仮面ライダージェム   作:黒井福

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第25石:闇に紛れる者達

 アメリカのとある地方にある一見すると打ち捨てられた廃工場…………そこに、異様な集団が近付いていた。全身を漆黒の鎧で身を包んだ、ライフルと小型の盾を装備した集団。見る者が見ればその姿を見て、それが何であるかが分かると同時に違和感を覚えるだろう。

 

 その集団は仮面ライダースコープで構成されていた。だが本来、スコープとは各部隊に隊長クラスの身に与えられ、それ以外の隊員はスコープの簡易生産版であるライトスコープで構成される筈である。しかしこの部隊は全員がスコープなのだ。それだけでも異質だが、カラーリングも黒一色と言う異質さが更に際立っていた。

 

 装備だけを見ても分かるだろうが、この部隊は特別なのだ。S.B.C.T.に数ある部隊の中でも更に特殊な部隊。そう、この部隊こそがS.B.C.T.内で唯一対人・対ライダー戦を見据えて構成された部隊であるωチームなのだ。

 

 ωチームは音も無く廃工場に近付き、閉ざされた扉に近付くと1人がしゃがみ隊長と思しき他の隊員と装備が違うスコープに伺う様に視線を向けた。その視線に隊長格のスコープが頷くと、しゃがんだ黒いスコープは腕からスニークカムを伸ばして床と扉の隙間から内部の様子を観察する。外から見た通り、内部も荒れ果て人が居る気配はない。だが内部の様子を確認したスコープが頷くと、隊長のスコープ・ωリーダーは扉に手を掛け勢いよく開き内部に入って行く。その後に他の隊員達も続き、四方に銃口を向けて周囲を警戒しながら内部を進んでいくと地下に続く階段を見つけた。

 

 こちらも見ただけでは老朽化し、埃だらけの朽ちつつある階段に見える。だがスコープのカメラとセンサーは、その階段に明らかに最近使われた形跡がある事を見抜いた。巧妙に偽装されているが、何者かがここを利用している事は間違いない。

 

 ωチームは静かに階段を下りていき、その先にある扉の前に集まった。この扉、一見すると錆びて明かない扉に見えるが、こちらの扉にはスニークカムが差し込めるだけの隙間が無く内部の様子を伺う事が出来ない。

 その事を確認すると、ωリーダーは外で待機しているオペレーターに通信を行った。

 

『ω0、間もなくω5が周囲の電源を落とす。その間にそっちでシステムに介入して、この施設のセキュリティを落として頂戴』

 

 ωリーダーは声から察するに女性の様だが、この時彼女が仮面を被っていなかったら今の通信の様子に違和感を覚えた事だろう。彼女は口を一切動かさずにω0に指示を出したのである。だがこの部隊でその事に疑問を抱く者は居らず、そして指示を受けたω0はその指示に不満を漏らした。

 

『あの~、何時も思うんですけど、隊長が直接やった方が確実なんじゃないですか?』

『あら? 私これでも、あなたのハッキングの腕を信じているのよ? その腕を見込んで部隊が無くなったあなたを引き込んだんだからね……アイリス?』

 

 通信機の向こうに居るオペレーター……褐色肌の女性アイリスは、ωリーダーの(おだ)てる様な言葉に一瞬言葉を詰まらせ、直ぐに軽く咳払いをすると満更でもなさそうな様子で返事を返した。

 

『ま、まぁ、部隊が壊滅して行き場を無くした私を拾ってくれた事には感謝してますけどね。分かりましたよ、給料分の働きはちゃんとやりますって』

 

 季桔市での戦いで元々所属していたεチームが壊滅したアイリスは、部隊再編まで暇を持て余していた。新しく部隊が再編されるまでは、何処か他所の部隊の応援として一時的に配属されると思っていた彼女だったが、予想に反してωチームが彼女を迎え入れた。

 この部隊はその性質上、秘密の研究所などの施設に潜入する任務が多い。そんな時に重宝されるのが、アイリスの様にハッキング技能に長けた人物なのである。

 

 ωリーダーの言葉にアイリスが気を引き締めていると、別の男性の声がアイリスの装着している通信機から聞こえてきた。

 

『ωリーダー、こちらω5。配置についた。これより送電線を狙撃で切断する』

『了解したω5。ω0!』

『準備、出来てます』

『よし…………ω5、やれ』

 

