仮面ライダージェム   作:黒井福

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第15石:学び舎での奪い合い

 新たに怪盗ジェムの予告状が出された。その報告に唯と誠は即座に現場となる高校へと向かった。

 

 今回の標的となったのは、高校に教育目的で展示される事となった著名な彫刻家の作品。ジェムはそれを狙うと言うので、2人は件の高校を訪れ標的となっている彫刻を確認した。

 

「これが、ジェムが狙っているという?」

「そうですね。予告状にはその様に書かれています。尤も……」

 

 彫刻は所謂戦乙女を表現したものなのだろう。軽鎧を見に纏った何処か神々しい見た目の女性が槍を掲げている姿となっている。正直に言って美術に関してはあまり知識も感心も無い2人だ、この彫刻の何がそんなに良いのか分からない。

 だがこの彫刻が何故人を惹き付けるのか、そしてジェムが何故これを狙うのかは見た瞬間分かった。

 

 普通彫刻と言う物は表現されるもの全てを素材となっている石を削る事で作られる。優れた彫刻の中には薄手の布の質感すら石を削る事で表現する位だ。だがこの彫刻は一点だけ、作り上げた上で装飾を別に取り付ける事で完成されている。

 それは戦乙女の胸元、ネックレスと思しきものが削りだされた部分にある。ネックレスのチェーンの先に、本物の宝石がはめ込まれているのだ。

 

 2人にはすぐに分かった。ジェムの本当の狙いはこれであり、この彫刻が人を惹き付けたのもこれが原因だ。人々は彫刻の造形ではなく、この宝石……青く輝くタンザナイトの光に引き寄せられたのである。実際宝石を見た唯と誠は、心を引き寄せられるような不思議な感覚に違和感と危機感を感じてすぐに彫刻から距離を取った。

 

 彫刻は高校の正面玄関、エントランスの奥の壁際に展示されている。学生が不用意に触れたりしない様、1メートルほど間を空ける様に柵が設けられている。その周囲に彫刻を警備する目的で警察官が数人配置されているが、彼らもタンザナイト……否、パワージュエルに惹き付けられているのかチラチラと宝石に視線を向けていた。

 これはマズいと唯は彫刻の周囲の警察官を離れさせた。何処まで離れればパワージュエルの影響を受けずに済むのかが分からないが、このままだと警察官もその影響を受けて最悪ヤジュエルに変異してしまう。

 

「はぁ……でも何だって彫刻に本物の宝石を使ったりしたんだろ」

 

 芸術には詳しくない唯だったが、彫刻は基本本物を使わないものだという認識はあった。そう考えるとこの彫刻はちょっと横着と言うか邪道な様に見えるし、パワージュエルでなければ批判の的になってもおかしくないのではと思っていた。

 

「それについて、ちょっと調べてみました」

「どうだったんですか?」

「どうもこの彫刻の作者、最近ちょっと迷走気味だったみたいです」

「スランプって事ですか?」

「そんなものです」

 

 昔はその作品の数々を称賛され持て囃された作者だったが、最近は評判も低迷し始め自身も悩んでいたらしい。そんな中で作者はパワージュエルを手に入れ、それが人を惹き付ける力があると気付いたのだろう。

 

 この宝石があれば自分の作品はまた人々に注目される。そう考えた作者はパワージュエルを彫刻の一部に用いる事で自身の作品の評判を取り戻す事を考えたのだ。その狙いは的中し、この彫刻は今や多くの人々に注目される事となった。

 

 その話を聞いて唯は何とも言えない顔になった。

 

「何て言うか……可哀想な話ですね」

「可哀想?」

「そうじゃないですか? 元々は自分の力で人々に認められてた人が、評価されなくなった事で自分を見失ってあんな物に頼らなくちゃいけなくなるなんて」

 

 言うなれば嘗ては評判の高かった料理屋の店主が、客を周囲に取られて悩んだ末に食材に麻薬を混ぜて常習性を客に与える事で無理矢理客を取り込もうとするようなものだ。一度高い評価を味わった人間はその快楽が忘れられず、低評価に耐えられず人の道を踏み外してしまう場合があるという事の良い例であった。

