血の匂いがして、失礼かと思いながら視線を下げた。
「ケガしてるの?」
「ん?ああ、ちょっと墜落したものでな」
「墜落!?」
心地よい落ち着いたテノールから発された言葉がまさかの「墜落」。なにをどうしたら墜ちるのか。もしや堕天のほうかな?などと考えたが、そうでもなさそうだ。
「神の集団に襲われてな」
「えぇ……」
人と鬼や精霊や神が共存していた時代とはいえ、神はやはり天上の存在であった。にもかかわらず、目の前の少年は神の集団に襲われるという災難に見舞われている。
「もしかして君も神さまだったりする?」
「不服だがな。ここは鍛冶屋と見えるが、間違いないか?」
「うん。そうだよ」
「武器が必要となったので一つ売ってくれないだろうか」
量産型の武器でいいならこの店でなくてもいい。シュラは確信している。この少年は自分を当てにして来てくれたのだと。確信しながら敢えて聞く。
「オレでいいの?」
「ああ。君がいいと思ってここに来たからな」
そう言うと少年は店内を見回す。たまに持ってみたり、クルクル回してみたり
……この子、槍使いなのか
ふと何かに気づいたようにシュラを見る。
「まだ名乗っていなかったな」
「あ、そういえば……オレはシュラ。この国の一応王子で鍛冶師だよ」
「私はシャラク。人から神になった者。そして、人の祈りを守護する者であり、浄化の神でもある」
そんな役割の神がいたかと訝しむ。人の祈りを守護するはいそうな気がしたが、浄化の神というのはなんとも特殊に思える。それとも、そんな神が必要になるほどこの世界が穢れ始めているということか。
「もしかして世界は危機的状況だったりする?」
「穢れは元々大なり小なり発生するものなんだ。それが世界を覆ったり、霧のように見えるようになってしまったときにはそう判断するだろう」
穢れは元から様々な場所で発生しているもの。それを誰かが浄化しなくてはならない。世界が穢れで覆われてしまえば、影響するのは地上だけではない。神や天使などが住む天界、世界を裏から支えている精霊が住む精霊界、罪人が送り込まれる地獄界などあらゆる場所に影響がでてしまう。シャラクは生まれつき穢れを視ることができるという能力がある。神や人それぞれ見渡しても、穢れを視ることができる存在は彼一人しかいない。シャラクが危機的状況だと判断するときは、シュラにも視えるようになったとき。
「もしかして……正式に神さまになる前から祓ってくれてたの?」
「ああ。私は見て見ぬ振りができなかった。少なくとも私の手が届く者たちの営みを侵されてほしくないからな」
お人好しという次元ではなかった。シュラは、シャラクの行動力と底なしの慈悲深さは、彼の生来の気質なのだと思った。世界や今生きる者たちを愛する心があるからこそ、それを浄化するための力を手にすることができた。そんな彼が神になるのは必至であったといえる。彼の様子を見るに、神界を追い出されたというわけでもなさそうだ。
「なんで君みたいな人が襲われそうになってるの?」
「私自身が狙いらしい」
「あぁ・・・」
嫉妬や恨みによるものではなかった。襲い掛かられた理由は容姿やその精神性に魅了されてしまったから。なんとも自分勝手なものである。神話によくある美少年を寄ってたかって連れ去ろうとする場面が目に浮かんでしまった。方や世界のために戦っている神。方や美少年を襲いに来る神。極端すぎて苦笑が漏れてしまった。
「ん?あ、そういえば君は武器を買いに来たんだったね」
「ああ、そういえばそうだった。すっかり頭から抜けていた」
いつの間にか話に夢中になっていた。シャラクは翻り店内を見て回る。その目はどこか楽しそうに見えた。
「君って、武器は槍なの?」
「槍と剣と弓だな。主に使っているのは槍だ」
シャラクに似合いそうで、彼の体型からして合う槍があっただろうかとシュラも探した。彼が武器を持ったり振ったりしているところを観察する。それを見ているうちにシュラの心にある思いが浮かんだ。
「あのさ」
「ん?どうした」
「君はここにしばらく滞在するの?」
「武器を買えたらすぐに出るつもりでいる」
「そっか・・・」
シュラは、王子という立場だからなのか、阿修羅族の曾孫という存在だからか、対等と呼べる存在がいない。心の奥深くで孤独感を抱えていた。
「もし短くてもここにいられたら良いなとは思っている」
「どうしていられないの?」
「私はこれでも追われている身。私がここにいるせいで、この美しい国や民たちに危害が及んでしまうのではないかと思うとな」
シュラは思い違いをしていた。シャラクはシュラが知る限り、優しく慈愛に満ちている人だ。そんな彼が、自分のせいで国や国民や自然が侵されるのを許すわけがないのだ。
理不尽にも追われる目に遭っているせいで、人々とふれあうことができない。踏み入れた土地でゆっくりするということもできない。
「君いつもどこで泊まってるの?」
「私の結界の中にある家だ」
手を差し伸べ救い人の願いを聞き届けて叶えてくれる謎の美しい旅人。その正体は神。どこかの神話としか思えないが、現実である。もし子どもが出来たらこのまま伝えよう。間違いなく御伽噺だと思われることだろう。そんな優しい神さまが、僻地に移動型の家で寂しく夜を過ごす。なんとも悲しい話である。
「今日はここに泊まってく?」
「いや、だから・・・」
「君の気持ちは分かった。オレは嫌かも。君みたいな人が一人で夜を過ごしてるの」