 ωリーダーの指示を受け、ω5は廃工場の近くに立つ電柱の電線の一つを一発で切断する。周囲に民家の類は無い為異変は分かり辛いが、廃工場から少し離れた所にある街灯が消えたので周辺の電源が落ちた事が伺える。

 

『ωリーダー。連中は予備電源を起動させたようです。それに乗じてハッキングに成功しました。その扉のロックを解除します』

 

 アイリスの言葉に続き、ωチームが集まっている扉から鍵が開く音が聞こえてきた。それが合図となり、ωチームは一気に施設の中に侵入していく。

 

『よし、行動開始ッ!』

 

 静かに、だが素早く扉を開いて内部に侵入したωチームは、三方に分かれて行動を開始した。

 

 驚くべき事に、彼らが行動を開始すると一瞬ωチームの隊員の姿が揺らいだ直後その姿が見えなくなった。光学迷彩だ。ωチーム専用に誂えられたスコープ・システム……通称『仮面ライダースコープ・イェーガー』は、今回の様な潜入工作任務を想定して光学迷彩を可能としていたのである。

 

 三方に分かれて行動を開始したωチームの内、ω2・ω3の2人が向かっていった先には困惑した様子の通常装備の警備兵らしき銃を所持した者の姿があった。

 

「おい、博士達は何て言ってる?」

「クソ、ダメだッ! あっちも混乱してる……」

 

 警備兵は廊下を駆け寄ってくるωチームの隊員達に気付いた様子も無く、施設の責任者と思しき博士とやらに連絡を取ろうとしている。だがあちらでも突然のセキュリティの停止に困惑しているようで、現状維持とか待機の指示を出されて動けずにいるらしい。

 

 ωチームの2人はある程度近付いたところで足を止めると、不可視の銃を持ち上げ狙いを警備兵の頭に定めて引き金を引いた。ボッ、と言うガスに引火したような音が二つ響いたかと思うと、次の瞬間警備兵は頭を弾けさせそのまま声も上げずに倒れた。

 

「隊長、こちらω2。警備を2名始末した」

『こちらω4、こっちでも警備を始末完了。連中相当浮足立ってるらしい』

『了解だ。お前達はそのまま内部を進み、捕縛対象を確保しろ』

 

 音も無く忍び込んだωチームは迅速に施設内部を制圧していく。たった数人であるが、装備の性能と隊員達の技量もあり相手に抵抗らしい抵抗も許さず瞬く間に警備用の戦力を鎮圧し、気付けば残すは施設の最奥にある扉の先を残すのみとなっていた。

 

 ところがここで問題が発生した。セキュリティを解除している為ロックも掛かっていない筈なのだが、スコープのパワーをもってしても扉はビクともしなかった。

 

「隊長、ちょいと問題が発生したぜ。連中どうやら扉を溶接して物理的に封鎖したようだ。どうする?」

 

 ω2が隊長に問い掛けると、ωリーダーは即座に後方のアイリスに施設の構造を訊ねた。

 

『ω0、この扉の先は施設の外に通じているか?』

『少し待ってください…………ωリーダー、分りました。その扉の奥には外部に直通する通路があるようです。迂回できるルートはありません』

『よし、ならω2は扉をブチ破れ。私は別ルートで連中の逃走先に回り込む。ω0、ナビゲート頼むぞ』

 

 指示を受けてω2は即座に使用している銃にエネルギーをチャージし鋼鉄の扉を吹き飛ばした。大きく穴を開けた扉にωチームの隊員達が雪崩れ込み、その先に続く通路を駆け抜けていく。

 

 一方この施設に身を寄せていた傘木社の残党を纏めている博士は、背後から聞こえてきた破壊音に溶接した扉を破壊されて侵入を許した事を察して表情を険しくさせた。

 

「くそ、S.B.C.T.め……! だが残念だったな。行動が早かったのはこちらの様だ」

 

 周囲を部下と護衛に囲まれながら博士は施設の外に続く通路を駆け抜け、前方に古びた扉を目にすると自身の勝利を確信した。あの扉を出ればすぐそこに移動用の車両が隠してある。それを使って逃げれば……そう思っていた。

 

 だが扉を護衛の警備兵が開いた次の瞬間、その警備兵たちは腕や足に銃弾を受け痛みに悶えながら倒れ込んだ。

 

「うっ!?」

「ぐぁっ!?」

「な、何……!?」

 