 尤も、この彫刻の作者は使った宝石がそこまで危険なものであるという事は知る由も無かったであろうが。

 

「そう言えばこの作者自身はパワージュエルの影響そんなに受けてなかったんですか?」

 

 一度は作品に使う事でパワージュエルから離れた作者であるが、ある意味で一番パワージュエルに近い場所に居た人物でもある。真っ先に影響を受けるとすれば彼しか居ないと唯が警戒すれば、誠もその可能性は既に考慮しており既に手は打っていた。

 

「そんな事は無かったようです。念の為検査を受けさせたところ、脳波に異常が見られたという事で現在治療中です」

「やっぱり……それじゃあ、その人に関してはもう大丈夫なんですか?」

「どうでしょう……少なくとも今回乱入してヤジュエルとやらに変異する事は無いでしょうが、何分我々はパワージュエルと言うものに関して知っている事が殆どありませんから」

 

 詰まる所、どこまで治療が意味を成すか分からないという事である。そもそも治療の方法が分からない。突然禁断症状の様にパワージュエルを求めて暴れ出すかもしれない。儘ならない状況に、唯は表情を暗くして肩を落とした。

 

「歯痒いですね……」

「だからこそジェムは捕えなくてはならないのです。現状彼女以上にパワージュエルに詳しい人物はカルネプラエド達以外に居ません。そしてカルネプラエド達がどう考えても話の通じる連中でない事を鑑みれば、我々の選択肢はジェムを力尽くで逮捕する以外にありません」

 

 頑として譲らない様子の誠に、唯は何か危ない物を感じた。それが件の幼馴染に起こった出来事が原因である事を考えると頭から否定し引き留める事も出来ず、だが放置も出来なかったのでせめてもの落としどころとして話し合いでのジェムとの和解の道は無いかと提案した。

 

「……話し合って、何とか協力してもらう事は出来ないでしょうか?」

「何ですって?」

「ジェムとです。カルネプラエドやジェットグリム、コイツ等は話が通じないから戦うしかないでしょうけど、ジェムは違うと思います。こっちの状況やこれからの考えられる危険を伝えれば、理解も得られて協力してもらえるんじゃ……」

 

 唯はどうにも、ジェムが敵であると割り切る事が出来なかった。今の彼女にとって、怪盗ジェムは学校で規律を乱す不良程度の認識に落ち着いていたのだ。だからいざジェムとの戦いになっても、本気の殺意や敵意は無く純粋な正義感のみで戦う事が出来る。

 そして、独り善がりでなければ、ジェムの方も自分に対してそう悪い印象は無いのではないかと思ってもいた。もし本当にジェムが自分に対して敵意を抱いているのであれば、戦いでもっとどす黒い気持ちが湧いて来た筈である。

 

 平和的な解決方法が無いかと悩む唯であったが、誠の意見は一貫して悪事を働く者への厳しい対応一択であった。

 

「だとしても、ジェムが過去に行った悪事が無くなる訳ではありません。南城さん忘れたんですか? ジェムはこれまでに幾つもの盗みを働き、それを防ごうとした警備やS.B.C.T.との戦いも起きたんですよ?」

「それは……」

「仮に話し合いが出来たとしても、その罪が無くなる訳ではありません。そんな相手が今更和解に応じると本気で思っていますか?」

「ッ……」

 

 息が詰まるかと思う程の誠からの威圧感に、唯も言葉を紡ぐ事が出来なくなる。黙り込んだ彼女の姿に誠は自身が圧が強すぎる物言いだったかと一息ついて心を落ち着けると、彼女から視線を外して正面を見ながら言葉を続けた。

 

「悪には罰が必要なんです。例えどんな理由があろうとも」

 

 誠はそれっきり何も言う事は無くなり、唯も掛ける言葉が見つからず黙るしか出来なくなってしまった。

 

