仮面ライダージェム   作:黒井福

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第11石:彩硬の騎士

 マンティスヤジュエルに変異していた男の居場所を突き止めたのは唯達警察に関係する者達だけではなかった。ジェーンの下で傷を癒していた晶もまた、ジェーンの情報収集によって浩司の存在と居場所を突き止めていた。その情報を聞かされた晶は即座にそのまま浩司の元へ向かい、速やかにパワージュエルを回収しようとベッドから降りようとした。

 

「なるほど、そいつがパワージュエルを……!」

「スト~ップ。晶ちゃんは~、一度お家に帰った方がいいわ~」

 

 だがジェーンはそれを宥め、一度帰宅する事を晶に勧めた。そんな悠長な事をしている暇はないと反論しようとする晶であったが、ジェーンは晶の頭を豊満な胸で包む様に抱きしめて強制的に黙らせると、一度帰宅すべきと判断した理由を彼女に告げた。

 

「そんな暢気な事、むぐっ!」

「まぁ聞いて~。今回のパワージュエルの持ち主の事は~、警察の方でも正体を突き止めてるわ~。きっと今頃~、唯ちゃんと新型のライダーシステムがそいつの所に向かってる筈よ~」

「むぐぐ……ぷはっ! だったら尚の事急がないといけないじゃないッ! のんびりしてる間に警察にパワージュエルを回収されたらどうするのよッ!」

 

 晶の懸念は尤もであったが、そうは問屋が卸さないだろう事をジェーンは見抜いていた。その最大の理由は、最近になって活動するようになったカルネプラエドである。

 

「そう簡単には行かないわよ~。何しろ向こうには~、例のカルネプラエドって奴が居るんだから~」

「あ……」

「そいつ言ってたのよね~? 晶ちゃんからパワージュエルを奪うって~。という事は~、この浩司って男は晶ちゃんを誘き寄せる為の囮にされてる可能性が高いわ~」

 

 そんな餌をセツナやバリアにむざむざ倒させるような事はしないだろう。晶より先にその2人が浩司に仕掛けてくれば、十中八九カルネプラエドが邪魔をしに来る筈。少なくとも晶が一度帰宅し、そして再び動き出すまでの猶予はある筈だった。

 

 それに…………

 

「それに仮に警察に回収されちゃっても~、盗みに行けばいいじゃな~い」

 

 言われてみればその通りだ。あまり関心出来る考えではなかったが、これまでに幾度も警備の厳しい場所に潜入しては目的の物を手に入れてきたのだ。今更警察にパワージュエルが回収されたとしても、恐れる事は何もなかった。ちょっと普段より警備が厳しくなる程度だ。

 

「もしかしたら~、晶ちゃんのお父さんが新しいパワージュエルを使える様にしてくれてるかもしれないわよ~。今のまま挑んでもきっとまた新しい仮面ライダーに阻まれるのは目に見えてるし~、晶ちゃんも戦力アップを図った方が良いんじゃな~い?」

「……そうね、分かった」

 

 ジェーンの言葉に納得した晶は、一度帰宅する事を決めると人目に付かない様注意しつつ診療所を後にした。

 

「それじゃ、世話になったわ。ありがと」

「気にしないで~。何時でもいらっしゃ~い」

 

 にこやかに手を振るジェーンに晶も小さく笑みを返すと、素早い身のこなしで人目を避けつつ日が傾き夕日で赤く染まった街の中を駆け抜けて自宅へと戻った。

 帰宅して早々晶は真也の元を訪れると、早速新しいパワージュエルが使えるようになっているかを訊ねた。

 

「父さんッ!」

「うぉっ!? お、お帰り晶。随分慌ててるようだけど、どうしたんだ?」

「細かい事はどうでもいいわ。それより父さん、私がこの間外国の博物館から持ち帰ったパワージュエル、どうなった?」

 

 海外の博物館から盗み出した宝石……パワーコランダムは良質なパワージュエルであった。ジェムの新たな力となるパワージュエルは帰国後即座に真也に預けられ、ジェムが使えるよう加工してもらっていたのだ。その状態を晶に問われ、大体の事情を察した真也は即座に自身の作業場へと戻ると新しいパワージュエルの指輪を持って戻ってきた。

 

「待たせたね、晶。出来てるよ。パワーコランダムだ」

 

