ジェムとフブキがセツナ、バリアとそれぞれ対峙している様子は、同じくパワージュエルを狙うジェットグリム達も注目していた。無数のヤジュエルが出現し、それに対してジェム達が対応している間はまだ良かった。が、フブキが登場しパワーダイヤモンドの傍に現れたのを見た瞬間ジェットグリムと共に居たカルネプラエドの声に焦りが混じり始めた。
「ボス、マズいですよ。このままだとパワージュエルがジェム達の手に……!」
パワーダイヤモンドはここ最近稀に見る上質なパワージュエルだ。同じ上質なパワージュエルの中でも特に上質な、上澄みと言っても過言ではないパワージュエル……トゥルーシャイン。あのパワーダイヤモンドは間違いなくそれである。あれを手にすれば自分達は更に力を得る事が出来るとあれば、カルネプラエドが焦るのも無理は無かった。
焦るカルネプラエドに対し、ジェットグリムの様子はまだ落ち着いていた。冷静にジェム達の戦いの様子を観察し、虎視眈々と状況が変化するのを待っている。
「落ち着け。まだ焦る時ではない」
「ですが……」
ジェットグリムに宥められ、一応の落ち着きを取り戻すカルネプラエドであったが、しかし内心はソワソワとしていた。彼らが見ている前で、フブキがパワーダイヤモンドを手に取ろうとしてセツナがそれを妨害した事で何とかパワージュエルはまだフリーの状態である。だがあれも何時まで続くか分からない。何かの拍子にパワーダイヤモンドはどちらかの勢力の手に渡るだろう。そうなると面倒な事になる。
再び落ち着きを失い始めたカルネプラエドの様子に、ジェットグリムは仕方がないという様に肩を竦めながら溜め息を吐く。
「分かった、分ったよ。あれはこちらで確実に手に入れる」
「でも、どうやって……」
ボスがその気になってくれたのは嬉しいが、それはそれとしてあの状況でどうやってパワーダイヤモンドを掠め取るのかが分からなかった。ジェムもバリアも、セツナもフブキも、戦いながらも視界の何処かにパワージュエルを収め隙あらば自分達の勢力で押さえようとしている。尤も欲しがる理由はそれぞれの勢力で全く異なっていた。ジェムは自分の目的の為に欲しているが、セツナとバリアはパワージュエルのサンプルを欲していた。これ以上ヤジュエルの被害を出さないようにする為には、パワージュエルの現物の存在が必要不可欠だったのだ。
誰もが意識を向けている物を、横から掠め取るのは非常に難しい。あそこに乱入して持って行こうとすれば、途端に争っていた二つの勢力は戦いを止めて妨害の為動くだろう。足を引っ張り合ってくれればいいが、下手に共闘されると泥沼の戦いになってしまいかねない。
一体どうするのかと言うカルネプラエドの視線に対し、ジェットグリムは答える事無く戦いの様子をジッと見つめていた。
***
自分達に視線が向けられている事等露知らず、セツナはフブキにパワージュエルを確保される事を防ぐとそのまま戦いに突入した。その戦いの最中、セツナはフブキに対して気になっていた事を問い詰める。
「ジェーンさんッ! あなたジェーンさんですよねッ!!」
忍者刀を振り下ろしながら、セツナはフブキに問い掛ける。武器を使うセツナに対し、フブキは飽く迄も無手での戦いに徹していた。それだけでセツナには目の前のフブキが、嘗て椿が変身したそれとは別人であると確信するに十分だった。椿が変身したフブキは二つのチャクラムを専用の武器として戦っていた。このフブキが椿と別人なのであれば、使い慣れていないどころか恐らく失われたのだろうチャクラムを使っていないのにも頷ける。
それに、フブキの佇まいもセツナには覚えがあった。どこか自分より上に立ち、余裕をもってこちらを見下ろしてくるような雰囲気。それは嘗て、学生時代に何度も訪れた七篠庵で時折感じた感覚であった。決してこちらを侮っているものではないが、こちらの一挙手一投足を楽しむ様に観察してくる視線はジェーンのそれと同じである。
