「誰って……」
「簡単な話よ。私は記憶を失っていたレムス・ウヌスなのか、レムス・ウヌスという人間の記憶を持つ一宮弍乃なのか、そのどちらでもないのか」
「それは……」
「だから決めてほしいの、貴方達に」
「決めるって……こうと決めて、どうなるんですか!?」
「別に、選ばれなかった方の人格を消すだけよ。今の私の中には2人の私が居る。シルウィアの母親であるレムス・ウヌス。そしてただの人間である一宮弍乃」
「……どちらを残すか、決めろって話、ですか?」
「そうなるわ」
……私達は弍乃さんを取り戻すために此処に来た。でも弍乃さんの正体はシルウィアさんが1番会いたかった母親で、ようやく再会できたと思ったらどちらかを選ばないといけない?そんな理不尽なことが……あっていいの?
「まあ、私としてはもう充分なのだけれど。消える前にこうして私として貴方達と話せた。それだけで未練はないわ」
「そんな、ことは」
「あるわ。そもそもバグで生まれたようなものだもの、私って人格は。本来存在する方がおかしいって話なのよ、だから記憶を取り戻した以上遠からず消えると思ってた。それが少し早くなったってだけの話よ、貴方もその方がいいんじゃないシルウィア?」
「ちが、私は、確かにお母さんに会いたくて、デバイスを……でも、だからって、だからっておかしいです!なんで弍乃さんが消えなきゃいけないんですか!?」
「それが正常だからよ。貴方だって母親の人格を消したくもないでしょう?」
「それはっ……そんなの、酷すぎます……!」
……弍乃さんは自分が消えることになんの忌避感もない様子だ。寧ろそれを受け入れて望んでいる節さえある。
「正直なところ……私だって怖いわ。けど正常に戻すにはこうするしかないじゃない、やっぱり……」
「……弍乃さん」
「……三葉?」
……それが。自分がいなくなっても構わないって思考が。
「ふざけないでくださいっ!」
「……へ?」
私には、どうしても許せなかった。
「2人とも大丈夫かなぁ……」
「大丈夫でしょ、これで2回目だし最初も成功してる。間違ってもしくじる事はないって」
「弍乃さんのコーヒーを用意しておかないとですね」
「後は何事もなければいいんだけど「やめてファウヌスそれフラグ」だからなんでぇ!?」
「まあバッカスが何かしてきそうってのはあるけどだからこそテトラ達を別行動させた「テトラッ……クソッ!」わけ……で……」
「エンネア!?なんで此処に、というか
「詳しい説明は省く!君達は三葉達の安全を最優先に!私はテトラを……!」
「テトラさんに何かあったのですか!?というかまず落ち着いてくださいエンネアさん!」
「……すまない、血走っていた。伝言すら伝えないのはどうかしている」
「伝言って何!?やっぱりバッカスが何かしてきたの!?」
「ああ、バッカスが
「あの馬鹿ッ!」
「じ、時間結界を解除するとかは!?それなら
「……早くしてよね、2人とも……!」
「なんでそれを私達が決める必要があるんですか!?それとも自分で決める勇気すらないんですか貴方は!?」
「私が自分で決めた結果に納得するの?私もレムスも待ち望む人が居るのは分かってる。だけどどちらも選ぶことなんてできない、だから最も必要な方だけを……」
「どっちも必要です!シルウィアさんのお母さんのレムス・ウヌスも!頼れる心強い先輩の一宮弍乃も!」
「……ならどうしろっていうのよ。私はどちらかにしかなれない、選ばなかった方の人格が必要だとしてもそれは消した人格の模倣で」
「だからなんで決めつけるんですか!?それとも私にどっちか片方を諦めろっていうんですか!?二美さんとの約束とシルウィアさんの悲願を!」
「それは……」
「三葉さん……」
自分でもなんでか分からないくらい堰を切ったように言葉が流れ出てくる。多分それくらい許せないのだ、自分を消そうとしている彼女の事が。レムス・ウヌスとしての記憶を見て、二美さんとの約束を見届けた分余計に。
「こうして見たから弍乃さんの気持ちも分かりますしある程度理解もできます!だけど……だけどそれは違うでしょう!?自分が苦しいのはそうですしずっと言ってた引退したいってのはこれ以上失いたくないって気持ちの表れで!なのに1番大事な自分自身を消そうとして何になるんですか!」
「……もう、いいじゃない。本当はひっそりと引退しようと思ってたけどこうしてゆっくりと眠れる機会が来たんだから。後は本来の私に全部任せた方が上手くいく」
「何もよくないです!レムスさんが出てきたのはあくまで結果です!私も紗七も八雲も五葵ちゃんもシルウィアさんもそれに二美さんとテルスさんも!皆貴方を助けるために戦って!帰りを待ってくれているんですよ!?」
「……」
「それともなんですか!?貴方は自分の都合だけで皆の努力と覚悟を無駄にしたいんですか!?そんなの許しませんしさせません!首根っこ掴んででも無理矢理連れて帰ります!」
