セツナの必殺技を受け、ジェムは校舎から蹴り飛ばされ校庭に倒れた。そこで変身解除されたジェム……晶は、意識を失ったのか動く事が無い。自身の勝利を確信したセツナは、遂にあのジェムに勝てたと言う歓喜に打ち震えていた。
「やった……やった! 勝てたんだ、私……」
これまで何かと出し抜かれ、辛酸を舐めさせられたジェムに勝利したという事実は、彼女にとってとても大きな意味を持つ。まだまだ未熟者であるという自覚のある彼女は、明確な成果に飢えている節があった。特にジェムに対しては、同じ女性でありながら何度も自分を出し抜き負かしてきた相手であるだけに、執着にも似た感情は大きかった。
ジェムへの勝利に喜ぶセツナに対し、バリアは倒れた晶を一瞥すると油断なく視線をカルネプラエドへと向けた。以前は倒したと思っても出し抜かれたジェムだが、今は明らかに気を失っている。逃げられる心配はない。だが一方で、ジェットグリム達は健在だった。奴らが倒れた晶からパワージュエルを奪い取る為に連れ去ったり、セツナが確保したパワージュエルを奪い取る為に襲い掛かってくる可能性は十分あった。
バリアの警戒心にカルネプラエドも気付き、牽制する様に身構えつつ視線はチラチラと晶とセツナに向けられている。やはり彼女達が持つパワージュエルを狙っているらしい。
緊張感が周囲に漂い、一触即発の空気が充満していく。流石にここまで来ればセツナも暢気に喜んでいる暇は無くなり、バリアと共にカルネプラエドを前に身構えた。
そんな緊張感をブチ破ったのは、バリア達でも、カルネプラエドでも無かった。突如外から吹き込んできた猛吹雪が、エントランスに居た4人の戦意を纏めて吹き飛ばしてしまったのだ。
「きゃっ!? な、なになにッ!?」
「ジェムかッ!?」
「いや、違う……!」
まさか晶が実はまだ意識があり、不意を突いて攻撃してきたのかと警戒するバリアであったがカルネプラエドがそれを否定する。その否定を証明する様に、吹雪が吹き止むと校庭に続く穴の前に新たな人影が佇んでいた。
「え、えぇっ!?」
その姿を見てセツナは我が目を疑った。何故ならそこに居たのは……
「仮面ライダー、フブキッ!?」
その姿は忘れもしない。嘗て卍妖衆により誑かされ、千里達の敵となった椿が変身したフブキがそこに居たのである。だがそれは本来あり得ない。最早椿は万閃衆を裏切る事は無い。彼女も少女だった頃に比べて成長したのである。それに何より、今の万閃衆は横の繫がりが強い。もし何らかの理由で裏切りや脱退が起これば、任務中であってもセツナの耳に入ってくる筈だった。
つまり、あれは椿が変身したものではない。では一体誰なのかと言う疑問があるが、今はそれよりも重要な事があった。ズバリ、あのフブキは敵か味方か、である。
「誰あなたッ! 長谷部さんじゃないわよね? 誰が変身してるのッ!」
忍者刀と苦無の二刀流を構えながら問い掛けるセツナであったが、フブキからの返答は無かった。体のラインから女性である事は確実だが、それ以外の情報が無いフブキはセツナを始めエントランスの中に居る4人をぐるりと見渡すと最後に校庭に倒れた晶に視線を向ける。そしてどこかやれやれとでも言いたげに小さく肩を竦めると、再びセツナ達に視線を向け軽く手を振ると背を向け倒れた晶の方に歩み寄っていった。
何をするつもりか分からないが放置する訳にはいかないとセツナとバリアが駆け寄ろうとするが、ここで彼女達は漸く自分達の足が床に氷漬けになっている事に気付いた。
「ま、待って……って、えぇっ!?」
「しまった!?」
これは先程の吹雪で氷漬けになったのではない。あの後はまだ身構えるだけの自由があった。フブキはセツナ達が自分に警戒している間に、こっそりと氷を広げて彼女達の足元を凍らせたのである。見るとカルネプラエドも足元を氷漬けにされ脱出に四苦八苦していた。
フブキは氷から抜け出そうとするセツナ達の様子を楽しみ笑う様に肩を震わせつつ、倒れた晶を優しく抱き上げた。そしてもう一度セツナ達に顔を向けると、投げキッスをするような仕草の後忍筆を手に取り振るった。