しかしフブキは彼女の問いに答えない。答える事無く手の平でセツナの斬撃を受け流すと、がら空きとなった彼女の背に手刀を叩き込んで転倒させた。
「あぅっ!? くぅっ!」
地面と抱擁させられたセツナは痛みに耐えながら即座に立ち上がり、再びフブキと対峙する。対峙するフブキはセツナに比べて色々と大きかったが、セツナの目には見た目以上に大きな存在として映っていた。
セツナがフブキに翻弄されている横で、ジェムはバリアを出し抜いてパワーダイヤモンドを手に入れるべく多数の魔法で彼をその場に釘付けにしていた。
「それそれそれそれっ!」
「チィッ!」
炎、風、水、土、それぞれの属性の魔法がバリアに殺到していく。バリアは盾を装備していた為それらを何とか防ぎながら前に進もうとしていたが、ジェムは絶対にバリアを近付けまいと魔法の弾幕を途切れさせることをしない。まるで世界最後の光景を思わせる激しい魔法の弾幕だった。
並の人間であればとっくの昔に吹き飛ばされていてもおかしくない程の状況であったが、バリアは防御力に優れるスペックと手にした盾を頼りにそれに耐えた。そして耐えながら徐々にジェムに向け歩みを進め、片手にバリアロッドを構え握り締めた。
「ま、負けるか……お前のような奴に、負ける訳には、行かないんだッ!」
そして遂に、ジェムの弾幕の圧力にバリアが打ち勝った。僅かな間隙、一瞬の圧力の緩みを本能のレベルで察知した彼は、その好機を逃さず一気に距離を詰めるとバリアロッドを振り下ろしジェムの手から杖を叩き落した。
「嘘ッ!?」
「フンッ!」
「ぐっ!?」
まさかこの弾幕の中を突き抜けてくるとは思っていなかった為、ジェムは驚愕に動きを止め、その間に杖を叩き落され慌ててその場を退避した。
「あらあら……大した精神力じゃないの?」
「当たり前だ……俺はお前の様な悪事に手を染める奴を絶対に許さない。どんな目的であれ、お前のような奴が人に消えない心と体の傷を刻むんだッ!」
バリアの言い分は分からなくも無かった。確かに自分がやっている事は決して許される事ではないだろう。だがもう、それに縋るしかないのが今のジェムの……晶の心情なのだ。悪事に縋る必要が無ければそれに越したことはない。縋らざるを得ない程に精神的に追い詰められた結果、彼女は怪盗となったのである。彼女だって悩み、迷う事はある。自分の行いに罪悪感を覚えないかと言えば当然覚えている。何度全てを投げ出し諦めてしまおうかと思ったかは数え切れないほどだ。
だが、もう、止まれないのだ。突き進むしかない所まで来てしまった。その苦しみを微塵も理解せず、好き放題に口走るバリアの綺麗事とも取れる否定に、ジェムは気付けば感情的に反論してしまっていた。
「分かったような口利かないでよッ!? こっちだってね、こんな事しなくて済むならそれに越したことはないんだからッ!」
「ジェム?」
「あちゃ~……」
ジェムの叫びはバリアのみならず、セツナとフブキの元にも届いていた。嘘偽りを感じさせないジェムの心からの叫びに、2人は戦いの手を止めるとジェム達の方に注目してしまっていた。セツナは驚きに仮面の下で目を見開き、フブキは頭痛を堪える様に額に手を当て天を仰いだ。
(変なスイッチ入っちゃったわね。さてどうしたものかしら……)
この状況をどうしたものかとフブキは思案する。正直な話、ここでジェムの正体が晶であるとこの場の物にバレる事自体は、少なくともフブキにとって特に問題がある事ではなかった。それで晶が動き辛くなろうと、フブキには関係のない事なのだから。だがそれで晶の成長が止まってしまう事は避けたい。
「私だって……私だって……!」
「ジェム? お前は……」
ここはさっさとパワーダイヤモンドを回収して、ジェムも退かせた方が良さそうだ。そう思った矢先、フブキは頭上から何かが迫ってくる事に気付き上を見上げると、今正にジェットグリムが翼のノズルをこの場所に向けてエネルギーを充填している様子を目にし息を飲むとセツナの腕を掴んでその場を離れた。
「こっちよッ!」
