仮面ライダージェム   作:黒井福

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第18石:それでも唯は抗えない

 カルネプラエドの襲撃に対し姿を現した仮面ライダージェム。それに対し様々な感情を向ける者達の中で、取り分け驚愕が大きかったのは晶であった。

 

(だ、誰ッ!? って言うか、本当にジェム?)

 

 ジェムドライバー自体は、決して晶以外が扱う事が出来ない等と言う事はない。別に持ち主の登録とかそう言う機能は無いので、変身しようと思えば誰でもジェムに変身する事は出来た。そして今、晶の手元にジェムドライバーは無い。今回はちょっとした買い物の為だけに外出しただけだった為、ドライバーを家に置いて来てしまったのだ。なので可能性があるとすれば真也が変身する事も出来たかもしれないが、見た感じ体型は完全に女性なので彼が変身している可能性は低い。

 

 だがそれ以上にジェムがあそこに居る筈がない理由があった。あのジェムはクオーツカットだ。だがクオーツカットに変身する為のパワークオーツだけは、晶が常に肌身離さず持ち歩いているのである。つまりジェムドライバーは使えても、クオーツカットになる事は出来ない。

 

 そんな事情を知らない唯とカルネプラエドであったが、こちらの2人も街灯から降りてきたジェムに違和感を感じていた。

 

(何だろう? あのジェム、何だか何時もと違うような?)

 

 一体何が違うのか? 唯がその違和感の正体を突き止めようと凝視していると、彼女はその違和感の正体に気付いた。

 

「あ、そうだ、銃ッ!」

「え?」

「あのジェム、持ってる銃が何時もと違うっ!」

 

 ジェムのメインの武器は専用の大型拳銃であるファントムシューターだ。リボルバーの様な形状の拳銃の筈のそれを愛用するのが普段のジェムの筈なのだが、あのジェムが持っているのは旧傘木社の幹部などが使用していたベクターカートリッジ専用の装備であるベクターリーダー。ベクターカートリッジを使わないジェムには本来無縁の代物である筈の物だった。

 

 唯の指摘に彼女達の前に佇むジェム?は溜め息と共に肩を竦めると、その場でクルリと体を回転させた。するとその動きに合わせて彼女の姿が崩れるように変化していき、次の瞬間そこに居たのは仮面ライダーフブキであった。

 

〈忍法、変わり身の術ッ! 達筆ッ!〉

「フブキッ!?」

「アイツかよ」

「……ほっ」

 

 フブキがジェムの姿を偽っていた事に唯が驚き、カルネプラエドが忌々し気に吐き捨てる中、晶は何気に安堵に胸を撫で下ろしていた。絶対にあり得ないだろうと思ってはいたが、真也が自分の代わりにジェムに変身したりしていたらどうしようと思っていたのだ。自分の父が女装のような事をして変身する様は、ちょっと想像したいものではない。

 

 そして晶はフブキの正体がジェーンである事を知っている為、彼女が味方である事を理解し安堵したのだ。勿論それを唯達に悟られては怪しまれてしまうので、安堵した後になって彼女達に気付かれていない事をしっかり確認したが。

 

 そのフブキだが、唯やカルネプラエドに気付かれないように視線を晶に向けると小さく頷きながら視線を唯の方へと向けた。晶はその仕草でジェーンが言いたい事を何となくだが察し、小さく頷き返すと唯の手を掴んでその場から引き離す様に駆け出した。

 

「行くわよッ!」

「えっ!? あ、ちょっ!?」

「このままここに居たらアイツらの戦いに巻き込まれるわ。そんなの御免でしょ?」

 

 一応は唯の身も案じての晶の行動だが、半分は演技である。晶は唯が仮面ライダーセツナであり戦える事を知っている。が、それは飽く迄裏の顔である。唯には表の顔しか見せておらず、そして唯も晶の事を一般人としか思っていない。なのでこれは一見すると危険から逃れようとする晶が同じ一般人である唯を逃がそうとしている構図でしかなかった。

 唯も晶に対しては正体を明かしていなかった為、これを不用意に振り払う事は出来ず手を引かれるままにその場を離れるしか出来なかった。

 