【忍法、隠れ身の術ッ! 達筆ッ!】
術が発動すると煙幕が広がり、セツナ達の視界も閉ざされる。誰が何処に居るのかも分からなくなりそうな煙が晴れると、そこにフブキと晶の姿は勿論、晶がここに乗り込んできた際に乗っていたバイクも姿を消していた。完全に逃げられてしまった事にセツナとバリアは大きく肩を落とした。
「あ、ぁぁ……また逃げられた……」
「あの仮面ライダーは、一体……?」
「それは後で説明します。今はそれよりも……」
一先ずこの足が動かない状況を脱しなければならない。セツナは多少のダメージは覚悟で、火遁の術を足元に放って氷を溶かして自由を取り戻した。
一方カルネプラエドも自力で自由を取り戻した。自分の足元を攻撃して氷を破壊する事で拘束から抜け出すと、砕けた氷を踏みしめながらセツナ達と対峙した。
「チッ、どうするか……」
正直に言うと、今のカルネプラエドにこの場で戦い続けるメリットは小さい。今この場にあるパワージュエルは、セツナが確保している一つのみ。彼らが目的にしていたのは晶が持っている複数のパワージュエルも含まれていたので、その奪取に失敗した今もうこの場に残り続けてセツナ達に戦いを挑む必要は無いのである。
何より彼1人ではあの2人を同時に相手するのは骨が折れる。ジェットグリムが居るのであれば話は別だが、1人であの2人と戦えば最悪敗北して捕縛される危険がある。
情けない話ではあるが、ここは逃げるのが最善と撤退すべく身構えた。その為のタイミングを見計らい、
「逃がすと思ってるのかッ!」
「待ちなさいッ!」
2人が逃げようとしたのを見て、セツナとバリアはそれを妨害しようと一歩前に踏み出す。だがその瞬間、2人の背後から放たれた射撃が無防備な2人の背を穿ち火花が弾ける。
「あぁぁぁぁっ!?」
「ぐぁっ!? な、何だッ!?」
突然の攻撃に困惑しながら2人が背後を振り返ると、そこに居たのは体の半分以上が崩れた状態のジェットグリムであった。上半身を右腕、背中の翼以外が砕けたガラスの様な状態となっているジェットグリムは、まるで映像を逆再生する様に欠片が一か所に集まっていき元の姿を取り戻していく。その光景に思わず2人が目を見開いていると、その隙にカルネプラエドはグレネードランチャーにパワージュエルを装填し2人の間に向け発砲した。
「あばよっ!」
「あっ!?」
「しま、くぅっ!?」
放たれた砲弾は2人の間で弾けると、昼間の太陽を思わせる眩い光にセツナが視界を潰される。バリアも一瞬視界がホワイトアウトしたが、こちらはバイザーの機能で即座に補正が掛かり視界を取り戻すのも早かった。顔を上げ逃げようとしているカルネプラエドに発砲しようとするが、完全に再生を果たしたジェットグリムがそれを許さず、何時の間にか接近していた事に気付かなかったバリアはジェットグリムの槍の薙ぎ払いを受けセツナ共々壁に叩き付けられてしまった。
「ぐはぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」
2人は揃って壁に叩き付けられ、床に落下し衝撃に悶える。何とか立ち上がったバリアがジェットグリムの方を見れば、奴も逃げるつもりなのか翼を広げノズルから火を噴き飛翔し始めていた。悪足搔きと理解しながらバリアはジェットグリムの背に向け発砲するものの、ロクな狙いもつけずに放った銃弾はどれも的外れな方に向け飛んでいきエントランスの壁に無意味な穴を穿つだけに留まった。
結局カルネプラエドとジェットグリムには逃げられてしまい、完全に姿が見えなくなった頃に漸くセツナは視界を取り戻した。
「う、うぅ……やっと見えるようになった……あっ!? 神宮寺さん、奴らは?」
「逃げられました。しかしまさか、ジェットグリムにあんな再生能力があったとは」