 受け取った指輪には確かに晶が盗み出したパワーコランダムがはめ込まれていた。中心で赤と青に分かれた不思議な色合いの宝石は、パワージュエルが持つエネルギーなど関係なく心を惹き付けるほどの美しさを持っていた。晶も思わず見惚れてしまう程である。

 

「良い色……ありがと、父さん」

「いいんだよ。それより、新しいパワージュエルの持ち主は分かったのか?」

「うん。ただ警察の方でも突きとめてるっぽいから、急がないとそっちに先越されちゃうかも」

 

 恐らくはカルネプラエドがそれを邪魔するだろうとはジェーンに言われていたが、その事は敢えて黙って晶は急ぎ浩司の元を訪れようと準備を整える。受け取ったパワーコランダムをジャケットの内側の指輪ホルダーに大切に仕舞い、徐々に暗くなっていく街へと再び繰り出していった。

 

「それじゃ、行ってくるから」

「気をつけてな」

 

 自分を心配してくる真也の言葉に頷き返すと、晶は仮面を被り怪盗ジェムとなって外へと飛び出していく。屋根を伝って目的の場所へと向かっている内に日は完全に沈み、代わりに月が空へと昇り始める。

 

 移動の最中、晶は建物の屋根に足を掛けながら改めて新しいパワージュエルの指輪を眺めた。左右で色の違うバイカラーのサファイア……右が赤いのに、中央で突然グラデーションが変化し左側は青になっている。サファイアは元々青だけでなくカラーバリエーションが多い宝石だが、このように一つの宝石で色に変化があるのは珍しい。博物館に展示されるのも分かると言う物だ。

 

 晶は束の間、目的も忘れて宝石を月明りに照らしその神秘的な輝きを楽しんでしまった。

 

「……フフッ」

 

 何時か、こんな輝きを自分も取り戻す。その決意を胸に晶は指輪を仕舞うと目的の民家へと向かっていった。

 

「……ん?」

 

 目的の家へと向かう途中、ふと晶が下の方を見ると1台の車が同じ方向に向けて走っていくのが見えた。偶然? 否、パトカーでこそないがあれは警察車両だ。運転席は見えなかったが、助手席に一瞬だが唯の姿が確認できた。予想通りあちらでもマンティスヤジュエルの正体を突き止め、逮捕ないし保護とパワージュエルの回収を行おうとしているのだ。

 

「させるか……!」

 

 合理的に考えればここはあちらに先に向かってもらい、浩司が変異したマンティスヤジュエルを消耗させてもらうのが最善なのかもしれない。このまま急ぎ向かってもバッティングして三つ巴の戦いになるのは目に見えている。無駄に混沌とした戦いをする事は、効率がいいやり方とは言えなかった。

 だが晶はそのような姑息な手段を自ら棄てた。効率を考えれば確かに漁夫の利を狙うのが普通なのだろう。だが自分は怪盗ジェムであるという自負が、敢えて過酷な方法を彼女に取らせた。怪盗ジェムはただのコソ泥ではない。困難に自ら飛び込み、華麗に目的の物を盗み出すのだ。

 

 しかしそうしたくても難しいのが現実であった。幾ら道を無視して目的地に直行しようとも、車と人間の足では移動の速度で絶望的な差がある。晶が一刻も早く浩司の家に向かおうとしても、車が少しでもスピードを上げてしまえば、晶は容易く引き離されてしまう。

 

「クソッ……!」

 

 歯噛みする晶を置き去りにしながら、唯と誠の乗った車は件の浩司の家へと辿り着いた。外から見る限り、家に人の気配は感じられず夜もまだ早い時間だというのに窓に灯りを見る事は出来ない。

 

 車を降りた2人は気配を消してそっと玄関に向かい、インターホンを鳴らした。一度で反応が無かったので二度、三度と鳴らすが結果は同じ。反応は勿論、家の中で何かが動いた気配も感じられなかった。

 外出中の可能性もあったが、唯の直感は異変を確かに感じ取っていた。誠にアイコンタクトで確認を取ると、彼もまたただの外出ではないと察しているのか頷くと慎重にドアノブに手を掛けゆっくりと捻ってみた。

 

 ドアに鍵は掛かっていなかった。ドアノブを捻り引っ張ると、家のドアはカチャリと音を立ててゆっくり開いた。

 

 開かれた玄関から家の中を覗き込むが、中も灯りはなく真っ暗だ。誠はライトと拳銃を抜いて土足で家の中に入って行き、唯も苦無を構えながらそれに続いた。廊下を進んでいき、正面のドアを開くとそこはリビングであった。特別散らかった様子は無いが、それが誠には逆に不気味に感じられ彼は手にしたライトで隅々まで室内を走査していく。今のところ異変の類は見られない。

 

(何処にもいない? 本当に?)