 2人の周囲だけ空気が鉛で出来たかと思うような重苦しい雰囲気になる中、周囲では警備の為の警察官が慌ただしく動き回る。何時ジェムが来ても良いようにと忙しく動く彼らは、2人の事を気にもかける事は無いのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな警備がされている高校を、晶は怪盗ジェムの姿で遠くから眺めていた。予告を出した高校は遠くからでも分かるほどに周囲を警察の車両に囲まれており、正門や校庭には多数の警察官が待機している。

 

「うへぇ……今回はまた随分と豪勢な……」

 

 分かってはいた事だが、その警備の厳しさに晶も辟易とした声を上げる。勿論ただの警察官程度であれば出し抜くのは何てことは無い。今の彼女にとって問題なのは、仮面ライダーセツナと仮面ライダーバリア。それとカルネプラエドにジェットグリムだ。一方は警察側、一方は競合相手。共に晶にとっては邪魔者であり、そしてその両者も互いの事を敵視している。

 

 理想的なのはセツナ達とカルネプラエド達が互いに争い合っている隙に自分がこっそり目的のパワージュエルを盗み出す事だろう。だがそれは言うほど簡単ではない。まずセツナとバリアをカルネプラエド達にぶつける為には、自分が先んじてあそこに向かわなければならない。カルネプラエドは晶が持つパワージュエルも狙っている。あちらもあちらで漁夫の利を狙い何処かから様子を伺っているだろう。

 

 何より、予告状を出した以上あそこは今や彼女のステージだ。そこに主役である自分が出て行かずに脇役4人が目立ち、自分がこっそり目的だけを果たして姿を消すなどあってはならない。それは世間の考える怪盗ジェムのやる事ではないのだから。

 

「怪盗ってのも大変だな~…………よし」

 

 一頻り弱音を吐いた晶は、意を決して現場に飛び込む事を決めた。厳しい戦いになる事はやると決めた時点で覚悟の上。それでも尚成し遂げたいと思える目標が彼女にはあるのだ。パワージュエルを集めて、この忌まわしい火傷痕を消し再び誠に会いに行く。それだけを胸に、晶は目的のパワージュエルがある高校に向かうべく脇に止めてあった自身の専用バイクである『ファントムクオーツァー』に跨りエンジンを入れ走らせた。激しいエンジン音を立てるバイクに跨り道路を疾走するジェムの姿は多数の市民に目撃され、巧みにバイクを操り高校へと向かう姿にその場に居合わせた人々は興奮と驚きに目を見開き中にはスマホを取り出し写真を撮る者も居た。

 

 自分が注目されている……その事実に対し、晶が感じているのは得も言われぬ高揚感であった。他人に注目されていると、不思議とやる気が満ちてくる。晶とは本来こういう人物なのである。

 

 ジェムの接近の報告は即座に高校に待機している警察と、唯達の元にも届けられた。緊迫した警官からの報告に、誠は即座にバリアに変身しジェムを待ち構える構えを取った。

 

〈Certification〉

「変身ッ!」

〈Ready now〉

 

 バリアに変身した誠が彫刻の前に門番の様に立ち塞がる。エントランスからは正門とその向こうまで見通す事が出来、バイザーを下ろしてズーム機能を用いれば遠くからバイクに乗って颯爽と近付いて来る怪盗ジェムの姿が見える。

 

 その視線に気付いてかどうかは分からないが、晶もまた正門が近付いてきた事に自身も仮面ライダージェムに変身する。

 

「変身ッ!」

《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》

 

 クオーツカットのジェムに晶が変身すると、同時にファントムクオーツァーがあと少しで正門に差し掛かるというところまで接近した。当然正門前には警察により規制線が張られており、パトカーと盾を持った警官が彼女の進行を阻もうと身構えている。

 

「フフッ!」

 