人外の姿や能力を持つ怪人であればまだ納得は出来た。見た目は悪いが、怪人であればそう言う事をしてもおかしくないという気持ちになれる。だがジェットグリムは技術的には仮面ライダーに近い存在だ。そんな奴が、砕け散った状態から逆再生の様に元の姿に戻るなど誰が想像できる。確かにジェムに倒されたと思った際、変身が解除される事無く砕け散った事に違和感を覚えないでもなかったが、その時はそんな事を考えていられなかった。
とは言え、今更そんな事を言っても始まらない。肝心の3人に逃げられてしまったのだ。今重要なのはそこである。
ジェムもジェットグリム達も居なくなったエントランスで、2人は変身を解除しながら装飾が破壊された彫刻を見た。
「装飾、壊れちゃいましたね」
「ですが、壊れて逆に良かったのかもしれません。あれがパワージュエルである事は確実みたいですし。……あっ! そう言えば南城さん、あなたは大丈夫なんですか?」
そう言えば、唯は先程からずっとパワージュエルを肌身離さず持っていた。仕方がない状況だったとは言え、人間に悪影響を及ぼすエネルギーを放つパワージュエルを持ち続けるのはリスクが大きい。誠が彼女の事を心配すると、肝心の彼女はあっけらかんとした様子で答えた。
「あ、えぇ。そうですね……特に違和感はない、かな?」
そう言いながら唯は自分が確保したパワージュエルを取り出しマジマジと眺めた。正直、宝石などとはほぼ無縁な日々を送っている彼女に、宝石の良し悪しは分からない。それでも今自分の手の中にある宝石は、確かに美しい物であると感じられた。こんなに美しい物であるのなら、なるほど魅了されておかしくなるのも仕方が無いのかもしれないとすら思える。
そんな事をぼんやりと考えていると、唯は自分の思考能力が下がりつつあることに気付き慌てて頭を振り気を取り直した。
「ッ!? く……」
「南城さん?」
明らかに様子がおかしい唯に誠が怪訝そうな顔になる。唯は誤魔化す様に笑みを浮かべると、確保したパワージュエルを大切な物を扱う様に懐に仕舞った。
「だ、大丈夫ッ! 大丈夫です、気にしないで。何ともないですから」
「……あまりそうは見えませんが?」
「本当に大丈夫ですよ。さ、今後の事を話し合う為にも、一旦戻りましょう」
急かす様に唯はそう告げると1人踵を返してさっさとその場を離れて行ってしまう。誠はそんな彼女の後ろ姿に、何処か危ういものを感じずにはいられないのであった。
***
撤退したジェットグリムとカルネプラエドは、アジトであるセーフハウスに戻ると早速これからどうするか話し合った。
「どうするんです、ボス? ジェムは取り逃がすし、警察の方にもパワージュエルが……」
「まぁ落ち着け」
現状に危機感を抱くカルネプラエドに対し、ジェットグリムの態度は随分と落ち着いたものであった。
「これはある意味で好機かもしれない」
「と言うと?」
「今回は追い払われたジェムだが、当然このまま放置する訳がない。そう遠くない内に必ず奪い取ろうと動く筈だ。その時に……」
ジェムとセツナの戦力は半々か、良くてジェムの方が少し上回ると言ったところだろうか? セツナはバリアと行動を共にしているが、今回の事でジェムの方にも味方となる戦力が居る事は分かった。新しく現れたジェムの味方……仮面ライダーフブキがどの程度の戦力となるのかはジェットグリム達には分からないが、今回の鮮やかな手並みを見るにバリア相手にもそれなりに食い下がってくれるだろう事は予想出来た。
ジェットグリムの予想では、ジェムとセツナが今後ぶつかり合いパワージュエルの奪い合いとなる。そうなれば恐らく僅差でジェムが勝利を収め、パワージュエルも彼女が手にする筈だ。だが彼女も決して無傷である筈がなく、大きく消耗するのは間違いない。そのままだとバリアがセツナに変わってジェムを倒してしまうだろうが、フブキがそれを許さず足止めをしてくれる。
「我々が動くのはその時だ。消耗したジェムを倒し、奴が持つパワージュエルを全て奪う」
「なるほど……流石ボスッ!」
ジェットグリムが描いたシナリオにカルネプラエドが称賛の声を上げる。これならば自分達は労せず上質なパワージュエル……本当に力を持つ『トゥルーシャイン』を手に入れる事が出来る。