彼は、人々が笑っていてくれれば、国が平和であればそれでいいと思っていたのだ。時々救った国を見に来ては、平和か確認し浄化するべき場所があれば浄め、泣いているものがいれば救う。それで彼の胸は満たされていた。
「なんというか・・・暖かいな・・・」
しかし心は違った。シュラにここに泊まってく?と言われて密かに胸が暖かくなったのだろうか。シュラは、シャラクの顔が照れて赤くなっているのを見てそう思った。
「うーん、じゃあさ」
「なんだ」
「その集団を対処するの、オレにもさせてくれない?」
見た目でなめられることもあるが、シュラは鬼神。この国においては最強の男だ。
「君が・・・この国で最も強いことはわかる」
「え?気付いてたの?」
「ああ。この店に入る前から気付いていたぞ。それも理由でこの鍛冶屋を選んだのだから」
「ま、まじ?」
シュラは普段、その強大な鬼の気を感じられないよう完全に遮断できる着物を身に着けている。それでも気付いたというのだ。この神は、浄化するだけの神ではない。上澄みのなかでもさらに上澄み。最上位クラスの実力があるかもしれない。
対し、自分は彼の魔力や神気を感じ取ることができない。負けず嫌いなシュラとしては鍛錬あるのみと、自身の力を驕らないようにしようと心に決めた。
「君のお手並み、拝見といこうか」
「臨むところだよ」
優しい神さまが見せる挑発するような表情。その力を見せてみろと言っている。
シャラクは結局、武器を選ばず神の集団の前にシュラとともに躍り出る。一人でも別に相手には出来るが、人数が多いに越したことはない。
「えぇ・・・君こいつらに狙われてるの?」
「そうだ。どう思う」
「なに、ヘドロじゃんこれ」
まさにヘドロでできているとしか言いようがない神。どこの国の神かは知らないが、この姿は多様性に富んだこの世でも異端かもしれない。これが神に相応しい姿だと思っている国でもあるのだろうか。
「こんなものが国に入ってみろ、汚染されてしまうぞ」
「腐っても、いや腐りきってるけど神なんだね」
被害の大きさが完全に災害でしかない。地面を汚染させるだけの力がある。シュラやシャラクには効かないが、一般人なら一瞬で溶けるか絶命しかねない猛毒だ。
「え、溶かすの?」
「ああ。こいつらは全身が毒でできている神。通称
「あの、ごめん。あいつらって世界に必要な神ってことでOK?」
「さあな。それは私が決めることではないな」
この世界に生息する生物の中には、死骸を食べたり大地を腐らないようにしてくれるようなものがいる。この神たちも世界にとって必要だから生まれたのだ、というあくまで推測である。どのみち、シャラクが判断することではない。
「まぁ、それもそっか」
「ああ。まぁそれも、彼奴らが人々に仇なす者たちでなければの話だ」
「なるほど」
完全に見物する体勢に入ったシャラクと、臨戦態勢に入るシュラ。本当は拳でやってもいいのだが、ヘドロ相手に素手は危険だろうと判断し剣を構えた。
「やああああぁっっ!」
迫力のある鬼神の唸るような声。地面を蹴り、ヘドロに向かって飛ぶ。シュラにしか扱えないであろう黒一色の大剣を頭上に掲げ、黒と赤の炎を纏わせ容赦なく真っ二つにする。ヘドロなので再生できるのかと思ったが、切り口を焼いたためか再生できないらしい。
そして、追撃。後ろにいたヘドロ神を袈裟切りで斬る。
「はい二人目!」
「へぇ、やるじゃないか」
神二体目を倒したところで、ようやく満足したのか感心したような微笑を浮かべてシュラを見た。
「では私も。君に見せてやろう」
「見せてもらおうじゃん」
シュラは、シャラクを仕返しかのように煽ってみた。可笑しそうに笑った。そしてどこか嬉しそうだった。煽られてではなく、友だちのような対等な関係のような掛け合いが楽しいのだろう。
シャラクは再度、シュラに向かって微笑んだ後笑みを消して正面を向いた。
「よくもまあ、私にそのような汚い手で触れてくれたな」
突然現れた泥の手で地面に叩き落とされたのだ。その程度で倒されるほど軟ではないのだが、それはそれとして不快だった。
「我が聖なる雷で消し炭にしてくれる」
「え?」
シュラはポカンとしながら目の前の美少年を見る。背中から見るととんでもない恰好をしているが、そんなことは頭から飛んでいた。
いつの間にかシャラクの周りに槍の形になっている神秘的な紫色の雷が浮いている。
「
この場にいるすべてのヘドロを本当に消し飛ばした。圧倒的な敵を前にどうすることもできず、ただ消えていくだけだった。
シュラはこの状況に相変わらず驚いて固まっている。あんな優しく穏やかで慈愛に満ちている浄化と祈りの神さまが、戦いになった瞬間戦神もしくは破壊神のようになってしまったのだ。敵相手には優しさが欠片もない。
「ねぇ、最近このあたりですごい雷鳴聞こえるときあるんだけど・・・君だったりする?」
「そうかもしれない」
「絶対そうじゃん」
優しい光で包み込むタイプかと思っていたが、実際は光を纏った雷で焼き焦がすタイプだった。地面や森に一切被害がないため、敵にのみ有効となるものだった。彼が自然を傷つけるわけがなかった。
「まあでも、しばらくは君の安寧が続くかも」
「ふむ・・・」
足を踏み入れた国に泊まったことがなかったシャラクだが、嬉しそうにしているシュラを見て観念したように笑って頷いた。
第一話は、慈悲深く優しいが容赦もない神さまと、負けず嫌いでお人好しな鬼神の出逢いの話…でした!
これからも読んでもらえると嬉しいです!