 離れていく晶と唯を見送るフブキ。一方カルネプラエドは余計な事をする晶に苛立ちつつ、目の前に佇むフブキを無視する事も出来なかった為、その場で対峙しつつ油断なくバニッシャーを構えた。

 

「テメェ、ジェムの仲間か」

「ん~、ま~、そんな所かしらね~」

「そうかい。なら……遠慮はいらねえなッ!」

 

 元より遠慮するつもりも無かったが、敵であると確認できれば関係ない。カルネプラエドはバニッシャーの引き金を引き、ランチャーから砲弾を発射する。放たれた砲弾だったが、フブキはそれをベクターリーダーで撃ち落し両者の間で爆炎が広がり互いに相手の姿を一瞬見失う。

 

「くっ!」

「はっ!」

「うぉっ!?」

 

 比較的近い距離で起こった爆発に思わず顔を背けるカルネプラエドであったが、対するフブキは構わず爆炎を突き抜け肉薄し勢いを乗せた蹴りを放つ。紙一重で蹴りを回避したカルネプラエドは反撃で砲撃しようとするのだが、迂闊に当たり構わず攻撃されると被害が広がるという事でフブキはバニッシャーの銃身を蹴り上げ可能な限り被害が少ない頭上に向け砲撃させ無駄撃ちを繰り返させた。

 

 背後から聞こえてくる戦闘の音。それに背中を押されるような気分になりながら、晶は唯と共に戦場を離れていく。

 そして幾分か離れた所でもう大丈夫と晶と別れた唯が、彼女に気付かれない様元来た道を戻ると、そこでは既に戦いは終わりフブキもカルネプラエドも姿を消していたのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 唯と別れた晶はそのまま自宅へと帰っていった。実はあの後、唯が元来た道を戻って言った事には彼女も気付いていた。とは言えそれに気付いたからと言ってまた自分が連れ出そうとしても、彼女は晶の言う事なんて聞かないだろう。それにドライバーが手元にない今、戻ったところで出来る事もない。

 

 仕方なく帰宅した晶はそこでやっと思い出したように空腹がぶり返した。そう言えば元々食料を求めて外に出たのだった。ちょっとコンビニに行って食料を買って来るだけのつもりが、随分と面倒な事に巻き込まれたと溜め息を吐きながらリビングで勝ってきた食料を広げる。

 椅子に座りながら周囲の気配を探るも、まだ真也は帰ってきていないのか自分以外の人間の気配は感じられない。晶は父の行方に想いを馳せながら、唯との会話の最中に飲み干してしまったコーヒーの代わりとなるコーヒーを淹れカツサンドに齧りつく。

 

 暫くリビングには晶がカツサンドを齧りながらコーヒーを啜る音だけが静かに響いていた。静かに食事を続けていると、段々と色々な事を考えてしまうもの。晶はカツサンドを咀嚼しながら、先程自分の代わりにカルネプラエドと戦ってくれたジェーンが変身したフブキの事を考えていた。

 

 ジェーンの実力に関して、晶はそこまで詳しくない。決して弱い訳ではないと思っているし、カルネプラエド相手に後れを取るとは思ってもいない。それでも何となく気にはなった。

 

「……大丈夫かな?」

「あら~、心配してくれてるの~?」

「んぐっ!?」

 

 何気なく呟いた言葉に、返答など勿論期待している訳がない。そんな言葉に対してまさか本人から返答があるなど思っていなかった為、晶は驚きのあまり口の中のカツサンドを喉に詰まらせてしまった。

 

「んぐっ!? ん゛~ん゛~!?」

「これ飲んで~」

「んっ、んっ……ぷはっ! は~、死ぬかと思った」

 

 必死に胸元を叩き喉に詰まったカツサンドを飲み込もうと奮闘していると、ジェーンが晶が飲み掛けのコーヒーを差し出してきた。それの存在に気付いた晶が急ぎコーヒーで喉に詰まったカツサンドを流し込むと、落ち着きを取り戻した晶は改めてこの場に現れたジェーンに文句を叩きつけた。

 

「い、いきなり家に出てこないでよッ! びっくりするじゃないッ!」

「ごめんね~」

「全く……って言うか、アイツは?」

 