 突然護衛が倒れた光景に博士や部下が目を見開く中、彼らの視界の一部にノイズが走った様に景色が乱れた。乱れは直ぐに収まると、そこには回り込んできたωリーダーが硝煙を上げる銃口を向け佇んでいた。

 

「ここまでだな。降伏しろ」

 

 ωリーダーは博士達に降伏を促した。彼女の部下の隊員達も直ぐに合流してくる。逃げ場はない。

 

「く、くそ……!」

 

 博士の部下の1人が、1人相手なら何とかなると思ったのか拳銃を抜いて抵抗しようとした。だがその動きを見た瞬間、ωリーダーはその部下の腕に狙いを定め引き金を引き銃弾が部下の腕を貫いた。

 

「ぎゃぁぁっ!?」

「繰り返す。そう何度も言わない。降伏しろ」

 

 通常、スコープの標準装備であるガンマライフルで生身の人間を撃ち抜けば痛いでは済まされない。ファッジを始めとした特異生物に対抗して作られた専用の炸裂式徹甲弾は、生身の人間に命中すればその部分が文字通り吹き飛ぶ。そんなものを喰らえば常人であれば最悪ショック死してしまう。故に対人戦等に関しては本当に止むを得ない状況を除き発砲は禁じられている。

 

 だがωチームが相手をするのは特異生物以外に生身の人間も含まれていた。そんな相手に専用弾を使う訳にはいかないので、この部隊が使用しているライフルは対特異生物用の弾丸と対人用の弾丸を切り替えられる作りになっていた。今ωリーダーが使っている銃のモードがそれだ。生身の人間相手に特異生物用の弾丸を使うなど、オーバーキルどころの話ではない。

 

 いよいよ逃げ場を失った博士だったが、彼は諦めの悪い男であった。この期に及んで尚抵抗の意思を失わず、懐に手を突っ込むとベクターカートリッジを取り出しファッジに変異してωリーダーに襲い掛かったのである。

 

「こ、こんな所で捕まってたまるかッ!」

〈Mantis〉

 

 博士は尚も悪足搔きの様にマンティスファッジに変異すると、行く手を阻んでいるωリーダーのスコープ・イェーガーに突撃していく。他の隊員がそれを見て援護しようとするが、ωリーダーはそれを手で制すると迫るマンティスファッジにライフルを向け発砲した。

 

「うあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 放たれた銃弾がマンティスファッジの表皮を削るが、構わず接近を果たしたマンティスファッジが振るった鎌がωリーダーのガンマライフルを弾き飛ばした。そのまま彼女をも切り裂こうと構えるマンティスファッジであったが、実は接近を許し武器を弾かれる事は織り込み済みであった。

 

「フッ!」

「うぉっ!?」

 

 ωリーダーは武器を弾かれた際の反動を利用して、マンティスファッジに回し蹴りを叩き込むとそのまま足を絡めて相手を蹴りの勢いそのままに地面に押し倒し馬乗りになるような形で圧し掛かった。そして本来のスコープには存在しない右太腿にマウントされた大型拳銃「ガンマシューター」を抜き、相手の上に乗り身動きを封じた上で至近距離から何発も銃弾を叩き込んだ。重い銃声が何度も響き、その度にマンティスファッジの悲鳴が上がり銃声が聞こえなくなる頃には変異を強制的に解除させωリーダーの下にはボロボロになり戦意も喪失した博士が残された。

 

「ひ、ひ、ひぃぃ……!?」

「降伏、するか?」

 

 尚も相手の上に乗り銃口を向けたままのωリーダーから放たれる気迫を前に、何より向けられ続けている銃口に博士は完全に慄き無言で何度も首を縦に振る。それを見てωリーダーは満足したように息を吐くとガンマシューターを右太腿にマウントし、立ち上がりながら博士を掴んで無理矢理立ち上がらせた。視線を他の者達に向ければ、博士の部下は既に降伏しており膝をつき両手を頭の後ろで組んでいた。その周囲を取り囲むように合流したωチームが、博士の部下達に銃口下部から放たれるレーザーポインターを向けている。

 

「ω0、こちらωリーダー。目標の制圧を完了した。要捕縛人物を始め数名を確保した」

『こちらω0、了解。間も無くそちらに警察が到着しますので、合流したら引き渡しをお願いします。お疲れさまでした』

「あぁ……」

 

