仮面ライダージェム   作:黒井福

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第24石:極光の王妃

 ジェムとセツナ達を誘導して上手い事罠に嵌めるつもりだったジェットグリム達であったが、追い詰められたのは彼らの方であった。自分よりも早くに奴らのアジトへ入って行った唯達の姿から、奴らが敢えて自分達の情報を流したと気付いたジェムがセツナ達を説得したのだ。

 

 結果、ジェムと共謀したセツナにより油断させられたジェットグリム達は逆に彼女達に囲まれてしまった。ジェットグリムとカルネプラエドは互いに背中合わせになり、ジェットグリムはセツナとバリア、カルネプラエドはジェムとそれぞれ対峙しつつ相手の出方を伺っていた。

 

「くそ、コイツ等……!」

 

 カルネプラエドは腸が煮えくり返る思いであった。自分達がジェム達を罠に嵌めるつもりだったのが、逆に自分達が罠に嵌められてしまった。虚仮にされたと言う思いが彼の中で渦巻どす黒い感情が彼を無策な突撃に誘おうとした時、ジェットグリムは肩越しにパワーダイヤモンドを彼に手渡した。

 

「カルネ、使え」

「ボスッ!」

「構わん。これを使わなければ、この状況は切り抜けられないだろう」

 

 ジェットグリムがカルネプラエドにパワージュエルを渡そうとしているのを見て、焦ったのはジェムの方であった。これまでの戦いからジェットグリム達もパワージュエルの力を引き出した戦いをしていた事は分かっている。だからもしやと思っていたのだ。

 彼らもまた、戦いの最中に様々なパワージュエルを交換して戦う事が出来るのではないかと…………

 

「止めてッ!」

「分かってるッ!」

 

 突然焦り始めたジェムにセツナも即座に対応し、手裏剣を2人に向け投擲した。同時にジェムもファントムシューターを抜き発砲するのだが、それらの攻撃は全てジェットグリムが広げたノズルからの砲撃により相殺され2人まで届く事は無かった。

 

 その間にパワーダイヤモンドの受け渡しは完了し、受け取ったカルネプラエドは仮面の下でニヤリと笑みを浮かべながらバニッシャーを二つ折りにしてパワーダイヤモンドを装填した。

 

「へへへっ! 宝石の王様、ダイヤモンドのパワーをお前らに見せてやるッ!」

「くっ!?」

 

 バニッシャーにパワーダイヤモンドが装填されたのを見て、ジェムは無意味と理解しながらもファントムエッジを手に突撃する。だが彼女が辿り着く前に、カルネプラエドはパワーダイヤモンドを装填したバニッシャーの砲口を空に向け引き金を引いた。

 

《Diamond,get,Fire》

「ヒャッハーッ!!」

 

 花火が撃ち上がる様にバニッシャーの砲口から飛び散るのはダイヤモンドの様な輝きを放つ無数の粒子。その粒子を浴びたカルネプラエドの姿が眩い輝きに包まれ、輝きが収まるとそこに居たのは採掘したばかりのダイヤモンドの原石の様な結晶の塊であった。ジェムはその結晶に向けファントムエッジを振り下ろすが、放たれた斬撃は結晶の表面に傷一つ付ける事無く弾かれてしまう。

 

「くそ、硬い……!」

 

 やはりダイヤモンドを相手に普通の攻撃では効果が薄い。ここは焼け石に水であってもコランダムで対抗すべきと指輪を付け替えようとしたジェムであったが、それよりも早くに結晶に罅が入り内部から吹き飛ぶように弾けた。弾け飛んだ結晶は散弾の様に近くに居たジェムの体に降り注ぎ、全身を無数の結晶の欠片に穿たれジェムは悲鳴を上げながら弾け飛んだ欠片に押し出されるように吹き飛ばされた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ジェムッ!」

「他人の心配をしている場合か?」

「南城さんッ!」

 

 カルネプラエドの行動の阻止に失敗して逆に吹き飛ばされたジェムの身を案じるセツナであったが、その頃には既に次の行動に移っていたジェットグリムの飛び蹴りが彼女に向け放たれていた。背中の翼上のパーツのノズルが全て後方を向き、一方に集中した推進力に押されたジェットグリムの速度は音速を越えセツナに迫る。バリアは盾を構えてセツナの前に移動しジェットグリムの蹴りを受け止めるが、音速を越えた蹴りはバリアのパワーをもってしても完全に受け止めきる事は出来ず、背後に庇ったセツナ共々蹴り飛ばされアジトだった家屋の中に蹴り入れられてしまった。