「え、えっ!? じぇ、ジェーンさん?」
突然何事かとセツナが困惑していると、彼女も頭上からエネルギーの砲弾が降り注ごうとして来ている事に気付いた。
セツナが奇襲に気付いている事を察しつつ、フブキは対峙しているジェムとバリアにも頭上を警戒するよう急ぎ告げた。
「2人共、痴話喧嘩してる場合じゃないわッ! 上を見てッ!」
「誰が痴話喧嘩なんてッ! って言うか、上?」
「何っ?」
フブキの警告にジェムとバリアも頭上を見上げ、そしてジェットグリムの攻撃が降り注いできた事に目を見開くとフブキに続いてその場を離れた。だがバリアはその場に残り、盾を頭上に構えてジェットグリムの攻撃を堪えた。
「ぐ、ぐぐ……!」
次々と降り注ぐエネルギーの砲弾は、コンクリートを抉り吹き飛ばしあっという間に周囲に土埃を舞い上がらせた。バリアの姿も見えなくなり、セツナは彼の安否を気遣いフブキの手を振り払って上空のジェットグリムを忍術で叩き落そうとした。
「離してくださいッ!」
「あっ……」
「アイツ……! 執筆忍法、火遁の――」
セツナに手を振り払われて、フブキの口から僅かに寂しそうな声が上がる。だがセツナはその事に頓着せず、火遁の術で上空のジェットグリムを撃ち落とそうとした。だがその時、爆炎の中を突き抜ける様に飛び出してきたカルネプラエドが、至近距離からバニッシャーをセツナの胴体に突き付けた。
「もらったッ!」
「唯ちゃんッ!?」
「え……?」
突然の事にセツナは反応が間に合わない。その間にカルネプラエドはセツナの変身していても分かる豊満な乳房の下の鳩尾の辺りに向け発砲し、放たれた砲弾は彼女を容易く吹き飛ばした。
「あああああああああああっ!?」
「あぁっ!?」
「くっ!」
ジェットグリムに続き行われたカルネプラエドの奇襲により、セツナは吹き飛ばされ地面の上を転がり壁に叩き付けられる。倒れた彼女は撃たれた所を押さえて呻きながら変身が解けてしまい、ジェムが心配の声を上げるのに対しフブキはカルネプラエドを追い払うべく術を使った。
「執筆忍法、氷遁の術ッ!」
【忍法、氷遁の術ッ! 達筆ッ!】
無数の氷塊がカルネプラエドに向け飛んでいくが、カルネプラエドはそれをバニッシャーによる砲撃で撃ち落とした。その間にジェットグリムからの砲撃は止まり、爆撃が行われていた場所は静かになった。
ジェムが見守る中、土埃は風に流され視界が徐々に開けていく。
視界がクリアになると、そこに広がっていたのは耕された地面とその上に俯せに倒れた誠の姿であった。誠は顔を伏せた状態で倒れている為、ジェムに彼の顔を見る事は出来なかった。
それに、今はそんな事を気にしている余裕は無かった。爆撃を終えたジェットグリムはゆっくりと降り立ち、爆撃の最中狙いを外して無事だったパワーダイヤモンドを回収していたのだ。このままパワーダイヤモンドを渡してなるものかとジェムはクオーツカットにフォームチェンジしてジェットグリムに飛び掛かった。
「させるかッ!」
《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》
クオーツカットになるや否や、ジェムはジェットグリムにファントムエッジで斬りかかる。だが振り下ろした刃に手応えは無く、斬られたジェットグリムは刃が当たった所から綺麗に割れたかと思うとすぐに元に戻りながらジェムから離れつつ砲撃した。
「くっ!?」
「ちぃっ!」
威嚇目的なのか砲撃はジェムに直撃こそしなかったが、それでも地面に着弾し爆発の際に発生する衝撃はジェムに足を止めさせ前後左右に大きく揺らした。それだけでなく、近くには気絶したのか動かない誠が居る。このままだとジェムはともかく誠が危険だと、フブキはカルネプラエドへの攻撃を止め倒れた彼に近付き覆い被さる様にして守った。
「ぐぅぅ……」
「ジェーンッ!? このっ!」
