仮面ライダージェム   作:黒井福

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第12石:燻る悪意

 ジェムがコランダムカットに変身してマンティスヤジュエル・レッドを倒すのを見届けたカルネプラエドは、人目に付かない様に気を付けながら街の外縁に近いところにある一軒家へと近付いていった。光林市はそれなりに発展した賑やかな街だが、外縁部に向かうにつれて建物の数は減っていき片田舎と言われても仕方がない程の寂れ具合を見せる。そんな場所にポツンと、他の家屋から距離を置く様に存在するその家屋に近付いたカルネプラエドは、周囲に他の人影や人目が無い事を確認すると変身を解いた。

 

 燈色の鎧が砕ける様に消えていき、その中から出てきたのは1人の男の姿であった。変身していた時の振る舞いからは想像できない、一見すると好青年と言った様子の男はもう一度周囲を見渡すと鍵を開けて家屋に入って行く。

 

 家屋に入ると男は変身時も持っていたグレネードランチャーを適当な所に放る様に置くとリビングに置かれた椅子に乱暴に腰掛けた。椅子が軋みを上げるのも気にせず体重を背凭れに預け、疲れを吐き出す様に大きく息を吐くと暫く意味もなく天井を見続け、体を起こすとテーブルの上に置かれたノートパソコンを引き寄せ開くと電源を入れた。

 

 そのまま暫く室内には男がパソコンのキーボードを叩く音が響いていたが、彼がパソコンに何かを入力していると彼がパソコンを開くのを待っていたかのように通信が来た事を知らせる表示が画面の端に出現する。アンテナが電波を受信した事を示す表示に男が顔を顰めた様子を見るに、あまり愉快な事ではないらしいことが伺える。

 

「チッ……ったく」

 

 男は一瞬着信を拒否しようかとカーソルを動かしたが、そうするとそれはそれで面倒臭い事にでもなるのか溜め息を一つ吐くと観念したように通話を繋げるカーソルをクリックした。

 

 通信を繋げると次の瞬間、パソコンのスピーカーから煩わしさを感じるほど五月蠅い女の笑い声が部屋に響いた。

 

『キャハハハハハッ! どう? そっちは順調かしら?』

「喧しいぞ、『ソフィア』。分かってる事をいちいち聞くんじゃねえ」

 

 スピーカーからけたたましい笑い声を響かせるソフィアなる女性は、男のぶっきらぼうな態度に更に笑い声を大きく響かせる。

 

『キャハハッ! その様子じゃあんまり集められてないみたいね? そんなんでいいの? ボスそっちに行っちゃってるけど、アンタ、ボスにどやされるんじゃない?』

「うるせえっつってんだ! 良いんだよ、最後にジェムから全部奪い取ればいいんだ」

 

 そう言いながら男は椅子から立ち上がると、部屋の片隅に置かれた宝箱の様な箱の鍵を開けて重い蓋を持ち上げるように開けた。中に入っているのは色とりどりの宝石に見えるパワージュエル。男はその一つを手に取り指で弄ぶ。

 

「幸いな事にジェムを誘き寄せるエサになる物は山ほどあるんだ。コイツを使って奴を誘き寄せる。アイツはお尋ね者だからな、騒ぎが起これば警察やS.B.C.T.が動いてくれる。奴らが争って消耗したところを狙えば……」

『でもそれ失敗したって聞いたけど?』

 

 一体何時の間に耳に入れたのか、つい先程の戦いの顛末を指摘するソフィアに男の額に青筋が浮かんだ。

 

「今回売り渡した奴がクソ雑魚だっただけの話だッ! それにあの警察っぽい見た目の奴! アイツが居なければ今頃は忍者とジェムが争って消耗してる筈だったんだよ」

 

 男にとってS.B.C.T.が撤収してしまった事は実を言うと頭の痛い出来事であった。彼らがもうちょっと粘って、ジェムを追い詰められるようになってくれれば仕事もやり易かった。

 どうしたものかと考えていたが、幸いな事にその後やってきた唯はS.B.C.T.よりもジェムの事を追い詰めてくれる。これは運がいいと男は今回の作戦を考えたのだが、予想外な事に新たに警察が用意したように見えるバリアが出現した事で状況は変化する。ジェムを追い詰めてくれるのは良いのだが、こちらの行動も邪魔されては意味が無いのだ。

 

