ジェットグリムの放った強力なエネルギーの奔流。ジェムの姿がその中に消えていくのを、辛うじて動けるようになった唯は見ている事しか出来なかった。
「あぁっ!?」
ジェムの姿が消えた瞬間、唯は本来敵である筈の彼女の身を案じた。彼女は間違いなく悪党ではある。だが決して下衆の類ではなく、道は交わらずとも話の出来る人物である事は間違いなかった。
そんな彼女が跡形もなく消し飛んでしまったかと肝を冷やした唯であったが、攻撃を終わらせ悠々と屋上に降り立ったジェットグリムの背後を見てそれが杞憂であった事を理解した。
「ふぅむ……」
「はぁ……! はぁ……!」
ジェムはギリギリのところでジェットグリムの放つエネルギーの奔流から逃れていたのだ。単純な速度でどの姿よりも勝っているクオーツカット。ジェムは攻撃が放たれる直前、虚像をその場に残し素早くその場を離れジェットグリムに無駄撃ちをさせていたのである。
撃ち終えた後になって背後に回られたと知ったジェットグリムがゆっくりと振り返ると、そこには消耗したのか息を切らせているジェムの姿がある。今のジェムであれば、ジェットグリムは赤子の手を捻る用に叩き伏せパワージュエルを奪い取る事も出来るだろう。
しかし…………
「……まぁいいだろう」
「え?」
「は?」
何を思ったのかジェットグリムは踵を返すと、背中の翼を広げてノズルから火を噴き飛翔するとそのまま飛び去っていった。何故絶好のチャンスを自ら手放すような事をしたのか分からず、ジェムだけでなく唯も困惑した様子で離れていくジェットグリムの姿を見送っていた。
「な、何で……?」
訳が分からないと目を瞬かせる唯。ジェムも同じ気持ちだったが、ジェットグリムが踵を返す直前に彼の視線が自分の後ろの方に向いている事に彼女は気付いた。
奴が引き下がるような何かが自分の後ろにあったのかと彼女がチラリと背後を振り返り視線を彷徨わせると、そこに彼女は見覚えのある桃色の髪を靡かせ去っていく女性の姿を見て奴が引き下がった理由を理解した。
(あぁ……なるほどね)
あれはジェーンだ。ジェムはジェーンの詳しい実力の程は知らない。だがジェットグリムは彼女の力をある程度知るか悟るかしたのだろう。少なくとも今この場でジェムに手出しをして、藪蛇になったら自分もただでは済まない相手である事を理解したのだ。
自分が気付かぬ内に彼女に守られた事に、ジェムは自身の力不足を感じつつこの場はさっさと退く事にした。今は唯しか居ないが、きっとその内バリアも来る事を危惧したのである。
その際彼女は一度唯に視線を向けると、気安い雰囲気で声を掛けてからその場を離れた。
「それじゃーねー」
「ぁ……」
唯は離れていくジェムを引き留める事が出来なかった。今の自分の状態では彼女を引き留める事など敵わないと分かっているからだ。だがそれだけでなく、唯はジェムの事を単純な悪と思う事が出来ず敵対する事に僅かながら疑問を抱いていたのである。
もしジェムが本当にどうしようもない悪人であるのであれば、今回の様に何の実入りも無い戦いをする訳がない。カルネプラエドからパワージュエルを奪うつもりがあったのかもしれないが、それならば自分が来て奴を弱らせるなり倒すまで待った方が確実性では上の筈だ。だが現実に彼女はそんな悠長な事はせず、自分が来る前に戦いを始め無関係な市民を守る為に戦った。
やはりジェムが戦い、盗みを働く事には何か理由があるのだ。そしてその鍵は、彼女が狙うパワージュエルと言う宝石にある。となると、その鍵に繋がる情報を持ってくる誠に期待をするのが今は確実か。
唯がそんな事を考えつつ痛む体に鞭打って屋上から降りると、そこでやっと戻ってきた誠が合流してきた。
「南城さん、ジェムは?」
相当急いでやって来たのか、誠は少し息を切らせている。研究所で情報収集をした上で合流する為に頑張ってくれた彼に、唯は内心で申し訳なさを感じつつ状況を正確に伝えた。
「逃げられました。ついさっきの話です」
「そうですか……しかし南城さん、その様子は……?」
誠は改めて唯の姿を見た。スーツ姿ではなく忍びとしての正装に身を包んだ彼女は、衣服のあちこちが破れ見えている地肌からは血が滲んだり痣が出来ているところもある。唯がこれ程の傷を負う程激しい戦いが行われたのかと誠が首を傾げると、唯は新たに現れたジェットグリムと言う名の敵の存在を彼に明かした。
「新しい敵です。ジェットグリムと名乗っていました。どうやらカルネプラエドの仲間の様です」
「ジェットグリム……そうですか。とりあえず、一度署の方に戻りましょう。互いに情報交換の必要がありそうだ」
