カルネプラエドと対峙するジェムとセツナ。先制を取ったのはジェムの方であった。
「ハッ!」
「ちっ……」
ベリルカットのジェムは動きがクオーツカット以上に素早い。それに加えて、猫のように体が柔軟でしなやかな動きを可能としている。その特性を活かし、ジェムは舞い踊るような動きでカルネプラエドに接近すると両手に持ったヘリオドールファンのエッジで斬りかかった。迫るジェムの攻撃をカルネプラエドは腕の装甲で受け止めつつ片手で構えたグレネードランチャーの砲口を向け引き金を引こうとした。だがジェムの攻撃に合わせて動いたセツナにより、至近距離からの砲撃は妨げられる事となる。
「やらせないッ!」
「くっ!?」
ジェムの影に隠れる様にカルネプラエドの死角から接近したセツナは苦無を素早く投擲した。決して威力のある攻撃ではなかったが、それでも無視できる攻撃ではなくカルネプラエドは砲撃どころではなく後退を余儀なくされた。それを見逃すジェムではなく、下がったカルネプラエドを追う様に回転しながらヘリオドールファンで斬りかかる。まるで丸鋸の様なジェムの攻撃にカルネプラエドの装甲も切り裂かれ、バランスを崩したところに今度はセツナの忍者刀による攻撃が放たれた。
「フッ!」
「ぐぅっ!?」
「やっ!」
「うぁっ!?」
なかなかに息の合ったコンビネーションを見せるジェムとセツナ。伊達に互いに戦ってきた訳ではない。共に相手を出し抜き、勝敗を着けるべく相手の動きをつぶさに観察し学習してきた結果、このように特別なやり取りが無くとも次の相手の動きが予想出来それに合わせた動きが出来るようになったのである。決して仲間同士という訳ではない両者であったが、下手な仲間よりも2人は互いを理解しあっていた。これで敵対する理由が無ければ、2人は良き仲間同士となれた事だろう。
互いにその事には気付きつつ、しかし互いに譲れぬ思いがある事を意識し余計な言葉は交わさず攻撃の手を緩める事はしなかった。決着をつけるにしろ何にしろ、今はカルネプラエドを倒す事を優先しなければ。
「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
同時に放たれた蹴りがカルネプラエドを大きく吹き飛ばした。吹き飛ばされた先で地面に叩き付けられたカルネプラエドは、痛む体に鞭打ちながら手放さずに済んだグレネードランチャーを構える。
自分達に向けられるランチャーの砲口。それを前にしてもジェムとセツナは怯む事無く構えを続け、逆に2人から向けられる視線にカルネプラエドの方が気圧され後退るのであった。
***
一方、唯と別れた誠は予定通り国立生命工学研究所に到着していた。受付にアポイントメントを取ってあると告げると、受付に居た係員は直ぐに内線で連絡してくれた。仁が来るまでの間、誠は受付で少しの間待ちながら何とはなしに周囲を見渡す。
果たして程無くしてから彼の事を呼ぶ声が聞こえてきた。誠が自分を呼ぶ声にそちらを見れば、そこに居たのは彼らが目的としていた仁とは別の人物が近付いてきていた。
「やぁやぁやぁ! どうもどうも、お待たせして申し訳ありませんね?」
「いえ……あの、失礼ですが、あなたは……?」
S.B.C.T.内で仁はある意味で有名人である。故に誠も仁の顔だけは知っていた。今彼に話し掛けてきた人物はどう見ても仁とは別人である。
先ず髪が大分乱れている。仁もどちらかと言えばあまり髪の手入れをしていないボサボサとした髪型ではあったが、こちらは髪に長さがある分毛髪の暴れ具合が大きかった。整えれば肩の高さ位迄あるだろうセミロングの髪は、まるで暴風の中をやって来たかという程大きく広がり絡み合っていた。
表情は笑みを浮かべているが、それは傍から見ると友好的と言うよりは捕食者を思わせる危険さを感じさせる笑みであった。釣り上がった目尻に歯を見せて笑う顔はサメを思わせる獰猛さを感じさせる。荒くれ者との触れ合いも日常茶飯事だった誠は気圧されたりすることは無かったが、向けられる笑みに対し身の危険を感じずにはいられない。