 

「ぐぐ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 揃って悲鳴を上げて家屋の中に押し戻されてしまったセツナとバリア。2人の悲鳴に自身も吹き飛ばされながら2人の身を案じるジェムであったが、それを行動に移す余裕は無く体勢を立て直すと片手にファントムシューター、反対の手にファントムエッジを構えてカルネプラエドが居た場所を睨み付ける。

 

 彼女の視線の先には、パワーダイヤモンドの力を得たカルネプラエドが佇んでいた。否、それは最早カルネプラエドではない。カルネプラエドはその名の通り『カルネ』と言うオレンジ色の宝石の力を得た姿である。ならば、パワーダイヤモンドの力を得た今、彼はカルネプラエドではない。

 

 元々のパワーダイヤモンドは宝石の中でも特に美しいと言われるダイヤモンドの輝きを更に美しくしたような輝きを放っていた。だが、カルネプラエドに変身していた男の心を反映してか、変異した彼の体を覆うダイヤモンドの輝きは何処かくすんで見える。

 決して美しいとは言えない、悪意を流し込んだ宝石とでも言うような姿。パワーダイヤモンドの力を得た、カルネプラエド・クリスタルである。

 

「はっはっはっ! さぁて、覚悟は出来てるかコソ泥?」

 

 自身が強力な力を得た事に完全に舞い上がった様子のカルネプラエド・クリスタル。いっそ見苦しいとも言えるかもしれないが、同じくパワージュエルを戦いで活用するジェムにはアレがただのコケ脅しの類ではなく調子に乗っても許される力の持ち主である事が理解できてしまった。仮面で表情は隠れているが、喉が緊張に唾を飲んだようにゴクリと動く。

 

 だが彼女は自身が気圧されている事を相手に悟らせない。一呼吸の間を置いてから、何時も通りの余裕を崩さぬ様子で挑発に応えた。

 

「私がコソ泥なら、あなたは強盗じゃないの? 折角の宝石をそんな風にしちゃってさ」

「はっ……抜かせぇッ!」

 

 ジェムからの挑発返しに触発されたのか、カルネプラエド・クリスタルが激昂しながら突撃してくる。迫るカルネプラエド・クリスタルに対し、ジェムはまずファントムシューターによる銃撃で様子を見た。次々と放たれる銃弾を前にカルネプラエド・クリスタルは回避どころか防御の構えすら見せない。必要ないのだ。こんな銃弾程度では、今の彼の体に傷をつけることは難しい。

 

「ははぁっ! んな生っチョロい攻撃が効くかよッ!」

 

 吠えながらカルネプラエド・クリスタルがバニッシャーを一度中折れさせてから戻し引き金を引いた。すると本来であれば砲弾が放たれる銃口からは、煌めく結晶の様な刃が伸び即席の銃剣となった。カルネプラエド・クリスタルはそれを振り上げジェムに向け振り下ろし、ジェムはそれをファントムエッジで受け流す事でやり過ごした。

 

「おらぁっ!」

「くっ、はっ!」

 

 振り下ろされたダイヤモンドの刃をやり過ごしたジェムは、そのまま勢いを利用して無防備な相手の脇に横なぎの斬撃を放つ。しかし刃は相手の脇に当たった瞬間、甲高い音を立てて逆に弾き返されてしまった。

 

「ぐぅっ!? くそ、腐ってもダイヤモンド……!」

「効かねえっつってんだよッ!」

 

 自分の斬撃の威力がそのまま自身の手に返ってきて、痺れが走る手にジェムが動きを止めていると彼女の細い首にカルネプラエド・クリスタルの手が伸びる。避ける間もなく首を掴まれ持ち上げられたジェムは、片手で持ち上げられ首を締め付けられる苦しさに喘ぎながら剣の柄頭を相手の腕に叩き付けたり、自由に動く足で何度も相手の腹を蹴りつけたりして抜け出そうと藻掻いた。

 

「うぐっ!? あ、あ゛あ゛あ゛っ……!? ぐ、ぐぅ、くっ!?」

「へへへっ、何かしてるか? ふんっ!」

「ごふっ!?」

 

 無意味な抵抗を繰り返すジェムを嘲笑いながら、カルネプラエド・クリスタルは彼女の柔らかな腹に拳を叩き込んだ。内臓を押し潰されそうになる感覚に、腹の奥から中身が込み上げてくるような苦痛を感じジェムは咄嗟に喉を締めた。

 