「そうですね」
ちょうど救急と消防、そして警察も後始末の為にやってきてくれた。近付いて来るサイレンの音に、2人は頷き合うとその場を離れ別々のルートから署に戻っていくのであった。
***
数分後、署に戻った唯はスーツ姿に戻ると傷の手当てを簡単にしてから誠と情報交換をした。
「ボス……なるほど、そのジェットグリムと言う奴はカルネプラエドの上司に当たる訳ですね」
「そうみたいです。少なくともカルネプラエドはジェットグリムに従う立場に居るようでした」
ジェムとは別にパワージュエルを狙うジェットグリム率いる謎の組織。犯罪を犯し秩序を乱すという点においてはジェムもジェットグリムも共通だが、ジェムが基本的に余計な被害を出さず市民には手出ししないのに対しジェットグリム達は問答無用で市民に対しても被害を出す。それもスクラッパーに変異させるという直接的な被害を齎す彼らの方が、ジェムに比べて圧倒的に危険であると言えた。
そのジェットグリムの組織だが、これに関して誠には思い当たる節があった。
「……実は、私がここに来る前ですが……アメリカでωチームが追っている組織に例のカルネプラエドに似たような奴が居たんです」
「本当ですか?」
「えぇ。ただそちらは岩人間の様な奴は使役してこず、使ってくるのはファッジなんかが主でしたが」
「同じ組織、なんでしょうか?」
「それはまだ分かりません。ただあちらで全体の指揮を執る様な者と遭遇した覚えはありません」
意外なところで意外な繫がりが見えてきた。日本でジェムが活動し世間を騒がせている間に、海外ではそんな事が起こっていたとは。傘木社崩壊後に裏社会が露骨に力を付け、小さな犯罪組織も無視できない戦力を手に入れるに至った。S.B.C.T.はそんな連中への対処にも充てられるようになり、日々忙しない戦いの日々を送っている。
唯は思う。人道や倫理を無視する傘木社の残党やそれに影響を受けた連中に比べれば、自分の芯をしっかりと持ち要らぬ被害を出さない、ジェムは余程良心的ではないかと。放置する訳にはいかないが、ジェムに対する警戒心は今までよりは抑えてジェットグリム達の方に集中した方がいいのではないかと言う気もしてくる。
「神宮寺さん、私思うんですけど……」
「はい?」
「ジェムに関しては一旦置いておいて、このジェットグリム達の方を集中して対処した方が良いんじゃ……もちろんジェムが出てきたらそちらに対処する必要はありますけど、被害の大きさで言えばジェットグリム達の方が――」
唯の意見を、誠は机を強く叩く事で強制的に止めさせた。室内に響く大きな音と、普段礼儀正しく大人しい彼の暴力的な姿に、唯も思わず口を噤み体を跳ねさせた。
「ッ!?」
「…………失礼。ですが南城さん、それは違います。被害の大きさは関係ありません。ジェムもジェットグリムも、どちらも秩序を乱す悪です。悪に選別も容赦もあってはなりません。当然ジェムに対してもこれまで通り対処します」
「何で、そこまで……? 確かに私もジェムを手放しに許すつもりはありません。ですがジェムは決して人を積極的に傷付けて何とも思わないような輩とは違います」
唯がここまで単純な善悪に拘らないのは、嘗ての万閃衆と卍妖衆の戦いで見た者達の事が大きく影響していた。
当初卍妖衆に参加し今の夫である千里と何度も敵対した仮面ライダーゲッコウこと隼 隆司。彼は敵ではあったがしっかりとした信念を持つ男であり、悪ではあったが下衆ではなく最終的には千里の味方として戦った。
また逆に最初仲間であった筈の仮面ライダーツララだった長谷部 椿は、洗脳されたとは言え千里を裏切り仮面ライダーフブキとなって卍妖衆の戦士となり敵対した。
これらの経験を持つ唯にとって、善悪や敵味方はそう単純なものではなかったのである。戦いの中で分かる事もあるし、真に倒すべき敵に意識を向けるべきであるというのが唯の持論であった。
だが誠はそうではないらしい。彼にとって悪事に手を染める者に区別はなく、ジェムはジェットグリムと同等の存在でしかなかったのである。
「南城さんは分かっていません。特異生物的力を使って悪事を成せば、それで被害を受ける者が必ず居るんです。その被害を受けた人が、一生消えない傷を負う事になってもそんな悠長な事を言っていられますか?」
「それは…………」
そう言われると唯としては反論できない。ジェムは積極的に市民に被害を出さないようにしてはいるが、被害が皆無と言う訳ではない。特に警備にあたる者には被害が出ている。その被害を受けた警備の者が一生消えない傷を受け、本人や家族がそれに苦しめられるような事になったらどうなるか?