 いきなり現れた事に文句を口にはしたが、何だかんだでジェーンが無事だった事には晶も安堵していた。見た感じ怪我などをしている様子も無いし、やはり自分の心配は杞憂に過ぎなかったかと取り越し苦労に肩を落とす。

 

「心配してくれてありがとうね~。アイツなら~、適当にあしらってお帰り頂いたわ~」

 

 概ね予想通りの答えに晶が体を揺らすように頷きながらコーヒーに口を付ける。すると今度はジェーンの方から木になっていた事を訊ねてきた。

 

「それより~、晶ちゃんの方はどうだったかしら~?」

「ん? どうだったって?」

「唯ちゃんの事よ~。どんな様子だった~?」

 

 言われて晶は、あぁ、と小さく声を上げると表情を険しくさせた。先程の会話で見られた唯の反応。パワージュエルを専門に扱う晶の目から見て、あの時の唯の様子は正直穏やかなものではなかった。

 

「多分……って言うかほぼ確実に魅入られてるわね。それも結構深い所で」

「唯ちゃんはストイックになろうとしてるからね~。自分を抑えようとする心が~、逆に深い所まで影響を与えちゃってるのかも~」

「うん……となるとマズいわ。下手すると第三段階に行っちゃうかも」

「どうするの~?」

 

 今後の動きを訊ねるジェーンであったが、答えなんて分かり切っていた。これ以上の悪影響を放置する訳にはいかず、また唯をそんな目に遭わせる訳にはいかない。ジェーンからの問い掛けに対し、晶は残ったカツサンドを口の中に押し込みコーヒーで流し込むと、口周りを軽く拭いながら立ち上がった。

 

「勿論、頂戴するわ。怪盗らしくね?」

「そういう事なら~、私も協力してあげる~」

「いいの? 今更だけど、アンタあんまり目立ちたくないんじゃなかった?」

「そうも言っていられないわよ~。唯ちゃんは心配だし~、晶ちゃんも1人じゃ大変でしょ~?」

 

 確かに、今の唯の相手を晶1人でこなすとなるとかなりのリソースを割かなければならない。ここにバリアやらカルネプラエドやらジェットグリムやらに加わられては、下手をしなくても晶の方が追い詰められてしまう。

 そんな中でのジェーンの参戦は素直にありがたかった為、ここは晶も大人しく彼女に感謝した。

 

「ありがと、助かるわ」

「いいのよ~。私と晶ちゃんの仲じゃな~い」

 

 そう言ってジェーンは晶を抱きしめ豊満な胸の中に彼女の頭を埋めて撫で回す。このベタベタした感じが無ければもっと良かったのにと、晶はジェーンの胸の感触を顔全体で感じながら思うのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、ジェーンの変身したフブキにより退けられたカルネプラエドこと五右衛門は、アジトに戻ると行動を阻まれた事に不満を露わにした。

 

「クソッ!?」

 

 苛立ちを抑えきれず近くの家具を蹴り倒すが怒りは収まらない。ジェーンが邪魔さえしてこなければ本物のジェムが出て来てくれるかもしれなかったのにと言う思いももちろんあるが、それ以上に苛立つのはかなり危ういところまで追い詰められてしまった事であった。

 

「何なんだアイツ、訳の分かんねえ動きしやがって……」

 

 五右衛門から見てもジェーンが変身したフブキの動きは異様であった。のらりくらりとこちらの攻撃は避けるくせして、自分の攻撃は的確に当ててくるのだ。その精度と言ったらまるで精密機器の様ですらある。ジェットグリムが援護に来てくれたから何とか退避出来たものの、それが無ければどうなっていたかも分からない。

 ボスであるジェットグリムの手を煩わせてしまった事も合わせて、不甲斐無い結果に終わってしまった事を彼は酷く悔い、そして苛立っていたのである。

 

『キャハハハハッ! なっさけな~い!』

「うるせえぞソフィアッ!」

 

 更に彼を苛立たせるのはこの同僚だ。未だにこちらに来ていないくせして、こちらのミスは盛大に笑ってくるのだから堪ったものではない。

 五右衛門を侮辱し楽しそうに笑うソフィアを見兼ねてか、壁に寄りかかっていたジェットグリムが五右衛門共々彼女を宥めた。

 