ジェムはバリアの正体を知らず、変身が解けた彼の顔を見れていないのでそれが誠であると知らない。そんな彼をフブキが守る理由が分からず、だがこのままだとフブキも危険だとジェムは砲撃の間を縫うようにジェットグリムに向け発砲した。次々と飛んでくる銃弾はジェットグリムの鎧の上で弾け、衝撃にジェットグリムはバランスを崩しそうになりながらも倒れたりすることは無くその場からの離脱に成功した。ジェットグリムが離脱すると、カルネプラエドもその後を追ってその場を離れる。
「今回は俺らの勝ちだったな! あばよッ!」
「待ってッ!」
逃げるカルネプラエドの背にジェムは手を伸ばすが、その手が届く事は無く逃走を許してしまった。
後に残されたのは傷付いた誠と唯、そして佇むジェムと誠を爆撃から守っていたフブキだけであった。フブキは誠の代わりに爆撃の影響に晒されたが、伏せてジッとしていたことが幸いしたのかそこまで大きなダメージを負う事は無かったようだ。
「いったたた……ずいぶんやられちゃったわね」
「ジェーン、無事?」
「頑丈だからね。それより……」
今回はまんまとしてやられた。パワーダイヤモンドはジェットグリム達に持っていかれ、唯と誠の2人は傷付いた。別に唯と誠が傷付いた事は――晶は誠の存在を知らないので仕方ないが――大した問題とは思っていない。だがパワーダイヤモンドは是が非でも自分達が回収しなければとジェムは焦りを感じた。
「急いでアイツ等を追わないとッ!」
「ストップ~。今回はこっちも仕切り直ししましょ~」
「でもっ!」
悠長な事を告げるフブキに食って掛かるジェムであったが、フブキが彼女の口元に人差し指を当ててもう片方の手を自分の耳に耳の様に当てた事で今の状況を理解する。耳を澄ませば複数のサイレンの音が聞こえてくる。時間切れだ。
「お巡りさん達を蹴散らして追いかける事も出来るけれど~、どうする~?」
「くっ……」
そもそもジェットグリム達が何処に行ったのかの見当がつかない。この状況で追跡するのはリスクが大きいし、無駄に終わる可能性もあった。ここは一旦退いて、体勢を立て直すのが最善である。ジェムもそれを理解すると、倒れて顔を伏せた誠と意識はあるが動く事も難しそうな唯を一瞥した。
「あの2人なら大丈夫よ~。応援の人達が何とかしてくれるわ~」
「べ、別にアイツらの心配なんかしてないわよ」
そうだ、アイツ等は自分の邪魔を散々してくれたのだ。何でそんな奴らの心配なんてするのかとジェムは突き放す様に返せば、フブキはクスクスと笑うだけでそれ以上何も言わない。何だか自分の内心を見透かされているような気になり、居心地が悪くなったジェムは素早くその場を離れ、フブキもその後に続くのであった。
***
まんまとジェムを出し抜き、トゥルーシャインと思しきパワーダイヤモンドを回収できたジェットグリムとカルネプラエド。彼らは一路アジトに戻ると、カルネプラエドは早々に変身を解くと同時に歓喜の声を上げた。
「やったぜッ! へへっ、ジェムの奴の悔しそうな顔が目に浮かぶぜ」
五右衛門はこれまで自分に辛酸を舐めさせたジェムを出し抜けたことを純粋に喜んでいた。生憎とジェムの顔は仮面で隠れていたが、佇まいだけで悔しそうにしていたのが伝わってきた。自分が味合わされた思いを今度は彼女に味合わせる事が出来て、五右衛門はいい気味だと喜んでいたのだ。
しかしジェットグリムは手に入れたパワーダイヤモンドを手の中で弄び、しばらく眺めると徐に顔を上げ五右衛門を落ち着かせた。
「油断するな五右衛門」
「え?」
「奴らがこのまま大人しく指を咥えている訳がない。狙った獲物を簡単にあきらめる様な女でもあるまいし、必ずコイツを奪いにやってくる」
「でも、この場所を奴は知らないでしょ?」
ここは飽く迄も隠れ家に過ぎず、そして質の低いパワージュエルを取引する際には五右衛門が顔を隠して宝石だけを持って路地裏など人の来ない所で取引を行ってきたのだ。当然足がつかないよう細心の注意を払って来たし、この場所を知る様な事になった者に関しては
「警戒はしておけ。こういう時、あの女の執念は油断ならない」