幸いな事にと言うべきか、現状ジェムの被害を受けた者の中にその様な傷を受けた者はいない。ジェムと対峙した警備やS.B.C.T.の隊員は大きな負傷も無くすぐに現場復帰を果たせたが、放置した結果どうなるかは分からない。故意でなかったとしてもそうした被害が出る可能性も十分考えられる。
「そうなってからでは遅いんです。我々はその様な、力を悪事に使う者を一切許さず裁く義務があるんです」
何処か強迫観念に駆られている様にも見える誠の姿。唯は彼の様子に疑問を抱き、思い切って問い掛けてみた。
「失礼ですが、神宮寺さん。以前に……何かありましたか?」
そうでもなければ、ここまで悪事を為すものを目の仇にしたりしない。誠の過去には何かがあったのだ。そう確信して唯が問い掛ければ、彼は一瞬表情を強張らせると小さく息を吐いて今の自分の原点となった出来事を話し始めた。
「……昔、私がまだ高校生だった頃の話です。幼馴染が1人居たんですが、そいつが特異生物に襲われました」
それは彼にとって、決して忘れる事の出来ぬ出来事であった。自分の与り知らぬところで幼馴染……晶が怪物に襲われて大怪我をした。後に分かった事は、晶を襲った怪人……ヤジュエルに変異したのは彼女の家に入った泥棒であり、盗んだものが偶々パワージュエルだった為影響を受けて変異してしまったのだという事である。
この事実に誠は憤りを隠す事が出来なかった。泥棒を、悪事を為すような事をしなければ、晶はそんな目に遭う事は無かった。彼女の可憐な顔を傷付け、その心をも傷付ける事にならなかったのだ。
晶がケガをしたと聞いた時、誠は全てを投げ打ち彼女の元へと向かった。そこで彼が見たのは、今にも消え入りそうなほど絶望した様子の晶の姿であった。顔の右半分に大きな火傷を負い、もう人前に出られる顔ではなくなったと自嘲する晶。そんな彼女に、誠は掛けるべき言葉が見つけられなかった。何も言わない彼に対し、晶が何を思ったのかは分からないが、きっと失望するなりされたのだろうと彼は思っていた。
それ以降晶は彼の前に姿を現す事が無かったからだ。何も言わず学校にも来なくなり、そしてそのまま何処かへと引っ越していってしまった。
晶が自分の前から消えてから、誠は荒れに荒れた。
あの時、もっと自分に度胸があって晶にちゃんと言葉を掛ける事が出来ていれば、晶はそれを支えに前を向く事が出来たかもしれない。周囲の誰もが晶を避けたとしても、自分1人は彼女を支えるべきだったのに。
あの時、泥棒が悪事を為さなければ、晶はあんな怪我をする事も無かった。一時の汚れた富に目が眩んだが為に、泥棒は自身の人生だけでなく晶の人生までをも傷付けた。
誠はそれらが許せなかった。泥棒もそうだし、自分自身も許せなかったのだ。だから彼はS.B.C.T.に入った。弱い自分を鍛え直し、更には悪事を行う者達を徹底的に排除して回る。そうして晶が安心して生きていける世の中を作り、何時か彼女を迎えに行くのだ。彼はその事を胸にこれまで戦い、生きてきたのである。
「だから俺……私は許さない。ジェムも、カルネプラエド達も。悪事を為す連中を、許すつもりはありません……!」
目の奥に怒りの炎を燃やしながら告げる誠の姿に、唯はこれ以上は何も言うべきではないと口を噤んだ。
もしここで誠が晶の名を口にしていれば、また何かが違っていたのかもしれない。だが彼は晶の事を考え、またそんな偶然がある訳ないと彼女の名を出す事はしなかった。結果、唯が今の2人を繋げることは出来なかった。
決定的なすれ違いを残したまま、重苦しい沈黙に押し潰されそうになった唯はとりあえず誠の原点を知る事が出来た事を良しと考え、これ以上この話題を続けるべきではないと意図して話題を変えた。この話題を続けることは誠自身にとっても辛いだろう。
「分かりました。そこまで言うのであれば私から言える事はありません。それじゃあ、今度は神宮寺さんの方の成果を聞かせてもらっても?」
「あ、そうでしたね。すみません、自分の事ばかり。ちょっと熱くなってしまって」
