鏡の世界のトロイメライ   作:神永陽江

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 仮面ライダー龍騎を見ていたら創作意欲が湧いてきた(一輝兄)ので初投稿

本作は独自展開とIFを含むことをご了承してください。


第一話 エイエイエイ

 

 

 

とめどない激流の様に泣いてみたい。

 

 

音もない、光もない空虚なこの世界の片隅で、影の中から日を伺う「私」は今日もそんなことを考えてじっと身を潜めている。この世界…鏡の裏側に存在するミラーワールドには、およそ現実世界のような時間の流れは存在こそしているが曖昧であり、今はおよそ夜といったところであろうか。

 

「私」の同胞たちがあまり動いていないところを見るに、現実世界でも「私」たちの餌となる人がそれ程いない夜の時間帯なのだと考察する。この時間は私にとっては好ましい。何せ、自分の着ぐるみじみた醜い姿が鏡に映されることも無いのだから。

 

「私」は自分が嫌いだ。

 

どうしようもなくすることも無い自分も、ただ考えることしかできない自分も、激情に囚われることの無い自分も。何もかもが大っきらいだ。一体こんな私に、どうして生きる定めと世界が与えられたのであろうか。まるで理解が及ばない。

 

そしてそう考えても変わらない現実というものにも悶々とする。そして、何も成せないまま曖昧な明日というものを迎えるのだろう。

 

 

そう思っていた。

 

 

「お前に話がある」

 

あの男が来るまでは。

 

男はベージュ色のコートを着込んだ不気味な瘦せ気味の容姿をしていた。まるで生気を感じられないというのに、なぜか眼光だけが異常なまでに鋭い。現実世界の人間でもここまで威圧感に満ちた目をしたものは稀だろう。とはいえこの鏡の世界の奥の奥にまでやってこれる人間は稀だ。それこそ…

 

「何か用なの? 『父さん』」

 

 

「私」たちの父・神崎士郎のような人でもない限り。

 

「お前に少しばかり用事があってな。この男について知っているか?」

 

一方的に挨拶もなく、神崎は一枚の写真を投げつけてきた。それを受け取って見てみると、被写体はごく普通の少年のようであった。茶髪が特徴的な顔立ちの整った男の子。それ以外は何の変哲もないただの人間。彼が一体何をしたというのだろうか…

 

「そいつと縁を結んでおけ。どうするかの判断はお前に一瞥する。殺してもいいし、守ってもいい…好きにしろ」

 

「なんでさ」

 

「………」

 

神崎は何も答えずにそのまま割れた鏡の破片をこちらに見せる。その先の現実世界では、写真の少年が家の中で寝ているようであった。どうやらここを通ってさっさと行って来いという無言の催促らしい。本当に、この男は身内以外にはとことん厳しい野郎だ。

 

逆に言えば、そんな神崎がとりとめのない他者に気を配るということは、彼の身内に関わっている要注意人物だということだ。さて、どうしたものかと悩んでいても神崎は何も答えてくれないだろうし、ここからは彼の言う通りに動いていくしかないだろう。

 

「それなら見返りくらいあるよね、お父さん?」

 

ミラーワールドに住む怪物である自分が、現実世界に出てくるにはそれ相応のリスクがある。やるならばそれなりの報酬が欲しいところではある。それこそ人っ子一人食べるだけでは物足りないのだ。その言葉を受けた神崎は表情を動かさないまま、新しいカードを一枚投げてきた。

 

「これは…」

 

「お前に…少しばかりの権限を与える。それがあれば、現実世界でも問題ないだろう。さっさと行け」

 

カードを見て呆気にとられる「私」に、神崎は尚も催促を続ける。くそったれめが、こいつに親としての情なんてものは無いのかよ。とはいえ貰ったものがものなのでそこまで強く出られないも嫌な点だ。これだけの代物を貰ったら協力せざるを得ない。

 

「はいはい。わかりましたよーだ。…あ、妹さんにはせいぜい目を配ってやんなよ、思ってるだけじゃ何の意味もないからさ」

 

「………」

 

少しばかり殺気を増した神崎を無視して、貰ったカードを元から持っていたデッキの中に仕舞いこみ、鏡の中へと潜り込んでいく。海の中に飛び込むとも、水を頭から被るとも違う絶妙に気持ち悪い感触。本来ならば余りやらないことだが、それを帳消しにできるほど、これまでの退屈が裏返りそうな予感が、胸を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、城戸真司には幼馴染がいた。

 

いきなり何を言ってんだと思うかもしれないけど、でも俺にとっては大事な思い出なんだ。

 

あいつ…ミラちゃんと会ったのは俺がまだ中学生の頃だったかなぁ。俺が夏休みで両親に親戚の家に連れてかれた時だった。山が直ぐそばにあるど田舎の古い家だったから妙に寝付けなかったんだ。

 

そんな蒸し暑い夜に…俺はミラちゃんに出会ったんだ。

 

しかもそれがとんでもない出会い方でさ!星がいくつも出てる夜空をじっと寝室の鏡越しに覗いていたら、鏡の中を真っ逆さまに女の子が落っこちてきたんだよ!