「ボスはアイツの事知ってるんですか?」
素朴な五右衛門の疑問。それに対しジェットグリムは視線を彼に向け、目があった五右衛門は言いようのない威圧感を感じて思わず息を飲んだ。
「ッ!!」
「知っているともさ…………誰よりも、よく……な」
ジェットグリムはそれだけ告げると五右衛門に背を向け、残された五右衛門は腹の底から息を吐き額に浮かんだ冷や汗を拭うのであった。
***
展示会での騒動から一夜明け、晶は早々にジェーンの元を訪れていた。勿論先日奪い取られたパワーダイヤモンドを自分が奪う為の作戦を練る為だ。
「ジェーンはアイツらの事を詳しく知らないのよね?」
「ゴメンね~。こっちでも調べてはいるんだけれど~、組織の規模が小さいのかなかなか引っ掛からないのよ~」
一応、全く情報が無いという訳ではない。類似する連中は海外で確認されており、ジェットグリム達が元々は国外で活動していたのだという事は分かっている。そんな連中が何故いきなり日本で活動をし始めたのかはまだ分かっていないが、兎に角規模が小さくその分フットワークが軽いという事は分かった。
こうなると面倒な事になる。連中が戦う際に使っている装備は間違いなくジェムと同様、パワージュエルの能力を引き出して戦うものだ。ダイヤモンドと言う誰もが知っているほどの鉱物の力を引き出したら、どんな力を発揮するか考えたくもない。晶の焦りは増すばかりである。
「一応ヒントがない訳じゃないのよ~。ここ最近のヤジュエル関連の事件の裏には~、彼らの影がチラチラ見えているわ~」
「んな事言われなくても分かってるわよ。そうでなきゃこんなにあちこちに出回るなんて……あっ」
ふと晶は気付いた。そう言えば権蔵は、パワージュエルに魅入られていた頃狂ったように宝石をかき集めていた。言うまでもなく権蔵は富豪である。そんな彼であれば、目当ての宝石を手に入れる為に使える伝手は全て使う筈。
もしその中に、ジェットグリム達の組織が混じっていたら…………
「ちょっと行ってくるわ」
「何処に~?」
「連中から宝石買ったかもしれない人の所」
晶は手短に伝えると、早々に自宅に帰り怪盗ジェムに着替えると、人目を避けて権蔵の屋敷へと向かった。
晶が権蔵の元を訪れた時、そこには既に先客が居た。剛達警察関係者だ。先日の事件に権蔵は大きく関わっている。警察としては関与を疑っているのだろう。実際、あの事件は権蔵が晶にパワーダイヤモンドを引き渡そうとして起こった事でもあると言えるので、強ち間違っていないのが何とも言えなかった。
「では、あなたはお持ちの宝石の中にその様な物が混じっているなど知らなかったと?」
「はい。これまで多くの宝石をコレクションしてきましたが、まさかそんな危険なものがあったなど思っても見ませんでした」
剛と九朗の2人から事情聴取を受けていた権蔵は、いけしゃあしゃあと嘘を吐いた。本当のことを言えば自分が咎められる事を分かっているからと言うのもあるだろうが、迂闊に明かせばジェムの事も知らせる事になってしまう。彼女に恩義を感じている彼としては、ジェムの不利になる様な事は出来なかったのだ。
権蔵が何かを隠している事は2人も気付いていた。が、その正体が分からない為2人にはそれ以上追及する事が出来なかった。事前の調査でも、権蔵とジェットグリム達の間に深い関係は見られなかった。特にここ最近は本当にクリーンな活動ばかりなのだ。そんな相手を必要以上に詰問する事は剛には出来なかった。九朗の方はそうでもないようで、尚もしつこく権蔵を問い詰めようとするのだが、剛はそんな彼を宥めて一旦屋敷を後にした。
「本当に何も知らないのですか? 隠し事をしてもあなたが不利になるだけで……」
「まぁまぁ、これ以上は令状が無いと難しい。今回は戻ろう。どの道あの2人が復帰してくれないと大きくは動けないんだからな。それでは、我々はこれで失礼します」
九朗は半ば剛に引き摺られる形でその場を後にし、ついてきていた五右衛門もその後に続き屋敷を後にした。