 ジェムは待ち構える警官隊の姿に笑みを浮かべると、ハンドル操作でバイクを大きく跳躍させた。巧みなハンドル操作によりバイクは規制線を大きく飛び越え、一気に校庭に降り立つとそのまま一気に校舎に突入し、エントランスに入るとブレーキと同時に車体を真横に向けて傾けスライドさせた。タイヤが床を擦る音がエントランスに響く中、ジェムが乗ったバイクはエントランスの中程で停止する。

 バイクが停車すると、ジェムはバイクから降りて唯とバリアの前に自然体で佇んだ。

 

「よっ、と。お待たせ♪」

「ジェム……!」

「のこのこと出てくるとはな」

 

 一気に警戒心を高める唯とバリアを前に、ジェムは余裕を感じさせる動作で気取った様にポーズを取った。

 

「怪盗ジェム、只今参上♪ 予告通り、そこの彫刻を頂きに参りました!」

 

 右手を拳銃の形にして向けてくるジェムに対し、バリアは視線を外さず親指だけで背後の彫像を指差し彼女の本当の狙いを指摘した。

 

「お前が本当に欲しいのはこの彫刻自体じゃなく、装飾に使われてる宝石の方だろ?」

「ご名答。ま、流石に分かるわよね」

 

 バリアの指摘を否定するどころか肯定するが、その声色は彼の事を煽る様な物言いであった。悪党に小馬鹿にされているという事実が気に入らないのか、彼の喉の奥から微かに唸る様な声が上がる。唯は彼がこれ以上何かを言う前に、ジェムと少しでも話し合うべく一歩前に出て語り掛けた。

 

「ねぇジェム教えてッ! あなた、これが此処に在ると今以上に大変な事になるって分かってるからこんな事したんじゃないの?」

「南城さん何を――」

「お願い、待って……ねぇどうなの? あなたは本当にただ、この宝石……パワージュエルだっけ? それが欲しい為だけに、こんな事をしてるって言うの?」

 

 まるでジェムが心の奥深くに抱えている悩みを見抜いた様な唯の言葉に、彼女も思わず言葉を詰まらせる。ジェム……晶だって正しい手段で顔が元に戻るならそれに越したことは無いと理解している。

 だが最早全てが遅いのだ。賽はとっくの昔に投げられている。そして晶には、本人にとって絶対に引き下がりたくない理由がある。譲れない物が出来てしまっている以上、足を止めるという選択肢は彼女の中に存在しなかった。

 

「…………そうよ。私はね、そのパワージュエルが何が何でも欲しいのよ。ただそれだけ……そう、それだけよッ!」

 

 唯の問い掛けにより生じた迷いを振り払うように、ジェムはファントムシューターを抜き発砲した。放たれた銃弾は一直線に彫刻に向けて飛んでいき、装飾部分だけを破壊すると取り付けられていたパワージュエルが弾き飛ばされ放物線を描きジェムに向け飛んでいった。

 

「あっ!?」

「しまったッ!?」

 

 まさかこんな思い切った方法でとりに来るとは思っていなかった為、唯もバリアも面食らってしまう。ジェム自身、こんなやり方でパワージュエルを取るつもりは最初無かった。当初の予定では最初唯のセツナとバリアを何とかあしらいつつ、乱入してくるだろうカルネプラエド達にセツナ達を押し付けその間にパワージュエルだけを頂戴してから彼らに見せ付ける様に悠々と姿を消すつもりであった。だが唯のあまりにも踏み込んできた問い掛けに思わず冷静さを欠いてしまい、思わず短絡的な行動に出てしまった。

 

 内心でしまったと思いつつ、パワージュエルさえ手に入ればそれで構わないとジェムは飛んでくるそれを手に取るべく手を伸ばした。唯も同様に手を伸ばしパワージュエルをジェムに取られまいとしている。だがタイミング的にジェムの方が早い。あと少しで彼女の手がパワージュエルに届くかに思われた。バリアが銃口をジェムに向けようとしているがそれでも間に合わない。

 

「くっ……!」

「取っ……!?」

 