こんな人物が相手である物だから、誠も警戒心を露わにしながら問い掛ける。すると彼の警戒心を感じ取ったのか、近付いてきた白衣の人物は手櫛で髪型を適当に直しながら頭を下げた。
「あぁ失礼、いきなりこんなナリで申し訳ない。何分急いで来たもので……」
「いえ……」
「私、門守博士の助手をしております、
「は、はい……S.B.C.T.ωチームの神宮寺 誠です。あの、門守博士は?」
危ない雰囲気の研究員である幹夫の相手から一刻も早く解放されたいと誠は言外に仁とのチェンジを求めたが、返ってきたのはある意味で絶望的な言葉であった。
「あ~、すみませんね。門守博士は現在別件で出張中なんですよ。なので今回は私が代わりに応対しますので」
「は、はぁ……」
「ささ、どうぞこちらに」
物腰や態度は丁寧なのだが、如何せん放たれる雰囲気が安心できない。とは言え他に相手が出来る研究員が居ないのであれば仕方が無いし、人を見た目で判断してはいけないと誠は自分を律して大人しく案内を受けた。
そうして彼が通されたのは、応接室の類ではなく計器や試験官が棚に並んだ研究室の一画であった。
「どうぞどうぞ、こちらへ」
「失礼します」
簡素な丸椅子を勧められ、誠がそれに腰掛けると幹夫は一旦その場を離れていく。何とも落ち着かない場所に通され視線をあちこちに彷徨わせていると、程なくして幹夫が両手に湯気の立つカップを手に戻ってきた。
「どうぞ、これでも」
「ありがとうございます」
渡されたカップの中身は普通のコーヒーであった。このような場所に普通に通されたものだから、もしや飲み物もビーカーに注がれた状態で出てくるのではないかとちょっと警戒していたがそれは杞憂だったらしいことに誠は内心で安堵の溜め息を吐く。そして渡されたコーヒーに口を付け一息つくと、早速幹夫が本題を切り出した。
「さて、それで? 本日は何やらお尋ねしたい事があって来られたのだとか?」
「ぁ、はい。これなんですけど……」
取り合えず何はともあれ、誠はパワージュエルの残骸を取り出し幹夫に見せた。残骸を渡された幹夫は最初興味深そうに見ていたが、取り出されたのがただの宝石にしか見えず直ぐに疑問に首を傾げた。
「宝石、ですか? 随分と乱雑なカットがされているようですが」
「実はですね……」
誠は掻い摘んでこの宝石を取り巻く状況を幹夫に説明した。これが元はちゃんとした形を持つ宝石だった事、この宝石には元々人間を惹き付ける特別な力があった事、そしてその力の影響で人間が怪物に変異してしまう事などだ。
最初こそあまり興味無さそうにしていた幹夫であったが、人間が怪物に変異する下りを聞いた辺りで目の色を変えた。
「ほほぉ? これが人間を怪物に?」
「はい。少なくとも怪盗ジェムはそう言っていたそうです」
「ジェム? あぁ、最近世間を賑わせてる仮面ライダーですか」
幹夫が自然な形でジェムの事を仮面ライダーと称した事に、誠は思わずカップを握る手に力を込めた。どんな事情があれ、秩序を乱し世間を騒がせる輩を仮面ライダーなどと認める訳にはいかなかったのだ。
しかし今回ここに来たのはその事の議論をしたいからではなかったので、誠は喉元まで出掛かった反論を飲み込み話を続けた。
「率直にお尋ねします。人間を怪物に変異させるような、そんな鉱石が存在するのですか?」
誠の質問に幹夫は残骸となったパワージュエルを手に取り照明に翳しながら答えた。
「ん~、どうですかねぇ? これは私共も初めて見ます。そのような鉱石があったなど門守博士も初耳だと思いますよ」
「そうですか……本日同行する予定だった南城さんの話だと、その宝石の影響を受けた人は自ら宝石を取り込む様な動きを見せたと言ってましたが……ふつうそんな事あり得ませんよね?」
確かに人間を始め、生物は無機物の幾つかをイオンと言う形で体内に取り入れ生体活動に役立てている。例えば鉄分などだ。だが人間は鉄をそのまま体に取り込むような事は出来ない。どれだけ鉄を舐めたり齧ったりしても、鉄分を取り込む事は出来ないのだ。
生物は無機物を摂取しない。そう思って誠がそんな事を口にしたが、それは幹夫により否定された。
「いえ、生物が無機物を摂取する事は決しておかしな事ではありませんよ」
「えっ!?」