 理想を言えばヤジュエルがジェムとセツナ、バリアの3人を消耗させてくれれば、男が変身したカルネプラエドが漁夫の利を得る要領でジェムを倒し彼女が持っているパワージュエルを奪い取る事が出来る。彼の目的は飽く迄パワージュエルだけなので、ジェムに変身している晶の生死は関係ない。よしんば晶が生きていても、後は警察が彼女を処理してくれる。何しろ世間を騒がせた怪盗ジェム本人なのだ。放っておかれる訳がない。

 

『でもどうすんのさ? その新しい仮面ライダーって結構強いらしいじゃん? そこいらの人間をヤジュエルにしただけで勝てんの?』

 

 尚も食い下がるソフィアの言葉に、男は嘲る様にフンと鼻を鳴らした。

 

「それはヤジュエルが1体だけだからだ。2体、3体とヤジュエルを嗾けてやれば流石の連中もてんてこ舞いだろうさ。そうなればこっちのものよ」

 

 幸いな事に今ここにあるパワージュエルはどれも質の低い物ばかり。ボスだってこれがどれ程消耗されようと文句は言わない筈だ。

 

 ところが…………

 

「困るな。質が低い物とは言え、あまり無駄遣いはしないでもらいたいものだ」

「ッ!?」

 

 不意に室内に響いた自分以外の物の声に、勢い良く振り返るとそこに居たのはカルネプラエドによく似た戦士であった。ただカルネプラエドに比べて鎧が黒く透明感を感じ、それでいて何処か刺々しいデザインとなっている。その姿を前に男は顔を引き攣らせ、顔中に冷や汗を浮かべながら喉を震わせ答えた。

 

「あ、あ、あぁ……き、来てたんですかボス? そいつは、お迎えも出来ませんで……」

「迎えは構わない。どうせすぐに出ていく。それより、だ」

 

 男の取り繕うような言葉に関心を示さず、ボスと呼ばれた戦士はゆっくり男に近付くと開かれた宝箱の蓋に手を掛け勢いよく閉じた。大きな音を立てて箱の蓋が閉じられた事に、男は叱られた子供の様に肩をビクンと跳ねさせる。

 

「ッ!?」

「……全く使うなとは言わん。だが無駄遣いは控えてもらいたいな。例え質が低くともパワージュエルはパワージュエルだ。分かるな?」

「は、はい……」

「ならば、今後はもっとよく考えて使え」

 

 そう言うとボスは委縮した男の肩をポンと叩いた。見た目も音も軽く、一見すると優しく諫めただけに見える。だが肩を叩かれた方は堪ったものではなかった。分かっているからだ。これは警告に等しい。もし今後同じような事をすれば即座に自分は処分される。目の前に居る男はそれを容易くやる男だと、彼も理解しているのだ。

 

 完全にビビッて小さくなった男の姿に、ボスは小さく溜め息を吐くと柔らかい声色で話を続けた。

 

「そう気にするな。安心しろ、次からは俺も手を貸してやる」

「えっ! ぼ、ボスが一緒に?」

「そう言っている。ソフィアはまだ暫く向こうに居てもらわなければならんからな。パワージュエルもあまり無駄遣いする訳にはいかない以上、俺が行くしかあるまいよ」

 

 ボスが共に戦ってくれると分かった途端、男の顔にそれまでとは違う笑みが浮かんだ。先程の笑みは顔が引きつったが故に浮かんだ笑みであったが、今度の笑みは純粋に頼もしさに喜んでの笑みであった恐ろしさと同時にボスの強さも知っている。そのボスが共に戦ってくれるのであれば、これ以上に頼もしい物は無かった。

 

「へ、へへへ……! ボスが一緒に戦ってくれるなら百人力だぜッ!」

 

 喜びに打ち震える男を見て、ボスは小さく鼻を鳴らし踵を返した。

 

 ボスが離れていくことに男が気付かずにいると、不意に開かれて通信が繋がったままのパソコンからソフィアの声が響いた。

 

『良いんですか? 態々ボスが直々に出なくても……』

「ん? あぁ、構わんよ。俺もジェムには興味があったしな」

『ふぅん……』

 

 スピーカーから響くソフィアの声は何やら不服そうだ。そこに嫉妬が混じっている事に気付いたボスは、その嫉妬が何処に向かっているのかを察して苦笑しながら宥める様に話し掛けた。

 

「安心しろ、こっちに来たら存分にお前の相手をしてやる」

『! ホントですか? 絶対ですよ!』

「分かっている。分かっているから、お前はお前のやるべき事をやっておけ」

『は~い!』

 