 

 唯はライトを持っていないが、くノ一として鍛えられた視力が夜目を利かせ僅かな明かりだけで正確に室内の様子を視認していた。彼女の目にも浩司本人は勿論、怪しい人影の類は確認できなかった。

 

 その時、誠の持つライトの中に一瞬何かが揺らいだのが見えた。

 

「ッ!!」

 

 誠は素早く反応し、揺らぎが確認出来た場所を集中して照らし目を凝らす。拳銃を持つ手に力が籠り、引き金に指が掛かり何時でも発砲できるよう身構えながら異変を確認出来た場所を凝視しながら慎重に近付いていく。

 

 しかし、彼が確認できた異変はそこまでであった。揺らぎが確認された場所に目と鼻の先まで近付くと、そこに妙な物の類は確認できず試しに拳銃の先でその部分を突いてみるが銃口は何を捉える事も無く虚しく空を切った。

 

(気のせいだったか?)

 

 何処か釈然としないものを感じながら、ここに目的の人物の手掛かりは無いと誠は唯に移動を促そうと彼女の方にライトを向けた。

 

「南城さん、ここは……!?」

 

 そこで彼が見たものは、今正に唯に近付こうとしている”透明な何か”であった。ライトで照らさなければ分からない位透明度が高く、光が僅かに屈折してからこそ存在が辛うじて確認できた。

 誠は咄嗟にその揺らぎに向けて躊躇なく発砲した。

 

「南城さんッ!」

「えっ!?」

 

 まだその存在に気付いていなかった唯が振り向くのと、誠の銃が火を噴いて銃弾が透明な何かに命中するのは同時であった。発砲された二発の銃弾は、その透明な存在に命中すると火花を上げて弾かれた。ここで唯も自分の身に危険が迫っていた事に気付くと、誠の銃弾が命中したところを目印に苦無を振り下ろした。

 

「くっ!」

 

 鋭く振り下ろされた苦無の刃は、目に見えない何かに受け止められた。動きを止めさせられた唯であったが、この状況はある意味で好都合。姿こそハッキリしないもののそこに存在する事は分かっているのだ。であれば……

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 苦無を振り下ろすと同時に構えていた忍筆を振るい、風遁の術を発動させ瞬間的な暴風が不可視の敵を吹き飛ばす。風の爆弾と言っても過言ではない風遁の術を喰らった相手は、風に押し出されるように壁を粉砕し外へと吹き飛ばされていく。

 

「逃がさないッ! 執筆忍法、変身の術ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 瞬きの、刹那を見抜き、忍ぶ者……セツナッ! 達筆ッ!】

 

 吹き飛ばされていった者を追いかけるべく、唯はセツナに変身して壁に開いた穴から外へと出ていく。それを見た誠も彼女に続くべくバリアに変身した。

 

〈Certification〉

「変身ッ!」

〈Ready now〉

 

 バリアに変身した誠は、外に出ると即座に視界モードを切り替えて不可視の敵の姿を探した。そこに存在する限り、あらゆる視界から逃れるなどと言う事出来る訳がない。

 果たして紫外線は不可視の敵……マンティスヤジュエルの姿を鮮明に捉えた。まだ姿を消しているのかセツナは見つけられていないようだが、バリアからはその異形の姿が丸見えであった。まだ見付かっていないと思っているのか油断した様子のマンティスヤジュエルの出鼻を挫く為、バリアはバリアリボルバーを抜きマンティスヤジュエルに向け引き金を引いた。

 

「そこだ……!」

「グアァッ!? 何ッ!」

「えっ!?」

 

 またしても背後を取られていたセツナは背後から聞こえてきた悲鳴に振り返る。そこではバリアの銃撃により透明化を維持できなくなったらしきマンティスヤジュエルが姿を現し、撃たれた所を押さえながらバリアを睨み付けている。これで状況はヤジュエルに不利になった。2対1の構図となった挙句、ヤジュエルの方は負傷しているのだ。ここから巻き返す事は難しい。

 