「まぁ珍しい方ではあるかもしれませんけどね」
動物の中には自分から石を飲み込んで食べた食物を磨り潰すのに利用する種が存在する。現生の生物で言えば植物食性の鳥類がそれだし、水棲哺乳類であるアザラシなどは水中に潜る際の重りとして石を飲み込んだりする。それに太古の恐竜などは消化を助ける為に石を飲み込んでいた種が多数いる事が明らかとなっている。
さらに言えば深海に生息する貝の仲間には、鋼鉄の鎧を見に纏うものも居る。身近な生物で言えば稲類は生体金属であるプラントオパールでその身を覆い自身を守っているくらいだ。
この様に鉱物を利用する生物は決して存在しない訳ではない。
「じゃあ……人間がこの宝石を取り込むのも、本能的な当たり前の事だって言いたいんですか?」
俄かには信じがたい情報に誠が慄きながら問い掛ける。すると意外な事に、先程まで生物が好物を利用する事を肯定していた幹夫の口から出たのは否定の言葉であった。
「まぁこれは違うでしょうね」
「えっ、違うの?」
「えぇ違います。話を聞く限り、これはこの宝石が発する特殊なエネルギーが人間の思考に作用して惹き付け、更に変異させているそうで。それは恐らく人間に備わった本能ではなく、この宝石が持っていた特殊な性質によるものと考えるのが普通です」
その事に誠は少し安心した。人間が潜在的に怪物に変異する性質を持っている訳ではない事が分かったのだ。
しかしそうなるとますます分からない。この宝石の何が人を惹き付け、何故人は怪物に変異してしまうのか。
「どちらかと言うとこれには放射性物質に近い何かを感じますね」
「放射性物質!?」
「えぇ。と言っても人体に毒性のある物とはまた違うでしょうがね。天然ウランと言うと警戒されるかもしれませんが、実際には人体に有害な放射線を発している訳ではありません。放射線は発していますが、基本的に人体に影響はありません」
ただこれは違うだろうと幹夫は述べた。
「今は何の力も無いようですが、恐らくこの宝石……というか鉱石は、自然に放射線に近い人体に影響を与えるエネルギーを発しているのでしょう。そのエネルギーの影響を受けた遺伝子が変異を起こし、件の怪物に変異させるのです」
幹夫が言うには、そのエネルギーの波長が人間にはとても魅力的に感じられ、それが原因で多くの人はこれに引き寄せられるのだろうと結論付けた。
「ただ興味深いのは、その怪物が倒されると人間に戻るという点ですね」
「どういう意味です?」
「そのままです。もし仮に天然自然で人に影響を与えるほどの放射線を放つウランがあったとして、それに被曝した人が倒されたら影響から解放されると思いますか?」
言われると確かにおかしな話だ。遺伝子レベルで影響を受け変異したにもかかわらず、倒されると消耗はしながらも元の人間に戻れるというのは妙な話だと思う。ただそれを妙とは思えない理由に、誠は勿論幹夫も心当たりはあった。
「まるでベクターカートリッジですねぇ」
「ッ!」
「あれも確か、人間の遺伝子を急速に変異させて怪物を生み出すアイテムです。ただ倒されるとその変異した細胞が急速に劣化し元の人間の部分だけが残る。この宝石でも同じ事が起こるのでしょう」
それはもしかすると由々しき事態なのかもしれない。どちらが先なのかは分からない。傘木 雄成はこの鉱石の存在を知ったから、同じ事をしようとベクターカートリッジを生み出したのか。それともこの二つが似たような性質を持つのは全くの偶然なのか。
「何にしても、これが興味深いのは間違いありません。もし今後何か新たな発見があれば是非ご連絡ください。門守博士にも情報共有はしておきますので」
「は、はい……」
そうしてあれよあれよという間に時間は過ぎ、誠は気付けば研究所の外に佇んでいた。
何だか、外に出るとドッと疲れが押し寄せてきた。思い返せば渡されたカップには最初に口を付けて以降全く意識を向けていなかった気がする。幹夫の話に夢中になり過ぎて、喉が渇くという感覚すら忘れていた。今になって喉が激しい渇きを訴えている。
ちょっと考えを整理する為に、喫茶店にでも寄ってコーヒーを片手に頭の中を整理したいところであったが、今も尚唯がジェムと戦っていると考えるとのんびりしては居られなかった。