「そこまでにしてやれ。五右衛門も、そんなに気にするな。今回は相手が悪かった」

「しかしボス……」

「それに、収穫はあった。遠目に見ていたがあの女、覚醒が近い。あと一押しと言ったところだろう」

 

 ジェットグリムのその言葉に、対面に居る五右衛門だけでなくモニターの向こうのソフィアまでもが目を輝かせた。

 

「マジですか? そいつは……楽しみだ」

『私らの仲間になってくれますかね?』

「それは交渉次第と言ったところか。とは言えまぁ……あれ程の逸材から生まれるんだ。期待は出来るだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

「南城さん? どうしました?」

 

 不意に感じた悪寒に、唯が突然身震いする。突然身を震わせた唯の姿に隣の席に居た九朗が心配して声を掛けると、唯は自分の体を抱くように自分の手で自分の左右の上腕を擦りながら何でもないと答える。

 

「い、いえ、大丈夫です。ちょっと、悪寒の様なものが……」

「風邪ですかな?」

「多分違うと思います。でも大丈夫ですよ、本当に」

 

 そう言って誤魔化す唯の姿を、誠は鋭い視線で観察していた。見た感じこれまでの報告にあったような、パワージュエルの影響によるものと思われる性格の豹変は確認できない。一見すると本当に何でもない様に見えるが、そんな彼女の懐の中には未だに回収したパワージュエルがある。

 試しに誠は彼女に持っているパワージュエルを手放す様に進言してみた。するとその瞬間、彼女の纏う雰囲気が大きく変化した。

 

「もしかすると、ジェムやジェットグリム達が南城さんの持つパワージュエルを狙っているのを本能で察したのかもしれません。南城さん、安全の為パワージュエルは別の場所に保管した方が良いのでは?」

「結構です私が1人で何とかしてみせます何の問題もありません大丈夫です大丈夫です」

 

 誠の言葉に唯は早口で一息に捲し立てた。その際の彼女の表情は普段見せないような表情がストンと抜け落ちたものになっており、それが自身の感情を抑えた結果の表情である事に誠だけでなく九朗や剛も気付いていた。

 

 やはり唯は何らかの影響を受けている。だからこうしてパワージュエルを手放す事を拒むのだ。

 

 このままだとマズイ。唯がヤジュエルになったらどれ程危険な存在となってしまうか、想像もしたくなかった。かと言って強引にパワージュエルを回収しようとしても、きっと彼女は激しく抵抗するだろうしそれが彼女の異変を助長する事に繋がるかもしれない。

 

 一瞬、彼の脳裏にジェムを利用する策が浮かんだ。どういう訳か分からないがジェムはパワージュエルの影響を受けないか受け辛いらしい。そして彼女はパワージュエルを狙っている以上、唯が持つパワージュエルも標的にしている筈だ。ならばここは面倒事をジェムに押し付け、漁夫の利を狙う形で唯を相手にして消耗したジェムを捕らえれば…………

 

(いや……駄目だ駄目だ。そんなみっともない事出来るか)

 

 だが彼は頭に浮かんだ策を即座に捨てた。やり方が幾ら何でも卑劣過ぎる。自分はそんな人間になる為に今の仕事を選んだ訳ではないのだから。

 尤も、きっとωチームの隊長を始め他のメンバーであれば躊躇なくその策を採用しただろうが。

 

 理想と現実の差に辟易しながら誠がどうしたものかと悩みながらコーヒーを口に運ぶ。

 

 その時である。この場に居なかった五右衛門が飛び込む様に対策室に入ってきたのは。

 

「緊急です。先程ジェムから予告状が届きました」

「えっ!?」

「目的は? もしや……」

 

 この状況でジェムが狙う獲物が何なのか、それが分からぬほど彼らも愚かではない。つい最近狙った獲物を横取りされたばかりなのだ。ならば、それを逆に奪い取ろうと考えるのは当然の事。

 何かを察した様子の誠の声に、五右衛門は神妙な顔で頷き口を開いた。

 

「想像の通りです。予告ではジェムは南城さんが持っている宝石を頂戴する、と」

 