「……私は」
「また言い訳ですか!?なんっでこうシルウィアさんみたいにめんどくさいんですか親子だからですか!?「違う」じゃあなんですか!?」
勢いに任せて色々言ってしまっているけど責任は後の私に取らせる。なんか言いすぎて眼の前の弍乃さんは帽子を深く被ってしまっているけどそれはそれ、必ず彼女を……
「もう、失いたくない」
「……」
「怖いのよ、手放して、自分から得るつもりもなくて。なのに貴方達は自分から集まってきて……ほんと、いい迷惑。お陰で変に情が移っちゃったじゃない」
「私達はともかくシルウィアさんは弍乃さんの意志で取り戻しましたけど」
「だまらっしゃい、それもテルスの懇願あってこそよ……でも、だからこそ、ね。また二美の時みたいになったら?パテルのようになってしまったら?」
「だからの仮定です」
「それでも、もしそうなったら……今度こそ、私は耐えられない。だから1人で居たかった。そんな所に私より上手くやれそうな本来の人格があったんだから……任せたくもなるでしょう」
「……弍乃さん」
「シルウィア?」
此処まで沈黙を貫いていたシルウィアさんもついに口を開いた。流石に言いたい事があるだろう、母親だったにしろ恩人である事には変わりないんだし。
「私を助けた時貴方は言いましたね。私がどうなろうと貴方個人にとってはどうでもいい事、って」
「確かに、言ったわね。だって面倒じゃない、今はともかくあの時の私には貴方は赤の他人だったし」
「なら、それと同じです!」
「……どういう事かしら」
「貴方がどうしたいかを望むのは勝手です!私達にはそう考えるのをやめろという権利なんてとてもじゃないですがありません!」
「だったら……「でも!」」
「貴方にそうされると困るって人に!人達に!頼まれました、託されました!だから無理矢理にでも引っ張り出します!そうしないと私が面倒なので!」
「……ったく、誰に似たんだか」
「無論貴方です、お母さん!」
……やっぱりシルウィアさんは強欲だ。恩人としての弍乃さんも、母親としてのレムスさんも両方取り戻そうとしてる。
「そういうわけでもう無理ですよ弍乃さん、諦めてください」
「ほんっと面倒ね貴方達は……それで?私を引っ張り出すのはいいけど肝心の答えを聞いてないわ」
「だったら言ってあげますよ。両方です」
「両方?」
「どっちも必要なんです、一宮弍乃もレムス・ウヌスも。だからそれでいいじゃないですか、貴方はレムス・ウヌスの記憶を持つ一宮弍乃で、一宮弍乃として若返ったレムス・ウヌスなんです。どっちかに絞ろうとするのが間違いなんですよ」
「……強欲ね、でもそれでいいのかもしれない」
「じゃあ、戻りましょうか。皆待ってるんですよ?」
「ええ……ああ、でも、最後に」
「なんですか」
「やらなきゃいけない事が、あった」
「やらなきゃって……ああ」
これでOK、後は帰るだけ……って所で弍乃さんは姿をレムス・ウヌスのものに変えてシルウィアさんの正面へ。
「ぁ……」
「大きくなったね、シルウィア。背、抜かされちゃった」
「お母、さん……」
「……大丈夫。此処までよく頑張った」
「うん、うん……!」
「だから……この後は、任せて」
「……お願い!」
抱き寄せて、胸を預けて。確かにやらなきゃいけないことだ。間違っても皆の前でこんなことできないし。
「それじゃあ、行こうか」
「……はいっ!」
さあ、戻ろう。皆が待ってる。
「……ん」
白一色に覆われて途切れた視界を再び開けばそこは元の市街地。特に戦闘の形跡もないし……何事もないみたいだ、少なくとも今は。
「三葉っ!無事か!?精神に不調は!?」
「成功したんだよね!?」
「シルウィアさんも起きました!」
「当然、というか視界が確かならエンネアが居る気がするんだけど……」
「幻ではない、というより終わったのなら早くテトラをっ……!」
「テトラ……テトラに何かあったの!?」
此処まで必死なエンネアを見たことがない、精神同調の影響か少しぼやっとしていた意識が急激に覚醒する。
「バッカス相手に1人で時間稼ぎを試みたんだ!お前達が終わるまで時間は稼ぐと言ったが
「やっぱりバッカスが……!」
「ですが私達のデバイスの負荷では……」
弍乃さんを連れ戻してテトラを失ったなんてできるわけがない、できるだけ早く救援に行かなきゃだけど「さあ、終わりよ」っ……!?
「クソ、が……!」
「盛大に爆ぜなさい」
「ああぁぁぁぁぁ!?」
「テトラっ!?」
唐突に現れたバッカスに首を掴まれたテトラが勢いよく地面に叩きつけられた。思いっきりクレーターができるくらいの衝撃の後こっちに吹き飛んできて……
「テトラ!しっかり!?」
「わ、りぃ。大して、戦えて、ねぇ……」
「そんなのどうでもいい!早く撤退しないと……!」
変身が解除されたテトラはボロボロで、デバイスも壊れていて。オレンジ色の髪も少しづつ黒く……黒く?