「トゥルーシャインが手に入れば我々は更に力を付ける事が出来る。金も何もかも思いのままだ。分かっているな?」
「分かってますよ。やってやりましょうやッ!」
念押しするジェットグリムの言葉に、カルネプラエドは鼻息を荒くする。配下のその姿にジェットグリムは満足そうに頷くと、変身を解除し窓辺に近寄り空を見上げるのであった。
一方、セツナに敗北し変身が解け気絶した晶は、危うい所でフブキに助けられ連れていかれていった。その連れていかれた先にあったのは、彼女にとって馴染み深い鄭堂診療所であった。
診療所の近くに降り立ったフブキは、一度周囲を見渡して自分達の事を目撃する危険のある者が居ない事を確認してから扉を開け中に入った。抱き上げた晶はまだ目を覚まさない。フブキはそんな彼女を優しく診療所のベッドの上に寝かせると、そこで漸く意識を取り戻した晶が小さく身じろぎしてから目を開いた。
「ん、う…………あ、あれ? 私……」
「気が付いた~?」
「えっ!?」
目覚めた晶にフブキが声を掛けると、その姿に晶は驚きの声を上げた。
「せ、セツナッ!?」
「よく見て~、違うわよ~」
「え、あ? あ、あぁ、別人か…………って言うかその声ってッ!」
最初フブキをセツナと見間違えた晶であったが、落ち着いてよく見れば姿が全然違う事に気付く。晶にとって忍びは現状セツナしか居ないので、他のくノ一も咄嗟にセツナに見えてしまうのだ。
自分が見間違えていた事に気付いた晶が一息ついて落ち着くと、フブキの声が聞き覚えのあるものである事に気付いた。彼女が自分の正体に気付いた事を察したフブキは、悪戯が成功した子供の様にクスクスと笑いながら変身を解く。その仮面の下から現れたのは、この診療所の主であるジェーンであった。
「じゃじゃ~ん! どう~? 似合ってたかしら~?」
おどけて晶に問い掛けるジェーンであったが、晶が受けた衝撃は大きかった。ジェーンが只者ではない事は晶も知っていた。だが彼女がフブキに変身したのは今回が初めてなのだ。驚きのあまり目を見開き言葉が出てこない晶は、彼女の事を指差しながら口をパクパクと開閉させるしか出来ない。
「あ、え、あ…………アンタも忍者だったの?」
実はセツナの関係者だったりするのだろうかとちょっぴり警戒する晶に対し、ジェーンは小さく肩を竦めると晶の傷の手当を始めながら答えた。
「そうじゃないわ~。これは~、ちょ~っと見様見真似で唯ちゃん達を真似てみただけなのよ~」
ジェーンは何てこと無いように告げるが、もしこれを本人達が聞いたらそんな訳あるかと声を荒げたであろう。執筆忍法はそんな一朝一夕で見に着く技術ではないのだ。唯だってこうして単独で任務を許されるまで促成栽培とは言えかなり厳しい鍛錬を繰り返したのだ。千里の為と言う目標が無ければ、きっと心折れて文字通り筆を折っていた事だろう。
そんな執筆忍法をこともなげに身に着ける辺り、ジェーンの底知れなさが伺い知れると言うものである。
「まあ、それはいいわ。それより、あの女どうなったの?」
「唯ちゃんの事~?」
「他に誰が居るってのよ。マズいわよ、あの女パワージュエルを直に持っちゃってる。本人は何ともないなんて言ってるけど、そんな訳ないわ」
パワージュエルのエネルギーに耐えられる人間はそうそう居ない。晶だって、昔ヤジュエルの攻撃を受けて強制的に耐性を身に着けていたから普段持ち歩いても平然としていられるのだ。唯だってきっと例外ではない。先程の戦いで晶が敗北を喫したのだって、きっと本人も気付かぬ内にパワージュエルの影響を受けてバフが掛かっていたからに違いないと晶は思っていた。
それはある意味で一般人がパワージュエルに魅入られるよりも危険な状況であった。一般人がパワージュエルに魅入られれば性格の豹変で周囲も異変に気付く事が出来る。だが唯の場合、精神が変に頑丈な分異変が表面に出辛いから周囲も気付くのが送れる。そうなれば最悪…………
