仮面ライダージェム   作:黒井福

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第21石:奪い合い

 光林イーストパークで起こった騒動を聞き付け現場に急行したセツナとバリア。2人はヤジュエルに襲われている市民を守る事を最優先に戦っていたが、そこに突如頭上から仮面ライダージェムが飛び降りてきて思わず面食らってしまった。

 

「わぁっ!?」

「ジェムッ!」

「はぁい、お2人さん? 大変そうだから助太刀するわ」

 

 言うが早いか、ジェムはファントムシューターを抜くと2人の手が届かない所で市民に襲い掛かろうとしているヤジュエルに向け素早く発砲した。無数の銃弾がヤジュエルの体に突き刺さり、火花を散らしながら悲鳴を上げてひっくり返るヤジュエルを他所にジェムは襲われそうになり倒れていた人の腕を掴んで立ち上がらせると押し退ける様にしてその場から逃した。

 

「早く逃げなさい」

「は、はいぃっ!?」

 

 突然の事に困惑しながらも自分が窮地を脱する事が出来た事だけは分かったのだろう。這う這うの体で逃げ出す市民を尻目に、ジェムは先程自身がひっくり返したヤジュエルを観察した。

 

(さっきの銃撃で簡単に傷付く外殻……コイツじゃないか)

 

 外殻の色が黄色なので一瞬イエローダイヤモンドモチーフのパワージュエルに魅了されたものかと思っていたが、銃撃で簡単に傷付く辺りあれはダイヤモンドとは別の宝石らしい。寧ろあの傷付きやすさ、欠けやすさはバリウムの鉱石でもあるバライトが影響を受けたパワーバライトと言ったところだろうか。パワーダイヤモンドの影響を受けてのパワージュエル化なので当然質は低いだろうし、あれに何時までも時間をかけるのは勿体ない。

 

「さっさと終わらすか」

《Leading jewel,Quartz》

 

 ジェムはファントムシューターを軽く振ってシリンダーを横に倒す形で露出させると、そこに右手に嵌めているパワークオーツを押し当てエネルギーを充填する。そして十分にチャージが完了すると、銃口を真っ直ぐヤジュエルに向け引き金を引いた。放たれた銃弾は狙い違わずヤジュエルに直撃し、銃撃を受けたヤジュエルは爆散すると中から変異していた人が吐き出されるように倒れた。

 

「おっと!」

 

 ジェムは倒れる人を咄嗟に受け止め支えると、気を失っているのを見てやれやれと頭を振り物陰に運び込んだ。こんな所で暢気に気絶されていてはこの後の戦いで踏んづけたりと巻き込んでしまいかねない。

 

 ジェムがヤジュエルを1体倒している間に、セツナとバリアも別のヤジュエルへの対処を行っていた。

 

「執筆忍法、分身の術ッ!」

【忍法、分身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 ジェムが来てくれたとは言えて数が足りないと、セツナは分身の術で自身を複数人に増やすと、まだ誰も相手にしていないヤジュエルの対処をそちらに任せ自身は今目の前に居るヤジュエルを即行で始末しに掛かった。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

 セツナは無数の苦無を投げつけてヤジュエルの動きを牽制する。その程度でどうにかなるものかとでも言う様にヤジュエルは腕の外殻で投擲された苦無を防ぐ。苦無は刃の三分の一位が突き刺さるも、ヤジュエルに大したダメージは無いようであった。

 しかしそれはセツナも織り込み済み。寧ろ受け止めてくれた事に感謝すらしていた。

 

「よしっ!」

 

 その苦無はよく見ると柄の部分に小さな爆薬が仕込まれていたのだ。爆薬は時限式であり、投擲から数秒ほどで爆発する様にセットしてある。弾かれた場合もヤジュエルの周囲で爆発し目くらましになる事を期待していたのだが、嬉しい誤算で突き刺さってくれた事で予想よりもヤジュエル相手にダメージを与える事が出来た。

 案の定腕に刺さった苦無で爆発が起こった事で、ヤジュエルの腕の外殻は大きく吹き飛んだ。堪らず悲鳴を上げてもんどりうって倒れるヤジュエルに対し、ジェムは忍者刀に素早く文字を書いた。