「ここまでよ、大人しくしなさいッ!」

「詳しい話は後で聞かせてもらう」

 

 既に自分達の勝利を確信した2人の仮面ライダーは、ヤジュエルへの警戒もそこそこにやって来るだろうジェムへの警戒を緩めなかった。ジェムの情報収集手段などが分かっていない2人ではあるが、少なくとも何処からか嗅ぎつけてくる事は分かっている。今回もきっと出てくるだろうと思っているし、実際彼女もこちらへと向かっている最中であった。

 

 ただ惜しむらくは、ヤジュエルとパワージュエルに関わっているのがジェムだけではないという事を失念していた事である。この状況を利用しようとしている、悪意ある存在が今の状況を見ていたのだ。

 

「仕方がない。ジェムが来るのを待ちたかったが……」

 

 離れた所からこの戦いを見ていたカルネプラエド。本来であればジェムを不意打ちすべく待ち構えていたのだが、ジェムが来る前にヤジュエルが倒されてしまえば意味がない。已む無くカルネプラエドは専用グレネードランチャーを構えると、セツナとバリアに向け砲撃をお見舞いした。

 

 2人に迫る悪意ある砲弾。それに真っ先に気付いたのはセツナの方であった。彼女は不意に背筋に冷たいものが走るのを感じ、直感的に明後日の方に顔を向けると自分達に向け飛んでくるグレネード弾を見つけた。

 

「なっ!? くっ!」

 

 即座にセツナは手裏剣を投擲しグレネード弾を撃ち落とす。複数枚放たれた手裏剣の内何枚かは逸れてしまったがそれでも着弾前にグレネード弾を撃ち落とす事に成功した。

 

 空中で炸裂し、二つの火球が瞬間的に周囲を照らす。同時に広がった衝撃にセツナとバリアが踏ん張って堪えていると、その間にマンティスヤジュエルは新たに手に入れたパワージュエルを自らに取り込みパワーアップを図った。

 

「コンナ所デ終ワッテ堪ルカッ! オォォォォッ!」

「ッ! あいつッ!」

 

 先に異変に気付いたのはセツナであった。彼女が止めようとそちらへ向かうも、それより早くにマンティスヤジュエルはパワータンタライトを取り込みその体を緑から赤に変色させた。

 赤くなったマンティスヤジュエルにセツナは忍者刀を振り下ろす。だが驚くべき事に、マンティスヤジュエルはセツナの攻撃をその身で受け止めてしまった。防御もしないのだ。にも拘らず、セツナの斬撃は弾き返され、予想以上の硬さに彼女も面食らい僅かによろめく。

 

「くッ!? か、硬い……!」

 

 タンタライトはその名の通りタンタルと言うレアメタルを含んでいる。タンタルは融点と耐腐食性が高く、おまけに高密度でありながら加工しやすいときていた。非常に優れた特性を持つレアアースを含んだ鉱石であり、その特性が大きく引き上げられたパワータンタライトを取り込んだマンティスヤジュエル・レッドはセツナの斬撃をも軽々と受け止めてしまえるほどの硬度を持つに至っていたのだ。

 

「オォォォォッ!」

「くぅっ!?」

 

 セツナの攻撃の効き目が目に見えて悪くなったのを感じ取ったマンティスヤジュエル・レッドは、そのまま勢いに乗って攻勢を強めた。責め立ててくるマンティスヤジュエル・レッドにセツナも術を駆使して対抗するが、新たに取り込んだパワータンタライトの効果で術も効き目が悪く苦戦を強いられていた。

 

 苦戦するセツナの姿にバリアも援護に向かいたかったのだが、それは現れたカルネプラエドにより阻まれてしまう。

 

「貴様は……」

「お前が新型か。どれ、俺が相手をしてやろう」

「件の正体不明の新型か……!」

 

 グレネードランチャーを構え砲撃してくるカルネプラエドに対し、バリアは果敢にリボルバーのみで挑んだ。次々と放たれる砲弾が炸裂し行く手を阻んでくる爆発の中を、バリアは持ち前の防御力と鍛えた身のこなしで被害を最小に抑えつつ前に進んだ。距離が近付いて来るにつれて、カルネプラエドの動きにも焦りが見られるようになってくる。

 

 そして…………

 

「そこだッ!」

「うぉっ!?」

 