「よし……行くか」
誠は頬を叩いて気合を入れ直すと、道行くタクシーを拾い一刻も早く唯の加勢をすべく現場へと向かうのであった。
***
その頃唯が変身したセツナは、ジェムと共にカルネプラエドを追い詰めつつあった。
「やぁぁっ!」
「くっ!?」
素早く接近したセツナの忍者刀による斬撃がカルネプラエドを切り裂く。斬撃は惜しくも装甲に防がれた為大きなダメージとならなかったが、それでも相手のバランスを崩す効果はあった。セツナは追撃で手裏剣を放とうとしたが、それよりも早くにカルネプラエドがグレネードランチャーを構え引き金を引いた。
「舐めるなッ!」
「わっと!?」
放たれた砲撃にセツナは紙一重で回避に成功する。この至近距離で直撃させれば自分もただでは済まないだろうに、それを恐れず砲撃をしてくるとは勇敢なのか無謀なのか。
「隙だらけよッ!」
セツナへの対応に意識を割かれていたカルネプラエドだったが、それはジェムに対して無防備になる事を意味していた。案の定砲撃直後の無防備な所を狙ってジェムが接近しファントムエッジで斬りかかり、こちらは的確に装甲の薄い部分を狙って放たれ確かなダメージを相手に与えた。
「ぐぉっ!?」
「そこっ!」
「がっ!?」
ジェムの攻撃でカルネプラエドが足を止めた。今が好機とセツナは全身のバネを使って鋭い蹴りを放ち、それを受けたカルネプラエドは遂にグレネードランチャーを落として壁に叩き付けられてしまった。
「ぐ、ぐぅ……」
壁に叩き付けられ、ズルズルと地面に腰を下ろすカルネプラエド。ジェムとセツナは座り込んだカルネプラエドにそれぞれ手に持つ剣の切っ先を向けそれ以上の抵抗を封じた。
「これまでね」
「あなたを捕縛します」
「んじゃ、後はよろしくお願いしますわ♪」
「ちょっと待ちなさい。何自分はもう関係ないみたいな態度取ってるの。あなたも一緒に来るのよ」
とても自然な流れでその場を後にしようとするジェムの肩をセツナが掴んで引き留める。ジェムとしてはここでカルネプラエドをセツナに捕まえてもらえば、自分の邪魔をするものが一つ減るので儲けもの程度に思っていたが、世の中そう甘くは無かった。セツナは当然このタイミングでジェムの事も一緒に捕まえようと意気込んでいたのだ。そんな欲張りな彼女にジェムは溜め息を吐く。
「欲張りさんね? 二兎追う者は――――」
ジェムが面倒くさそうに溜め息を吐きながら振り返った。そこで彼女は見てしまう。セツナの後方から迫る黒いエネルギーの塊を。
「ッ!? 退いてッ!」
「えっ!?」
咄嗟にセツナを押し退け、ジェムは黒いエネルギー球をヘリオドールファンで受け止めた。だが思っていた以上の威力を持つそれを受け止めきる事は出来ず、無理だと分かった時点でジェムはエネルギー球の軌道を逸らし斜め上空に受け流す事で事なきを得た。
「くぅっ!」
「ちょ、大丈夫ッ!?」
「私の心配してる場合じゃないでしょ、アイツは?」
「あっ!?」
下手をするとカルネプラエドも巻き込みかねない攻撃ではあったが、タイミング的に見ればあちら側の増援が手助けの為に攻撃してきたと考えるのが普通だった。
果たしてそれは正しかった。攻撃を受け流したジェムと助けられたセツナがカルネプラエドの方を見ると、そこに居たのは彼だけでなく何処か似通った姿の黒い戦士であった。
それは漆黒の死神の様にも見える戦士であった。頭には白いバイザーで目元を覆った仮面の上にフードを被り、首から下は黒いボディースーツの上に白く縁取りされた黒い鎧を身に纏っている。両腕には武骨なガントレットを装着し、片手には槍の様な物を持っていた。そして何よりも目を引くのは背中に背負った翼の様な装備であり、翼は複数のノズルで作られているのが分かった。
黒い戦士は壁に寄りかかり腰を下ろしているカルネプラエドに手を貸して立ち上がらせている。
「今回は後れを取ったな?」
「す、すみません……ボス」
「まぁいいさ。後はこちらで何とかしておく。お前は一旦下がれ」
「それはッ!?……いえ、分かりました」