 

「執筆忍法、氷遁 凍結破砕斬ッ!」

【忍法、氷遁 凍結破砕斬ッ! 達筆ッ!】

 

 セツナが書いた文字の効果で、忍者刀の刀身が超低温にまで温度が下がり刃の周囲で水分が凍り付く。ダイヤモンドダストを纏った刃を振るいヤジュエルを切り裂けば、超低温の刃は容易くヤジュエルの外殻を氷結・破砕しながら切断し、一刀両断されたヤジュエルは崩れ落ちながら爆散し変異していた人が解放された。

 

「がはっ!?」

「あっ!?」

 

 こちらは咄嗟に受け止めるのが間に合わなかったのか、解放された人は地面に叩き付けられてしまった。セツナが慌てて助け起こし、簡単な怪我の診察を行うも、分る範囲で目立つ負傷は内容で安堵に胸を撫で下ろす。

 

「ふぅ、良かった……」

 

 先程のジェムに倣ってセツナも解放された人を安全圏に退避させるべく担いで連れて行く横で、バリアは同時に2体のヤジュエルを相手に奮闘していた。

 

「ふっ、はっ!」

 

 バリアは左腕に盾を持っている為、それで一方のヤジュエルの攻撃を受け止めその間に別方向のヤジュエルに向け発砲する。銃撃を受けた方のヤジュエルはダメージこそ大きくは無かったモノの、後ろから撃ってきたバリアを忌まわしく思ったのか標的をそちらに変えて襲い掛かる。迫って来るヤジュエルに対し、バリアは左腕で別のヤジュエルを受け止めながら銃撃で応戦する。銃撃に晒されている方のヤジュエルは、両腕を顔の前に上げて銃弾を防ぎながら怯まず突撃していた。

 

「チィッ!」

 

 このままでは埒が明かないどころか最悪挟撃される羽目になる。そうなる前に状況を変えようと、バリアはまず盾で受け止めている方のヤジュエルの顔面に銃弾を叩き込み、怯んでいる隙に蹴り飛ばして距離を取らせるとその間にバリアリボルバーを右腰のホルスターに収納し、代わりに左太腿のバリアロッドを抜いて迫ってくる方のヤジュエルに対処した。

 

「ガァァッ!」

 

 バリアがロッドを抜くのと、別のヤジュエルが近付いて来るのは同時であった。鋭い爪の生えた手で斬りかかってきたヤジュエルの攻撃を、バリアは左手の盾で受け止めつつロッドを相手の腹に叩き込んだ。途端に高圧電流が流し込まれ、激痛にヤジュエルは悲鳴を上げて動きを止める。

 

「ギアァァァッ!?」

「ムンッ! ハァッ!」

 

 相対しているヤジュエルが電撃に苦しんでいるのを見て、二撃三撃と攻撃を叩き込む。電撃を伴う殴打にヤジュエルは殴られる度に体を大きく揺らし、最後には回し蹴りを喰らい倒れて悶えるしか出来なくなっていた。

 

「ガ、ガガ……」

 

 電撃の残滓の様に火花を体から散らすヤジュエル。バリアはそんなヤジュエルを冷たく見下ろしながら、再びバリアリボルバーを抜くとベルトから認証カードを抜くとバリアリボルバーのグリップの下にあるスリットにプレートをスラッシュさせた。

 

〈Certification.Enforcement Bullet.〉

 

 認証カードを読み込んだ事で、バリアリボルバーにエネルギーが充填され弾が強化された。その状態でバリアは倒れたヤジュエルに狙いを定め、引き金を引こうとした瞬間、銃口を素早く背後に向け息を潜めて背後から迫ってきていた先程蹴り飛ばしたヤジュエルに強化弾を叩き込んだ。

 

「ふん……」

「ギャァァァァッ!?」

 