「おらっ、おらおらっ!」

「んぐっ!? ぐぇ、やめ、ごほっ!?」

 

 尚もカルネプラエド・クリスタルはジェムの腹を何度も殴りつける。どう見てもそれは彼女を甚振って愉しんでいた。本来であればこの至近距離、バニッシャーで発砲した方が確実に相手にダメージを与えられると言うのに、彼は苦しむジェムを見たいが為に敢えて彼女の腹を適度な力で殴りつける程度で留めていたのだ。

 

 何度も腹を殴られ激しい吐き気に見舞われながら、ジェムは尚も抵抗を止めなかった。至近距離から何度も発砲し、相手の腹どころか顔も踏み付けるように蹴りつける。だが今のカルネプラエド・クリスタルにとってジェムの抵抗などそよ風にも等しかった。何をされても痛痒に感じる事は無い。それでも流石に煩わしくなったのか、カルネプラエド・クリスタルはバニッシャーを取り出すと砲口から伸びていた刃を無くし至近距離からの砲撃を叩き込んだ。

 

「いい加減、鬱陶しいんだよッ!」

「あああぁぁぁっ!?」

 

 それまでの殴打など比べ物にならない衝撃がジェムを襲った。至近距離からの砲撃と爆発、それに合わせてカルネプラエド・クリスタルが手を離せば、ジェムの体は木っ端の様に吹き飛ばされて地面に叩き付けられてしまった。マントはズタボロで白いボディースーツも所々が黒く汚れたみすぼらしい姿になったジェムは、それでも自力で立ち上がると込み上げてくる吐き気を唾を飲み込む事で無理矢理抑え込むと右手の指輪を交換し尚も戦う意志を見せた。

 

「はぁ、はぁ……まだよ……まだよっ!」

《Change of Cut, Cloth Beryl! Commit the Dancer!》

 

 ジェムは姿をベリルカットに変えると、両手に持ったヘリオドールファンで舞うように斬りかかった。クオーツカット以上に防御力に乏しい、一見すると無謀にも思える攻撃。事実、ジェムの攻撃は一見すると派手で舞うような動きもあり見惚れてしまいそうになるが、その実カルネプラエド・クリスタルには毛ほどのダメージも与えられていなかった。

 

「無駄ぁッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 煩わしいとカルネプラエド・クリスタルが腕を振るえば、ジェムは辛うじてだが攻撃を受け流しそのまま攻撃を続行する。傍から見ても明らかに力負けしており、このままだとジリ貧になるのは目に見えていた。

 

 これではいけないと、セツナは咄嗟にジェムの援護に回ろうとするがそれはジェットグリムが許さなかった。

 

「ジェムッ!」

「お前らの相手は俺だ」

「くっ、邪魔よッ!」

 

 立ち塞がるジェットグリムにセツナが火遁と風遁を合わせて放ちながら斬りかかる。風で火球の威力が増し、さながら炎の壁が迫るような光景にもジェットグリムは微塵も慌てる事無く槍を振るって炎をかき消す。かき消された炎の壁の向こうから飛び出したセツナは、渾身の遁術を軽々とかき消された事に仮面の奥で歯を食い縛りながらも構わず斬撃をお見舞いした。

 

「はぁぁっ!」

 

 勢いに任せた斬撃は、ジェットグリムの腕を切り飛ばした。だがそれはダメージとなる事は無く、それどころか斬り飛ばした際に飛び散った鋭い破片が逆に返り血の様にセツナに降り注ぎ彼女の体を切り裂く結果に終わった。

 

「きゃぁぁっ!?」

「くそっ!」

 

 破片の返り血で逆にダメージを受け悲鳴を上げるセツナを援護しようとバリアがライオットシューターをジェットグリムに向け発砲する。だがリボルバーに比べてはるかに強力な銃弾であってもジェットグリム相手にはあまり大きな効果は無く、着弾したところが弾けては再生するを繰り返すだけであった。

 

「ちぃ、これでもダメか……」

 

 斬撃は駄目、銃弾も効かないとなると、ジェットグリムに対して有効なのは外部からではなく内部に対する攻撃になる。強力な熱や電撃が必要になるが、その手の攻撃は接近しないと相手に威力を与えられない。そしてジェットグリムは強力な弾幕を張る事が出来る。接近する事は容易ではなかった。

 

 ジェットグリムを相手にセツナとバリアが背えあぐねている頃、ジェムもまたカルネプラエド・クリスタルを相手に追い詰められつつあった。

 

「おらぁっ!」

「がはっ!?」

 