 酷く喜んだ様子のソフィアはそのまま勢いよく通信を切った。何も言わなくなったパソコンを見て、ボスは静かにパソコンを閉じると今度こそ家屋を出ていった。

 

 月が浮かぶ夜空の下を、刺々しい鎧を見に纏った人物が闊歩している。もしこの姿を誰かが見る事があれば、即行で警察が呼ばれる事になるだろう。だがボスはそんな事を全く気にする様子もなく、まるで無人の野を往くが如く夜の街を歩いていく。

 

「くくくっ……順調だな。全ては、順調だ……」

 

 誰に聞かせるでもなくボスはそんな事を呟いた。小さな彼の呟きは、誰も居ない夜の街の中に溶ける様に消えていき、その言葉を発したボス自身も靄に包まれたかのように姿を消すのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 神宮寺 誠は急いでいた。急いで階段を駆け上っていく。目的は1つ、晶が入院している病室だ。

 

 発端は突然聞かされた、晶が入院したという事実だった。幼馴染の少女である晶が自宅で怪物に襲われて怪我をして入院した。それを聞かされた瞬間、気付けば誠はわき目も降らず彼女が入院したという病院に飛び込み、看護師の声も無視して全速力で階段を駆け上り廊下を駆け抜け、晶が入院しているという病室へと飛び込んだ。

 

「晶ッ!!」

「あ……マコちゃん?」

 

 誠が病室の扉を開けると、ベッドの上には入院衣姿で顔に包帯を巻いた晶が居る。見た所普通にしゃべる事も出来るようだし、血色も悪くない。怪我はしても命に別状はないらしい事に、誠は一先ず安堵の溜め息を吐いた。

 

「晶……はぁ~~……」

「マコちゃん? そんなに急いでどうしたの?」

 

 生きている晶の姿に心底安心した誠に対し、晶は不思議そうに彼の事を見ながら首を傾げた。まるで他人事の様な晶の態度に、誠は彼女に恥ずかしい姿を見せてしまったと軽く咳払いをするとぶっきらぼうに答えた。

 

「どうしたって……お前を心配したからに決まってるだろうが」

 

 晶の危機に血相を変えて駆けつけてしまった。その事を今更ながら自覚し気恥ずかしくなった誠はちょっぴり不機嫌そうにブスッとした顔を背けながら答えた。そして、そんな態度を取ってしまった事に後になって悔いてしまうのが常であった。

 

(あ~、ったくもうっ! 何だって俺は何時まで経っても……)

 

 本当はこんな態度を取りたかった訳ではないのだ。だが、いざ晶を前にすると素直になり切る事が出来ず気付けばこんな態度ばかり取ってしまう。子供っぽい態度しか取れずにいる自分が情けなくて、それが更に不機嫌さに拍車を掛けた。

 

 晶は誰もが認める美少女だ。見た目だけでなく性格も明るく奔放、ちょっぴり悪戯っ子な面もあるがそれも彼女の魅力として人気の要因となり、彼女を慕う者は男女問わず多かった。学校の男子生徒の中には誰が彼女の心を射止めるかで水面下での競争が行われるほどである。

 誠自身はその競争に参加していない。興味がない訳ではなく、その様な形で晶に想いを伝えるような事をしたくないだけであった。他人に急かされて想いを告げるのではなく、幼馴染と言う立場を活かして彼女のペースに合わせてゆっくり距離を縮められたらと考えていたのだ。

 

 とは言えそんな理想が実現出来れば世話は無く、実際にはこんな風に素っ気無かったりぶっきらぼうな態度を取ってしまうばかりで距離が縮められているとはとても言えない状況であった。己の不甲斐無さに最早怒りすら湧き上がらないが、それでも晶に対する想いが薄れた訳ではなく今回の様に彼女の身に何かがあれば誰よりも早くに駆け付けるほどには強く想っていた。

 

 そんな彼の想いに、晶もしっかりと気付いていた。彼の態度に最初キョトンとしていた晶だったが、直ぐに口元に笑みを浮かべてクスクスと笑い声をあげた。

 

「フフッ、ウフフ……!」

「な、何だよ?」

「ううん、マコちゃん、相変わらずだなって。……ありがと、来てくれて」

 

 心の底から嬉しそうにそう告げる晶だったが、次の瞬間彼女の顔に浮かぶ笑みは嬉しさよりも悲しさの方が強いものに変化した。

 