気付けば自分の昔話ばかりしてしまっていた事を唯に謝罪してから、誠は研究所で聞いた内容を伝えた。と言っても伝えられる内容はそんなに多くは無い。生命工学研究所は元々生物学分野での研究所なので、ヤジュエル本体であればともかくパワージュエルの欠片では分かる事も限られる。
それでも放つエネルギーが人間に影響を与える、パワージュエルの在り方がウランなどの放射性物質に近い何かを感じるという考察に関しては流石の唯も鉛を飲み込んだような顔をせずにはいられなかった。
「何だか、薄ら寒い話ですね。そんな危ない物が誰に気付かれる事も無く出回ってると思うと」
「全くです。ただ幸いな事に出回っている数はそんなに多くは無いのでしょう。もし多く出回っているのであれば、出現するヤジュエルの数は今の比じゃない」
パワージュエルは特定の鉱脈でしか見つからないものなのか、それとも発生が低確率なのか分からないが宝石商の間でも滅多に出回るものではないらしい。もし出回っているのであれば、真っ先に影響を受けるのは多くの宝石を取り扱う宝石商とその関係者だ。
そこまで考えた所で、唯はふとある事に気付いた。ここ最近は特にヤジュエルの出現頻度が増している。そして突如現れたジェム以外にパワージュエルを狙う危険な組織。これらの点が戦で繋がっていき、唯はある結論を導き出した。
「もしかして、意図的にパワージュエルを流通させてる組織がある?」
「! もしや、カルネプラエド達ですか?」
「可能性はあるかと。ジェムのパワージュエルを狙うのも、自分達が売り捌く為により上質な物を欲してと考える事も出来ますし」
そうなると危険だ。今後も被害者は増え続ける。一刻も早く件の連中は討伐しなければならない。ただでさえ連中は市民への被害を辞さないどころか積極的に被害を広げているのである。連中を野放しにしては、最悪取り返しのつかない事にもなり得た。
危機感を抱く唯と誠が黙りこくってしまうのだった。
***
その頃、晶は先程の戦いでジェットグリムを追い払うのに一役買ってもらったという事でジェーンの元を訪れていた。一瞬しか姿が見えなかったが、あの特徴的な髪色と何より強敵が見ただけで引き下がる得体の知れない力を持つ者は彼女以外に考えられなかった。
営業終了後の鄭堂診療所を訪れた晶がその事に一応の感謝をすると、ジェーンはあっけらかんとした様子で応えた。
「ジェーン、さっきは助かったわ。ありがとう」
「あら意外ね~、こんなに素直に感謝されるなんて~」
「茶化さないでよ。これでもそう言うのはちゃんと弁えてるわ。それより、ジェーンが直接出張ってきたって事は、アイツ相当ヤバい奴だって事?」
晶はこれまでにも何度か危機的な状況に陥った事はあった。だがその時はジェーンが来ることは無く、晶は自力での解決を求められてきた。その事は別に気にしていない。元々1人の戦いだという事は理解していたし、助けを求めるつもりも無かった。
だが逆に言えばこれまでの状況はジェーンが手助けをする必要も無いレベルの物ばかりだという事であり、その法則を破った今回は相応に危険な状況だった可能性があるという事である。
そう思って晶が問い掛けるが、どうやら彼女の予想は微妙にズレていたらしくジェーンは悪戯が成功した時の様なクスクスとした笑い声を漏らした。
「うふふ~、ざ~んねんでした~。ちょ~っと違うのよね~」
「えっ?」
「私もあれの強さは分からないわ~。何しろ情報が殆ど無かったから~」
つまりジェーンは、これまで自分が掴む事が出来なかった相手の情報を得る為、自身の目で直接見る事を目的にあの場にやって来たというのである。ジェーンにも自分の事をこんな風に助けに来てくれることがあるのかとちょっと感動しそうになっていた晶は、ジェーンはやっぱりジェーンだとちょっぴり裏切られたような気持ちになり唇を尖らせた。
「つまり私は体よく情報収集の為の偵察役をさせられた訳ね」
「あ~ん、怒らないで~? あの時は晶ちゃんが危なくなったら助けるつもりだったのは間違いないのよ~」
「どうだか」