屋敷を出る際、五右衛門はふと何かに気付いたように物陰に視線を向けた。普段の無害そうな雰囲気を一瞬で霧散させ、相手を射殺してしまえそうな鋭い視線を放つ。幸いな事に剛達はそれに気付いてはいない様だったが、もし気付いていたらどうなっていた事か。
「…………」
「菊池さん?」
暫く物陰を睨んでいた五右衛門だったが、立ち止まっている彼に気付いた九朗が声を掛けると我に返り何時もの雰囲気に戻った。
「あ、はい?」
「どうしたんです?」
「あ~……いえ、大した事じゃありません」
九朗からの問い掛けに五右衛門はそう当たり障りなく答えて改めて歩き出す。だがその際、彼は懐からパワージュエルを一つとりだすと近くの花壇の中に放り込んだ。
彼らがその場を離れていくと、それまで五右衛門が注目していた物陰に隠れていた晶が音も無く姿を現した。晶は物陰から出ると、緊張を解す様に腹の底から息を吐いた。
「はぁ~、あぶな。一瞬気付かれたかと思った。何、あいつ?」
五右衛門の視線が尋常なものではない事に晶は不審感を抱いていた。これまで戦闘に表立って出てきていたのは唯と誠……セツナとバリアの2人だ。セツナはともかくバリアの正体を晶は知らなかった為、一瞬五右衛門がバリアの正体かと疑った晶であったが先日変身が解けて俯せに倒れた誠とは背格好が異なる為それは無いと晶は予想を自ら否定した。
「ま、いいか。それより今の内に……」
邪魔な連中が居なくなった隙に晶は権蔵に直接会うべくその場を離れた。
先程、彼女は隠れる事に必死になっていた為、五右衛門の細かい動きまでみてはいなかった。だから彼女も見逃した。彼がさり気無い動きで、花壇の中にパワージュエルを一つ放り込んでいたのを。
怪盗姿の晶は、屋敷の中を歩き回る使用人たちの目を盗んで一路権蔵の元へと向かっていく。このような動きも最早手慣れたもので、晶は道中で誰かに気配を気取られる事も無く権蔵の部屋の前に辿り着く事が出来ていた。
「ここね」
晶は権蔵の部屋に到着すると、扉に手を掛け中の気配を探った。怪盗として活動するようになってからか、こんな事まで出来るようになってしまった自分にどこか寂しいものを感じつつ、室内の気配が1人分だけである事を確信するとドアノブに手を掛け静かに扉を開け中に滑り込む様に入った。権蔵は窓の外を見ていて、晶が入ってきた事には気付いていない。
「はぁい♪」
「うぉっ!?」
だから自分から声を掛けて存在をアピールしてやった。声を掛けられて漸く晶が入ってきていた事に気付いた権蔵は、飛び上るほど驚き振り返るがそこに居たのが晶だと知ると安心して胸を撫で下ろした。
「あ、あぁ、あなたでしたかジェム。驚かさないでいただきたい」
「ゴメンナサイね? でもこんな身の上だし、普通にアポ取る事も出来ないから」
「それはそうですが……それで、ご用件は先日の?」
「えぇ、それに関係する事よ」
先日の戦いの顛末は権蔵も窓越しに見ていた。ジェットグリムにパワーダイヤモンドを持ち去られた事から、彼は晶が自分の所に訊ねに来るだろう事を見抜いていた。
「単刀直入に聞くわ。前にあなたが宝石をかき集めてた時、変な所から買ったりしなかった?」
「あなたがお尋ねしたいのは、背後関係が不透明で怪しい業者や商人からの購入に関してですね? えぇ、覚えています。個人商と言って私に接触を図り、鞄から宝石を取り出していました。以前オークションに出品された、あのネックレスの宝石です」
唯と出会った直後のオークションに出品された奴だ。あれは確か質の低いパワージュエルだった筈だから、もし相手がそれを分かって売り捌いているなら敵は良質なパワージュエルを自分の手元に置く為に撒き餌として質の低いパワージュエルを売っている事になる。災厄をバラ撒く連中のやり方に晶が苛立ちを感じながら無意識の内に顔の右側を覆っている仮面に触れる。
「~~ッ、そいつらに関して詳しい事は?」
「それが……連絡先も教えてくれなかったので、普段何処にいるのかは分からないんですよ。顔も隠していた為、追跡する事も出来ず……」