 カルネプラエドが放った砲弾の一つをバリアが正確に撃ち抜いた。空中で撃ち抜かれた砲弾はその場で炸裂し、出し抜けに眼前で起こった爆発にカルネプラエドも思わず手で顔を守った。

 

 その隙にバリアは一気に至近距離まで接近すると、近接戦闘用装備であるバリアロッドを左の太腿から引き抜きカルネプラエドの手元に振り下ろした。打撃と同時に電流を流す警棒はグレネードランチャーを叩き落し、武器を奪われ無防備になったカルネプラエドにバリアは容赦なくリボルバーを向け引き金を引いた。

 

「貰ったッ!」

「舐めるなッ!」

 

 しかしカルネプラエドも只者ではなく、ギリギリのところで態と体勢を崩し倒れ込む事で銃弾を回避。倒れた状態で左腕をバリアに向けると、手首の部分に隠されていた銃口からエネルギー弾が放たれバリアの装甲の上で弾けた。エネルギー弾は決して威力が高い訳ではなく、何なら牽制程度の威力しかない。だが不意に放たれた攻撃はバリアを怯ませるには十分であり、その隙にカルネプラエドは立ち上がり体勢を立て直してしまった。

 

「くっ!?」

「ふぅ……なるほど、やるじゃないか」

「フンッ……お前こそ」

 

 お互い相手を油断なく睨み付け、牽制し合いながら攻撃のタイミングを見計らうバリアとカルネプラエド。一方、セツナはマンティスヤジュエル・レッドを相手に依然として苦戦を強いられ、ダメージの大きな攻撃を喰らわないようにするので精一杯と言った様子であった。

 

「オラオラオラァッ!」

「ハッ、くっ! うぅっ!?」

 

 ごく近い距離で激しい戦いが行われるその様子を、少し離れた所から晶が屋根の上から眺めていた。

 

「到着っと……うわぁ、何よあれ?」

 

 少し離れた所から見える戦場の様子に晶は仮面の下で顔を顰めた。無理もない。最近の戦いで苦戦させられたバリアが居るのはまだいいとして、同じくパワージュエルを狙うカルネプラエドに加えてマンティスヤジュエルは色が赤くなっているのだ。パワージュエルとカルネプラエドを良く知る晶は、マンティスヤジュエルが新たにパワージュエルを取り込んだ事を察し戦いが面倒になった事を嫌でも察した。

 

「うげぇ……どうせあのカルネプラエドって奴が何かしたんでしょうけど、やってくれるじゃないの」

 

 とは言え、面倒な状況になったからと諦める選択肢は晶の中にはない。パワージュエルを集めるという彼女の想いは、この程度で萎えるほど安くも弱くも無いのである。

 

「やってやろうじゃないの……! 変身ッ!」

《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》

 

 晶はジェムに変身すると、一気に現場へと近付き大きく跳躍するとマンティスヤジュエル・レッドとカルネプラエドの頭上からファントムシューターで銃撃しながらセツナの傍に着地した。

 

「グッ!?」

「ッ、来たか……」

 

「えっ!?」

「何だッ!?」

 

 概ね驚いたような反応を見せる中、唯一カルネプラエドだけはジェムの参戦に早くもこの場から離れる準備に入る。ジェムは視線の端でカルネプラエドが逃げようとしているのを見ながら、傍らのセツナに背を押してバリアの方に向かわせようとした。

 

「足止めお疲れさま。後は私が何とかするから、あなたはお友達の手伝いでもしててちょうだい」

「ふ、ふざけないでッ! あなただって私達の目的だってこと忘れてるんじゃないの!」

 

 ジェムの狙いは明らかだ。さっさとマンティスヤジュエル・レッドを倒して、パワージュエルだけを回収して逃げるつもりなのである。ヤジュエルに変異してしまった人物の確保は勿論だが、ジェム自身もセツナ達が捕縛する目的の相手である為放置する訳にはいかない。

 

「でもあなた、コイツ持て余してるじゃない? あっちだって1人じゃ大変そうだし、あれを逃がしてもいいなら私がヤジュエルとあなたを同時に面倒見てあげてもいいけど?」

「~~~~、分かったわよッ! その代わり、その人の事頼んだわよ」

「はいは~い」

 

 ここまで言うという事は、ジェムには自信か秘策があるという事。セツナはそう信じて、マンティスヤジュエル・レッドを彼女に任せ自分はカルネプラエドを退ける方に向かった。

 