「もしかすると第3段階にまで進行するかも……」
「そうなるとマズいわね~」
「他人事なのね? 一応知り合いだったんでしょ? もうちょっと心配しないの?」
何やら薄情さを感じさせるジェーンの態度に晶はムッとした表情で彼女を睨む。晶の視線を受け、ジェーンは一瞬キョトンとした顔になった後、口元を押さえてコロコロと笑った。
「そう言う晶ちゃんこそ~、唯ちゃんは晶ちゃんにとって他人な上に邪魔者だったんじゃないの~?」
「えっ!? あ、や……これは、その……」
指摘されて自分が思っていた以上に唯の事を心配していたのだという事に気付かされ、晶は慌てて否定しようとするも良い言葉が出てこなかった。視線を彷徨わせて口を無意味に開閉させる姿にジェーンがますます笑みを深めるのを見て、晶は逆に開き直り口を噤んでそっぽを向いた。
「もう、そんな事どうだっていいでしょッ! それよりパワージュエルよ。このまま一気に第3段階まで進んだら厄介な事になるわよ」
「そうね~。私も唯ちゃんがそんな事になるのは心苦しいし~、今回は晶ちゃんに協力してあげる~」
「信用していいの?」
「任せて~」
正直、胡散臭いので背中を任せるには不安が残る。だがあの状況で自分を助け出せた、ジェーンの力を今回ばかりは信用しなければならない。自分1人では最悪の事態に陥った際対処が間に合わない危険もあるのだ。
晶はそのままジェーンからの手当てを受け、その後は彼女に休むよう言われてベッドの上に寝かされる。どの道今からでは唯の方もかなり警戒しているだろうから、仕掛けるなら少し間を置いてからの方がいい。
相変わらず変に寝心地の良いベッドに横になった晶は、まるで引き摺り込まれるように眠りへと落ちていくのであった。
***
ジェムを結果として撃退と言う事になった唯達ではあったが、こちらはこちらで問題を抱えていた。何と言っても警護対象であった彫像が無事ではなかったのだ。製作者は当然その事で警察や警備を担当した2人に対して抗議してきた。
しかし…………
「あなたはこれが危険なものだと分かって自分の作品に使いましたね?」
「えっ!? い、いや……それは……」
唯は逆に抗議してきた製作者を逆に問い詰めた。パワージュエルには人を魅了し惹き付ける力がある。その力を使えば、例えパッとしない作品であっても誰をも虜にする事が出来ただろう。例えその過程で見た者がどんな事になろうとも。
「詳しい話は後程聞かせていただきます。高橋警部?」
「こちらへ」
「あ、待、待ってッ!? ちょっとッ!?」
有無を言わせず製作者はその場から連れ出され、その場に残ったのは唯と誠の2人だけとなった。製作者が居なくなると、唯は懐から回収したパワージュエルを取り出し光に翳しながら手の中で弄んだ。
「これを撒き餌みたいに使って注目を集めるなんて……」
「そう言う南城さんは大丈夫なんですか? あれからずっと持ってるようですが?」
「私は平気です。それよりも気になるのはフブキの方です」
唯はパワージュエルを懐に仕舞いながら話題を変えた。誠はその話題の転換に違和感を覚えたが、特別性格が豹変している様にも見えなかったのでこの場は彼女に合わせてフブキの事を思い出していた。この期に及んでジェムに与する者が居るなど想定外だったのだ。
「南城さんと同じような姿をしていましたが、お知合いですか?」
「口で説明するのは少し難しい間柄なんですけど……」
唯は掻い摘んで、自身が学生だった頃の今の夫の戦いの一部を話した。
夫・千里には長谷部 椿と言う頼れる仲間がいた事。
その椿がある時、卍妖衆に洗脳され敵に回ってしまった事。
洗脳された椿は仮面ライダーフブキとなって千里達の前に何度も立ちはだかった事。
それらを誠は静かに、かつ難しい顔をしながら黙って聞いていた。そして一通り話が終わると、彼はまず真っ先にこの事を訊ねた。
「その椿と言う人物が、再びフブキになり敵に回った可能性は?」