「そう……」
どうやら権蔵を頼っても空回りしそうだ。その事に晶が残念そうに肩を落とすと、彼は机の引き出しから1枚の地図を取り出し広げた。
「ですので、人海戦術でその個人商の出現場所などを手当たり次第に調べて大まかな出現地点を絞りました。そこから彼の拠点の様な物が分かるかと」
「え゛っ?」
地図は光林市の物だが、地図上には無数の赤い点が記されていた。これが恐らくその個人商の出現地点なのだろう。これを調べる為には相当な苦労があった筈だ。それを個人で、人海戦術を駆使してまで調べ上げるとは。流石金持ちと言う所だろうか。その財力と行動力に晶は感心半分呆れ半分で彼の事を見た。
「随分必死だったのね?」
「当時は彼から買った宝石の魅力に夢中でして。もっと欲しいと、今にして思えば恐ろしい事を考えていましたよ」
パワージュエルのエネルギーは人間の欲望の箍を外させる。権蔵の様に金も権力もある人物が魅入られれば、他のパワージュエルもかき集めようとあの手この手を駆使するのは当然の事である。それにしたってここまで調べ上げるとは。
色々な考えや思いを飲み込んで、晶は地図をじっくり眺める。一見すると個人商の出現地点はまばらなように思える。だがよくよく見ると、個人商の出現地点には一定の範囲がある事に気付いた。よく見なければ分からないが、個人商は特定のポイントを中心に弧を描く様な形で活動している。
「……郊外に近い所に拠点があるみたいね」
「その様です。以前の可笑しかった頃の私もそこまで突きとめた所で、あなたに正気に戻してもらえたのでそれ以降接触しようとはしませんでしたが」
その判断は正解だっただろう。もし正気に戻った後に接触を図れば、最悪消された可能性もある。晶は暫く地図を眺め、納得したように頷くと地図を丸めて露わになっている胸の谷間に地図を押し込んだ。
「分かったわ、ありがとう。この地図は貰っていくわね?」
「えぇ、この程度の事しか出来なくて申し訳ありませんが」
「十分よ。あなたには……ッ!?」
晶はふと視線を窓の方に向けた。するとそこには、今正にこの部屋に飛び込もうとしているヤジュエルの姿があった。ヤジュエルの視線から狙いは権蔵と思われる。このままではマズイと、晶は急いで権蔵の手を引き窓から引き離しつつファントムシューターを抜いて窓に向けて発砲した。
「くっ!」
「えっ? わわっ!?」
出し抜けに腕を引かれて何事かと困惑する権蔵であったが、晶が窓に向け発砲すると同時に窓を突き破ってヤジュエルが飛び込んできた事に心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
「な、ヤジュエルッ!? ど、どうして……もうパワージュエルは手元にないのに……」
「どうやらその個人商とやらが、口封じの為に刺客を送り込んできたみたいね」
「ガルルル……!」
見た所目の前のヤジュエルは第一段階の奴の様だが、何者かにコントロールされているようだ。第一段階のヤジュエルは自我が無く獣の様に動くものに襲い掛かる性質があるが、故にこそ操り易い為黒幕はそれを刺客として使役しているらしい。下手人はジェットグリムか、それともカルネプラエドのどちらかだろう。
とにかくこのまま放置する訳にはいかない。晶はファントムシューターをホルスターに収めると、右手の指輪に軽く口付けして仮面ライダージェムに変身する。
「変身ッ!」
《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》
権蔵の前で晶がジェムに変身する。変身の際に発生する眩い光に、権蔵とヤジュエルが両方目を眩まされ顔を手で覆い、光が収まるとそこにはジェムが優雅に佇んでいた。
「あなたの輝きも私の物。私の輝きで包んであげる!」
と言う訳で第22話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。