 ジェムがそこに居るというのに、ジェムを放置して自分の方に来たセツナに当然バリアは苦言を呈した。

 

「何をしているんですッ! コイツは私が1人で何とかしますから、南城さんは――」

「分かってますッ! でも、あの変異した人も助けなきゃいけないんですッ!」

 

 悔しいが、今のセツナではあのヤジュエルに対して有効な手が打てない。それならば、自信があるジェムに任せた方が余程マシだ。少なくとも足を引っ張るという事にはならない。

 勿論、ジェムを結果的に放置するという事実に思うところがない訳ではない。だがヤジュエルに変異してしまった浩司の安全を天秤にかけ、この場は彼の救出の方を取ったのである。

 

「それにここでこいつを追い払えれば、私達2人であっちに向かえますッ!」

「……分かりました。今はそれで納得しましょう」

 

 セツナの言う事にも一理あると言えば一理あるので、この場はバリアが引き下がって2人でカルネプラエドを退ける事に集中する事にした。対峙する2人を前に、カルネプラエドは首をコキコキと鳴らしながら相対する。

 

「2人掛かりで俺の相手が出来ると? 舐められたもんだ」

「そんな余裕も……!」

「今の内だッ!」

 

 

 

 

「さってと……」

 

 一方その頃、マンティスヤジュエル・レッドと対峙しているジェムは冷静に相手を観察していた。

 

(前見た時とは色が違う……赤いパワージュエルを取り込んだか。無茶をするわ、最悪戻れなくなるかもしれないのに)

 

 思案しながらジェムは右手の指輪をバイカラーサファイア、パワーコランダムに取り換える。チラッとセツナの戦いを見たが、以前戦った時に比べて明らかに硬度を増している。

 

「硬い相手には、硬い力でってね」

 

 以前に比べて明らかに厄介になった相手を前に、しかしジェムは余裕を崩さない。右手に新たに嵌めた指輪に軽くキスを落とし、仮面の下で笑みを浮かべるとマントを手で梳く様に靡かせ口元に人差し指を当て扇情的なポーズを取って相手を挑発した。

 

「さぁ、あなたも私の輝きで包んであげる」

《Change of Cut, Cloth Corundum! Commit the Knight!》

 

 ベルト左のレバーを引いてバックルの円盤を高速回転。そこに指輪の宝石を擦り付けると、飛び散った粒子がジェムの体を包みその姿を新たな装いに変化させた。

 

 青いボディースーツに赤い鎧を身に纏った騎士の様な重厚な見た目の姿となったジェム。手には刃の中央で色が赤と青に分かれた両手剣『スターブレイド』を持っている。

 これがジェムの新たな姿である『コランダムカット』だ。見た目からしてそれまでのジェムに比べて力強く硬さも増した印象の姿となったジェムに、マンティスヤジュエル・レッドは怯まず挑みかかった。

 

「ソレガドウシタァァァァァッ!」

 

 両腕から伸びた鎌で斬りかかるマンティスヤジュエル・レッドだったが、ジェムはそれに対し目立った反応を見せなかった。地面に突き立てたスターブレイドの柄頭に両手を乗せ、どっしりと構えたまま動こうとしない。

 

「ちょ、何やって……!?」

 

 カルネプラエドと戦いながらジェムの様子を伺っていたセツナは、相手の攻撃に対し対応する様子がないジェムに驚愕し思わず声を上げた。

 

 セツナの心配も他所に、マンティスヤジュエル・レッドの刃がジェムに振り下ろされる。元々防御力が低い方だったジェムの体は、鋭いマンティスヤジュエル・レッドの刃に深々と切り裂かれ――――

 

「……ふむ」

「ナッ!?」

 

 ――――るかに思われたが、そんな事は無くマンティスヤジュエル・レッドの攻撃は逆に弾かれ体勢を崩されてしまった。見ればジェムの鎧には傷一つ付いていない。

 

「ソ、ソンナ馬鹿ナッ!」

 

 諦める事無く何度も切りつけるマンティスヤジュエル・レッドだったが、ジェムには一向にダメージを与えられない。何度も切りつけれいる内に体力を消耗したマンティスヤジュエルが動きを止めると、今度は自分の番とばかりにジェムが地面に突き立てていたスターブレイドを抜き横薙ぎに振るった。

 

「ハァァッ!」

「ガァァァァァッ!?」

 