 

言い方悪いけど…まるで建物から落っこちたみたいに、ぬるって女の子が落ちてきて…!しかも俺さ、そいつと目が合ったんだよ!そいつは、俺を見て笑ってた。まるで幽霊みたいだった…

 

「うわっ⁈」

 

余りにも怖くて飛び起きてさ。そいつが落ちて怪我したんじゃ…もしかしたら、その、死んだんじゃうかもって心配になって勢いよく窓開けて下の方を見たんだよ。そしたらそいつ…

 

笑ってた。

 

しっかり地面に立ってたんだよ、上から落ちてきたのに傷一つなくて俺の驚いた表情を見て笑ってた。よく考えたらおかしいって分かるはずなのにその時の俺は、とにかく女の子が心配で思わず下の階に降りてそいつに会いに行ったんだ。

 

「大丈夫⁈」

 

「え? あ、うん…私体が頑丈だからさ」

 

「でも、万が一怪我してたら危ないし…!」

 

心配で仕方がない俺が手を握ったりしても、そいつは不思議そうにキョトンとした顔を傾けてた。その顔がその…正直綺麗で見惚れちゃってた。

 

「大丈夫大丈夫。これくらいじゃ死なないし、怪我なんてもってのほかだよ? それよりさ、私は君のことがもっと知りたいなって…」

 

深海の底の底を思わせる黒色の髪は肩に掛かる程で、緑色の瞳はエメラルドのように輝いていて、とてもこの世のものとは思えない陰の美の調和を醸し出していた。身長は俺と同じくらいだけど顔立ちは俺よりいくぶんか年上みたいだった。下がり眉でたれ目だったし、声の調子も陰気だった。

 

でも、とってもきれいな子だった。

 

だからこそ俺は…

 

「俺、城戸真司!あんた、名前は…!」

 

「私? そうだね、私の名前は…」

 

夜薫る星に照らされている彼女の姿はとても神秘的で、美しくて、この子とならばどこへでも行ける気がしたし、どこにでも連れていってやりたい…そんな気がした。

 

「私は…ミラ。ミラちゃんって呼んで」

 

じっとりとした声で手をこっちに向けてきたミラちゃん。眼だけが光っているのが不気味だったけど、俺は普通にその手を取ったんだ。それがミラちゃんとの出会いの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな、どうやらお前は記者になれるだけの才能はあったらしい。見事なカバーストーリーだ」

 

「違うって!全部本当のことなんだよ!」

 

「無茶すんな。そんな三文小説みたいな陳腐な出会いがあるわけ無いだろ」

 

「そうだよな、ロンは友達いなさそうだしな」

 

「蓮だ!」

 

喫茶店「花鶏」の店内において二人の男がいがみ合う。一人は水色のジャンパーに赤いシャツが特徴的な好青年こと城戸真司。ORE JOURNALいう会社で働く記者である。もう一人の黒一色の服に包まれた無愛想な青年は「花鶏」のバイトの秋山蓮である。

 

二人は鏡の中の世界・ミラーワールドにおいて命を賭けて戦う仮面ライダーでもあった。

 

二人は、仕事が落ち着いた休憩がてら下宿先の「花鶏」で休憩していたのだが、暇に耐えられなくなった真司が話を切り出したのが事の発端だ。蓮としては余りにも信じ難い話ではあったのだが、とはいえ真司が噓をつける程賢いとも思えない。

 

「そいつは今どうしてんだ。連絡とか取ってんのか?」

 

何とはなしに聞いてみた蓮であったが、それから返ってきた真司の反応は、彼の予想を超えるものだった。

 

「………悪ぃ。それはちょっと…言えない」

 

「お前…」

 

目を伏せ、あからさまに声のトーンを落とした彼に蓮は何も言えなくなってしまう。蓮にも自身の戦う理由でもある寝たきりの恋人がいる以上、それ以上の追及は出来なかった。

 

「ちょっと令子さんのお見舞いに行ってくる」

 

話を切り上げるようにして、真司はカウンターに置いてあったヘルメットを取り、自身の入院している同僚である桃井令子のお見舞いに向かう。彼女は、自身が追っている連続行方不明事件の調査中にアンティーク店で、何者かの襲撃を受けて怪我していた。