 バリアがもう片方のヤジュエルに掛かりきりになっているのを見て隙ありとでも思ったのだろう。不意を打って形勢逆転を狙ったのだろうが、バリアは視界の端に常にもう片方のヤジュエルの姿を捉えていたのだ。先程蹴り飛ばしてやった奴が再び立ち上がって自分にゆっくり迫ってきているのを見て、敢えて誘い込みあちらが油断するのを待っていたのだ。

 

 至近距離から強化弾を浴びたヤジュエルの体は銃弾で貫かれた事と同時に流し込まれたエネルギーに耐えきれず爆散。放り出されるように解放された市民が完全に倒れる前に、バリアはその手を掴んで地面に叩き付けられるのを防ぐと休む間もなく視線を殴り倒した方のヤジュエルへと向けた。あちらも体勢を立て直しつつあるようだが、どうやらあっちはこれ以上戦うつもりは無いらしくバリアに背を向けて逃げようとしている。

 

「逃がすか……!」

 

 バリアは掴んでいた市民の手を離すと、盾の先端を逃げようとしているヤジュエルの方に向けた、盾の裏側のグリップの親指部分にあるスイッチを押すと、その瞬間盾の先端が開き鋏の様になったかと思うとワイヤーで繋がった状態で射出され、飛んでいったクローがヤジュエルの体を挟むように掴んで捕らえた。

 

「グッ!?」

「はぁっ!」

 

 逃走を阻止された事に焦るヤジュエルだったが、バリアはヤジュエルが拘束から抜け出そうとする暇も与えなかった。クローがヤジュエルの体を掴んだと同時にジャンプすると、跳躍しながら認証カードを裏返してバックルに装填し、必殺技のガバメントライダーキックを発動させた。

 

〈License permission, Government Rider kick〉

「はぁぁぁぁっ!」

 

 ヤジュエルは未だにクローで掴まれており逃げる事は出来ない。その間にバリアのエネルギーを纏った蹴りが直撃し、耐えきれなかったヤジュエルはその場で爆散した。

 

「ガァァァァァッ!?」

 

 断末魔の叫びと共にヤジュエルが爆散すると、そこから吹き飛ばされるように変異していた市民が吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。バリアが倒れた市民に近付きバリアのカメラでスキャンしながら軽く体に触れて容態を確認していく。吹き飛ばされた上に叩き付けられた市民ではあったが、そこまで大きな怪我は負ってはいないようだ。精々が打撲などと言ったところだろう。

 

 これで残るヤジュエルは1体。バリアが解放された市民を担いでその場を移動させようとしている間に、そのヤジュエルに対してジェムとセツナが向かっていった。

 

「ハァァッ!」

「ヤァァッ!」

 

 ジェムとセツナはそれぞれファントムエッジと忍者刀を構えてヤジュエルに飛び掛かっていく。2人の仮面ライダーが振り下ろす刃に対して、そのヤジュエルはまるで攻撃を受け入れる様に両手を広げてまともに斬撃を喰らった。するとその瞬間、2人が振り下ろした刃はカキンと言う音と共に弾き返され、勢いが乗っていた分反動も大きかったのか2人は攻撃が弾かれると大きく体勢を崩した。

 

「わっ!? ちょ、硬……!?」

「やっぱり、コイツが大本ねッ!」

「大本? どういう事?」

 

 他のヤジュエルを遥かに超える硬度の外殻を持つそいつの防御力に、ジェムはコイツこそが目的のダイヤモンドのパワージュエルにより生まれたヤジュエルであると確信した。だがセツナの方は詳しい事情を知らない為、彼女が口にした”大本”の意味が分からず首を傾げた。

 ジェムは一瞬セツナに説明すべきか迷ったが、幸か不幸かそんな事を考えている余裕は無かった。ダイヤモンドをベースに生まれたヤジュエル……側頭部から前方に向けて伸びるギザギザの大顎に、同じように峰の部分がギザギザした双剣を持つ黒光りするクワガタムシの様な見た目のスタッグビートルヤジュエルは、両手に持った双剣を構えて2人に斬りかかってきた。放たれた斬撃を2人はそれぞれ手に持つ武器で受け止めるが、スタッグビートルヤジュエルのパワーは2人の想像を遥かに超えており、片手でそれぞれ相手にしているにも拘らず抑え込まれたのは2人の方であった。