「でも……もう、来なくてもいいよ」

「…………は?」

 

 最初、誠は彼女が何を言っているのか理解できなかった。何故そんな事を言うのか? もしや、自分のこれまでの態度がついに我慢できなくなったのか? 様々な想いが一瞬で彼の脳裏を駆け巡る中、晶は彼の勘違いを訂正しつつそのような事を告げた理由を口にした。

 

「あ、違うの。マコちゃんは、何も悪くないよ。マコちゃんの気持ち……私、分かってるから」

「え、あ……なら、何で……!?」

 

 何が悪くて彼女が自分を遠ざけようとするのかが分からず困惑する誠に対し、晶は悲しそうな笑みを浮かべたまま顔の右半分を覆う包帯を自ら外しその下に隠されていた物を彼に見せた。

 

「だって…………こんな顔になっちゃったら、もう、私……マコちゃんの隣に、居られないもん」

 

 そう言ってポロポロと涙を流しながら笑みを浮かべる晶の顔の右半分……右目から右頬に掛けての部分が酷く焼け爛れていた。それを見た瞬間誠は反射的に言葉を発する事が出来ず、衝撃から僅かに腰を椅子から浮かべてしまった。

 

「ッ!?」

「ね? 気持ち悪いでしょ?」

「あ、ち、違うっ!? 違うんだッ!?」

 

 即座に晶は顔の右半分を手で隠し、誠は自身の反応が彼女を傷付けてしまったと失態に気付き弁明しようとした。だがこんな状態の彼女に、何と声を掛けるのが最適なのか分からず言葉が出ない口を間抜けに開くだけしか出来なかった。

 

「ぁ……ぁ……!?」

「…………ごめんね」

 

 慄いた様な顔で佇む誠に対し、晶は儚く笑いかけるとベッドから降りてそのまま離れていく。何時の間にかベッドの向こうには何処までも続く道が伸びており、晶は悲しそうな儚い笑みを浮かべながらその先へと向かって歩いていく。

 先程まで普通の病室だったのにあり得ない道が伸びている事に、誠は疑問を抱く事が無かった。今の彼にとって重要なのは、晶が自分から離れて行こうとしている事。それに気付いた瞬間、誠は慌てて彼女を追おうとしたが、ベッドに阻まれ前のめりに転倒してしまった。

 

「うあっ!? ま、待て晶ッ!? 待ってくれッ!!」

 

 床に倒れながら誠は晶に必死に声を掛けながら手を伸ばす。だが晶は彼の声にもう振り返る事はせず、歩いているにしてはあり得ない速度で彼から離れていきあっという間に姿が見えなくなってしまった。

 

 晶が去っていった道の先に向け、誠は手を伸ばしたまま血を吐きそうな顔をしながら出せる限りの声を張り上げた。

 

「晶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 ふと気付けば誠は滞在用にと宛がわれた部屋の机に突っ伏した状態で目を覚ました。心臓は恐ろしい程高鳴り、全身に汗をかいた状態で目覚めた彼は周囲を見渡してそこが病室ではない事に気付くと先程の光景が夢であった事を理解し肺の中の空気を出し切る勢いで息を吐き出した。

 

「はぁ、はぁ……クソッ!?」

 

 先程見たのが夢である事を理解し、だが事実ある部分においては夢ではない事を否応なしに思い出させられ、誠は悪態をつきながら体重を背凭れに押し付けた。背凭れが軋みを上げる事も気にせず、誠は過去の自分の愚かさを嘆く。

 

(晶……あの時、俺がもっと強かったら……)

 

 そのような事をぼんやりと考えながら視線を机の上に落とすと、動画を見ながら寝てしまったからだろう、スマホがアーカイブ動画を再生したままの状態で置かれていた。寝落ちしてしまう直前まで、彼が見ていたのはここ最近ブレイクしている個人Vチューバーの怪盗キラリンだ。彼女の動画を見ている間は、不思議と心が穏やかになれる。

 

「晶……本当なら、お前もこれくらい……」

 

 晶とキラリンの姿が重なる様に見えるのは、今回が初めての事ではない。まだ怪我が無かった頃の晶であれば、これ位のコミュニケーションは容易だっただろう。寧ろ彼女であれば、こんな仮面を被らずともその容姿も相まって人気を博したに違いないと彼は断言できる。

 尤もそうなればますます彼女を狙う男が増えるだろうから、個人的には勘弁してほしいと思う所ではあったが。

 