 カルネプラエド・クリスタルが結晶の銃剣を付けたバニッシャーを振るえば、ジェムは手に持っていたヘリオドールファンを弾き飛ばされながら吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。魅惑の踊り子を思わせる見た目のベリルカットのジェムの姿は今では見る影も無く、身に着けている布はズタボロになりほぼボディースーツ部分のみの様な見た目になってしまっていた。

 

 そんな状態でも、ジェムは諦めてはいなかった。悲鳴を上げる体を気合で起き上がらせると、弾き飛ばされたヘリオドールファンを拾う事は諦めファントムシューターを抜き構えた。

 

「はぁ、はぁ……もうちょっと、なんだけどなぁ……ふぅ、ふぅ」

「はっ、何を狙ってるのか知らねえが……!」

 

 ジェムの小さな呟きを鼻で笑いながらカルネプラエド・クリスタルは銃剣を手に襲い掛かる。迫る相手をジェムは銃撃で迎え撃つが、放たれた銃弾など気にもせずカルネプラエド・クリスタルは斬りかかった。振り下ろされた刃がジェムの手からファントムシューターを叩き落し、ジェムは痛む体に鞭打って身を翻しつつファントムエッジを抜いてお返しと言わんばかりに叩き付けた。しかし刃は鈍い音を立てて弾き返され、衝撃に体勢を崩している所に腹に拳をお見舞いされた。

 

「無駄だっつってんだろッ!」

「ぐふっ!? う、げぇ……」

 

 ただでさえダメージが嵩んでいる所に、柔らかな腹に拳を受けて遂にジェムが膝をついた。剣は手放していないが、殴られた腹を押さえてその場に崩れ落ちる。込み上げる吐き気を必死に堪えるジェムを、カルネプラエド・クリスタルは嘲笑いながら首を掴んで持ち上げた。

 

「ぐぅ……!?」

「へっへっへっ……やっと大人しくなりやがったか。えぇ、おい?」

 

 持ち上げたジェムの体をカルネプラエド・クリスタルは無遠慮に弄った。彼の手が体のあちこちを這いまわる感触に、ジェムは全身の肌が粟立つ感覚を覚え身を捩って抵抗した。

 

「んっ!? やぁ……そんな、ところ、触らないで……!?」

「ふんっ!……さて、お前が持ってるパワージュエル、頂くとするか」

 

 もう少しジェムを甚振って愉しみたいところではあったが、そんな悠長な事はやっていられない為カルネプラエド・クリスタルは早々にジェムの持つパワージュエルを奪い取ろうとした。するとその瞬間、ジェムの口から堪えきれないと言うような笑い声が漏れ出した。

 

「ふっ……く、ふふふっ……!」

「あ? 何が可笑しいんだお前?」

 

 突然笑い出したジェムにカルネプラエド・クリスタルは怪訝な顔になり動きを止める。ジェムは笑い声を上げながら視線をカルネプラエド・クリスタルに向け、ファントムエッジを握る手に力を込めながら口を開いた。

 

「やっと……分かったのよ」

「何が?」

「決まってるでしょ? アンタの……弱点よッ!!」

 

 ボロボロの見た目にそぐわぬ力の籠った声。それと共に放たれた刺突は、何者にも傷付けられる事は無いと思われていたダイヤモンドの体を持つカルネプラエド・クリスタルを刺し貫いた。自身の自慢の体に傷がつけられるどころか貫かれる状況に、カルネプラエド・クリスタルは一瞬理解が及ばず間を置いてから迸る激痛に悲鳴を上げながらジェムの首から手を離した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 放り捨てるようにジェムを手放した事で、彼女と共にファントムエッジの刃も抜ける。解放されたジェムはダメージから受け身を取る事も出来なかった為、地面に落下したダメージを逃す事は出来なかったがそれでもこの千載一遇のチャンスに立ち上がる事を止めなかった。

 

「ぐぅっ!? く、く……!」

「な、何故だッ!? お前、何をしたッ!」

 

 カルネプラエド・クリスタルは訳が分からなかった。ダイヤモンドは最高のモース硬度を誇る宝石だ。靭性と言う点ではコランダムには劣るかもしれないが、今彼女が攻撃に使ったのはコランダムカットで使えるようになるスターブレイドではない。それをあのダメージを受けてパワーが落ちている筈の細腕で何故貫く事が出来るのか、彼は理解する事が出来なかった。

 