 

「う、ぐ……!? こ、コイツ、力強……!」

「ちぃ、流石は天下のダイヤモンド様ね。第一段階程度だろうにこのパワーとは恐れ入ったわ……!」

 

 ヤジュエルはパワージュエルの質もそうだが、元となった宝石も強さに関係する。宝石の中でも特に価値が高いとされる、最も硬く最も美しいダイヤモンドは、例え獣の様な判断力しか持たない第一段階であっても仮面ライダー2人を圧倒するだけのパワーがあったのだ。

 セツナは必死に忍者刀を押し返そうとするも、元々が力押しするタイプではない為抵抗は無意味に終わる。このままでは逆に押し込まれるだけで不利に追い込まれる事が分かっていたので、セツナは一瞬の隙をついて軸をズラし、何とかスタッグビートルヤジュエルの刃から抜け出す事に成功した。

 

「くぅ……! はぁ、はぁ……」

 

 セツナは何とか抜け出す事が出来たが、こうなるとスタッグビートルヤジュエルの攻撃のリソースの全てを被るのはジェムただ1人となる。スタッグビートルヤジュエルはセツナの事を警戒しつつも、未だ自分の下で足掻いているジェムを先に始末しようとセツナに回していた分のパワーを全てジェムの方に集中させた。

 

「う、ぐぅぅぅぅ……!?」

 

 先程を上回る圧力に、ジェムは耐えきれずその場に膝をついた。このままではスタッグビートルヤジュエルに押し潰されるとセツナが咄嗟に彼女を援護しようとするが、それよりも早くに遠方からバリアが発砲した銃弾がスタッグビートルヤジュエルの外殻で弾けた。

 

「グッ?」

「ちっ、この距離とは言えほとんど無傷か」

 

 口径が大きい方とは言え拳銃弾ではあの硬い外殻は傷付ける事すら出来ない。かと言って接近戦は恐らく相手の独壇場。ならばとバリアは一旦その場を離れ、近くに止めてある専用バイクである『ラーレスター』から専用武器を装備しようとした。

 

 バリアとしては狙いやすかったから先にスタッグビートルヤジュエルの方を撃ったに過ぎないが、その事でスタッグビートルヤジュエルの意識が僅かながらジェムから離れた。力もほんの少し緩んだのを見て、ジェムは素早くベルトの円盤を回転させるとパワークオーツを研磨し光と粒子を飛び散らせた。

 

「今だッ!」

「グォッ!?」

 

 突然自分の真下から放たれた眩い光と、同時に噴き出した粒子の勢いに押し退けられてスタッグビートルヤジュエルは吹き飛ばされるようにひっくり返った。その隙に立ち上がったジェムは、クオーツカットでは太刀打ちできないと判断し同じくパワーと防御力に優れるコランダムカットとなった。

 

「私の輝きも、負けてないんだからね!」

《Change of Cut, Cloth Corundum! Commit the Knight!》

 

 青いボディースーツの上に紫の鎧を纏い、赤い宝剣を手にした騎士の姿となったジェムがスタッグビートルヤジュエルに斬りかかる。振り下ろされた刃は硬度の高いダイヤモンドの外殻の上で火花を散らし、見ると先程2人の仮面ライダーの斬撃を弾き返した外殻に確かな傷が出来ていた。

 

「傷付いたッ!」

「とは言え……」

 

 セツナはジェムの成果であっても、あの硬い敵に傷を負わせた事に希望を見出し喜色の混じった声を上げた。だが、肝心のそれを成し遂げたジェムの口から出たのはあまり芳しさを感じさせない言葉であった。

 

「分かってはいたけど、モース硬度10に対して9のコランダムだと……」

 

 見るとジェムの持つスターブレイドの刃が僅かにだが欠けていた。ヤジュエルの外殻に傷をつける事は出来たが、同じようにジェムの剣にもダメージが入ってしまったのだ。天然のダイヤモンドのモース硬度10と言う硬さは、モース硬度9のコランダム……即ちルビーやサファイアをも傷付ける事が出来る。鉱物として格が既に違うのだ。パワージュエルとなり、更にジェムドライバーで強化されていても尚、ダイヤモンドの硬さは他の追随を許さない。

