【完結】二度目の人生を自由気ままに生きる俺の図~可愛いヒロインと美食とお酒でダンジョンワイワイ~ 作:雨音 休
儲ける日とそうでない日がある。
今日は後者だった。ダンジョンの進行度は17階。それでも最初から比べれば深くまで進入していると思う。
噂に寄れば、有名なダンジョンハンターは地下80階を超えて潜っているらしい。恐ろしいよな。そこにはどんな強い敵が出るんだろうか。こわいこわい。
夕食後、ボロックの散歩に来ていた。住んでいるアパートから片道三十分ほどを行って戻ってくるコースである。もちろん朝晩。
文明的な明かりの無い暗い夜道。彼は一人でも行けると言うのだが、いやそれはまずいだろ。デカい狼が一頭でうろついていたら町民が驚くっつうの。そして逃げ出すと思う。
住民に怯えられてはまずいので、主人がこうして後ろを着いて行かなきゃいけない。これも務めである。
散歩は気持ち良いからいいけどな。食後の運動にもなるし、それに犬は可愛いし。狼だけどさ。だけどデカい犬って夢があるよな。幸せの象徴かもしれん。狼だけどさ。
ちなみに娘っ子二人はお留守番である。最近は歌に夢中だ。楽器を早く弾きたいようで、だけど弾き方が分からないらしい。また休日を待つしかないってのも、もどかしいもんだ。仕方無いんだけども。
ボロックがマーキングしてはすいすいと進んで行く。
両手を皮ズボンのポケットに突っ込んで追いかける俺の図。
小さな草原に入り、狼がいまうんこした。
ステータス画面から専用の袋と移植ゴテを取り出して、後始末の準備をする。町を汚しちゃいけないよな。マナーはキチンと守らんと。
すっかりと油断していた。――まさかのタイミングである。
「マジェスタ、やりな!」
「セニス様、分かりました」
「何だ?」
俺は眉をひそめてつぶやく。
大きな黒い影が走ってきて奇襲をかけた。フンをしたままぷるぷると体を震わせているボロックに攻撃をしかける。銀狼を弾き飛ばした。何て卑怯な奴だ。
「ぐるぅっ、何だ!? グワーッ」
「マジか!」
俺は顔を強ばらせた。ボロックが手ひどい痛手を受けてしまった。そして今はエヴリルとシノもいない。自分の身は自分で守るしか無い状態である。だけど俺はYOWAIんだよNE。
「マジェスタ、あの男をかっ攫いな」
「ガウアアアアッ!」
「このっ! やめろ!」
ムチを取り出す暇も無かった。
巨大な熊が俺の肩に噛みついて持ち上げ、そのまま走り出す。おい、痛え。痛いっつうの。お前の牙が俺の肉に食い込んでいるからな! 血が出てるって! やめろ離せ。
そして俺は地面に引きずられるように攫われて行ったのだった。ぴえん。
◆◆◆
「「クレナチアの咲く頃に~♪」」
二人で合唱していた。シノは歌が上手いわ。分かるの。あたしは時々音を外して変な声になるんだけど、彼女は全くそんな事は無い。ずるいわね。
というかシノってさ、何か甘い匂いがするのよね。その体からはアイスクリームみたいなかすかな香りがする。一体何なんだろ。面白いわ。やっぱり母乳が出るんじゃないかしら。それでその匂いが漂っていると思うの。
機会があったらもう一度吸ってみよう。
ベッドに座っているあたしたちが歌っていると、玄関からナニカが飛び込んでくる音が聞こえた。けたたましい響き。
ガタンッ!
「え?」
「ふわっ」
歌を中断する。
一体なに? あたしが立ち上がり、ベッドに置いてあった剣のついたベルトを掴み引き寄せる。
スティフとボロックが帰ってきたにしても変な物音だ。
「何なの?」
「エヴちゃん、こ、怖い」
「シノ、後ろから着いて来て」
「分かりました」
あたしが部屋の扉を開けておそるおそる玄関へと向かう。そこには腹から血を流した銀狼が倒れていた。ちょっ、どうしたの!? 急いで駆け寄る。
「ボロック!?」
後ろからシノも来た。
「ボロックどうしたの?」
「ハーハーッ」
銀狼が荒々しい呼吸をしている。お腹が痛そう。二人で狼をそばにしゃがんだ。シノが持ってきた杖を向けてすぐに唱える。
「――アクアヒール」
「愚かな貴方に恵みの水よ」
ボロックが水泡に包まれて、腹の傷が治療される。それからゆっくりと立ち上がった。すまなさそうな顔つきで、
「エヴ、シノ、すまん! 後れを取った!」
「後れを取ったって何? スティフはどうしたの?」
あたしが聞いた。まさか!? 悪い予感が脳裏をよぎる。
「スティフが、スティフが今朝のセニスとか言う女と熊に、連れて行かれてしまった!」
「マジなのっ!?」
「えぇぇぇぇ?」
シノが素っ頓狂な声を上げている。
あたしは顔から血の気が失せた。顔面蒼白とはこの事だ。セニスのことは良く知っている。性根が曲がっているあの人のことだ。スティフを懐柔して、あたしたちが家を買うのを取りやめに追い込むつもりである。そして自分の物にするつもりだ。きっとそうだわ。
「すまん……油断をしていて守れなかった」
ボロックが悔しそうにキューンと鼻を鳴らす。あたしはその鼻面を指で撫でた。
立ち上がる。
「スティフを取り返しに行きましょう」
「うん、そうだよね!」
シノも床を立つ。
セニスのアパートの所在は知っている。海辺の方である。剣のベルトをしっかりと腰に巻き付けて、あたしは玄関を出た。後ろからシノとボロックがついてくる。合鍵はスティフから預かってあった。扉を閉めて鍵をかける。
まったくもう、どーしてこんなことになっちゃったのよ。こんな事ならあたしも散歩に着いていけば良かったわ。今度からそうしよう。
元主人との戦闘を予感して、あたしは顔が怖々と歪んだ。セニスはあたしの剣の師匠だ。はっきり言って強い。だけどこうなったら、二人と一頭でやっつけるしか無いわね。殺すことになるのかも。だけど。
優しいスティフ、可愛いスティフ。あたしを拾ってくれた恩人。
絶対に助けてあげるからね!