 あと少しでジェムの手が宝石に届く……そう思われた瞬間、彼女の手は宝石をスルーしたかと思うとそのまま唯の手を取り、そして手に取った唯の手を引っ張り自分諸共縺れ合う様に床に倒れた。

 

「えっ!? わ、わぁっ!?」

 

 突然の事に反応が追い付かない唯はそのままされるがままにジェムに抱かれるような形で倒れ込む。一体何がとジェムの豊満な胸元を押し退けながら体を起き上がらせようとすると、その寸前一発の砲弾が2人の頭上……正確に言えば先程まで唯が居ただろう場所を通り過ぎた。

 

「ちょ、何を……!」

「んぅっ!? ちょ、アンタ何処触ってッ!?」

「あ、ごめ……って、えっ!?」

 

 飛んでいった砲弾は壁に直撃し、爆発と共に壁を粉砕して外へとつながる風穴を開けた。

 

「きゃっ!?」

「くっ!?」

「これは……!?」

 

 砲弾が飛んできた方をバリアが素早く振り向くと、そこに居たのはカルネプラエドとジェットグリムであった。やはりやって来たかとバリアが銃口を向けている中、ジェムと唯は立ち上がり同じくカルネプラエド達と対峙する。

 

「やっぱり来たわね……」

「あなた、私をまた……」

「勘違いしないで。あのまま直撃してたらあなた木端微塵になってたでしょ? 流石にそんなもの目の前で見たくないだけよ」

 

 確かに変身していなければ唯も生身の人間である。変身していても直撃を喰らいたくないと思うような攻撃を喰らえば、一発で体がバラバラに吹き飛んでしまう。そんな光景を目の前で見たくないというジェムの言い分は分からないでも無かった。

 だが同時に、多分それだけではないのだろう事を唯は何となく察していた。本人が自覚しているのかどうかは分からないが。

 

 唯はそれを敢えて指摘しない。今の意固地になっているジェムに、そんな事を指摘しても意味は無いだろう。それに今はそれどころではない。

 

「ジェムは今は後回しね。あっちの方が危ないわ」

「あらありがたいわ♪ それじゃああちらはお願いするから、私はその間に目的の物を……」

「させると思うのか?」

 

 1人抜け駆けして目的の宝石を持って行こうとするジェムであったが、バリアがそれを許さず発砲。威嚇目的の足元とかそんな事言わず思いっきりジェムに狙いを定めた銃弾は、彼女の胸元に命中し衝撃でもんどりうってひっくり返させる。

 

「きゃあっ!? ちょ、アンタねッ!!」

「ちょちょっ!? 何やって……」

「勘違いするな南城さん。そいつも悪党だ。コイツ等と同じように……!」

 

 バリアの意識がジェムに向いたと思ったからか、カルネプラエドが彼の背後から襲い掛かる。だが飛び掛かってきたカルネプラエドのナイフによる攻撃をバリアは左手で抜いた警棒で受け止め、そのまま至近距離からの銃撃で逆にカルネプラエドを吹き飛ばした。

 

「ぐぉっ!?」

「舐めるな、犯罪者が」

 

 倒れたカルネプラエドにバリアが追撃を仕掛けようとする。だが何時の間にか至近距離にまで接近していたジェットグリムの蹴りがそれを阻み、接近に気付かなかったバリアは防御も出来ず蹴り飛ばされた。

 

「ぐっ!?」

「甘く見ないでほしい物だな」

「くぅっ!」

 

 蹴り飛ばされたバリアは即座に立ち上がり、ジェットグリムとカルネプラエドに立ち向かっていく。とは言えカルネプラエドだけならともかく、ジェットグリムまで居ると流石の彼でも苦戦は免れず押され気味と言った様子であった。

 それどころか、ジェットグリムはカルネプラエドにバリアの相手を任せて自分はジェムが装飾を破壊して自由になったパワージュエルを回収すべくそちらへと向かっていく。

 

「こいつの相手は任せたぞ」

「オーケーだ、ボスッ!」

「おい、待てッ!」

「お前の相手は俺だよッ!」

 