 

「……」

 

「悪りぃな。こんな話しちゃって」

 

そう言って真司は自分のバイクを止めてある外へと飛び出していった。その様子を、蓮はただじっと見つめていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんね…ごめん…ね』

 

『もう会わなくていいから』

 

『一人でも大丈夫でしょ? だから…さよならだよ』

 

 

「違う違う違う…! 違うって!」

 

令子が入院している大森病院へのお見舞いを終え、彼女から事件の調査を頼まれた真司であったが、その気分はどうにも優れなかった。頭の中を彼女の言葉が乱舞する。ずっと昔の、自分の頭の奥底に仕舞い込んだ別離の記憶。

 

語るのも憚れる忌まわしい記憶。

 

どうしてそんな事を話してしまったのだろうか。つくづく自分の馬鹿さ加減にうんざりする。昔会った人離れした遥かなる友人。彼女の姿が、言葉が、雰囲気が、未だに心臓に絡みついて離れない。

 

「俺の…せいなんだよ!」

 

縛りつけられた記憶は鉛のように真司の心を深海に引き摺り込む。こんな調子では、令子から託された事件の調査もできそうにない。切り替えようと思ってヘルメット越しに頭をガンガン叩き、道路をバイクで走る真司であったが…

 

 

キィーン…キィーン…

 

「この音…!モンスターが出てるって事か!」

 

金属を擦り合わせた時に出そうな甲高い不協和音。ミラーワールドに関わる者にしか聞こえないこの音は、鏡の世界に住む怪物ことミラーモンスターが人間を襲う際の合図だ。

 

真司は直ぐに路上にバイクを止めて音のする方向へと走ると、その先には驚きの光景が広がっていたのである。

 

「ライダーが…戦ってる⁈」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわっ!」

 

紅い閃光、白い火花、胸に走る激痛がトリガーとなって金色のカニがモチーフの仮面ライダーシザースは、その体を大きく吹き飛ばされる。ミラーモンスターのボルキャンサーと契約してライダーとなった彼であったが、今まさに命の危機であった。

 

変身者である刑事の須藤雅史は、その立場を隠れ蓑にして悪事を働いていた。

 

だが、裏の仕事仲間であるアンティークショップの店長加賀友之と報酬でもめてしまい殺害、彼を行方不明事件の一つとして紛れ込ませようと遺体を店の壁に埋めていたところに神崎士郎と出会い、カードデッキを受け取って仮面ライダーシザースとなった。

 

それ以降その力を溺れてしまい、一般人すらもボルキャンサーの餌にしていた彼であったが、そこに待ったが掛かる。

 

「あなたは…何者ですか⁈」

 

目の前に立ちはだかるマゼンタの色が特徴的なエイがモチーフの仮面ライダーライアは、シザースの質問に答えることなく、ベルトのデッキからカードを取り出して左腕のエイ型のバイザーに読み込ませる。

 

『ADVENT』

 

「ぐおっ⁈」

 

音声と同時にどこからともなく現れたミラーモンスター・エビルダイバーの体当たりをギリギリで交わしたシザースであったが、その頑丈なヒレによる突進は、彼の装甲の薄い腹部を切り裂いて吹き飛ばす。

 

「待ちなさい…!協力といきましょう! あなた程の力があれば、絶対にこの戦いも勝ち残れます…!」

 

「………あっそ、じゃあ死んでよ」

 

初めて聞いたライアの声はじっとりとした女性の声であった。感情の起伏を見せない声音とゆっくりと歩み寄るその姿に、シザースはこれまでの人生の中で初めて死への恐怖が浮き上がっていく。

 

彼女の周囲をエビルダイバーが旋回し、その尾を模した鞭を地面に引き摺りながらこちらへと向かうライアはまさしく地獄からやってきた獄卒のような姿であった。

 

「待て…待ってくれ!」

 

「死ね」

 

紅い鞭の穂先が彼の首を刎ね飛ばそうとしたその時、一人の赤い影が彼らの間に割って入る。

 

『GUARD VENT』

 

「うおっと…!お前、ライダー同士で何やってんだよ!」

「あなたは…?」

 

シザースの前に立ち、彼を守護したのは紛れもなく仮面ライダー。赤と銀のアーマーが特徴的な龍がモチーフの仮面ライダー龍騎。その変身者は紛れもなく城戸真司であった。

 

「俺は城戸真司。あんた…大丈夫か?」

「あ、はい…」

 

彼の契約したモンスター・ドラグレッダーの腹を模した盾を使ってライアの一撃を弾いた彼であったが、その一撃は今まで相手したどのミラーモンスターよりも重く、そして殺意の乗った攻撃であった。