すっかりへそを曲げてしまった晶に、ジェーンは媚を売る様な声色を出しながらすり寄っていった。頬擦りしてくるジェーンを手で押し返しつつ、晶は現時点でジェットグリム達について分かっている事を訊ねた。
「……それで? あのジェットグリム達に関して何か分かった事は無いの?」
晶が真剣な内容を問い掛けると、途端にジェーンは動きを止め頬擦りするのを止めると椅子に座り直して答えた。
「多分だけど~、組織自体は前々からあったかもしれないのよね~」
「え、そうなの?」
「尤も前はパワージュエルを積極的に狙うような感じじゃなかったっぽいわ~。使うのもベクターカートリッジが多かったみたいね~。って言うか~、本隊は海外で活動してるみたいなのよ~」
そう言いながらジェーンは胸の谷間から数枚の写真を取り出し机の上に広げるように置いた。晶がその内の1枚を手に取ると、ジェーンの体温で温かくなった写真にカルネプラエドとよく似た戦士が黒いスコープらしき者と戦っている様子が写っているのが分かった。写真の画像は荒く、解像度も高くないのでどうやら何処かの監視カメラの画像を引っ張ってきたらしい。
「これは……?」
「アメリカでのS.B.C.T.とカルネプラエドのお仲間の戦いの様子よ~。それが戦ってるのは~、ωチームって部隊みたいね~」
S.B.C.T.のチームに関しては別にどうだった良い。重要なのはカルネプラエドとよく似た戦士が、アメリカで活動しているという事である。ジェーンが言うには、アメリカに居るこいつは特別宝石に限らず現金輸送車など金品が相手であれば見境なく襲い掛かっているらしい。当然その度に被害は出るし、戦いに際してコイツはベクターカートリッジをバラ撒いて周囲の人々をファッジにするなどしているらしい。それを聞いて晶の前髪に隠れていない部分の表情が歪んだ。
「クソみたいな奴ね」
「女の子がそんな言葉使わないの~」
「子、って歳じゃないわよ。それで? 他に何か分かってる事は無いの?」
連中が危険な者達だという事は分かった。怪盗としてパワージュエルを盗んできた自分が言えた義理ではない事は百も承知だが、市民を積極的に巻き込むそのやり方は晶をしても危険だという事が出来た。
こうなるとその構成メンバーなども気になるし、カルネプラエドを始めとした戦士達の正体も気になるのだが、こちらに関してはあまり多くの情報を得られなかったようだった。
「ごめんね~? それ以外に分かってる事は殆ど無いの~。せめて構成メンバーだけでも分かればよかったんだけどね~」
「それも分からなかったの?」
「連中、外部と接触する時は基本姿を変えてるのよ~。だから正体まではまだ探れてないわ~」
あまり芳しくない結果ではあるが、その事で文句を言う事はしなかった。ジェーンの話ではカルネプラエド達は最近になってやっと確認できた存在であるようだし、もしかすると構成員自体がかなり少ないのかもしれない。であれば、ジェーンが存在をなかなか確認できなかったのも仕方がない。向こうが存在を明かされるのを警戒しているのだ。隠れ潜む事に徹していた相手を、知れというのは酷な話である。
ただジェーンの方もあまり大した情報が得られなかった事への負い目はあるのだろう。代わりと言っては何だが、晶にとっては耳寄りな情報を持ってきてくれた。
そう、パワージュエルの情報だ。
「あっ! でもでも~、代わりに新しいネタは仕入れる事が出来たわ~」
「パワージュエルの?」
「そうよ~。はいこれ~」
新たにジェーンが胸の谷間から一枚のメモ用紙を取り出した。毎度思う事だが、いくら立派な胸を持っているからとは言え谷間を小物入れの様に扱うのはどうなのだろうか。いや、晶自身も怪盗ジェムとして振る舞う時は気取ってそんなような事をした覚えはあるが、頻度はそんなに多くは無い。
「それさ……いや、いいわ」
「温めておいたわ~」
「だからいいってのッ!」