 その場を離れようとするジェットグリムを引き留めようとするバリアであったが、カルネプラエドはそれを許さずグレネードランチャーを振り回して殴り掛かって彼の動きを阻害する。

 

 2人が戦っている間にジェットグリムがパワージュエルの方に向かっていくのを見て、ジェムはそうはさせじと立ち塞がった。

 

「待ちなさい。あれは私の獲物よ。抜け駆けは許さないわ」

《Change of Cut, Cloth Corundum! Commit the Knight!》

 

 コランダムカットにフォームチェンジしたジェムはスターブレイドを構えて立ち塞がる。眼前に立ち塞がるジェムの姿に、ジェットグリムは万道臭いと言いたげに大きく溜め息を吐いた。

 

「全く……今度こそしっかりと痛めつけてやる必要がありそうだな」

「やれるものならやってみなさいよ? 言っておくけど、私の輝きはその程度じゃ翳らないわ」

 

 対峙するジェムに対し、ジェットグリムは腕の装甲を叩くとそこから飛び散った粒子が形を持っていき一本の槍となった。

 

 そしてぶつかり合うジェムとジェットグリム。リーチの差でジェットグリムの攻撃が先にジェムに届くが、彼女はそれをスターブレイドで受け止めるとそのまま柄の上を滑らせて一気に接近していく。槍はその構造上、相手にあまり近付かれると威力を発揮できない。

 当然ジェットグリムもその事は理解している。彼は背中の翼上のユニットを広げると、先端のノズルから火を噴き一気に彼女から距離を取った。足で動くのであれば機動力に限界があるが、推力を用いて移動するのであれば移動力はあちらの方が圧倒的だ。一気に距離を取られ、ジェムは思わず舌打ちをした。

 

「チッ……フッ」

 

 だがその口元にはすぐに小さな笑みが浮かんだ。そして何を思ったのか、ベルト左のレバーを引いてバックルの円盤を回転させると、普段は指輪の宝石を研磨するそこで手にした剣の刀身を削り始めたのだ。削られた刀身は指輪の宝石を削った時同様火花と粒子を散らせると、それに合わせて刀身が眩く輝き始める。

 

「うっ!?」

 

 あまりの眩しさに思わずジェットグリムも手で顔を覆ってしまい、少し離れた所で戦っているバリアとカルネプラエドも戦いを止めてそちらに注目していた。

 

「何だ、何が……?」

「ボスッ!?」

 

 全員の視線が集中する中、ジェムは光り輝く刀身を渾身の力を込めて振り下ろした。

 

「はぁぁぁぁ…………たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ジェムとジェットグリムの間には刀身の長さ以上の距離がある。にも拘らずジェムは構わず剣を振り下ろした。本来であればただ素振りをしただけに終わる筈のその行為は、しかしこの時ばかりは当てはまらず彼女が剣を振り下ろすと刀身も一気に伸びジェットグリムの体を袈裟懸けに切り裂いた。

 

「ぐぅっ!?」

「ボスゥッ!?」

 

 切り裂かれたジェットグリムの姿にカルネプラエドが珍しく悲鳴のような声を上げる。彼が見ている前で、ジェットグリムは切り裂かれた部分を中心に爆散し膨らんだ爆炎で姿が見えなくなった。爆発と同時に無数の鎧の破片の様な者が飛び散り、飛んできた破片が僅かにジェムやバリアの鎧を小さく切り裂いた。

 

「くっ…………ふぅ、これで一つ。それじゃ、私は…………」

 

 予定と大分違ってしまうが、まぁそれは些細な問題だ。一応加減はしたし、虫の息ではあるだろうが死んではいないだろう。

 

 邪魔者が1人居なくなった事でジェムは悠々と先程取り損ねたパワージュエルを回収しようと振り返った。だがそこで彼女が見たのは、先程のパワージュエルを手に持ちこちらを睨み付けてくる唯の姿であった。

 