 

 このままコランダムカットで戦ってはいずれ競り負ける。ジェムは早々にコランダムカットで競い合う事を諦め、搦め手で責める事に決めた。

 

「それならこっちよ!」

《Change of Cut, Cloth Cinnabar! Commit the Alchemist!》

 

 右手の指輪をパワーシナバーに交換して錬金術師をモチーフにしたシナバーカットにフォームチェンジする。これなら純粋な力押しとは違う、様々な属性の魔法による攻撃で相手を釘付けにする事が出来た。

 

 ジェムはフォームチェンジすると即座に杖を向け、早速炎を放ちスタッグビートルヤジュエルを火炙りにした。

 

「グォァッ!?」

 

 突然高温の炎に巻かれて怯んだように声を上げるスタッグビートルヤジュエル。だがそれはダメージがあったからではなく、突然の炎に驚いたからでしかなかった。すぐに炎が自分にとって大した脅威ではないと察すると、スタッグビートルヤジュエルは炎の壁を突き破ってジェムに襲い掛かる。

 

「ジェムッ!」

「くぅっ!」

 

 傍から見ていたセツナは思った。炎で炙ったのは失敗だったのかもしれない。熱せられた事でスタッグビートルヤジュエルの体は赤熱化し、持っている剣はただの鋭さだけでなく高温による溶断で切断力を増してしまっていた。ジェムはギリギリのところで双剣による攻撃を回避したが、振り下ろされた剣は地面をバターの様に溶かしながら切り裂いてしまった。

 

「マズい……執筆忍法、氷遁の術ッ!」

【忍法、氷遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 このまま何もせずに見ているだけなんて出来るわけがない。セツナは熱せられたスタッグビートルヤジュエルを冷やしてしまおうと、氷遁の術で極寒の吹雪を放ち急速に温度を下げさせた。最初の内は低温の吹雪に抗っていたスタッグビートルヤジュエルの外殻であったが、直ぐに温度を下げ始め赤熱していた部分は熱を失い凍結し始める。

 

「よしっ! これなら……」

 

 冷やしながらセツナは思い出した。熱した状態から一気に冷やす熱膨張は、強靭な硬さを持つ物質であったも粉砕する事が出来る。やった時は意識していなかったが、我ながら良いフォローが出来たのではと思わず自画自賛しそうになった。

 

 だがスタッグビートルヤジュエルはそんな容易い相手ではなかった。冷やされてもスタッグビートルヤジュエルの外殻は脆くならず、それどころか体が凍結しようとも構わずセツナに向け攻撃を仕掛けてきたではないか。

 

「え、ちょっ!?」

「全くもう……!」

 

 咄嗟の出来事に足が止まってしまったセツナをジェムはフォローした。風を巻き起こしてセツナをその場から押し出す様に動かし、スタッグビートルヤジュエルの攻撃から彼女をギリギリのところで救ったのだ。

 

「わわっ!?」

「ヤジュエルを甘く見過ぎよ。特にコイツくらいになるとね」

 

 ダイヤモンドは伊達ではないという事だ。熱膨張を応用しただけで勝てるのなら苦労はしない。

 

 確かにそこまで深く考えた末の行動ではなかったので、詰めが甘い部分があると言えば反論は出来なかった。だが最初に熱したのはジェムの方なのに、自分だけが侮られるのは何だか納得がいかなかった。

 

「そう言うあなたは、何でアイツを温めたのよ? あなたは熱膨張を狙ってなかったの?」

「さっきのあれはアイツの出鼻を挫きたかっただけよ。私の本命は別にあるわ」

「それって?」

「説明してる時間は無さそう」

 

 スタッグビートルヤジュエルは双剣を2人から離れた所で構えたかと思うと、それぞれに向けて剣をブーメランのように投擲してきた。回転しながら飛んでくる片刃の剣に、セツナは体勢を崩して地面に倒れるように回避し、ジェムは杖を振るって足元から岩壁をせり上がらせる事で防いだ。