 五右衛門がそう口にした瞬間、部屋にバキリと何かが壊れる音が響いた。音の出所に目を向ければそこに居るのは唯。彼女の手元は握り潰されたプラスチックのコーヒーカップから零れたコーヒーで黒く汚れていた。

 

「ぁ…………」

 

 彼女自身今のは反射的な事だったのか、やってしまった後で自分の手元の惨状に思わず唖然とした様子だった。普段の彼女からはとても想像できないその様子に、誠は表情を険しくさせ、五右衛門は人知れず笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察関係者がジェムに狙われている。その情報は即座に電波に乗って日本中を駆け抜けた。当然晶もその情報を目にし、そしてその内容に苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「チッ、やられた……」

 

 今回、彼女は唯の持つパワージュエルを狙う等と言う予告を出した覚えはない。これに関しては可能な限り関係者だけで事を済ませ、必要以上に事を荒立てるつもりは無かったのだ。何しろ相手は唯が変身するセツナに、彼女の仲間のバリア、そして自分と唯の持つパワージュエルを狙うジェットグリム一派である。仕掛けるなら自分に都合のいい状況を作り上げ、二重三重に策を練った上で行動を起こしたかった。

 その為の準備をしようとしていた矢先に今回の報道である。晶はこれが自分を誘き出す為のジェットグリム達の策略であると気付いていた。

 

 気付いてはいたが、これで彼女に動かないという選択肢は無くなってしまった。例え偽りであろうとも、予告状が出されたのなら自分は行かなければならない。そうしなければこれまでに築き上げてきた怪盗ジェムと言うキャラクターのイメージが崩れてしまう。

 

「行くのかい、晶?」

「行くしかないでしょ? 癪だけどね」

「でも多分、敵は罠を張ってるよ?」

 

 そんな事は分かっている。だがここまで挑発されたのに、自分は何も知らないからと無視するのは彼女のプライドが許さなかった。その挑戦状、受けて立つ。

 それに今回はそんなに絶望的と言う状況でも無かった。今回はジェーンが積極的に協力してくれる。彼女の手が借りられるのならこれ以上に頼もしい事は無い。

 

「ま、何とかするわ」

 

 晶はそう言うと真也から離れ、自室に入ると早速ジェーンに連絡を取った。

 

「ジェーン、ニュース見た?」

『見たわ~。やってくれたわね~』

「馬鹿にしてくれちゃってさ。仕方ないからリクエストに応えてやるわ。悪いけど、手、貸してくれる?」

『いいわよ~。こっちで上手く合わせるから~、晶ちゃんは何時も通りやっちゃって~』

 

 頼もしいジェーンの言葉に、晶は不思議と自信が満ちてくるのを感じた。ジェーンと組んで戦うのはこれが初めての筈なのに、彼女が一緒だと思うと負ける気がしない。

 

「さて……と」

 

 ジェーンとの通話を切ると、晶はクローゼットから怪盗ジェムの衣装を取り出し手早く着替えた。そしてマスクで目元と傷を隠し、シルクハットを被るとその視線は一瞬で獲物を狙うものに変わり妖しく煌めいた。

 

「見てなさいよ……目に物、言わせてやるんだから」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その日の夜、光林市の警察署の周辺には多くの人だかりが出来ていた。あの怪盗ジェムが警察に挑戦状を叩き付けたというのだから当然だ。実際には今回の予告状は彼女によるものではないのだが、民衆はそんなこと知る由もない。

 

 眼下に広がる野次馬の群がる光景に、唯はブラインドの隙間から覗き見ながら溜め息を吐いた。

 

「全く……皆暢気なんだから」

「まぁ彼らからすれば、これも体のいいアトラクションの様なものでしょうから」

 

 実際ジェムの狙いは人命ではなく宝石のみなので、間違っても民衆が狙われる恐れはない。ジェム自身民間人に被害が出ないように気を使った戦いをしているのは目に見えて分かっていたので、彼らも安心して野次馬に来れるのだろう。実際には彼女が気を付けていても巻き込まれる可能性はあったので、下手に見物するのは危険が伴うのだが。

 

 剛の言いたい事も分かるので、唯は何とも言えない気持ちになりながら溜め息を吐く。だがその溜め息には色々な物が籠っている事を彼女自身自覚していた。

 