「ッ!? アンタ、何やって……!?」

「残念ね。何時もあなたに出し抜かれてばかりじゃいられないのよ」

「そうじゃないッ! アンタそれが何か分かって……」

 

 ジェム……晶は、過去にヤジュエルの攻撃を直接食らった影響なのかパワージュエルの影響を受け辛い。事実変身していない時も自発的に指輪の宝石を磨いたりしているが、特別異変が起こったりヤジュエルに変異したりすることは無かった。だが唯は違う。彼女はパワージュエルと触れ合う機会自体が限られていた。そんな彼女が直接パワージュエルを掴むなど危険極まりない。ただ見るのと触れるのとでは影響の受け方がまるで違うのだから。

 

「とにかく今すぐそれを離してッ! それはあんたが思ってる程生易しい物じゃないのよッ!」

「舐めないでほしいわね。私もこれでも万閃衆の忍びの端くれ、そう易々と自分を見失う軟な精神してないわ」

「そう言う意味じゃ……あぁ、もうっ!?」

 

 このまま話しても埒が明かない。ジェムは力尽くで唯からパワージュエルを奪い取ろうとクオーツカットにフォームチェンジして飛び掛かるが、唯は無数の苦無を投げつけてそれを迎え撃ち距離を離すとパワージュエルを懐に仕舞い代わりに忍筆を取り出した。

 

「執筆忍法、変身の術ッ! セツナ、変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 瞬きの、刹那を見抜き、忍ぶ者……セツナッ! 達筆ッ!】

 

 唯はセツナに変身すると、ジェムに手裏剣を投げつけながら忍者刀を抜き接近して斬りかかる。ジェムもそれをファントムエッジで受け止めると、剣戟を繰り返しながら何とかしてセツナからパワージュエルを奪い取るべく頭を回転させた。

 

「こうなったら仕方ないわ。あなたも私の輝きで包んであげるッ!」

「そうはさせないッ! 瞬きする間に勝負をつけるッ!」

「やってみなさいよっ!」

 

 ジェムが素早い斬撃を繰り出しセツナを追い詰めるが、セツナはそれを忍者刀と逆手に持った苦無で受け止める。流石忍びと言うべきか、素早い動きはジェムに匹敵どころか僅かに上回っていた。このまま剣戟を繰り返していてはいずれジリ貧になると危惧したジェムは咄嗟にファントムシューターを抜き至近距離からの銃撃をお見舞いするが、セツナはそれを紙一重で回避するとお返しとばかりに苦無を投擲しジェムのファントムシューターを弾き飛ばした。

 

「あっ!?」

「そこっ!」

「きゃあっ!?」

 

 銃を弾き飛ばされ一瞬そちらに意識を向けてしまうジェム。セツナはその一瞬の隙を見逃さず、一気に接近すると忍者刀で切りつけた。元々防御力には難があるクオーツカットのジェムにとっては、セツナの斬撃も良いダメージとなる。切り付けられたところを押さえて蹈鞴を踏むジェムの姿に、セツナは勝負を決めるべく忍者刀を納刀し忍筆を振るった。

 

「必殺忍法、久遠瞬転撃(くおんしゅんてんげき)ッ!!」

【忍法、久遠瞬転撃ッ! 達筆ッ!】

 

 セツナが宙空に書いた文字が彼女自身の右足に吸い込まれていく。そしてその状態で放たれた飛び蹴りを前に、ジェムは見ているしか出来なかった。

 

「あ…………!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そして放たれたセツナの必殺技は、狙い違わずジェムに直撃するとそのまま彼女を蹴り飛ばして壁を粉砕し彼女を外へと放り出した。

 

「あああああああああああああああっ!?!?」

 

 ジェムは悲鳴を上げながら蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられたと同時に変身が解除されてしまった。倒れた晶は意識を失ったのかピクリとも動かない。

 

 セツナは蹴り飛ばしたジェムの後を追って壁の穴から外に出る。

 

 その後ろに、ジェットグリムの欠片がついて来ている事に気付く事も無く。




と言う訳で第15話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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