「豪語した割には随分と呆気なかったわねぇ。ほんと最後の最後まで期待外れな子」
「貴様がこいつを語るなっ!」
「というかこの症状、これって……ティフォンの……!」
間違いない。弍乃さんやエキドナさんを汚染していたティフォンの魔力だ。なんでテトラまでこれに……まさか。
「……へえ、知ってるのねこれ。なら今更隠す意味もないわ、此処で全員私の贄となってもらう」
「その姿……」
「……そうか、お前が」
よく見ればバッカスの姿も今までと大きく異なっている。有機的なパーツが身体のあちこちに取り憑いて……弍乃さんの記憶で見たティフォンを人型に落とし込んだような姿。
「全くあいつらもバカの集まりよねぇ。気付かないんだもの、変なのが1人紛れ込んでも。まあお陰でこの通り、だけど」
「貴様のせいで、ケイオスは……!」
「些事よ、この世界もケイオスも全て私が喰らう。これはそのための過程に過ぎない」
「三葉とシルウィアさんは2人を連れて下がって!此処は私達が!」
「いけ好かない奴だけどそれはそれとしてこうもボロボロにされると腹たつんだよね!」
「2人の安全第一です!」
何かを察したのは全員同じらしい。私とシルウィアさんを守るように並んで、構えて。
「威勢がいいのは嫌いじゃないわ。さあ誰から来るのかしら?1人1人可愛がってあげるのも、全員一緒に甚振ってあげるのも「なら、私が行くわ」あら勇気ある……ん?」
聞こえた声は前に立つ誰の物でもなく。
「ったく、なんで今まで気づかなかったのかしらね。お前に会うたびゲートが開いた時と同じ頭痛がしてたってのに」
「弍乃さん!?」
「もう動けるんですか!?」
私達の目の前で少しこめかみを抑えながら立ち上がった、弍乃さんのもの。
「……なんだ、もう動けるの」
「ええ、リベンジマッチと行きましょう?前回は引き分けで……いや、結果だけ見れば私の勝ちね」
「よくほざく。封じるしか手のなかったくせに」
「そっちこそ苦し紛れの
……起きて早々口が悪い。よかったいつもの彼女だ。
「ま、それはどうでもいいわ……全員下がってなさい、私がやる」
「だ、大丈夫なんですか!?体調は……」
「……そうか、全部、思い出したのですね」
「久しぶりねエンネアちゃん。だから此処は任せてちょうだい」
「……ええ」
「エンネア「ちゃん」!?」
「はいファウヌス下がる!ボクも凄い驚いてるけど!」
右手を大きく伸ばして進む弍乃さんの道を開けるように全員が後退する。誰も加勢しようとはしない、多分するだけ無粋だから。
「また無様に負けて幼児に戻りたいのかしら?」
「私の勝ちって言ったでしょう?まあそうね、貴方には文字通り死ぬほど恨み辛みがあるわ。私としても充分あるけど……ええ」
「え」
「姿が……」
右手を掲げ一瞬で弍乃さんからレムスさんの姿へ。これも自動詠唱の力、頼もしさと共にやっぱりちょっとした壁を感じてしまう。
「今回限りは私として。あの平和な世界を壊したこと。パテルを、私の大切な人達を奪ったこと。私が人生やり直しする羽目になったこと……いや、それはむしろありがとうかな」
「なら寧ろ感謝してほしいわね」
「それだけは、ね。だけど何より1番許せないのは……」
「エンネアちゃんを、ロムルスを、そしてシルウィアを!私が守った物を、また壊そうとした事っ!」
その声に記憶の中の無機質さはない。芯を持った1人の人間としての言葉。
「だから今度こそお前を倒す!戦士として……母親として!」
「ふぅん?まあいいわ、貴方のスペックじゃ私には勝てないでしょうに」
「まさかクロノデバイスの機能があれだけと思ってるの?」
「何?」
「行くよ、しっかり動いてね」
掲げた右手の平で顔を覆うように弍乃さん……いや、レムスさんは構えて。
詠唱と共に周囲にすごい量のモニターが展開される。え待ってユスティアの時もサトゥルヌスの時もデバイス本調子じゃなかったの!?
「私とシルウィアがテトラを診る。だからお前達はよーく見ておけ」
「見るって……一宮さんを?」
「ああ、あれが、あれこそが」
今まで聞いたことのない詠唱。
「私が」
「チイっ!」
変身を妨害すべくバッカスが放った光弾は展開されたままのモニターに弾かれて。
「私達が焦がれた!」
右手で顔を覆ったまま周囲のモニターがバリアフィールドに変わって変身が始まる。今までより明らかに力を感じる心強さ。
「始まりの、そして最強の
「……全く、そう言われるとむず痒いね」
一瞬で終わった変身の後に居たのは記憶で見た紫の
「さあ、やろうかティフォン。今のお前に負ける道理は……ないよ」
「
本調子で最強の、弍乃さんだ。
貴方の変身ヒロインは何処から?
-
セーラームーン
-
リリなの
-
プリキュア
-
まどマギ
-
シンフォギア
-
その他