「はぁ、はぁ……馬鹿ね? 絶対に傷付く事も斬る事も出来ないんだったら、どうやってダイヤモンドをカットするのよ」

「何……?」

「私はずっと探してたのよ。アンタの体にある石目ってやつをね」

「はっ!?」

 

 どんなに硬いダイヤモンドであろうとも、必ず存在するウィークポイントがある。それが石目と言う部分だ。傍目からは分からないが、そこを的確に刺激すれば小さな力でダイヤモンドも砕く事が出来る。

 ジェムが先程からずっと諦めずに攻撃を続けていたのは、攻撃の際の感触からその石目に当たる部分を探していたからである。それはカルネプラエド・クリスタルですら気付いていない弱点であった。

 

「こ、こんなバカな……!?」

「そして、一度石目に力が加わったアンタの体に、もうさっきまでの防御力は無い。さぁ、私の輝きに見惚れなさいッ!」

《Charge of Cut, Critical Beryl! Crystal crush!》

 

 この機を逃すまいと、ジェムは右手の指輪を高速回転させたベルトのバックルで研磨する。そして放たれたファントムクリスタルクラッシュは、体が罅割れつつあるカルネプラエド・クリスタルに直撃し、決して砕けないと思われていた体を木っ端微塵に粉砕してみせた。

 

「ハァァァァァァッ!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 悲鳴を上げながら吹き飛ばされるカルネプラエド・クリスタル。爆炎の中から飛び出した彼の姿は元のカルネプラエドに戻っており、同時に爆炎の中から飛び出してくる小さな手の平サイズの宝石の存在を彼女は見逃さなかった。

 

「貰ったッ!」

 

 飛び出してきた宝石、パワーダイヤモンドを目敏く見つけたジェムは、痛む体に鞭打って駆け出すと手を伸ばして放物線を描くパワーダイヤモンドをキャッチしてみせた。手に入れた宝石の王の輝きに、ジェムは仮面の奥で安堵の笑みを浮かべ暫しその輝きに見惚れていた。

 

「やった……手に入れた……!」

 

 新たなパワージュエルが手に入った事に悦び打ち震えていると、まだ変身を維持しているカルネプラエドが今のジェム同様ボロボロの体になりながらもパワーダイヤモンドを奪い返そうと迫ってきた。

 

「て、テメェ……それを返しやがれ……!」

 

 近付いてくるカルネプラエドの姿に、ジェムは仮面の奥で浮かべていた笑みを引っ込めると彼を一瞥し、再びパワーダイヤモンドに視線を向けると躊躇わずそれを回転させたベルトのバックルで研磨した。

 

「今度は私が輝く番よ!」

《Change of Cut, Cloth Diamond! Commit the Queen!》

 

 ジェムがパワーダイヤモンドを研磨すると、これまでよりも更に強い輝きが彼女の体を包んだ。まるで太陽を思わせる強い光に、対峙しているカルネプラエドだけでなく離れた所で戦っているジェットグリムとセツナ達までもが戦いを中断してそちらに目を向ける。

 

「こ、これは……」

「眩し……!?」

「何が起きた?」

 

 3人が視線を向けている先で、放たれた光が徐々に収まっていく。それに伴いジェムのシルエットが浮かび上がり、目視できるまでになると今の彼女の姿が鮮明に見えるようになっていった。

 

 まず目につくのは腰から伸びる煌びやかなスカート。まるで雪の積もったゲレンデをそのまま持ってきたかのような輝きを放つ宝石が散りばめられたスカートは、動き易さを重視してか体の前の部分が大きく開いている。

 ボディースーツは高貴さを感じさせる白金色に輝いており、胸元には水色の控えめな鎧が装着されていた。あまり防御力は無さそうだが、元々素早い動きで動き回る彼女にはこの程度がちょうどいいのだろう。

 肩にはケープを身に着け、こちらも細かな宝石がちりばめられ煌いている。そして頭には王冠の様な形状のティアラを被り、手には中央に巨大なダイヤモンドを嵌め込んだ荘厳な盾『ブリリアントシールド』を持っている。

 

 その姿は正に王族のそれ。宝石の王と言っても過言ではない、ダイヤモンドの力をこれ以上なく表現した姿であった。

 これこそがジェムの新たな力、ダイヤモンドカットである。

 

 見ただけで分かる、今までとは格が違う強さの力を見せつけるジェム。カルネプラエドも思わず後退ってしまう程の威圧感を感じたが、ここで退く事はプライドが許さないのか腹に力を籠め下がった足を再び前に出した。

 