ボスと呼ばれた黒い戦士に下がれと言われ、一度は食い下がるカルネプラエドだったがすぐに考えを改め指示に従った。何処か荒っぽかった彼があっさりと言う事を聞く辺り、このボスと呼ばれる者との力関係が伺える。
勿論それをそのまま許す2人ではない。ジェムは倒せる敵は今の内に倒すの精神で、セツナは悪党をこの場で確実に捕縛する為に逃げるカルネプラエドを止めようとした。
「逃がさないッ!」
「待ちなさいッ!」
2人がカルネプラエドを止めようと一歩前に足を踏み出すが、それをボスと呼ばれた戦士は許さない。右手に持った槍を地面に向け振るうと2人の足元を抉り横一文字の亀裂を作り出した。それはどう見てもそれ以上先には進ませないと言う意志表示であった。
「「ッ!?」」
足元を抉られ歩みを止めた2人を見ると、ボスは一つ息を吐いた。するとボスが持っていた槍が砕ける様に形を崩し、両腕のガントレットに吸い込まれるように消えていった。槍を消したボスは2人の前で悠々と腕組をし、その後ろでカルネプラエドが2人に背を向け逃げていく。
みすみす逃げるカルネプラエドを見逃さなければならない事に2人は歯噛みせずにはいられないが、この相手を無視して奴を追うのは無理だと勘が告げている為それ以上前に進む事が出来なかった。
足踏みする2人を前に、ボスは視線をジェムに向けると彼女にパワージュエルを要求した。
「さて……お前が持つパワージュエル、渡してもらおうか」
「いきなり出てきて挨拶も無しに不躾な方ね? せめて自己紹介位したらどうかしら?」
「ちょっ!?」
ボスから放たれる威圧感に気圧されるジェムであったが、それを悟らせないように強気な態度を貫いた。ともすれば相手を刺激するようなジェムの物言いにセツナが彼女を宥めようとしたが、ボスは特に気にした様子もなく言われた通り己の名を口にした。
「ふむ、それもそうだな。……ジェットグリムだ、そう呼べ」
ジェットグリムと名乗ったそいつは、両腕を広げると同時に背中の翼もノズル一つ一つが翼のように広がった。何をしてくるのかと身構えていると、ジェットグリムは徐に右手を頭上に掲げた。そこに赤黒い光が集まっていったかと思うと、次の瞬間ジェットグリムが腕を振るうと同時に無数の光弾が2人に向け放たれた。
「フッ!」
「ちっ!?」
「くぅっ!」
複雑な軌道を描いて飛んでくる光弾は回避するのが難しい。それでもジェムはベリルカット特有の踊る様な動きで自身に迫る光弾をヘリオドールファンで弾き打ち消していった。一方セツナの方も、素早い身のこなしで飛んできた光弾を全て回避してみせる。まるでロケット花火の様に曲がりくねった軌道を描きながら飛んでくるそれを、彼女は見事に全て回避してしまった。その事に彼女は仮面の下で思わず得意げに頬を緩める。
「こんなもの……!」
だが彼女の見通しは甘かった。回避したと思った光弾は、軌道を大きく変え戻ってきたのだ。そこで漸く彼女はこの光弾には誘導性がある事を知り、頬を緩めていた顔が強張り目を見開く中ギリギリのところで忍者刀で切り払った。
「なっ!? くっ、このっ!」
まさかの誘導性に面食らいはしたが、この程度であれば対応は可能であった。だがこの瞬間、セツナはジェットグリムから意識を逸らしてしまった。それが命取りとなる事を、彼女は直後に実感させられる事となる。
「危ないッ!?」
「えっ?」
ジェムからの警告に一瞬訳が分からないという声を上げるセツナだったが、直後に背後から息がつまるほどの威圧感を感じ全身に冷や汗が噴き出すのを感じた。
咄嗟に背後を振り向き防御の構えを取るセツナであったが、何時の間にか背後に回り込んでいたジェットグリムの蹴りは一撃で彼女の防御を破り壁を突き破って彼女の体を屋内へと無理矢理押し込んだ。
「セツナッ!?」
急いでジェムがセツナが押し込まれた壁の穴を覗き込むと、セツナがボロボロの状態で横たわっているのが目に入った。ジェムが穴の中に入りセツナの体を優しく抱き上げると、限界が来たのか彼女の変身が解除されボロボロの忍び装束と傷だらけになった唯の姿が露わとなった。
「が、は……!? げほっ、げほげほっ……」
「無理して動くんじゃないの。ここでジッとしてなさい」