 2人がそれぞれのやり方でスタッグビートルヤジュエルの投擲攻撃をやり過ごすと、その直後に重い発砲音が響きスタッグビートルヤジュエルの外殻で派手な火花が散りその勢いでバランスを崩させた。

 

「グゥッ!?」

「ちっ、コイツでもダメージ薄いのか?」

 

 発砲音の主は戻ってきたバリアであった。手にはポンプアクション式のショットガン『ライオットシューター』が握られており、彼は銃身下部のハンドガードをスライドさせ次弾を装填すると再び狙いを定めて引き金を引いた。反動を制御する為踏ん張りながらバリアが発砲すると、放たれた徹甲弾がスタッグビートルヤジュエルの剣に命中した。ちょうど刀身の部分に徹甲弾が命中すると、ヤジュエルの剣は着弾した部分から粉砕されるように折れてしまった。

 

「ん? 何だ、武器は脆いのか?」

「そうじゃないわ。ダイヤモンドって、言う程頑丈じゃないのよ」

「はっ?」

 

 天然であらゆる物質より硬いという印象があるダイヤモンドであるが、実はそれは誤りで事実は傷付きにくいというだけの話でしかない。モース硬度ではコランダムを越えるダイヤモンドであったが、一方で靭性――割れや欠けに対する抵抗力――に関してはコランダムを下回る。

 

「だから私はこれを選んだの」

 

 そう言ってジェムが杖を振るうと、掲げた杖の先に集まる様に水分が収束していき急速に冷却され氷ついていく。見る見るうちに巨大な氷塊が出来上がったかと思うと、彼女はそれをハンマーを振り下ろす様にスタッグビートルヤジュエルに叩き落した。

 

「!!」

 

 このままでは押し潰される。硬さに自身があるとは言っても、あんなものに押し潰されては一溜りもない。ダイヤモンドだって金槌を振り下ろされれば容易く砕け散るのだ。いわんや、スタッグビートルヤジュエルもである。

 

 慌ててその場から逃げ出そうとするも、気付けば自分の周囲にせり上がった土の壁が出来上がっており逃げ場を失っていた。ジェムは氷塊を作り出すと同時に、スタッグビートルヤジュエルの周囲に逃げ道を立つ為の壁を作り上げていたのだ。

 スタッグビートルヤジュエルは一心不乱に残った剣を振り回すが、槌の壁は削れるだけで崩れず逃げ道は出来ない。その間にジェムにより落とされた氷塊は迫ってきて…………

 

「ギ、ガァァァァッ!?」

 

 スタッグビートルヤジュエルは悲鳴を上げながら押し潰されると次の瞬間爆散し、土壁を吹き飛ばす勢いの爆風の中から変異していたと思われる市民が気絶した状態で飛び出してくる。

 

「おっと!」

 

 いち早くそれに反応したセツナは空中で吹き飛ばされた市民をキャッチし、気絶しているが息はある事を確認すると安堵の息を吐く。

 

 一方、他のヤジュエルと違い明らかに高品質なヤジュエルを生み出したパワージュエルは、被害者の市民同様吹き飛ばされるが空中で砕ける事無く輝きを放っていた。

 

「あれだッ!」

 

 目的のパワージュエルを見てジェムは手に入れようと手を伸ばす。だが彼女がパワージュエルを手にする事は無かった。

 

 彼女が手を伸ばすと同時に響いた発砲音。それはそれまで対ヤジュエル戦の名目で一応の共闘状態にあったバリアのライオットシューターによる銃撃であった。徹甲弾はパワージュエルの方に意識を向けているジェムに向けて放たれ、油断していたジェムは突然の発砲を対処する事が出来ず強烈な徹甲弾を受けて吹き飛ばされてしまった。キャッチする者が居なくなったパワーダイヤモンドはそのまま弧を描いて飛んでいき、コンクリートの地面に軽い音を立てて落下した。

 

「あああああぁぁっ!?」

「させると思うか?」

「うぐ、ぐ……くっ! 随分な態度じゃない? いきなり後ろから撃つなんて」

「普段からあの手この手で逃げるお前に卑怯と言われたくないな」

 