「いい気になってんじゃねえぞッ!? 俺を倒せた弱点がダイヤにあるなら、お前にも同じ弱点があるって事だろうがッ! なら今度は俺がッ!」

 

 半ば破れかぶれになったカルネプラエドは、バニッシャーを構えるとジェムに向け何発も砲弾を叩き込んだ。絨毯爆撃もかくやと言う砲撃による爆発があっという間にジェムの姿を覆い隠し、彼女の姿が見えなくなると満足したようにカルネプラエドは砲撃を止め効果のほどを見た。

 

「ふふん、どうだ…………なっ!?」

 

 だが風が煙を吹き飛ばすと、そこに居たのは盾を構えて無傷で佇むジェムの姿であった。よく見ると彼女の周囲には盾を中心に半透明のドームの様な物が展開されている。障壁だ。ダイヤモンドカットのジェムは、専用の盾であるブリリアントシールドを起点に全身を保護するバリアを展開する事が出来るのである。

 

「今、何かした?」

「て、テメェッ!?」

 

 敢えて挑発するジェムに触発され再び砲撃するカルネプラエド。放たれた砲弾は真っ直ぐジェムに向け飛んでいき、彼女がそれに合わせて盾を構えると砲弾が盾を直撃した。

 するとどうした事か、盾に嵌められている宝石が一瞬眩い光を放ったかと思うと、次の瞬間ジェムに直撃した筈の砲弾が同じ軌道を描いてカルネプラエド自身に飛んでいったのである。

 

「はっ!?」

 

 その光景にカルネプラエドも思わず言葉を失った。ブリリアントシールドは盾を起点とした一定の範囲にバリアを張る事も、相手の攻撃をそのまま相手に弾き返すリフレクトシールドとする事も出来るのである。その能力により、カルネプラエドは自身の砲撃をそのまま自分に喰らってしまった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ば、馬鹿、な……!?」

 

 自分の攻撃を自分で喰らうと言う滅多に経験しない出来事に、カルネプラエドは成す術無く吹き飛ばされてしまった。変身は維持したまま、力無く倒れ指一本も動かせない彼に、ジェムはトドメを刺すべくゆっくりと近付いていく。

 

「そう言えば、アンタもパワージュエル持ってるのよね? それ、私が貰おうかしら」

「く、クソ……!?」

 

 自分のパワージュエルを奪おうとしたカルネプラエドから、逆にパワージュエルを奪おうとするジェム。だが彼女がカルネプラエドに近付く前に、ジェットグリムが砲撃で彼女の足を止めさせながら先にカルネプラエドを回収していった。

 

「ちっ!?」

「ボスッ!」

「ここは退くぞ。現状は俺達に不利だ」

 

 カルネプラエドを抱えてあっという間に離れていくジェットグリムに、ジェムはファントムシューターを抜いて銃撃するも銃弾は届かず逃がしてしまった。出来ればここでどちらか片方だけは仕留めてしまいたかったが、逃げられてしまった物は仕方がない。それに、今は平然としている様に見えるがその実先程のダメージは残っている。正直立っているだけでも一苦労だった。

 

「ふぅ……」

 

 ジェムは一息つくと、今回はこの結果に満足する事にして引き上げようと考えた。そうなるとどうしても避けられない問題がある。そう、先程までは一応の共闘関係にあったセツナとバリアである。

 

「それじゃ、私は目的果たしたしこれで失礼したいんだけど……」

「逃がすと思ってるのか?」

「そうよね~」

 

 やはりバリアはこのままジェムを逃がすつもりは無い様だ。ライオットシューターを構え、何時でも打てるように引金に指が掛かっている。今すぐ引き金を引かないのは、先程の戦いで見たブリリアントシールドの反射能力を警戒しているからだった。

 

 共闘関係が解消されてしまった事に心の何処かで寂しさを感じたジェムだったが、直ぐにそれを振り払うと何時もの様な雰囲気を纏い溜め息と共に小さく肩を竦めてみせた。

 

「ま、私としてはこれ以上戦う理由は無いんだし、付き合ってあげる義理は無いから。それじゃ、ご機嫌よ~♪」

「待てッ!」

「ジェム、待ってッ!」

 

 2人が引き留めようとする間も無く、ジェムは高速回転させたバックルにパワーダイヤモンドを研磨させ、飛び散った粒子に乱反射した光の中にジェムは消えていった。眩い光に目が眩んでいる隙にジェムは姿を消し、彼女を逃してしまった事を理解しバリアは悔しそうに、セツナは残念そうに肩を落とすのであった。




と言う訳で第24話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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