「っち……」
色々と情報を纏めて自分なりに推理した。その結果、凄まじいまでに苛立ち殺意を抱く。
目を覚ませば見知らぬ場所だった。ここは何処だ?と周りにある情報を集めて整理をした。
部屋にあるのは何処の家電メーカーかは分からないがHDD内蔵の薄型テレビ、ノートパソコン、ノートパソコンを乗せる勉強机と思わしき机、衣類を入れるタンス、自分が寝ていた場所はベッドの上。
ここまでならば何処かの誰かの部屋で眠っていたのだと分かる。
ノートパソコンとHDD内蔵のテレビがあるのは救いだとノートパソコンを立ち上げた。ノートパソコンを用いた所謂オンライン授業を受けていた形跡があるが自分は授業を受けた覚えは無い。授業内容は小学生高学年レベルの物ばかり、見ただけで一瞬で理解する事が出来る簡単な勉強の基礎も基礎な内容だったが一部、理科と社会と国語がおかしかった。
ごんぎつねやスイミーの様な小学生なら1回ぐらい勉強する題材の本が無い。かと言って竹取物語や羅生門の様に中学生になってから学ぶ国語の題材の本も無い。あるのはポケモンに関する話、イソップ童話の様に何だかんだで勉強になるお話をポケモンでやっている。
ここから俺は嫌な予感がした。幸いにもノートパソコンはネットに繋がっている。
ポケットモンスター、そう検索すれば無数の検索結果と共にありえないと思える情報や画像が幾つも出てきた。ポケモン界の顔であるピカチュウの画像、探せばそんなのは幾らでもあると言えるがどう見ても本物のピカチュウ、そしてオーキド博士が掲げたポケモンの論文がネットで公表されている。
ここから算出されることを否定したいが、殆ど確定だと俺は分かってしまった。
ただまだ何処かで違うのだと思いたい自分が居るとテレビを付ければ、今日は今年11歳になる子供がポケモン取扱免許を手にしポケモンを貰う日だと何処のチャンネルのニュース番組でも言っていた。
そこから結論してこの世界はポケモン、しかもアニメのポケットモンスターの世界だと分かった。この時点で大分おかしな話だが、まだ飲み込もうと思えば飲み込める……いや、何故か飲み込めてしまう。
アニメのポケットモンスターっぽい世界の人間になった、憑依した……前世の記憶が蘇ったのか?と思ったのだがここで1つの問題が生まれる。
俺は誰だ?
北海道から沖縄までの47都道府県、その県庁所在地が言える。
他にも世界遺産の姫路城がある姫路市、北海道の函館なんかの県庁所在地じゃないが発展したり注目する物がある土地に関しては記憶している。
国語は桃太郎の様な童話から竹取物語や羅生門の様な中学から習う物の知識がある。数学も複素数の偏角なんかの明らかに社会に出ても使わないレベルの問題を答えれる。英語もDo you have a pen?に対してI have a penでなくI have two pens. If you forget your pen, I'll lend you one.と答えなきゃいけねえと認識している。
社会に関してもペリー来航やリンカーンが言った人民による人民のための人民の政治なんかの近代史辺りやメソポタミア文明の四大文明の知識もある。
物理とか化学とか色々と細分化すればあるが、所謂国数英理社の5つの科目に属する問題が出てきてもスラスラと答えれる。だからこそ分からない。俺が誰なのかを。
俺は俺をこの世界の人間じゃなくて日本人だと認識している。だが、日本の何処と認識していない。複素数の偏角が出来る人間が自分の家の住所を言えないのはありえない。なんでだよと色々と過去を振り返ろうとするが、無い。
学生として過ごした記憶が、身につけている知識が誰かから教わった記憶が、昨日食べた物がなんなのか。俺は俺に関する記憶だけがピンポイントで抜けている。
自分を構成している人格を作るエピソードの記憶が無い。エピソードの記憶が無いって事は体験した記憶が無い。それなのにカレーライス等の日本人なら一度は口にした事がある料理の味は覚えている。自分の好きな物を理解している。
人間、生きてりゃ面白い話の1つや2つ、生まれて持ってるもんだ。
だが、今の俺にはそれが無い。幸いにもパソコンがあるから記憶について調べれば俺が無いと言っているのはエピソード記憶と言う記憶だ。だが、おかしい。それならば人格を形成する部分が色々と欠落している筈だ。
自分が何処の誰か分からない。だが、日本人であると自覚し一般教養はしっかりと覚えているしカレーライスの様な日本人にとってメジャーな料理の味を知っている。好きな食べ物もハッキリと言える。
前世の記憶を思い出した状態ならば、ここに居る自分と前世の記憶がゴチャ混ぜになるが俺はそんな事が一切無い。
アニメのポケットモンスターの世界に類似した世界の1人の少年に何故か憑依していた日本人の男性、俺は俺自身をそういう風に認識している。