(何か……変だな。私、やっぱり……)

 

 その違和感の正体が自身の身に起きている異変であると唯も気付いていた。先程コーヒーカップを握り潰してしまった時、彼女はジェムが自分が持っているパワージュエルを狙っていると聞いた瞬間頭が沸騰したように怒りで満ちた事に自分で恐怖を感じていた。

 

 このまま自分はどうなるのだろうと考え、行きついた末路はこれまでに何度も見てきたヤジュエルに変異する人々であった。その末路を想像し、ゾッとして全身に鳥肌が立つ。だが同時に、それを受け入れようとしている自分が居る事にも気付いていた。それが本当に自分の本心なのか、それとも別の”何か”なのかが分からず、更に恐怖に膝が崩れそうになる。

 

 思わず夫の千里に助けを求めたくなるが、この程度の事自力で切り抜けられなくてどうするのかと無理矢理自分を奮い立たせる。今は兎に角、懐に大切に仕舞ってあるパワージュエルをジェムの手から守る事に集中しよう。

 

 そう思った矢先、突如窓の外が騒がしくなった。再び唯がブラインドの隙間から外を見ると、何時の間にか警察署の正面入り口の前に仮面ライダージェムの姿があった。周囲の野次馬は間近で見れるジェムの姿に興奮した様子でスマホのカメラを向け写真を撮り、対照的に警官隊は民衆が必要以上にジェムに接近したりしないように自らの身をバリケードにしつつ、ジェムがおかしな真似をしない様盾や警棒を構えて牽制している。

 

「来た、ジェムッ!」

 

 ジェムの出現に唯は即座に自分が迎撃に向かおうとした。だがそれは誠により止められてしまった。

 

「いえ、南城さんはここで待機してください」

「え、何でですか!?」

「当然です。奴の狙いは南城さんが持つパワージュエル。それをおいそれと差し出す様な真似は出来ません」

 

 それっぽい事を言っているが、これは本心と言う訳ではない。こう言った気持ちがない訳でもなかったが、彼の狙いは必要以上に唯を刺激しない事であった。

 もし今の唯が微妙な均衡の上に立っている状態で、ジェムとの接触でそれが崩れたりすればどうなるか分からない。誠は魅入られた唯への対処が確立するまで、彼女をジェムは勿論ジェットグリム達と戦わせるのも極力避けようと考えていた。

 

「とにかく、今奴は1人です。ならば私が対処しますので、南城さんはここで待機していてください」

「……分かりました。ただし、状況によっては独自の判断で動かさせてもらいますからね?」

「当然です。元より私達の間に上下関係は無いのですから」

 

 誠は唯に淡々と告げると、足早に部屋を出て正面入り口の前に居るジェムの所へと向かっていった。

 

 部屋を出ていった誠を見送った唯は、もう一度ブラインドの隙間から正面入り口のジェムを見た。

 

 するとその瞬間、眼下に居るジェムが顔を上げ唯と目が合ったような気がした。ジェムは変身して顔は仮面で隠れている為断言する事は出来ない。だがこの瞬間、唯は確かな視線の様なものを感じたのだ。

 

「ッ!?」

「南城さん?」

「どうかしましたか?」

「い、いえ……何でも……」

 

 思わず弾かれるように窓から離れた唯の事を、九朗と剛が不思議そうに見つめて声を掛けてくる。咄嗟に何でもないと言って誤魔化す唯だったが、心臓はまだバクバクと変に脈打っていた。

 

 鼓動を鎮め心を落ち着けるべくその場で深呼吸をする唯だったが、そのタイミングを狙ったように部屋に婦人警官が1人は行ってくる。

 

「失礼します。南城さん、お電話です」

「え、私に? 誰からですか?」

 

 この状況で自分を名指しで電話を掛けてくる相手に心当たりがない唯が思わず首を傾げる。すると相手の婦人警官は、思わぬ人物の名を口にした。

 

「南城 千里と名乗っていましたが……」

「千里君がッ!」

 

 少しナーバスになっていたこの状況で、愛する千里の声が聞けるとなると大人しくはしていられない。唯は剛達に適当に後を任せて婦人警官の後について行った。

 