思わずジトッとした目で睨んでしまったが、ツッコめば面倒な事になると話題を逸らそうとしたがジェーン本人が逸らそうとした話を戻してきた。晶はこれ以上この話題を続けない様に、ひったくる様にメモ用紙を奪い取るとその内容に目を通す。宣言通りしっかり人肌に温かく、汗も少し吸っているのか薄っすら指に吸い付く感触に何とも言えない顔になりそうになるのを気力で堪えてメモに書かれている内容を読み上げた。
「光林第一高校の展示室……って、ちょっと待ってッ! 学校にパワージュエルがあるのッ!?」
「正確には~、海外の美術品の彫刻の装飾として使われてるみたいよ~。不思議と人を惹き付ける彫刻って事で~、生徒達の教育の為に期間限定で貸し出されたみたい~」
そりゃ確かに高校ともなれば、教育の一環として外部から人や物を招く事もあるだろう。特に光林第一高校は美術分野を目指す学生が多い為、教育の為に美術品を身近で見られるようにと持ち込まれるのも分かる。だがそれにパワージュエルが含まれているとなるとただ事ではない。パワージュエルは影響を受ける可能性のある人物には全員に効果がある。ヤジュエルになるのはその中の1人だろうが、その前に影響を受けた者達によるパワージュエルの奪い合いが起こる危険があった。
特に高校生くらいの年代は多感であり、大人以上に影響を受けやすい。もし一度に多数の生徒が影響を受け、一斉に奪い合いが発生したりすれば、ヤジュエルが出現する前に多数の怪我人や最悪死人が出る可能性もある。
こうしてはいられない。本格的な展示が始まる前に人を遠ざけ、パワージュエルを盗み出さなくては。
「その美術品ってどれくらい大きいの?」
「晶ちゃんと同じくらい~」
「よりにもよって等身大の彫刻ッ!? それじゃあ彫刻ごと盗みだすなんて出来る訳ないじゃんッ!」
せめて胸像程度であればまだ何とかなったが、等身大の彫刻を警備を掻い潜りながら盗み出すのはリスクが大きい。しかも警備には恐らくセツナとバリアもやって来る。それだけではない。敵には恐らくカルネプラエドと、ジェットグリムの2人も加わる可能性が非常に高い。盗み出そうとする自分に対して二つの勢力が妨害してくる。四面楚歌に近い状況に晶は早々に彫刻を丸ごと盗む事を諦め、最悪彫刻を破壊してでもパワージュエルだけを取り出して盗み出す事を考えていた。
「これ、彫刻壊したら豪いことになるわよね……」
「結構なお値段よ~。晶ちゃん一生掛かっても返済できないかもね~」
「うげぇ……」
思わず呻きながらも、放置して被害が広がる位なら自分が盗み出す方がまだマシと考え晶は気持ちを切り替えた。
先ず準備するのは予告状だ。兎に角これ以上パワージュエルに近付く人を減らさなければならない。自分が彫刻の装飾に使われている宝石を狙っていると知れ渡れば、警備の為に余計な人が近付く事は無くなる筈だ。
そうと決まれば善は急げ。晶は立ち上がるとメモと、序でにカルネプラエド達の写真を持って診療所を後にした。
「それじゃ、もう行くわ。ありがと、ジェーン」
「頑張ってね~」
診療所から出ていく晶をジェーンはにこやかに見送った。1人だけになった診療所の中、ジェーンは晶が出ていった扉を見つめて一つ溜め息を吐いた。
「とは言え~……晶ちゃん1人で対処しきれるかしらね~」
セツナとバリアだけであれば、晶も自力で何とかなったかもしれない。多少の苦戦は免れないだろうが、ジェムは元々相手を翻弄し逃げ隠れする事に長けた仮面ライダーだ。
だがここにカルネプラエドとジェットグリムと言う奴らが加われば分からなくなる。如何に逃げ隠れに長けていると言っても、四方八方から狙われれば苦しい戦いになるのは間違いない。実際にはセツナ達とカルネプラエド達で妨害の応酬が起こるだろう。晶がそれを利用して上手く掻い潜ってくれれば…………
「最悪の場合も……考えておいた方がいいかしらね?」
気付けばジェーンの手には一本の筆が握られていた。手の中にある筆を弄びながら、ジェーンは何とはなしにそんな事を呟くのであった。
と言う事で第14話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。