 そこまで考えた所で窓から差してきた日差しが彼の顔を照らし、眩しさに一瞬顔を背けてからようやく今が何時なのかが気になり時計に目を向けた。時刻は7時直前と言ったところか。

 

「おっと、いかんいかん。今日は南城さんと待ち合わせをしてるんだった。あの人を待たせる訳にはいかないな」

 

 出会って数か月と経っていないが、誠は唯がルールを重んじる委員長気質な性格である事を見抜いていた。そんな彼女に対し、時間にルーズな所を見せる事があれば何を言われるか分かったものではない。勿論誠は元よりそのようないい加減な性格ではなく、時間もきっちり守る方ではあったが。

 

 シャワーで寝汗を流し、手早く身支度と朝食を済ませると誠は唯と待ち合わせをしている場所へと向かった。

 

 待ち合わせをしている場所は駅前。そこには既に唯が到着しており、待っている間に買ったのだろう缶コーヒーを片手に佇んでいた。

 

「お早うございます南城さん。すみません、お待たせしてしまいまして」

「おはようございます。いえ、大丈夫です。私がかなり早い時間に来ただけなんで」

 

 挨拶と同時に行われた謝罪に、唯も軽く手を上げて返すと缶の中身を一気に飲み干しゴミ箱へと放り込む。

 

 これから2人が向かおうとしているのは、警察署ではなく国立遺伝子工学研究所だ。件の人間を怪物に変異させる、特殊な宝石について仁に意見を貰おうと考えたのである。

 

「と言っても、今回の件でどこまで頼って良いのかは疑問ですけどね」

「例のヤジュエルって奴が捕まえられれば話は早いんですけどね。見せられるのはこの、ヤジュエルが倒れた後に出てくる宝石の残骸だけ……」

 

 唯は今回の為に以前のヤジュエル戦で回収したパワージュエルの残骸を持参していた。晶からすればそれは最早力を失いただの宝石となり下がった物でしかないが、その様な事情を知らない唯達にとっては貴重なジェムの手掛かりである。

 

 とは言え、仁の専門は飽く迄も生物。流石に宝石や鉱石に関しては門外漢だろう事は重々承知。今回はそのヤジュエルと化した人間に関して、何かしらのアドバイスがもらえれば重畳程度に考えて2人は研究所に向かおうとしていた。

 

 そこに突如唯のスマホに着信が入る。連絡をしてきたのは剛であった。

 

「はい、南城です。はい…………えっ、ジェムがッ!?」

 

 通話の内容はどうやらまたしても街中にジェムが現れたと言うものであった。しかもジェムだけでなく、スクラッパーと更にはカルネプラエドまでもが現れたという。

 

『幸いにもジェムが怪物たちの相手をしてくれた為、市民への被害は大きくありません。ただ例の正体不明の奴との戦闘では、否応なしに周囲に被害が……』

「分かりました。私が行きます」

 

 カルネプラエドの武器はグレネードランチャーだ。そりゃあんな物を街中で手当たり次第にぶっ放せば、周囲への被害は抑えられない。ジェムも何だかんだで市民への被害を減らすよう努力はしてくれるだろうが、1人ではやはり限界があるだろう。

 となると、誰かが彼女と共に戦い、そしてその後で彼女を捕らえる必要がある。

 

「神宮寺さん、私はジェムの方に向かいます。神宮寺さんはこのまま研究所の方へお願いできますか?」

「いえ、私もそちらに行きます! 私はその為に来たんですッ!」

 

 食い下がる誠であったが、今回は唯の方が譲らなかった。

 

「駄目ですッ! ジェムが出た場所はここから離れています。私であれば機動力もあるから迅速に現場に辿り着けます。それに神宮寺さん、忘れてはいけないのは、今回の一件はジェムを捕らえれば全てが丸く収まるという訳ではない点です」

 

 彼よりは長くジェムと戦った唯だから分かる。この件に関しては、ジェムだけが全ての元凶と言う訳ではない。寧ろジェムの行動は、この騒動の被害を抑える事にも作用している。

 

「私達はジェムが狙っている宝石の秘密を知り、解き明かさなくてはなりません。そうしなければきっと第2、第3のジェムが生まれるかもしれない。しかもそのジェムが、今のジェムと同じように市民に配慮してくれるとは限りません。私達はこの宝石の謎を解き明かして、これ以上の被害が出ないようにしないといけないんです」

 