 アイリスとの通信を終えると、ωリーダーは首元を操作し変身は維持したまま頭部のヘルメットだけを脱いだ。

 

 仮面の下に隠れていたのは、首元で髪を切り揃えられた妙齢の女性であった。女性はあれ程の戦いをしたと言うのに汗1つ掻いた様子も無く、だが疲労は感じているのか腹の底から一つ息を吐き出した。

 

「ふぅ……」

 

 ヘルメットを脱ぎ一息つくωリーダー……佐伯(さえき) (まどか)の様子を見て、副官にあたるω2がこちらはヘルメットを被ったまま問い掛ける。

 

「浮かない様子だな、隊長?」

「ん? あぁ、まぁな。ハッキリ言えば今回も外れだ」

「連中とは別だった訳だからな」

 

 元々ωチームが追っているのは、こんな木端な傘木社残党ではなかったのだ。彼女達が追っているのは正体不明の盗賊団。ファッジとも違う特異生物を用いて宝石を中心に窃盗や強盗を続ける連中である。なかなか尻尾を見せず、あと少しまで追い詰められると言うところで毎回逃げられていたそいつらが、今ω7が出向している日本で活動している連中と関わりがあると言うのだ。気にならない訳がない。

 

「どうやら、連中も囮に使われたらしいな」

「逃げ隠れが上手い連中だ。で、どうする?」

「ふむ……」

 

 件の盗賊団に関係がありそうな所は片っ端から調べ尽くしたが、今回でそれも尽きた。これ以上はこの地で調べられる場所は無い。少なくとも、情報は無かった。

 

 円が神妙な顔をして唸っていると、彼女の()()()()()アイリスの声が響いた。

 

『隊長。その事ですが、牧田(まきた)司令より通信が入っています』

『繋げろ』

 

 ωチームはその活動内容も通常の部隊と一線を画すが、部隊の形態も通常の部隊とは些か異なっていた。

 

 通常の部隊は前線で指揮を執る隊長がそのまま部隊の司令官となり業務その他を一括して管理するが、ωチームは前線指揮官とは別に後方で情報処理を始めとした部隊全体の指揮を執る司令官が存在していた。部隊の特異性故、詳細な情報処理を求められた結果の形である。

 

 円がアイリスに指示を出すとすぐさま通信が繋がったのか、円の脳裏に新たな声が響いた。件の司令官、ωコマンダーの牧田である。

 

『ご苦労だった隊長。とは言え、今回も外れであった事は残念だがな』

『その会話、たった今ω2とやったばかりよ。それで? ただ労う為だけに話し掛けてきた訳じゃないんでしょ?』

 

 ωチームの総司令官と言う立場の相手に対して砕けた口調で話す円に、牧田は特に気分を悪くした様子も無い。これがこの部隊では普通だからだ。いちいち気にしていたらやっていられない。

 

『連中に関して、万閃衆から新たな情報が入った。どうやら連中はここ最近の情報リークで散り散りになっていた傘木社残党を囮に、日本へと渡っていたらしい』

「日本……か」

 

 薄々は予想していたのか、円の反応は静かなものであった。だが何も感じていない訳ではないようで、日本と言う単語を口にする際どこか遠い目をして虚空を見詰める姿にω2は出向している誠の事でも考えているのかと勘繰った。

 

「どうした? 誠の奴が心配になるか?」

「え?……あぁ、えぇ、そうね。いい加減1人欠けた状態から抜け出したいわ」

「なら渡りに船じゃねえか。誠と合流出来て、おまけに追いかけてた連中も逮捕できる。一石二鳥って奴だぜ」

 

 前向きなω2の言葉に、円もふっと笑みを浮かべて頷いた。そして再び虚空……日本がある方を静かに見つめた。その視線には、何やら強い意志の様な物が感じられるが、それに気付いた者は居なかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方日本の光林市では、晶が自宅のリビングのソファーで先日の戦いの成果であるパワーダイヤモンドを丹精込めて磨いていた。元々は権蔵が掻き集めた中の一つであり、その時点で加工が施されカットと研磨がされている為別にこんな事をする必要は無いのであるが、要は気分の問題である。あれだけの苦労をして手に入れたのだから。

 

「ん~…………ふふっ」

 

 磨かれて手の中で輝くパワーダイヤモンドに、晶は満足そうに笑みを浮かべた。また一つ、良質なパワージュエルが手に入った。それは自身の顔の火傷を治すのに一歩近づけたと言う事。目標に向けて前進できていると言う事実が、彼女に確かな達成感を与えてくれていた。