自我は残っている。だが、自分を構成する出来事の記憶が無い。
自分の名前が分からねえ……ハッキリと言おう、殺意を抱くレベルでムカつくとしか言えない。
「……オカルトに関する知識はあんまねえな」
自分を構成する記憶が無いのに自分がある。
なにか他に手掛かりがねえのか考えてみる。コレは世に言う異世界転生と同じジャンルと割り切る。もしかしたらなにか特別な魔法を使ったとかそういうのを浮かべるが俺の中に特別なオカルトの知識は無い。
そうなると、超常現象を起こせる存在、世間一般で言うところの神がなにかをした。
俺を構成するエピソード記憶を消し、俺をアニメのポケットモンスターの世界に送り込んだ……フハッ、話がぶっ飛びすぎてんな。だが、受け入れねえといけねえのが現実だ。
神様的な存在が第四の壁を通してこちらを見てる。色々と突き詰めれば暇潰しだろう。
後腐れが無い様に俺を構成する記憶を消した。俺の人格はそのままにして。もしくは創った。
「フハッ、悲劇のヒロインでも救済しろってか?」
アニメのポケットモンスターはまぁ、そういう作品じゃねえ。子供向けのアニメだ。
だが、ジャンプに掲載されているバトル漫画なんかじゃヒロインに悲劇を与える。読者はその悲劇のヒロインを見て人生投げ捨ててまで助けたいだなんだ思ったりするが俺は思わないね。
極論な話、誰が一番の悪人かって言えば物語を書いている作者だ。悪役やヒロインに悲しい過去を背負わせる、そうすることでキャラが成り立つとか編集と話し合いをしてんだ。そして読者はそれをツマミにしている。悲劇のヒロイン達を第四の壁を通して見ることで面白いと思っている。第四の壁を通して見るからこそ非日常は面白い。
じゃあ、その世界を生きている人達は作者の勝手な都合に振り回されるのかってなるがその本を読んで暗い気持ちや悩みを乗り越える為にそいつらは存在している……
現実がバッドエンドや鬱展開なんかの不幸がとにかく多いから物語の中ぐらいは都合が良い様になってほしいって思いは分からなくもねえが、世の中そんなに甘くはねえ。甘くない非情な現実を第四の壁を経由して見る、最高じゃねえか。
「まぁ、いい……流石に怠惰に生きるのは性に合わねえ」
色々と考えるに考えたが、元の世界に戻れるわけでもないし元の自分が分からない。
もしかしたら俺はその為だけに作られた人格って可能性だってある。あんまくだらねえ事を考えて答えが一生出ないままになるのが一番厄介だからな、割り切る時は割り切る。
「アニメのポケットモンスターの世界に転生してこの状況……っち……」
ここが何処なのかの確認の過程で見たテレビのニュース番組で今日が新人トレーナーの旅立ちの日だと言っていた。神様の様な存在が動いている事から考えて今日がポケモンを貰える日だ。俺はそれを理解すれば舌打ちをした。
この世界はアニメのポケットモンスターの世界に酷似している世界だ。呪術廻戦やFateみたいにファンタジー要素が多めだが一応は皆が知っている地球じゃない世界だ。
言うまでもないがポケモンっていう超常的な生物が存在していて当たり前の様に認知されてる、ゲームをやっていけば自然と身に付くポケモンに関する知識や見た覚えが無いってのに初期の頃からのアニメの知識が何故かある……だからこそ、準備が必要だ。
ゲームだからで片付けられていたり触れられていないところもこの世界じゃ当然触れられる。代表例で言えば飯だろう。
ゲームのトレーナー、つまりは主人公が飯を食う描写は大分後になってから出てきた。初代では特に出てこない。だがこの世界では冒険の過程で飯は食う、飯の作り方を覚えないといけない。ポケモンの中にはポケモンのご飯であるポケモンフーズじゃなくて純粋に鉄を食う種族も居る。ポケモンも生物なので手入れをしないといけない。毛を持たない鉱物タイプのポケモンもいるからブラッシングだけすればいいという話じゃない。
マジでなんの準備期間も無い状態で人を旅立たせるつもりか。
「目覚まし時計が鳴ったか……四の五の言ってられねえな」
ベッドの上に置いてあるデジタルの目覚まし時計が鳴った。
俺が決めた目を覚ます時間じゃなくて元から設定されていた物で、世間一般で言う早起きをする時間の10分前だ。コレが鳴った以上はもうなにも出来ない。
「あ、おはよう」
「おはよう母さん……今日がなんの日か分かるか?」
「そんなの決まってるでしょ。貴方がポケモンを貰う日、ポケモントレーナーとして旅立つ日……」
二階建ての家だったので1階に降りればキッチンで料理をしている女性がいた。
時間帯的に母だと思ったので声をかければビンゴ、そして今日がなんの日なのかを改めて聞けば俺がポケモンを貰う日だと教えてくれる。
「どのルートで行けばいいと思う?」
「ルートって?」
「ポケモンを貰う順番は早い者勝ちだから、どのルートで一番早くに行けば最短かって」