 そう言って唯は誠にパワージュエルの残骸を押し付けるように託した。渡された残骸を手に、誠は濃縮した青汁を飲み干したような顔になるも、唯の言い分も理解できるのでここはグッと堪えて彼女の提案を受け入れた。彼だって聞き分けの無い子供ではない。自分の感情を抑えて、何が一番合理的なのかを判断できる程度にはしっかりとした大人であった。

 

「……分かりました。こちらは私が向かいますので、ジェムの方はよろしくお願いします」

「はい、任せてください」

 

 そう告げると唯は人ごみの中へと紛れるように姿を消した。姿の見えなくなった唯を見届けると、誠はパワージュエルの残骸を懐に仕舞い電車に乗るべく駅の中へと入って行くのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃街中では、ジェムとスクラッパー、そしてカルネプラエドの戦いが行われている最中であった。発端はカルネプラエドが無作為に街行く人々をスクラッパーに変異させたことに始まる。その事を知った晶は、急いでジェムの姿に着替えると現場へと赴き、スクラッパーに襲われそうになっていた人々を逃がしつつ仮面ライダージェムに変身してこれを迎撃した。出現したスクラッパーを半分ほど倒し、変異させられた人を元に戻したところで襲い掛かってきたのがカルネプラエドである。

 

「待ってたぜ、仮面ライダージェムッ!」

「くっ!」

《Change of Cut, Cloth Beryl! Commit the Dancer!》

 

 まだ残っているスクラッパーに加えて、カルネプラエドまで相手にしなければならないのは流石に分が悪い。ジェムは素早さと柔軟性に長けたベリルカットに変身すると、躍るようなしなやかな動きを駆使しながら先ずはスクラッパーを1体1体確実に倒して回った。その隙を狙って攻撃してくるカルネプラエドだったが、ジェムはその攻撃の余波が元に戻った人にまで及ばない様ベリルカット特有の受け流しで攻撃の余波を明後日の方へと流しつつ応戦した。

 

「全くッ! 困るのよね、こんな風に押しかけられちゃ。私に会いたいんだったらもっと紳士になってもらわないと」

「草食系なんて今時流行るかよッ! 時代は肉食、欲しい物を力尽くで奪う時代だぜッ!」

「野蛮人、ねッ!」

 

 カルネプラエドの攻撃をヘリオドールファンで受け止めたジェムは、その勢いがまだ残っている内に受け流し体勢を崩したところに蹴りをお見舞いした。自分の攻撃をそのまま反撃に転用させられ大きく吹き飛ばされるカルネプラエド。

 

「舐めるなッ!」

 

 だがカルネプラエドも負けてはいない。吹き飛ばされながらも空中でバランスを取り、狙いを定めてグレネードランチャーの引き金を引いた。放たれた砲弾をジェムは余裕を持って回避しようとするが、そうするとまだ倒れている解放された人が被害を受けるので動こうとする足を止め攻撃の威力を受け流そうと構えを取った。

 

「全く……正義の味方とか人助けとか、私の柄じゃ無いってのに……!」

 

 犯罪に手を染めている自分が、人を助けるために動く事の滑稽さは彼女自身がよく分かっている。だがどうしても非情になり切れず、無関係な人を助けようとしてしまう所に彼女は自分で矛盾を感じ言いようのない気持ちの悪さを感じていた。

 

 そんな事を感じながら飛んできた砲弾をどうにかしようと考えていたジェムだったが、出し抜けに横から吹いてきた突風がジェムに迫っていた砲弾の軌道を変えた。

 

「えっ!?」

「これはっ!?」

 

 身に覚えのある事象にジェムが風から顔を守る様に手を上げつつ風の吹いてきた方に目を向ければ、そこには仮面ライダーセツナが忍筆を構えた状態で佇んでいるのが目に入った。

 

「相変わらずね、ジェム? 盗みはするのに人は助けるなんて」

「何? 私の事を馬鹿にしに来たのかしら?」

「ううん。私、そう言うあなたが嫌いじゃないわ。これであなたが悪い事をしなければもっと好きになれたんだけど」

「お生憎様、私は私の目的を変える気はないわ」

「うん、知ってる。だから先ずは……」

 

 そう、先ずは騒動の元凶であるカルネプラエドを確実に叩く。ジェムと違ってこいつは明確な悪意を持っている。放置する訳にはいかない。

 

 身構えてくるジェムとセツナを前に、カルネプラエドは舌打ちをしながらグレネードランチャーを構えるのであった。




と言う訳で第12話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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