 ジェムにはマンティスヤジュエル・レッドの攻撃が通用しなかったが、その逆は成り立たなかった。ジェムの一撃は容易くマンティスヤジュエル・レッドの宝石の甲殻を切り裂いた。セツナの攻撃を容易く弾いた甲殻が切り裂かれた光景に、カルネプラエドを牽制しながら様子を伺ったバリアも息を飲む。

 

「何だ、あの硬度は……」

 

 ジェムの強さの秘訣は変身に使用した宝石にある。

 

 パワーコランダム……コランダムは、硬さの指標であるモース硬度の9を誇る。これは世界一硬いと言われるダイヤモンドに次ぐ硬さであった。パワーコランダムはその硬度を更に強化された宝石であり、今のジェムは並大抵の攻撃であれば全く受け付けない程の硬度とそれを支える力強さを持っていたのだ。

 

 尚コランダムに属する宝石はルビーとサファイアであり、両者は色が違うだけで実質同じ鉱石であると言える。

 閑話休題。

 

 敢えて相手の攻撃を受け止め、そして反撃を加えた事でジェムはマンティスヤジュエル・レッドとの力関係を正確に推し量った。相手の攻撃は自分には効かず、自分の攻撃は相手に大ダメージとなる。

 そうとなれば話は早かった。

 

「さぁ、私の虜にしてあげるッ!」

《Charge of Cut, Critical Corundum! Crystal crush!》

 

 指輪の宝石を円盤で限界まで研磨し、飛び散った粒子が手に持ったスターブレイドに集束していく。エネルギーが集束し眩い光を放つ刀身に、マンティスヤジュエル・レッドが堪らず顔を手で覆い隠す。

 

「ウォォッ!?」

「ふぅぅぅ……」

 

 あまりの眩しさに身動きが取れなくなるマンティスヤジュエル・レッドの前で、ジェムはスターブレイドを構える。その光景を遠目にセツナ達も戦いの手を止めて見ていた。

 

「あれは……」

 

 バリアが見ている前で、ジェムは光り輝く刀身を持つスターブレイドを袈裟懸けに振り下ろした。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「グアァァァァァァァァァッ!?」

 

 ジェムが剣を振り下ろすのを気配で察したマンティスヤジュエル・レッドは、咄嗟に両腕の鎌で防御しようとする。だが振り下ろされた刃は高い硬度を持つマンティスヤジュエル・レッドの鎌を飴細工の様に容易く砕くと、そのままその下にある本体をも両断してしまった。両断されると同時に流し込まれたエネルギーは、浩司を変異させていたエネルギーを相殺し二つのパワージュエルが弾かれるように彼の体から排出された。同時に浩司の体は元に戻り、崩れ落ちる彼をジェムは剣を落とす様に捨てて支えると遅れて落下してきたパワージュエルを片手でキャッチしてみせた。

 

「ふぅ……」

 

 変異していた浩司はパワージュエルのエネルギーから解放され、意識を失っている。顔色は悪いが生きている事にジェムがこっそり安堵していると、彼の体から排出されたパワージュエルが小さな音を立てて砕けてしまった。これも質が低い物だったのだ。その事に彼女は落胆を隠せない。

 

「ぁ……あ~ぁ、またか。まぁ高品質の物はそうそう出てこないわよね」

 

 愚痴りながらジェムは浩司を優しくその場に寝かせ、踵を返してその場を去ろうとする。

 

 その背にカルネプラエドとバリアが同時に襲い掛かった。

 

「逃がすと思ってるのかッ!」

「今度こそ、お前を……!」

「ッ! させないッ!」

 

 ほぼ同時にジェムに向けて飛び掛かったカルネプラエドとバリアだったが、ここから先の展開はあっと言う間であった。

 

 まずセツナがジェムの方へと向かったカルネプラエドに素早く火遁の術を放ち動きを妨害する。ジェムに飛び掛かる途中で撃ち落されたカルネプラエドが地面に叩き落されるのを尻目に、バリアは1人ジェムへと飛び掛かり空中から回し蹴りをお見舞いした。

 

【忍法、火遁の術ッ! 達筆ッ!】

「ぐぉぉっ!?」

「今ですッ!」

「あぁっ! はぁぁっ!」

 

 落下の勢いも乗せた回し蹴りは、クオーツカットのジェムであれば大きなダメージとなったであろう。だがコランダムカットのジェム相手では勝手が違った。彼女は叩き落された蹴りを片腕で受け止めると、空中で動きを止めたバリアに下から掬い上げる様に剣を振り上げて斬撃をお見舞いしたのだ。