取り合えず唯が生きていた事に内心で安堵すると、ジェムは抱き上げた時と同じくそっと唯の体を横たえ穴から外に出た。
見渡す限りにおいて、外にジェットグリムの姿は見当たらない。あれで見逃してくれた訳がないからもしや姿を消す能力でもあるのかと警戒するジェムだったが、ふとガスバーナーを全力で噴かせた時のような音が頭上から聞こえてきた事に上を見上げるとジェットグリムは翼の様な装備を広げて空中に滞空していた。腕組をして見下ろしてくるジェットグリムの姿は、普段ジェムが警察などを相手にする時に見せる仕草の様である。
それを挑発と受け取った訳ではないが、ジェムは喉の奥で唸り声を上げると大きく跳躍して近くの建物の屋根の上に降り立った。そこはジェットグリムが滞空している場所よりも高い。自然、今度は彼女の方が相手を見下ろす形となった。
「フフン……」
今度はこちらが見下ろしてやったぞと言わんばかりに鼻を鳴らすジェムであったが、ジェットグリムはそれに取り合わず静かに空中を腕組したまま移動し回り込む様に彼女が降り立った屋上に移動する。背中の装備で無理矢理浮遊しているとは思えない滑らかな動きでふわりと屋上に降り立つと、ジェットグリムは改めて彼女にパワージュエルを要求した。
「それで? パワージュエルだが……」
「渡す訳ないでしょ」
「……なら、仕方が無いな」
溜め息と共に呟くと、ジェットグリムの背中の装備が火を噴いて一気にジェムに接近する。拘束で接近してきたジェットグリムに対しジェムはヘリオドールファンで斬りかかるが、それは相手の腕のガントレットに受け止められダメージとならない。
ジェムの攻撃を受け止めたジェットグリムはそのまま勢いを利用して回し蹴りを放つ。ジェムはこれにも対応し、柔軟に動く猫の様な動きで回避しそのまま相手の背後に回り込んだ。
「もらった!」
そのまま背後から斬りかかろうとしたジェムであったが、ジェットグリムは背中のノズルを全てジェムに向けそこから火を噴いた。彼の体を安定させて空中に浮遊させるほどの出力を持つそれは、ジェムの体を容易く焼きながら吹き飛ばした。
「うあぁぁっ!? くっ!」
《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》
悔しいが柔軟性が強みのベリルカットではジェットグリム相手に力不足感が否めない。ここは使い慣れたクオーツカットの方が無難かと姿を変えると、ファントムシューターを抜き素早い射撃で遠距離からの攻撃に徹した。
「このっ!」
次々と放たれるジェムの銃弾に対し、ジェットグリムは反撃をしてこない。両腕を上げてガントレットで顔を胸の部分を守るだけであった。これなら行けるかと一瞬考えたジェムであったが、先程放ってきた誘導弾の事を考え警戒を怠らず相手の守りが薄い所を狙おうと銃口を僅かにズラした。
ジェットグリムはそれを待っていた。銃口をズラす僅かな時間、その隙にジェットグリムは背中の翼から火を噴いて屋上の上を滑る様に移動しジェムの前から移動する。ジェムから見ればジェットグリムが掻き消えた様に見える動きに、彼女も銃撃を止めて視線を彷徨わせジェットグリムの姿を探した。
「ッ!? どこに…………ハッ!?」
辛うじてジェットグリムが横に滑る様に動いたのは見えたので、左右か背後の何処かに居るだろうと視線をぐるりと移動させるジェム。だが彼が移動したのは上空であった。ジェムが彼を見失っていた時間は僅か数秒程度であったが、その間にジェットグリムはジェムを追い詰める攻撃の準備を整えていた。
「はぁぁ…………ハァァァァァッ!!」
翼を大きく広げ赤黒い光が背中から放たれると、それに合わせてジェットグリムの両腕に同じ色のエネルギーが集まっていく。バチバチと稲妻を放ちながら両腕に纏ったそのエネルギーを、ジェットグリムは眼下のジェムに向け一気に解き放ち強力な砲撃が彼女に襲い掛かった。
「!?!?」
迫る赤黒いエネルギーの奔流。視界を覆い尽くすそれを前に、ジェムは悲鳴を上げる間もなく飲み込まれるのだった。
と言う訳で第13話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。