 もしこの時、唯がもう少し冷静だったら違和感に気付けただろう。だが今の彼女はパワージュエルの影響もあってか普通の状態ではなかった。

 

 彼女が異変に気付いたのはある部屋に通されてからであった。そこは今は使われていない多目的室。余計なものは全て片され、折り畳みのイスやテーブルの一部が壁際に纏められている。

 電話どころか椅子や机すらないこの部屋に通され、唯は漸く違和感に気付いた。

 

「あの、ここは……」

 

 困惑しながら婦人警官に問い掛けた唯。するとここまで彼女を連れてきた婦人警官は、振り返りながら被っていた帽子を顔を撫でる様に脱ぎ捨てた。

 

 すると帽子が撫でるのに合わせて婦人警官の姿が変わっていった。顔を撫でるとその下からは見覚えのあるマスクに覆われた不敵な笑みを口元に浮かべた女性の顔が現れ、制服を一気に脱ぎ捨てるとその下からは体のラインが浮き出るレオタード姿となる。

 

 それは見紛う事無き怪盗ジェムの姿であり、自分をここまで連れてきたのが彼女だった事に唯は自分が罠に嵌められた事を察した。

 

「ジェムッ!?」

「はぁい♪ 待たせたわね。時間通り、来てあげたわよ」

 

 脱ぎ捨てた帽子と制服の代わりにシルクハットとジャケットを羽織るジェム。唯は忍筆を構えつつ、先程下に現れたのがフブキの擬態である事に漸く気付いた。

 

「今下に居るジェムはフブキね?」

「ご名答! 仲間が居るのはあなただけじゃないのよ?」

「そうみたいね。でも私1人なら何とかなると思ってるなら随分と舐められたものね」

 

 好戦的な態度を見せる唯はやはり何時もの彼女らしくない。目に見えて影響が強くなってきている事に、晶はマスク越しにも分かるほど愁いを帯びた顔になり、次の瞬間唯が思っても見なかった言葉を口にしてきた。

 

「ねぇ、あなた大丈夫?」

「え?」

「自分でも感じてるんでしょ? 自分の身に起きてる異変に。それが今持ってるパワージュエルが原因だって事も」

「!? それ、は……」

 

 図星を指され、唯の心に動揺が拡がる。まだ自分の異変を自覚し、その事に戸惑いを覚える事が出来ている彼女の様子に晶は小さく安堵の息を吐くと、極力穏便に物事を勧めようと交渉を持ちかけた。

 

「悪い事は言わないわ。それを渡して。私は問題ないから。このまま持ち続けてると、あなたとんでもない事になるわよ?」

 

 そう話しながら晶はゆっくりと唯に近付いていく。優しく手を差し出しパワージュエルを手放す事を勧められた唯は、今の自分に恐怖を抱いてる部分がそうさせているのか懐に手を突っ込みそこからパワージュエルを取り出し差し出そうとした。震える手の中にあるパワージュエルを、唯が晶に手渡そうとした、

 

 その時、パワージュエルを持つのとは反対の手が唯自身の手を掴んで晶から引き離した。

 

「~~~~ッ!? だ、ダメッ!? これは、これは渡せない……!」

「…………そう。それじゃあ、残念だけど……」

 

 話し合いで解決できるならそれに越したことは無かった。だがそうも言っていられない。結局は力尽くで何とかしなければならなくなった事に溜め息を吐きながら、晶は右手のパワークオーツに軽くキスをし、唯は何も書かれていない巻き物を広げた。

 

「チュッ……あなたも、私の虜にしてあげる。今持ってる宝石を忘れちゃうくらいにね。変身ッ!」

「そうはさせない! 私は、私は…………ッ、変身ッ!」

 

《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》

【忍法、変身の術ッ! 瞬きの、刹那を見抜き、忍ぶ者……セツナッ! 達筆ッ!】

 

 変身し対峙するジェムとセツナ。両者は一瞬睨み合ったかと思うと、次の瞬間同時に相手に向け駆けだし短剣と忍者刀をぶつけ合わせ鍔迫り合いをして互いに睨み合うのであった。




と言う訳で第18話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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