 

「フッ!」

「何ッ!?」

「ハッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 ほとんど防御できずに攻撃を受けてしまったバリアだったが、見た目に反してダメージは大きくは無かった。ジェム自身少し不利な体勢で攻撃したというのもあるが、バリアの防御力が高いのが主な要因である。場合によってはその身を市民の盾にしなければならないので、パワーは元より防御力はスコープと据え置きどころか上回っている面もあった。

 

「かったいなぁ……コランダムカットになってパワー上がったと思ってたんだけど。ま、アンタ相手にちゃんとダメージ与えられるようになっただけでも、御の字ってところかしら?」

 

 その場に膝をつき切りつけられたところを片手で押さえるバリア。そこに遅れてやってきたセツナが代わりにジェムと対峙し忍者刀を構える。

 

「やらせないッ! 今度は私が相手よッ!」

「別にやる気はないわよ。私の目的はあなた達を倒す事じゃないし? それに……そっちはどっちも放っておいていいの?」

「へ?」

 

 言われてジェムが指さす方を見れば、そこに居たのは未だ気を失っている浩司と逃げようとしているカルネプラエドの姿。浩司は倒れているだけだからまだいいとしても、カルネプラエドも逃がす訳にはいかないのでセツナはそちらにも気を取られてしまった。

 

「あっ!? ちょ、待っ!?」

「今回は旗色が悪そうだからな。ここらで失礼させてもらう」

 

 そう言うとカルネプラエドはグレネードランチャーをセツナ達が居る方に向けて引き金を引いた。放たれた砲弾は放置して逃げれば蹲っているバリアが被害を受けてしまう。かと言って下手に空中で撃ち落せば倒れた浩司に被害が及ぶので、セツナはギリギリのところで切り裂き半端な所で誘爆させ威力を落とす選択を取った。

 

「ハッ!」

 

 可能な限り砲弾が近付き、自分への被害が最小限になる所を見極めて忍者刀を振るう。砲弾は見事真っ二つに切り裂かれ、直後空中で誘爆し爆炎がセツナとバリアの2人を包み込む。

 

「くっ!」

 

 こうなる事は分かっていたので、セツナは切り裂くと同時にその場に身を屈め爆発の炎と衝撃から身を守った。爆発の影響は直ぐに感じられなくなり、顔を上げれば浩司に被害は及ばずバリアも無事であるらしいことが確認できる。その事に安堵するも、直ぐに彼女はカルネプラエドだけでなくジェムにも逃げられた事を察して肩を落としてしまう。

 

「あっ!? あ~……また逃げられた……」

「仕方がありません。今回はジェム以外にも敵が居たんです。彼を回収できただけでも、良しとしましょう」

 

 落ち込むセツナをバリアが元気付ける。内心では彼もジェム、カルネプラエド双方に逃げられた事を気にしていたが、拘っていても仕方がないと気持ちを切り替えた。生きているのであれば、明日がある。今日勝てなくても明日勝てば良いのだから。

 

 

 

 

 後日、改めて浩司の家の家宅捜索が行われた。今回の一件で最近頻出している怪物に宝石が関わっている事が確かな事として認識されるようになったからだ。浩司の家にはそれに関係した資料か何かが無いかと捜索される事となった。

 捜索には唯と誠も参加し、2人も警察の邪魔にならない様捜査に協力していた。

 

 するとここで誠がある物を見つけた。

 

「……うん?」

「神宮寺さん? どうかしましたか?」

「ちょっと、これ見てください」

 

 部屋を捜索していると、不意に誠があるチラシと思しきものを見つけた。本来であれば特に気にも留めなかっただろうが、チラシに大きく書かれている宝石のイラストがどうにも気になり手に取って内容をざっと見てみたのだ。

 

 するとそこには、こう書かれていた。

 

「宝石販売専門店、アントワルフ? 彼、ここからあの宝石を?」

「調べてみる価値は十分にあるでしょう」

 

 誠の言葉に頷きつつ、唯は今一度件の宝石商の名を確認する。飽く迄直感でしかないが、この宝石商が今後に大きく関わって来るだろう事を彼女は勿論、誠も感じ取りその名を険しい表情で見つめるのだった。




と言う訳で第11話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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