 

 そんな彼女の手から、パワーダイヤモンドがひょいと取り上げられる。ソファーに寝転んでいた晶は、突然の事に目を丸くして顔を上げ不満の声を上げた。

 

「あぁ、ちょ、なにっ!?」

「気持ちは分かるけど、そろそろ預けてくれないと加工が出来ないよ」

「むぅ……」

 

 ジェムがパワージュエルを使う為には、真也に指輪にしてもらわなければならない。厳密に言えば別に指輪にする必要は無いのであるが、剥き出しの宝石を手で持つのに比べたら指輪の状態の方がずっと扱いやすい。そして晶にはパワージュエルを指輪に加工する技術が無いので、真也に預けなければいけないのだ。それは分かっているのだが、物がダイヤモンドである。少しは自分自身の手で愛でたいと思っても仕方がないだろう。

 

「ねぇ父さん、まだこれを消すには足りないの?」

 

 そう言って晶は前髪に隠れた火傷痕に触れた。今回で晶が持つ良質なパワージュエル……トゥルーシャインは計6つ。いい加減そろそろ火傷痕を消す目途が立っても良いのではないかと期待した晶であるが、真也からの返答は芳しいものではなかった。

 

「まだ少し厳しいかな。今の状態でも消せない事は無いだろうけれど、多分完全に消す事は無理だろう。幾らかは残ると思うよ」

「そ……か」

 

 火傷を負った当初であれば、完全ではなくとも幾分かマシになるのであればそれでも構わないと飛びついた事だろう。だがここまで来たら、完全に消せるくらいまで行ってしまいたいと言う気持ちが強くなる。どうせもう後には退けないのだから、行ける所まで行かなければ損……と言う考えである。

 

「まぁそうしょげないで。着実に前進してはいるんだ。あと少しさ。それより、これ」

「あ、と」

 

 まだ傷の完治には遠いと言われて少ししょげる晶に、真也は話題を変えるようにパワーダイヤモンドの代わりに深い青色の宝石が嵌った指輪を放って渡した。それは以前、パワージュエルに魅入られホワイトマンティスヤジュエルを生み出してしまった唯から譲り受けたパワージュエル……パワーゾイサイトを使った指輪である。あの後パワーゾイサイトは真也に預けられ、今の今まで指輪に加工されていたのである。

 

「出来たんだ?」

「あぁ。パワーダイヤモンドはしばらくお預けだけど、代わりにコイツを使うと良い」

「ん、分った。ありがと」

 

 晶は受け取った指輪に軽くキスをすると、気分良く立ち上がり指輪を懐に仕舞いながら冷蔵庫に近付き、上に置かれていたピルケースから錠剤を一粒取り出し水で流し込んだ。錠剤を飲んでピルケースを元あった場所に戻そうとすると、揺れたピルケースの中が空である事に気付いた。

 

(あ、薬切れちゃった。また貰いに行かないとな)

 

 晶が頻繁に飲んでいるこの薬は、所謂精神安定剤の類である。顔に大きな火傷を負い、誠に顔向けできなくなった事実に大きなストレスを感じた晶は心にも大きな傷を負い、一時期情緒が非常に不安定となっていた。そんな時であったのがジェーンであり、彼女の診察を受けた晶はそれ以降精神安定剤を処方されるようになっていたのである。

 

 処方された当初は真也以外の世界全てが敵に見えてしまい非常に不安定であったのだが、今はクスリの影響か心が大分安定しており以前に比べれば落ち着きを取り戻していた。それでも誠に拒絶された――と思っている――事にトラウマを刻まれた晶は、他者と接する事を極端に避けキラリンという仮面を被らなければ見ず知らずの者とコミュニケーションを取る事も難しくなってしまっているが。

 

「私ちょっと出掛けてくるわ」

「ん、そうかい。……晶」

「ん~、何?」

「最近、良く外に出るようになったね?」

 

 真也に言われて、晶はキョトンと目を丸くした。言われてみれば、以前は本当に必要な時以外は怪盗ジェムをやる時以外外に出なかった記憶がある。それに比べて、最近は何かと家から出る事が増えたように思う。無論、比較的、と言うレベルではあるが、誠と別れた直後に比べれば劇的な違いだろう。