「オーキド博士の研究所は一本道だから走るしかないわ」
オーキド博士……マサラタウンか。
そうなると俺はアレか?設定上は存在しているサトシとシゲルの同期、フシギダネかゼニガメを選んだモブ野郎か……まぁ、当たりかハズレかで言えば当たりだな。
メガシンカや隠れ特性が無ければ弱いジョウト地方やイッシュ地方よりはいい。
他の当たりはホウエンとシンオウ、この2つの力関係は隠れ特性か通常特性かでひっくり返る、カロスとガラルはまぁまぁでここも隠れ特性か通常特性かで当たりかハズレか大きく変わる、パルデアはよく分からん。ポケモンリーグそのものが無いアローラは論外だ。
「マサラタウンは田舎だから……今年トレーナーになる奴でポケモンリーグに出れる奴は誰だろうな」
「まぁ、やっぱりシゲルくんじゃないかしら?オーキド博士の孫で文武両道なんだから」
シゲルが出たからサトシの同期確定か。
オーキド博士の孫は羨ましい……なんて思わないね。何処に行っても3世の色眼鏡で見られる。そして自分を3世として見るなと言うが3世として見られなければそこに居る事すら出来ないことを自覚していないパターンが多い。
「…………どうなってんだ?」
朝ごはんを食べ終えた後に着替えた。
特に違和感の無い完全な私服とジャージを数着だが鞄が明らかに入っている物の量に対してサイズが足りない。質量保存の法則を無視している。
ゲームのアイテムボックスってこんな感じなのか……まぁ、ガチのキャンプ装備は山男のゴリッゴリの装備だ。山男の装備は装備だけで5kg〜10kgとか当たり前だから重さを感じないのはいいことだ。
「おぉ、待っておったぞ」
オーキド博士の研究所までは一直線と言われていただけあって、オーキド博士の研究所まではホントに一直線だった。オーキド博士が俺の顔を見ればオーキド博士は笑顔になって待っていたと受け入れてくれる。
「この感じですと、俺が一番ですかね?」
「うむ!お前さんが一番じゃ」
早い者勝ちな最初のポケモン争奪戦。
オーキド博士に一番最初に来たのかを聞けば俺が一番なのだと教えてくれて研究所の中に案内してもらい、機械の中に入れられている3つのモンスターボール、それぞれにフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメと名前が刻まれている。
「さて、カントー地方の初心者用のポケモンじゃがくさタイプのフシギダネ、ほのおタイプのヒトカゲ、みずタイプのゼニガメの3体……今日と言う日が来るのを楽しみにしておったのだから、お前さんは既に決めておるじゃろ?」
「いや……実はある事に関して考えてしまいましてね。選ぶに選べない感じになって……3体を実際に見て構いませんか?」
「それはよいが、なにを考えておったんじゃ?」
準備期間があまりにも無さすぎる。
カントーの御三家はダイマックスとメガシンカの両方を併せ持ち、それ無しでも充分に優秀なポケモンだ。だからじっくりと考えていたい……だが、時間が無いから決定する決定打を探す。
オーキド博士は3体をモンスターボールから出した。3体はこの人が自分のトレーナーになるかもしれないと嬉しそうにしている。
「……」
ベタと言えばベタだがリザードンになるヒトカゲがオススメだ。
この世界はゲーム通りにバッジを集めないといけない決まりがあるわけでもないし、アニメオリジナルのジムも存在している。序盤の辛いところを無視できる。将来的にメガリザードンXとメガリザードンYが居るだけで充分な武器になる。
俺の立ち位置的にフシギダネかヒトカゲを選んだトレーナー……ピカチュウは、まぁ、論外だな。アレはサトシにしか扱えないし扱いたいとも思えねえ。
「……オーキド博士、ポケモン図鑑を貰えますか?ちょっと確認したいことが」
「ほれ、お前さんのポケモン図鑑じゃ。身分証明証代わりにもなるから無くすんじゃないぞ」
色々と考えてあることが浮かんだのでポケモン図鑑を貰えないかを聞いた。
何故にとオーキド博士は少しだけ疑問を抱くので最もらしい理由をここで使う。
「ポケモンの中には進化を拒む個体が居る。それは個人の勝手だけど、俺としては進化を拒まれたら困る。だから最終進化系に進化する意思はあるか?」
色々と考えた結果、最初のポケモンはフシギダネにすると決めた。
初代ポケモン図鑑に載っているフシギバナの画像をフシギダネに見せればフシギダネはフシギバナに進化すると決めてくれた。
「オーキド博士、フシギダネを貰いますね」
「うむ!では、残りのモンスターボールを……手持ちが7体以上になれば……は、言わなくても分かるの。珍しいポケモンのゲットを期待しておるぞ」
「まぁ、俺はポケモンリーグがメインなのでシゲル辺りにその辺は任せておいてくださいよ」
オーキド博士からフシギダネを貰い、俺はマサラタウンを出てトキワシティに向かった。