 背中から撃たれて、地面の上を転がったジェムは痛む体に鞭打って何とか立ち上がると杖を構えながらバリアと相対する。セツナは気絶した市民を安全な場所に運び終えると、急ぎ戻ってきて少し考えた後バリアの隣に立ち彼と共にジェムと対峙した。バリアの味方をするセツナであったが、その内心は少し揺れ動いていた。

 

(ジェムは悪事を為す奴……だけど、これは……)

 

 特別話し合った訳ではないが、それでもつい先程までは同じ目的の為に戦っていた筈。それが敵が居なくなった途端、躊躇なく背中から撃つ事にセツナは疑問を感じずにはいられなかった。

 その疑念が抑えきれず、セツナは思わず口を開いてしまう。

 

「今のは……ちょっと……」

「何か?」

「卑怯じゃありません? ジェムもこっちを騙しますけど、やられたからって私達がやり返すのは……」

「同じ穴の狢とでも言いたいのですか?」

 

 セツナとしては、卑劣な手段に対しても正々堂々と立ち向かうべきと言う信念を持っていた。元より曲がった事を好まない女性だ、そう言った相手を騙す事に対しては抵抗がある。

 一方のバリアは徹底していた。悪事は徹底して許さず、悪を処断する為であれば卑怯卑劣も上等と言う突き抜けた考えの持ち主だったのだ。

 

 あまりにも行き過ぎた潔癖症にも等しい正義への考え。セツナはその要因が純粋な正義感によるものではないと感じ取っていた。彼には何かある。それも悪を許さない程の何かが。

 

 異常な正義感を振りかざすバリアにセツナが探るような視線を向けていると、それに気付いたのかどうかわからないが彼は彼女にパワージュエルの回収を求めた。

 

「それよりそちらはパワージュエルを回収してください。重要な参考品です」

「えっ!? わ、私がですか?」

 

 正直、あまりパワージュエルに触れたくはない。先日ホワイトマンティスヤジュエルを生み出してしまった時の事もある。またあんな事になるようなのは御免であった。

 とは言えパワージュエルの回収をしなければならないのも事実。どうしたものかとセツナが悩んでいると、ジェムは見兼ねた様に溜め息を吐いた。

 

「あなたはもう大丈夫よ」

「え?」

「あなたは一度魅入られてる。一度魅入られてから正気に戻ると、パワージュエルのエネルギーに対して耐性が出来るの。だからあなたはもう大丈夫」

「あ、そうなんだ……って言うか、そんなこと教えて良いの?」

 

 今のジェムの発言はハッキリ言って敵に塩を送る行為だ。言わなければセツナは躊躇し、その間にパワーダイヤモンドをジェムが回収する事も出来た。

 

 にも拘らずジェムがセツナに耐性が出来た事を告げた理由は大きく分けて二つ。1つは別に彼女達に回収されても構わないと考えているからだった。

 

「別にいいわよ。今度はそっちに忍び込んで盗み出すだけだもの」

「いけしゃあしゃあと言ってくれるわね」

「事実だもの」

 

 実際前回セツナが魅入られた時は、彼女を誘い出す為に婦警になり切って警察署に潜入した。同じ要領でパワーダイヤモンドを後で回収する事は十分可能である。

 

 そして、もう1つは…………

 

「それ以前に……アイツの方が先に回収してくれるしね」

「え…………! しまった!?」

 

 マズいと思いセツナがパワーダイヤモンドの方を見れば、そこには近くに佇む見知ったくノ一の姿があった。フブキはパワーダイヤモンドの傍に佇み、フレンドリーな感じで手を振っている。

 

「くっ、お前の仲間の忍者か……」

「そういう事よ、フフフッ……」

 

 仮面の下で苦虫を噛み潰したような顔になるバリアと対峙するジェムの佇まいは余裕を感じさせた。一方で油断なく身構えるセツナと相対するフブキも、構えを取る事無く優美に佇んでいる。

 

 どうやら騒動はまだ終わりを迎えそうには無かった。




と言う訳で第21話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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