 その理由に何があるかと言われれば、思い当たる節があるとすればやはりジェーンとの出会いかもしれない。彼女が何だかんだで晶が外に出る理由となり、半ば引っ張り上げる形で外に出してくれたのだ。それはきっと、晶自身にとってもいい変化なのかもしれない。

 

「……そうかもね」

 

 こう考えるとジェーンに対してもっと感謝しても良いのかもしれないと、そんな事を考えながらしみじみと真也の言葉に返す。尤も、こんな事をジェーンに対して正面切って言えば絶対調子に乗るだろうから、口が裂けても言うような事はしないが。

 

 真也に見送られて家を出て診療所に向け歩みを進めていく。その足取りは、普段に比べて幾分か軽やかに見えたのだが、本人はその事に気付く事は無いのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ところ変わって、怪盗ジェムとジェットグリム達に対抗する為に警察に組織された対策室では誠が唯達にジェットグリムの仲間が向かって来ている事を報告していた。

 

「どうやらジェットグリムの仲間がこちらに来ているようです。南城さん、そちらは何か聞いていませんか?」

「今朝方ですけど、万閃衆から報告の文が届きました。こちらにジェットグリムの仲間が向かったらしいから、警戒するようにと」

 

 そもそもジェットグリムの仲間達に関して調べていたのは万閃衆も同様だ。そして唯が怪盗ジェムとジェットグリムと言う二つの盗人に関係している事は当然把握している為、この事実が判明した時点で彼女にも連絡は向かっていた。

 この事実に驚いたのは剛と九朗である。専ら聞き込みの調査などが主な仕事の2人であるが、ここにきてさらに敵が増えると聞かされ特に九朗の顔に焦りが浮かぶ。

 

「ちょ、待ってくださいッ!? あんな奴らがさらに増えるって事ですかッ!?」

「そういう事になりますが、ご安心ください。それに合わせて、ωチームの本体もこの街に来る手筈となっています」

「ωチーム……対人戦闘に主眼を置いたS.B.C.T.の特殊部隊でしたっけ?」

 

 万閃衆に所属する者として、唯もωチームがどの様な部隊なのかは概ね把握している。対人・対ライダー戦闘に主眼を置き、部隊の練度も高いと言われている特殊部隊だ。

 

「そうです。ωチームは特異生物だけでなく、対人戦闘に対しても高い技術を持っています。それはつまり、怪盗ジェムに対しても有効な戦力となるという事です」

 

 誠は拳を握り締めた。これまでは何だかんだで逃げられてきたが、本隊が合流してくれればこれまでの様にはいかない。本当の組織戦と言うものを見せつけてやると意気込む誠に、頬に絆創膏を貼った五右衛門が問い掛けた。

 

「その本体は何時頃こちらに?」

「部隊規模での移動となるので、少々時間は掛かるでしょう。隊長からの連絡では、早くても一週間ほど掛かると」

「そうですか……」

 

 五右衛門は誠の答えにイスに深く腰掛けると、周囲の者からは見えない位置でスマホを取り出しジェットグリムにメールを送った。この情報はとても重要だからだ。

 

(チッ、ジェムとコイツ等だけでも面倒だってのに、この上ωチームだと? ソフィアの奴、厄介な連中を引き連れてくるんじゃねえよ……!)

 

 内心で五右衛門が仲間に悪態をついている事等露知らず、誠は話を続けた。

 

「つきましては、高橋警部。署内に部隊が駐留出来るスペースを確保したいのですが……」

「分かりました。私の方から署長に報告し掛け合っておきます」

「頼みます。何分近隣に部隊が駐留できる施設がないものでして」

 

 光林市の近くにはS.B.C.T.の支部が無かった。もしあれば多少の距離であればそこに部隊を駐留させる事も出来るのだが……

 

 状況は確実に変化している。ジェムは新たな力を得て、S.B.C.T.は戦力増強。ジェットグリム達ですら仲間が増えるというのに、万閃衆代表とも言える自分が足踏みしていては示しがつかない。自分の無様が万閃衆の、夫の千里の名に泥を塗るような事になっては彼に顔向けが出来なくなる。

 

 焦りを覚えた唯は、会議が進む中密かに自身も今より更に前に進む事を決意するのであった。




と言う訳で第25話でした。

今回本格的に登場したωチーム。この部隊のモデルは攻殻機動隊の公安九課です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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