 

痺れる腕に喝を入れ、ライアに向かって龍騎は怒鳴る。

 

「お前はそれで良いのかよ⁈ 俺はモンスターから人を守る為だけにライダーになったをんだ! あんたは…人の命を奪ってもいいのかよ。それで後悔とかしたりしないのか?」

 

城戸真司が仮面ライダーとなったのはつい最近である。取材の為に訪れた先で、ドラグレッダーに捕食された人が遺したカードデッキを引き継ぎ、偶然かつ巻き込まれてライダーになったのだ。

 

だからこそ、彼はライダー同士の命のやり取りは慣れていないし、信じられない行為だった。彼が戦うのは人を襲うミラーモンスターのみであり、人の命を奪うなどもっての外だった。優しくお人好しである彼にとって、目の前の行為は地雷そのものだ。

 

 

「…………」

 

「おい、なんとか言えよ…!」

 

「…………」

 

ライアはじっと龍騎を見つめると、そのままエビルダイバーへと飛び乗って空の彼方へと去ってしまっていた。そして戦場にはシザースと龍騎だけの二人が残されていた。静寂に満ちたミラーワールドで、尻餅を着いていたシザースは立ち上がり、龍騎の肩に手を置いた。

 

「先程はどうもありがとうございます。危ない所を助けて貰いましたね…」

 

「うおっ!大丈夫だって、困った時はお互い様…ってあんたまさか…!」

 

「えぇ、城戸さん。大森病院ぶりと言ったところですかね」

 

「刑事さん!」

 

須藤雅史は城戸真司と面識があった。彼の同僚である桃井令子が事件の調査中に襲撃を受けて怪我した際に真っ先に駆け付けたのが彼であり、刑事として事件を追っているのも彼だった。令子のお見舞いに行った際に城戸真司とはお互いに顔を合わせていた。知り合った相手を守れたことに、真司は大きく安堵したのである。

 

「刑事さんもライダーだったんですね…でも、どうして」

 

「私は一介の刑事です。市民の皆さんが、モンスターたちの犠牲になるのが見過ごせなかった…ただそれだけのことです」

 

もちろん出まかせである。事件の主犯は彼だし、むしろ一般市民を積極的に餌にしていたのである。しかし、お人好しで頭の足りない真司はすぐに信じてしまっていた。その馬鹿な様子を見て、須藤はこう考えた。あのライアとかいう奴よりも、この龍騎という奴がやりやすい。このまま契約モンスターのパワーアップついでに殺してしまおう…

 

そうと決まれば話は早い。

 

「城戸さん。ここは一つ、協力といきませんか? あなたと私で、モンスターから市民を守りましょう!」

 

「おおっ!さっすが刑事さん話が早い! 俺も協力しますよ!」

 

ここで得た始めての戦友に、真司は目を輝かせていた。それが偽りの約束であるとも知らずに。

 

「詳しい話は現実世界に戻ってからしましょう。ここでは時間があまりとれませんので」

 

二人のライダーの体に粒子のエフェクトが奔り始める。ライダーとは言ってもミラーワールドでの活動には制限時間があり、そのタイムリミットが着々と迫りつつあったのだ。とはいえ真司の脳内は味方を得た喜びでお花畑を咲かせていた為、取り立てて焦ることは無かった。

 

「はい! これからもよろしくお願いします!」

 

そうやって仲良くミラーワールドから出ていく二人を、遥か上空から見つめている一人の存在がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、あなたも来たんだね、真司」

 

エビルダイバーの背中の上で、仮面ライダーライアことミラちゃんは悔し気に呟いたのだった。






ミラちゃん/仮面ライダーライア

本作における主人公であり、仮面ライダーライアの変身者

鏡の世界・ミラーワールドに住むミラーモンスターの一体であり、神崎士郎の命令で幼いころの城戸真司と親交があったが、何らかの形で別れてしまったらしい。本作では仮面ライダーライアに変身しているが、本来の変身者である手塚の処遇は今のところ不明。

性格は陰気で自己嫌悪に溢れている。モンスターらしく人間を食うことには抵抗は無い。嫌いなものは自分と神崎士郎。


城戸真司/仮面ライダー龍騎

仮面ライダー龍騎へと変身する新米記者。

お人好しのお馬鹿で優しい性格は相変わらずであるが、過去に幼馴染とひと悶着あったらしく、そのことがずっと心残りとなっている。それ以外は原作と変わらない。今は原作における第4話の位置におり、本来なら敵対するシザースの詳細を知り、そのまま騙された。
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