彼の質問に、唯はやっぱりこう来たかと内心で肩を落とし溜め息を吐く。当時の内情などを知らなければ真っ先にこの可能性を考えてしまうのは仕方のない事、それは唯も分かっている。分かっているのだが、仲間である彼女をこうも即座に疑われてしまうのはあまり面白いものではない。
そんな気持ちがつい表に出てしまった。気持ちを落ち着けようと目を瞑り小さく溜め息を吐くと、まず真っ先に誠が口にした可能性を否定した。
「それは無いです。長谷部さんは元々万閃衆として誇りのある人でした。ただ卍妖衆は、その彼女の誇りを逆に利用したんです」
「と言うと?」
「記憶に手を加えて、長谷部さんが本当は万閃衆に相応しくない、みたいな感じに捻じ曲げて。だから長谷部さん自身に裏切る様な要素は無かったんです」
勿論だからと言って全てが許される訳ではなく、椿本人も己が罰せられる事を望み、卍妖衆との戦いが終わって暫くはS.B.C.T.の一員となり只管に自身を鍛えながら罪を償う為に戦い続けた。
何が言いたいかと言うと、椿にとってフブキであった期間は忌むべきものである筈なのだ。自分の誇りを自分で穢したようなものなのだ。そんなフブキに彼女が進んでなりたがる訳が無い。
「それに、万閃衆はハッキリ言って規模が大きいとは言えません。組織の規模としてはS.B.C.T.にも劣るくらいです。でもそのお陰で横の繫がりが強いから、誰か裏切り者が出ればすぐに分かる筈なんです」
だから唯個人としては、あのフブキは見ず知らずの誰かがその姿を借りたものであるという結論に至っていた。それが自分も知らない卍妖衆の残党だったりするのかは分からないが、少なくとも万閃衆とは無関係な者が変身したと考えていた。
以上の唯の話を聞き終え、誠は顎に手を当て指先で顎の側面をトントンと叩きながら考え込んだ。
「ん~……何にしても、厄介な相手が増えた事は間違いないですね。南城さん、あなたはあのフブキと言うライダーに勝てる自信がありますか?」
誠の問い掛けに、唯の心臓がドキリと跳ねた。もし仮に、あのフブキが椿が変身していた頃と同等の実力があったとして、今の自分が戦ってどの程度勝負になるか?
ハッキリ言ってしまえば、それは唯にも分からなかった。椿と唯とでは忍びとしての戦いの年季が違い過ぎる。唯が万閃衆の存在を知らなかった幼少期から椿は忍びとして訓練を積んできたのだ。そんな彼女と最近やっと認められてきた唯とでは、勝負になるとはとても思えない。もし戦えば終始圧倒され弄ばれた末に敗北する未来しか見えなかった。
尤もそれはあのフブキの正体が椿であった場合の話である。椿が変身したフブキでないのなら、自分にも勝ちの目はあると唯は漠然と信じていた。否、勝たねばならないのだ。今の唯は嘗てのただ守られるだけだった少女ではない。夫である千里を支える為戦う道を選んだ、新たな万閃衆の忍び・仮面ライダーセツナなのだ。何処の馬の骨とも分からぬ忍びに負けるような事があってはならない。
だがそれ以上に唯には不思議な自信があった。何故だかは分からないが、負ける気がしなかったのだ。まるで何処からか力と自信が湧き上がってくるような感覚に、気付けば唯は誠に対して力強く頷いて答えていた。
「大丈夫です、任せてください。例え相手が誰だろうと、負ける事はありません」
自信たっぷりに答える唯に、誠は暫し彼女を見つめた後何度か小さく頷き納得した様子を見せた。
「……分かりました。またフブキが出た時には、南城さんを頼らせてもらいます」
「はい!」
ここでこの件に関する議論は終わった。誠は今後の事を考える序でに、一息つく為コーヒーを取ろうと立ち上がりその場を離れる。1人残された唯は離れていく彼の背を見送ると、徐に懐からパワージュエルを取り出しじっくりと眺めた。
もしこの場に誠が入れば、彼は見る事になっただろう。
口元にうっすらと笑みを浮かべ、熱の籠った目で宝石を見つめる唯の姿を…………
と言う訳で第16話でした。
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